4日目part2
途中からロンヒ視点
学院長の所で一旦エルピスと別れて、昼休みまでを魔術科で過ごした。
他国の王女で国賓で王太子殿下の解呪担当魔術師で…。属性過多な私の存在は周囲に溶け込むにはもう少し時間がかかるようだ。
まあ私としては高名な魔術師の講義が聞けて、自国には無い魔導書を図書館で読めて、研究が進められればそれでいいや。ぐらいの意気込みである。
昼休みになると、ロンヒが魔術科まで迎えに来て、庭まで案内してくれた。
たどり着いたのは、庭の端にある小さな東屋。
その周りを囲むように、でも会話が聞こえない範囲に、騎士科の生徒が散らばって立っていた。おそらく間違って女生徒が近づいて来ないよう見張ってくれるのだろう。
「アステル、こちらへ。」
エルピスがぎこちない仕草でエスコートし、東屋の中の椅子に座らせてくれた。
「ありがとうございますエルピス様。授業お疲れ様でした。」
「アステルこそ初日で緊張しただろう?君は昼はここでゆっくり過ごすといい。」
「…?エルピス様はこの後何かご用事が…?」
なんだかこのまま立ち去ってしまいそうな言い方だ。
時間があれば解呪に挑戦したかったのに。
すると向かい合って席に着いたエルピスは、目を丸くして狼狽えだした。
「あ、いや…違う。その…。」
後ろでロンヒが両手を握りしめて何やら応援している。
エルピスは前髪を乱暴にかきあげると、一気に言った。
「昼は!ここで一緒に過ごそう…!」
そしてそのままテーブルに突っ伏した。
その耳が赤くなっている事に、こっちまで照れてしまう。
予定を確認したかっただけなのに、なんか恥ずかしい事を言わせてしまったようだ。
「はい、一緒に、過ごしましょう…!」
よし、私も恥ずかしい事言った!これで痛み分けよ!
羞恥に顔を上げられない二人のそばで、ロンヒが目頭を押さえて感動に打ち震えた。
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エルが女性相手にこんな…こんな甘い台詞を言える日が来るなんて…!!
ロンヒはしばし感動に打ち震えていたが、残り時間を考えて我に返ると、恥ずかしさで固まっている二人をそのままに、急いでランチの支度を進めた。
保温魔術がかけられた、作りたてのような温かい料理が、ランチボックスに美しく飾られて入っている。
その匂いに気づいたらしく、ようやく二人は顔を上げた。
「昼休みをゆっくり過ごすためにも、まずはお料理を召し上がってください。料理長が張り切って作ってくれた至高のランチボックスですよ!」
そう言うと、アステル様は小首を傾げた。
「ロンヒとあちらのご友人達は召し上がらないの?」
「僕達は食べてから来たので大丈夫です!我々は食事が早いんです!」
ロンヒはいい笑みで即答する。怪訝そうにしているエルは黙殺する。
本当は、俺もエルの為に来てくれた友人達もまだ食べてはいないが、一緒に食事なんかして、二人の空間を邪魔したくない。
騎士科の俺達があっという間に食事を食べるのは本当だし、休み時間残り5分でパンでも詰め込めばそれでいい。
俺達は空気だ。空気に溶け込むのだ。
そうこうしているうちに、もっとゆっくり食べればいいのに、あっという間に全部たいらげたエル。
今までヤローばかりに囲まれて生きてきたから、おしゃべりを楽しみながらのんびり食事なんて芸当は出来ないのだ…。
でも、アステル様が自分が食べきれなさそうな分をエルにお裾分けしたり、逆にデザートはエルがアステル様にあげたり、なかなかいい雰囲気のランチとなった事にまた感動が湧き上がってきた。
エルが!青春してる!!
これもひとえにアステル様のおかげだ。
魔術師として規格外な彼女は、女性としてもそうだ。
紳士のように握手を求められても、エスコートを忘れられても、怒らないどころかさり気なくフォローしてくれる。
エルの置かれている状況をしっかり分かってくれてるって事だ。有り難すぎる。
仮に全ての呪いが解けなくても、アステル様がエルの傍にいてくれたらエルは幸せになれるんじゃないかと思う。
エルだって絶対アステル様を好きになりかけてる。というか落ちる寸前だと思う!
アステル様のお気持ちは分からないけど、憎からず思ってくれているはずだ。
となれば、俺にできる事はただ一つ……。
エルの青春を全力アシストして、二人をラブラブにする!!!
ちなみにこれは、メガロの首脳陣の意向でもある。
本当は最初の段階で、二人の婚約の話を進めようとしたらしいが、婚約が嫌だから解呪しない!などと言われてしまったらまずいのでは…との意見が出た。
彼女にそっぽを向かれてしまってはお手上げなのだ。
そこで、『そこまで明言はしないが、実質婚約者的な扱いをして外堀を埋めに埋めておき、解呪が終わったら自然と婚約してました的な流れに持ち込もう作戦』が実行される事になったのだ。
作戦名なんとかならないのか…?というツッコミはさておき…皆エルの幸せを願ってるんだ!頑張るぞ俺!!
「授業までまだもう少し時間がありますし、今から解呪に挑戦してみますか?」
和やかな空気のまま食後の紅茶も飲み終えて、アステル様が提案をした。
解呪は消費魔力の関係で一日一回となっている。
という事は…今ここでしちゃうと、今日この後二人が一緒に過ごす理由が無くなってしまう!!
アステル様が滞在を始めてからは、夕食を共に食べた後に解呪をしてそのまま夜寝るまでの間、なんだかんだと一緒に過ごすという流れが出来ている。
外堀埋め立て作戦(勝手に省略)の一環である。
しかし解呪という大義名分がなかったら、女性免疫ゼロのエルに、アステル様を誘うなんて事できっこない!
そろそろ友人達の口にもパンを詰め込まねばならないし、夜にしてもらおうと口を開きかけた時…
「いや、いつも通り夕食後にしよう。午後の授業の為にアステルは魔力を温存しておいたほうがいい。」
エル!グッジョブ!
単にアステル様の魔力大量消費を心配しただけなんだろうけど今はそれでいいや!
「分かりました。ではそろそろ教室に戻りますね。」
魔術科の校舎まで送ろうとすると、道は覚えたからエスコートは無しで大丈夫と日傘を差して微笑むアステル様。
俺達が食事まだなのバレてるんだろーなー…。
さすテル!(流石ですアステル様!)
「あと、お昼に解呪しないのであれば、魔力に余裕ができますから、明日からは私がいる間は女性を通さない結界を張れます。その間にご友人の皆様やロンヒは食事をして来たらいいと思うわ。」
でた規格外。範囲結界って普通は数人の魔術師でやるものって聞きますけど…?
でもそれって…正真正銘の二人っきりになるのでは!?
恐らくアステル様は俺達がしっかり食事をとれるよう気遣ってくれてるだけなのだろうが…美味しいじゃねえかエル!
俺達がいない間に心の距離をつめて、そのうち物理的な距離もつめて、思う存分ラブラブしてくれたらいい。
俺達はお言葉に甘えて、ゆーーっくり食事してくるから!
え?未婚の男女を二人きりにしていいのかって?
それも二人をくっつける既成事実の一つとなるなら万々歳。
国のお偉いさん達だって、けしからんもっとやれと言うハズだから問題無し!!
ロンヒはエルピスのオカンです。