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13日目part1

途中からオカン(ロンヒ)視点

 


「あんたがエルピス殿下の解呪担当魔術師様?」



 目の前で仁王立ちする男子生徒は、アステルを値踏みするような不躾な視線と共にそう聞いてきた。



 やだ、可愛い…。



 制服からして同じ学年の魔術科の生徒だろう。首元からゆったりとした三つ編みに編まれ垂らされた美しい銀の髪に、つり目気味の大きな濃紺の瞳は、高貴な猫を連想させる。


 仁王立ちで睨まてれも、アステルと同じくらいの背丈しかないから可愛いとしか思えなくて、どう対応したらいいか迷ってしまう。


「あんたがアステル王女殿下で合ってるのかって聞いてるんだけど?」


「ええ、私がアステルです。あの、貴方は…?」


 とりあえず身元確認をしてみると、可愛い男子生徒は腕を組んで見下すように見てくる。

 身長差がないから全く見下し効果はないのだが、可愛いは正義である。


「僕はアイルーロス皇国第三皇子シャメア。エルピス殿下の解呪担当魔術師の座をかけて、あんたに決闘を申し込む!!」


 ビシッと勇ましくアステルを指差し、ドヤ顔をきめるシャメア。


 その姿にアステルは雷に打たれたかのような衝撃を受けた。



 そうか、ここ最近何か足りないと思っていたのは、前世で言うところのショタ成分だったのか!!



 エルピスもロンヒも凛々しく逞しい。それはそれで目の保養だったが、無性に故郷の可愛い弟や妹に会いたくなる瞬間があったのだ。


 今、その心のスキマがシャメアで埋まった。


「まあ!シャメア殿下も解呪に協力してくださるのですね?!有難いお申し出ですわ!ちょうどこれからエルピス様とランチですの。事情を説明しますからご一緒に!さぁさぁ!」


「ちょ、違う!僕は決闘を…!おい!拘束魔法は反則だ!は、話を聞けぇぇ!」


 せっかく寄ってきてくれたショタ枠、しかも解呪担当に立候補する程の実力者(推定)を逃してなるものかと、強制的に引きずってアステルは東屋に向かった。


 それくらい、解呪に行き詰まっていた。


 6個目と7個目の難易度hardの鎖はどちらも1回ずつの失敗で解呪出来た。

 その後の8個目の鎖、難易度Expertを失敗し続けてもう3日経っていた。

 もはや初見クリアは無理だと諦めて挑戦していたが、ノーツの密集する発狂スポットが二箇所もあり、認識難に陥っていた。


 前世では、リズムの神に愛された偉大なる方々が動画サイトにアップしてくれている完璧な演奏を、何度も何度も何度もガン見して、ノーツ配列を解析して、そのリズムを脳に叩き込んで、繰り返しイメトレをして攻略に挑んでいたが、この世界にはそれが無い。


 せめて、自分の演奏を自撮りして見直してノーツ配列を解析したい。しかし、解呪に全神経注ぎつつ別に魔術を使ってセルフ録画は無理だった。なんとか出来ないかと、魔石を使う方法やらあれこれ悶々と考えていた所だったのだ。



 ****



「エルピス様聞いてください!シャメア殿下が解呪に協力してくださるそうですの!」


 上半身だけ縛り上げられたように不自然に硬直した隣国の皇子を引きずってきたアステルを見て、ロンヒは冷や汗が吹き出た。規格外王女様!それはアカンやつ!


「ちょっと!はやくこれ解いてよ!エルピス殿下の前で恥ずかしいじゃないか!!」


 頬をピンク色に染めたシャメアが、足だけじたばたさせてアステルにキャンキャンと吠える。


「あ、忘れてました!はい、解きました!」

「もう!あんたって魔力ゴリラなの?!こんな強力な拘束魔法とか見た事ないんだけど?!」

「すみません、貴重な成分を逃がしてなるものかとつい力が入ってしまって…。」

「成分て何?!僕を誰だと思ってるわけ?!」


 可愛らしくじゃれ合う小動物…。なんだかそこだけほわほわとした雰囲気が漂っているようで、ロンヒは束の間癒された。


 可愛いは正義である。


 ところが、すぐ後ろから冷気を感じてふり返ると、滅多に機嫌を損ねることのないエルの機嫌が、地を這っていた。


「…お久しぶりですシャメア殿下。アステル?話が見えないからこちらに来て説明してくれないか?」


 そう言って、いつも通りアステル様の手を取り、東屋の椅子に座らせた。


 東屋には二人分の椅子しか用意しておらず、シャメア殿下も座るとなると椅子が足りない…。

 近くの教室から借りてこようとした矢先、エルに鋭い目付きで制止される。


 ちょ、俺に当たるのヤメテ!


 どうするのかと思っていると、シャメア殿下にもうひとつの対面の椅子を勧め、自分はアステル様の後ろにまわり、その両肩に手を置いて立った。


 守護霊獣か何かなんですかね?


 アステル様には見えてないと思って!威圧感半端ないよエル!


 無表情で威嚇してくるエルピスに、シャメア殿下は頬をひくつかせて怯えていた。


 心中お察しします!どうか国際問題にはしないでください…!

 人生初のヤキモチなんです!まだ妬き方がよく分かってないので多目に見てやってください!!



「それで?なにがどうなってシャメア殿下がここに居るんだ?」


 凍える雰囲気とは裏腹の穏やかな声でエルに促され、アステル様はパッと後ろを見上げて話し始める。



 …エルはきっと、ふり返った時にふわりと揺れた髪と、見上げるクリクリの瞳が可愛いとか思ってるんだろうなー…。



 アステル様は、解呪が行き詰まっていて、別の方法を試したい事。その方法をシャメア殿下に手伝って欲しいのだと言う事を懸命に訴えた。



 …両手を握り合わせて上目遣いで訴えてくるのがたまらんほど可愛いとか思ってるんだろうなー…。



「シャメア殿下は解呪担当魔術師に立候補してくれたようだが?アステルに容易く拘束されるような魔力で?役に立つのか?」


 エル!相手は一応同盟国の王族だから!表面上だけでも敬意を払って接して!!


「あ、大丈夫だと思います。先程は私、嬉しさのあまりつい手加減なしで拘束魔法をかけてしまいましたの。

 並の魔術師なら心臓まで止まってしまうレベルだったのですが、シャメア様はここまで歩き、なおかつ、お話まで出来るくらいの魔力耐性がありましたから!」

「ねぇっ!それ僕が並の魔術師だったらどうしてくれちゃってたワケ?!」


 ヤメテ二人ともこれ以上じゃれ合わないで…エルの機嫌がァァァ…。


「エルピス様お願いします!これ以上一人ではどうしようも出来なくて…!」


 解呪に失敗する度に黒い影を背負うアステル様は見ていて痛々しかった。

 そして今も、その黒真珠のような美しい瞳が涙の泉に揺蕩うのを見て………エルは陥落した。



 そんな姿を見つつ、俺は感動にうち震えていた。


 今日はエルのヤキモチ記念日…!


 父や陛下が狂喜乱舞する姿が目に浮かぶようだ…。

 夕食はきっと料理長の渾身の創作料理『繰り広げられる青春〜ヤキモチを添えて〜』とかなるんじゃないだろうか。


 シャメア殿下、エルの青春の1ページにヤキモチというスパイスをありがとうございます!!!



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