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初日part2

 


 挨拶の順番が近づくにつれて、兄の緊張が増していくのが伝わってくる。魔力が揺れている。


 私が、エルピス殿下に会った全ての女性と同じように、顔を恐怖に歪め、鼻を押さえて逃げ出すのではないか、そうしてまた友を傷つけるのではないかと心配しているのだ。


 まだ少し距離のあるエルピス殿下を、扇越しにチラ見してみる。

 話によると殿下の姿は、想像しうる最も醜悪な姿に見えるとの事だが…。



 ……一目惚れ級の美青年がいますよ?



 金髪碧眼。王子はこうあるべきと言わんばかりの配色。

 学院で騎士科に所属されているからか、絵本に出てくるような華やか王子様というより、騎士と言った方がしっくりくる凛々しさだ。

 あまりジロジロ見る訳にはいかないので、そこで目を伏せて大きく息を吸ってみる。


 匂いも特に臭くはない。


 呪いの詳細はもっと至近距離で魔眼で視ないと分からないけど、少なくとも鼻を押さえて逃げ出す失礼はしなくて済みそうだった。





「やあ、久しぶりだなフィーレ。」

「誕生日おめでとう、エルピス。」


 エルピス殿下と兄が親しげに握手を交わした。


「陛下、改めて紹介致します。リーテン王国第四王子フィーレ殿下です。彼は昨年まで留学生として同じ騎士科に在籍していたので随分お世話になりました。」


 若きメガロ王アネシスはひとつ頷くと、気さくに握手を求めた。


「ようこそお越しくださった。甥がお世話になったようだね。お礼申し上げる。」


「そんな畏れ多い!こちらこそエルピス殿下にはイタズラの片棒を担いでいただいたり、こっそり宿題を見せていただいたり、大変お世話になりました。国の都合で卒業まで残る事が出来なかったのが残念でなりません。」


 冗談をまじえた兄の挨拶に、通常なら笑いでも起こるところだが、メガロ王もエルピス殿下も何か(・・)を気にしてそれどころではないようだった。


 その何か(・・)である私は、兄に促され一歩前に進み出た。


 周囲の視線が突き刺さる。

 パーティーに参加している数少ない女性達は遥か彼方。周囲は男性ばかりで、私の存在はひどく浮いているらしい。


「紹介致します。妹の第二王女アステルです。」


 淑女モード発動!


 淑女らしく控えめに、でも親しみを込めて微笑み、血のにじむような努力で身につけた優雅なカーテシーを披露する。


「アステルと申します。大国を統べる高貴なる方々にお会いできて光栄でございます。」



 時が止まった。



 やがて遠巻きに見ていた貴族達が会場の音楽を打ち消す勢いでざわつき始める。



 ……あれ?何か間違えたかしら?



 不安になって兄を見上げると、兄は感極まったように目頭を押さえていた。


「あのアステルがちゃんと挨拶してる…!」


 失礼なくらい評価基準が低かった。


 再びメガロ王とエルピス殿下に、やや困り顔で微笑むと、メガロ王が我に返った。


「ああ…すまない、エルピスの前で最後まで挨拶を終えた女性は貴女が初めてだから驚いてしまって…。」



 それは…驚いても仕方ない。


 現にエルピス殿下は目を大きく見開いてまだ固まっている。

 うーん、驚いた顔すらも鑑賞に耐える美青年とか凄い。



 さてさて、肝心の呪いの方はどうなってるのかな?


