最後の天使と少女
この作品は【冬童話2021】の参加ため小学生(中高学年)向けに書き下ろしました。
後日改めて、同じ舞台設定の大人向けの別物語を投稿する予定ですので、もし良かったらブックマークをお願いします。
私たちのすむ今から きっと近い未来
この星は 今の冬よりもずっと寒い 氷づけの世界となるでしょう
でも世界中の人たちは 皆のちえをふりしぼり
イヌやネコ トリにサカナ すべての生きものたちを 大きな船にのせて
星たちがかがやく 夜空に飛び去りました
そして今はもう 誰もいないはずの 雪にうもれた町
そこにはまだ 一人の少女が残っていました
少女は死んだパパと ママとの思い出の絵 春の絵 を探しているのです。
くる日も くる日も 少女は町のあちこちを ほり返していました
食べ物は あと少しだけ 体を温めるための燃料は もうありません
両手にできた血まめも 夜の寒さでこおりつき 固まりました
それでも少女は あきらめません
今日も思い出の春をさがしています
探すことにつかれた少女は こわれたドアの上で 横になって休んでいました
するとそこに 光かがやくハネをもった キレイな人があらわれ
少女に語りかけてきました
「かわいらしいキミ だいじょうぶかい?」
自分いがい だれもいない世界で はじめて出会った人に 少女はおどろきました
「あなたはだれなの? なぜここにいるの?」
「ボクは天使だよ この世界に一人のこされた キミを助けるためにいるのさ」
少女は少し考え 正直にはなしました。
「絵を探しているの むかしパパとママといっしょに この町で見た春の絵を」
「ボクはその絵を知っているよ ボクの友だちが むかしかいたものだからね」
「どこにあるの? 最後にもう一度だけ見たいの」
「分かった キミの願いをかなえよう」
「でもなぜ 見知らぬあなたは わたしを助けてくれるの?」
「ボクの父さんが命じたのさ キミを見とどけて 最後までみちびくように」
「あなたのパパは わたしを知っているの?」
「もちろん全て知っているさ キミの好きな花も きらいな食べ物も そしてキミの母さんの美しい歌も キミの父さんのすてきな絵も 全て見ていたよ」
「本当に? わたしの好きな花はなに?」
「君の好きな花は 春の終わりにさく シャクヤクさ
花がひらく前に 花びらのすき間からもれる 甘いみつを 君は大好きだよね」
そう言うと天使は ポケットからシャクヤクの花を 一つ取り出してみせた
少女は花を受け取ると 花びらのすき間からもれているみつを 一口なめてみた
「すごい! これは本物のシャクヤクね!」
少女は最後の春に味わった シャクヤクの花を思い出す
そして二口 三口とむちゅうでなめる
「すっごく甘くて おいしいわ!! でも不思議ね どこもかこも雪だらけになったのに 花がまだあるなんて」
「これはね ボクの父さんの庭で育てたものさ」
「あなたのパパは 花が育つあたたかい庭を持っているのね いいなぁ わたしも見てみたいなぁ」
「もし君が望むなら ボクの父さんがゆるしてくれるさ ボクのコワい兄さんも火のつるぎもキミのじゃまはきっとしないだろうさ」
「うれしい! もし春の絵が見つかったら あなたと一緒に見に行くわ!」
「もちろんだよ ボクの役目はキミを手伝って いつの日か 父さんの元に連れて行くことだからね」
少女はその言葉に よろこび 元気よく 立ち上がりました
「じゃあ 今すぐ行きましょう 絵のところまであと少しなの」
「知ってるよ あの大きなカベの向こうだね」
「うん でもドアはこおりついて ひらかないし カベも固くて いくら叩いてもムリなの 小さなヒビができただけ」
そう言って少女は 血がこおってこびり付いた 小さなハンマーを見せてくれた
「そうだね これを人の手でこわすのは とても大変だ だからこれを使おう」
