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初日part1

 


「おおぉ…流石は魔術大国メガロ!!」



 魔動車の中から、窓に張り付くようにして王城を見上げたアステルは思わず感嘆の声をあげた。


「アステル、窓から離れて…。頼むから他国で問題行動を起こさないでくれよ…?」


 馬車ほど広くない車内で窮屈そうに長い脚を組むフィーレは、たしなめるような視線をアステルに向けた。


「まぁ、失礼なお兄様ね。そうやって私の事いつまでも子供扱いするけど、もう社交界デビューも終えた16歳の立派なレディなのよ?マナーだってバッチリだわ!」


「魔術が絡まなければな…?」


「………。」



 痛い所を突かれた。反論出来ない。



 自他ともに認める魔術研究バカのアステルは、魔術の事となると周りが見えなくなってしまう事が多い。


 今だってこの魔動車を隅から隅まで舐めるように観察して、出来たら直ぐにでも車を分解して、その構造を確認してみたい衝動を必死で抑えているのだ。


 実際、お兄様というストッパーがいなかったらやっていたかもしれない…。


 フィーレの深い溜息を聞かなかった事にして、今度は少し窓から離れて外を見た。


 王都に入る時、空一面を覆う雄々しい守護結界にも圧倒されたが、今、車窓から見える王城の結界の美しさといったら…!


 緻密で繊細で美しい紋様が、あらゆる害悪から白亜の城を護らんと虹色に煌めいている。


 もはや芸術だ。世界遺産だ。


 あれが見えるのが魔力量の多い、ひと握りの魔術師だけだというのがたまらなく惜しい。可視化出来たらいいのに。


 どんな魔素構造になってるのかしら?維持管理にかかる魔力量は?人力なのか魔石を使っているのか混合なのか。それから、やったら即国際問題だけど…この結界を解く事にも挑戦してみたい…!


「アステル…。」


 ハッと気がついたらまた窓に張り付いていて、慌てて距離をとる。


 だって仕方ないじゃない…!自国ではお目にかかれないスゴいものが次から次へと出てくるんだもの…!

 興奮するなっていう方が無理な話だわ!


 再び吐き出されたフィーレの深い溜息を、居心地の悪い思いで聞いている間に、アステル達を乗せた魔動車は颯爽と王城の門をくぐった。



 ****




 王城の大広間に入場すると、遥か高い所にある天井付近に浮かぶ巨大なシャンデリアに目を奪われる。


 浮いてる。あれはきっと魔石を使ってるんだわ。


 浮遊力もさる事ながら、あの光量もすごい!あんなにキラキラ輝いて真昼みたいに明るいなんて魔石だけじゃ無理だからきっと魔石に何か付加魔術が…!解析したい!



「アステル、主役に挨拶に行くからちゃんとして。後で沢山見せてあげるから。」



 おっと危ない。ポカンと空いた口を慌てて扇で隠す。

 小国とはいえども一応王女だ。今はそれらしくしないと…後で兄様が恐い。


 大国メガロに比べたら、風が吹いて飛ぶような小さな国、リーテン王国。それが私達の国だ。

 わんさかあるメガロの同盟国のひとつ。


 兄様は第四王子で、私は一応第二王女。


 今回は、メガロの王太子エルピス殿下の18歳の誕生日パーティーに出席する為に来ていた。


 お上りさん丸出しの顔を誰かに見られただろうかと、さり気なく周囲を見渡すと、幸運なことに、こちらを気にしている人はいなかった。

 いなかったというか、そもそも…


「なんだか人が少ない?」

「……そう、だね。まぁ仕方ない事ではあるんだが…。」


 珍しく歯切れの悪いフィーレの言葉に、再び扇越しに辺りを見回す。

 そうか、やけに黒色が多い思ったら、女性が少ないんだと気付いた。

 だから物足りなく感じるのだ。

 舞踏会と言えば、嵩張る色とりどりのドレス軍団が所狭しと床隠すものだから、女性が少ないというだけで閑散としているように見える気がする。


 しかし、大国のしかも未婚の王太子の誕生日パーティーともなれば、大陸全土から夢見る令嬢達が鼻息荒く押しかけて来そうなのに…。


 と、ここで本来の目的の一つを思い出す。



 そうだ、この国の王太子殿下は呪われているんだった。


 私はその呪いがどんな物なのか見るために、兄様についてきたんだった。



 兄様は、私がこれからすべき事に思い至ったと気付いたのか、真っ直ぐ目を見て真剣に念押ししてきた。


「そういう事だから、今から挨拶するけど、くれぐれも失礼の無いようにしてくれよ?彼とは親しい友人なんだ…傷つけたくない。」


「わかりました。」


 友を思う兄様の気持ちに、重く頷く。


 エルピス殿下の呪いは異性にのみ発動する。だから女性は近づきたくても呪いのせいで近づけないし、殿下自身女性を遠ざけて生活している。


 それなのに私を連れて来たのは、私の魔力量が、世界最高品質のメガロ製の魔力計測器を壊すほどのぶっ壊れ値である事、結界魔術や呪いの類の解析に精通している事に期待をしているから。


 昨年までメガロに留学していた兄様から、折に触れてエルピス殿下の話は聞いていた。

 もっと早くメガロに来てみたかったが、未成年という事で許してもらえずにいた。

 今年私が無事に成人を迎えたので、兄様が父を説得してくれてようやく今回メガロに来る事を許されたのだ。



 常々、エルピス殿下の力になりたいと話していた兄様は、私と引き合わせる事で、友の呪いを解く鍵が見つかればと願っているのだ。





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