 呪われている方には大変申し訳ないが、研究者としての血が騒いで現在かなりワクワクしている。


 私は眼に魔力を集中させて、呆けるエルピス殿下を見つめた。


「わぁ……すごい数の鎖。」


 思わずこぼれた言葉に再び周囲の時が止まる。


 彼の身体中に絡みつく沢山の鎖…。

 これがエルピス殿下にかかっている呪い。

 こんな凄いのは初めて見た。


 鎖の太さはまちまちで、それぞれ複雑に絡み合っているから本数は直ぐには分からないが、伝え聞いた話なら恐らく10本あるのだろう。

 鎖は武骨な造りながらどれも綺麗で、呪い特有の禍々しさとは無縁である所がせめてもの救いだろうか…。


 彼の手の甲あたりの細い鎖についている小さな錠前を見つけた。恐らく呪いの核の一つ。


「殿下、お手に触れてもよろしいですか?」


 いきなり触ったら驚きそうなので確認をとる。


 そこでようやく硬直がとけたらしい殿下は「ああ…。」と、ぎこちなく頷いた。


 言質をとった私は殿下の大きな手をすくい上げ、錠前に触れる。

 手袋越しだというのに、異性に触れられたからか、殿下の手が恥じらう乙女のように一瞬震えた。


 なんだかイケナイ事をしている気分になるのは何故だろう…。


 気を取り直して錠前に鑑定魔術を使う。



 これは体から悪臭が出る呪いの鎖だ。


 対象者は近くにいる異性。でも、非対象となる条件も二つ設定されていた。

 そのひとつが恐らく私に当てはまる。


 術者の魔力量を超える者。


 これのお陰で殿下の呪いは私には効果がなかったのだ。


 己を裏切った二人と更に胎児にまで呪いをかけたほどの絶大な魔力量…を更に超える私…。


 我ながら、なかなかのぶっ壊れ値。


 こういうのを確かチート(・・・)っていうのよね。


「殿下にかかっている呪いは、私には効かないみたいです。」


 ひたすら驚きに固まり続けるその場を放置して、呪いの解呪条件を見ると、『一の呪いに準じる』となっている。


 10本の中で一番強い呪いの事だろうか。


 他の鎖の錠前も確認したが、どれも条件は同じ。

 胸元に下がった一際太い鎖の錠前を鑑定して思わず眉が寄った。


『九つ全ての呪いを解いた時、詳細は開示される』


 これが『一の呪い』だろう。


 魔力の出力を上げても、詳細が一切見れない。それほどに強い呪い。

 その他9個はこの呪いに準じる解呪条件、だが、その9個を解かないと、この呪いの条件が見れない堂々巡り。


 解呪させる気はないという事だ。


 こうなると、条件を成立させるのではなく、魔力でゴリ押しの強制解呪を試してみるしかない。


 魔術であれ呪いであれ、基本は解呪条件を満たすことで解呪するのだが、術を上回る魔力で、構成している魔素(魔力の粒のようなもの)の流れを断ち切り、全て消し潰すことが出来れば強制的に消滅させることが可能だ。


 潰し終えるまで一定時間がかかるから、攻撃魔術などの瞬間的なものは無理だが、結界や封印などの設置型の魔術であれば解除も可能だ。



 再び、手の甲の小さな錠前に触れる。


 この悪臭の呪いは強い効力のある呪いのようだが、何故か鎖は細い。もし鎖の太さが解呪の難易度を表しているなら、解呪出来るかもしれない。


 ちょっとやってみよう。


 止まらない好奇心に促されるように、魔力の出力を上げて、魔素の流れる回路に可視化の魔術を使う。


 手元に、複数のレーンが縦に伸びる映像が写った小さな画面が現れる。


 前世(・・)では『音ゲー』とか『リズムゲーム』と呼ばれていたものに似ている。


 開始ボタンを押すと、キラキラ光る魔素が、レーンの上から下に流れ落ちてくる。

 それをレーンの一番下で魔力を込めた指でタイミング良くタップして消し潰すのだ。


 呪いによって魔素数が決まっていて、最初から終わりまで順番通りに全て潰せれば解呪成功。

 タイミングを外したりして、ひとつでも潰し損ねると解呪失敗だけど、自分の魔力が尽きない限りは何度でも挑戦できる。


 前世の音ゲーと違って音楽がなく、純粋なリズム音のみである事と、ミスタップなくコンボを繋げる、いわゆるフルコンを達成しないと解呪出来ないから割と難しい。


 悪臭の鎖は想像した通り難易度EASY。

 危なげなく魔素を全て潰してフルコン達成すると、鎖は弾けて消えた。

 


「あ、1個解呪出来ましたよ!」



 笑顔で周りを見渡して、瞬きをひとつ。


 自分は石像群にでも囲まれているのだろうかという位に、長いこと周りが動かない。


 と思ったらガシリと肩を掴まれた。お兄様に。


「アステル…?長年家族として付き合ってきた俺ですら、さっぱり意味が分からないから、じっくり、きっちり、説明してもらおうか?」


「はぁい?」



 しまった。楽しすぎてまた暴走してしまった…。


 呪いを解いて褒められるかと思いきや、なんだか怒られそうな気配なので、小首を傾げて努めて可愛らしく返事をしてみた。



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