今度はたくさんのタネを取り出して 少女に見せてくれた
「これは花のタネ? ヒマワリにアサガオもあるわ」
「そうだよ キミはしょくぶつのチカラを知っているかい?」
「しょくぶつのチカラ?」
「ある時は固いコンクリートのすき間から顔を出したり またある時はたくさんの根っこで山がくずれるのを守ったり 時には大きな家も高いビルもボロボロにこわしたりするのさ」
「すごいわね! それならこのカベもこわせる?」
「もちろんさ このタネを カベのすき間にうめてごらん」
「うん! やってみるね!」
すきまにうめこまれたタネは みるみるうちに芽を出し 根っこをのばし
つぎつぎとカベをこわしていく
そして少女と天使の前で 大きなカベは くだかれ うちたおされた
「やったー!! 草花のチカラはほんとうにすごいのね!」
「そうだね ほら見てごらん
部屋のおくに キミの探していたモノがあるよ」
その部屋のおくには 少女の探していた 絵がありました 雪と氷におおわれて
それは天使の頭よりも高く 彼が背中のハネを広げた長さよりも横に長い とてもとても大きな絵でした
絵の表をおおっていた雪を 天使がそのハネではらうと 絵はかつての美しさを取りもどしました
その絵には 真ん中に立つひかりかがやく美しい女性 その左右に五人の男女 そして頭の上をとぶ キューピットがかかれていました
「これはまさに 春 そのものだよね さすがはボクの古い友だちだ」
「うん とってもキレイ ずっと見ていると もうすぐ春が来るのが分かるわ」
「キミにも分かるのか 本当にすごい子だね 父さんがボクに命じるわけだ」
「この絵はね パパが大好きだった絵なの
パパとむすばれたママは 二人で見るうちに好きになって
わたしが生まれてからは パパとママと三人で通ったわ
みんなで見ているうちに わたしも好きになったの
この絵を見ていると パパとママを思い出すのよね
いつも楽しかったなぁ
ママもごきげんな時は 歌をきかせてくれたの」
「なんて曲名なのかな?」
「たしか 春の声 ママの大好きなドイツの歌よ」
「そうか すてきな歌声だったよね」
「うん ママの歌は最高よ もう一度 ききたかったなぁ」
「またいつか きける日がくるさ」
「そうだといいなぁ」
「だれもみんな いつの日か 父さんの元にたどり着くからね
だから今は 最後まで生きよう
きっと君のパパとママも そう願っているさ」
「そっかあ」
「そうさ」
そして 急にちからがぬけたように その場にくずれ落ちる少女
天使はすぐに 少女を抱きかかえた
「ちょっと 疲れちゃった…… 少し眠ってもいい?」
「うん 今日までたくさんがんばったからね 今はもう休んでもいいよ
目がさめたら また歩きはじめたらいいさ」
「そう言えば…… あなたの名まえは? ……お友達はここいないの?」
「ボクの名は プリマヴェーラ 友だちはもういない みんな父さんの元に行ってしまったからね」
「…………そうなんだ じゃあさ わたしが友だちになってあげる そしたら……もうさみしくは……ないよね」
「ありがとう ボクはもう さみしくないよ
また今度 二人で父さんの元に行こう」
「……うん…… 庭のお花……どんな花が……あるのかな」
「花はたくさんあるよ キミの好きなシャクヤクも きっとさいているさ」
「…………そっか ……また…… なめたいな ……花のみつ」
「だいじょうぶ きっと ……おいしいよ」
この星に残された 最後のいのちのともしびは 今消えてしまった
少女の心をみちびくために この星に残った最後の天使は
彼女のなきがらをたずさえて 天にのぼる
最後のなみだを 流しながら
残されたのは 春の足あとだけでした
子供向けに極力言い回しを変えたり、かみ砕いた表現に変えたので、とても読みずらいかもしれません。その点はご容赦下さい。