6日目
「あぁっ!失敗した!」
6個目の解呪に挑戦中、タイミングがズレて魔素を潰しそこねてしまった。
難易度がハードになってそろそろ初見フルコン怪しいなと思っていた矢先だった。
仕方ないので魔素を潰し続けて譜面を全部見て、他にミスしやすそうな所がないかチェックする。
魔力消費も、いつもは良い汗かいた感があるのに、今日は敗北感で体が重い…。
「エルピス様すみません、失敗してしまいました…。」
ヘボプレイヤーですみません!
ビクビクしながらエルピスを見上げる。
今日の錠前は、エルピスの足首辺りにあったので、ソファに座った彼の足元に座り込むようにして解呪していた。
「解呪条件が難しくなってきていて…ここから日数かかってくるかもしれません…。」
本当にヘボプレイヤーですみません!!
奇しくも土下座スタイルになっていたから、そのまま頭を下げて土下座を完成させる。
エルピスがソファから降りてすぐそばに座る。
「気に病まないでくれ。もう5個も解呪してもらって、それだけでも充分なんだ。」
鎖の絡まった手で、よしよしと頭を撫でて励ましてくれるエルピス。
もう16歳のレディなんだから違う触れ方をして欲しいと思って、じゃあどんな触れ方ならいいのかと自分につっこむ。
考えたらいけない気がするから考えない!
そのまま無言で頭を撫でられ続けて、流石に顔が熱くなってくる。
やがて、我に返ったらしいエルピス。
「ああ…すまない。アステルの髪はこんなに柔らかいんだなと思ったら止まらなくなってつい…。」
ブホッとロンヒが先に吹き出したので、私は寸前で止められた。
やめてぇぇぇ。キュン死するー!!
女性免疫ゼロのエルピスは言葉が直接的だ。
たまにこんな風に不意打ちをされて、恥ずかしさに悶える。
美青年から垂れ流される甘い言葉なんてもう殺人兵器だ…。
本人無自覚だから余計に質が悪い。
一度ロンヒにそれとなく文句を言ったことがあるが、良い笑顔でかわされた。
「あまりにも度を越したものは後で指導してますので、軽いものは見逃してください。」
軽くても被害甚大だから言ってるのに!!
私が悶えていたのを、怒っていると勘違いしたのか、エルピスは眉を下げて顔を覗き込んでくる。
「アステル、すまない。俺の頭も触っていいから許して欲しい。」
そんな事したら更に悶えないといけないでしょー!!
それなのに頭を突き出してくるから撫でない訳にもいかず…。
覚悟を決めて触った癖のない髪は、サラサラ感あふれる見た目に反して、しっかりした手触りだった。
そういえば、男の人の髪を触ったのはこれが初めてだ…。
無駄に脈打つ己の心臓と、ロンヒの生温かい笑顔が無性に悔しくて、最後に両手でエルピスの髪をわしゃわしゃと乱してやった。
「これでおあいこにします!」
髪をぐしゃぐしゃにされたのに、ものすごく嬉しそうな目の前の笑顔にまた悶えさせられて、やはりもう一度ロンヒに苦情を言おうと決意するアステルだった。
****
「侍従長、今日の進捗を報告してくれ。」
重々しく問うメガロ王を前に、侍従長は胸に手を当て頭を垂れた。
「陛下に申し上げます。エルピス様の本日の解呪ですが、残念ながら失敗なさったようです。解呪条件が難しくなってきていて、失敗が増えるかもしれないとアステル様が仰っていたと、ロンヒから報告がありました。」
メガロ王は顎に手をやり、満足そうに目を細めた。
「ふむ。まぁ、エルには悪いが…ある程度時間がかかってくれた方がこちらとしては都合がいい。」
「そうですね…『そこまで明言はしないが、実質婚約者的な扱いをして外堀を埋めに埋めておき、解呪が終わったら自然と婚約してました的な流れに持ち込もう作戦』の為には、ある程度お時間をいただき、もっとお二人の親密度を上げねばなりませんからね。」
「そういう事だ。で、そっちの方は何か進展があったのかな?」
「はい、どうやらエルピス様がアステル様を慰めようと、頭をなでなでされたようです。そして、アステル様の髪が柔らかくて止まらなかったという甘い言葉をお吐きになったと。」
「おおっ!やるじゃないかエル!!」
執務机を音がするほど叩き、思わず立ち上がるメガロ王。
「はい、その後、自分の頭も撫でてもらい大層ご満悦。アステル様は恥ずかしさに悶えていたとの事です。」
メガロ王はカッと目を見開いた。
「という事は、今日はエルの『なでなで記念日』という事になるな!」
「はい。既に料理長には祝賀料理を用意するよう伝えてあります。」
「よしよし、この調子でラブラブになれば解呪後即婚約だ!!」
「はい。エルピス様のお幸せの為に、我ら『エルピス様父兄の会』一同、全力を尽くす所存です。」
「ああ、私も会長として持てる権力の全てを行使して会の活動を支えよう。」
エルピスの父達は頷き合い、決意を新たにした。
そんな様子を部屋の隅から、いつもの事だと生温かい目で近衛達は見守っていた。
次の日ーーーー
「食後のデザートは料理長の力作、『季節のフルーツとふわとろプディング〜甘酸っぱい青春仕立て〜』です。」
いつもの東屋で給仕をするロンヒ。
「なんか最近やたらと青春推しだよな料理長…。」
自分の皿の苺をアステルへ分けながら首を傾げるエルピス。
「流石は大国メガロ!お食事が毎回豪華で驚かされます!」
好物の苺を満面の笑みで口に運ぶアステル。
「毎日が大切な記念日のようなものですから、料理長が張り切ってるんですよ…。」
いい笑みで説明するロンヒ。
そんな料理長は『エルピス様父兄の会』の副会長である事をエルピスとアステルはまだ知らない…。