25日目・ロンヒ
空気が寒々しい……。
ロンヒは東屋の片隅で震えていた。
それはようやく秋らしくなってきた涼やかな気温のせいではなく、風邪で熱が出ている訳でもなく……東屋で食事をしているやんごとない三人の人物が醸し出す雰囲気によるものだった。
突然現れたミシェルなる特待生のせいで、今まであんなに仲睦まじかったエルとアステル様の関係が途端にギクシャクし始めた。
エルと仲良くしたいと言い出した特待生は、婚約者でもないのに独り占めするなとアステル様を牽制し、ランチの一日交代権をもぎ取った。
まだ婚約者じゃないけどもう事実上婚約者なのに!!
外堀もほぼ埋め終わって解呪待ちバッチコイ状態なのに!!
エル!なんとか言ってやれよ!てかもうアステル様に告白しちまえよ!と思うだけじゃなくエルにも言ったが、「呪われてる俺の気持ちはお前には分からない。」と、ヘソ曲げられてしまえばもう何も言えない。
ずっと近くでその苦悩を見てきたからこそ、これ以上追い詰めるような事は何も…。
周りから見れば満場一致で両思いな二人なのに、アステル様から拒絶されるのが怖くて一歩踏み出せないエル。
エルの心まで縛る呪いの鎖が憎くて仕方ない。
アステル様もミシェルに言われた事を気にしてエルを避けているのか、二人で過ごす時間が減った。
更には、練習不足でまだ解呪に至れる状態じゃないからと、晩餐後の解呪の時間すらも無くなってしまった。
そして貴重な一日交代のランチもこうしてシャメア様を連れてきて三人で過ごす。
まあ、こんな気まずい状況で、誰か第三者に居て欲しい気持ちも分からなくはないのだが…。
三人は授業の内容や、学院の行事についてなど、当たり障りない事を表面上和やかに話している。
でも空気が寒々しい…っ!!
シャメア様からは時折、お前早くこの二人何とかしろよ。という非常に冷たい視線をもらうが、何とかできてたらとっくにしてますから!!!
エルと同じで恋愛なんてしたことが無い俺は、こんな修羅場どう対処したら良いのか全く分からないったら分からないんだ!
…分からないと言えば、例のミシェルに対するエルの対応。
一日交代のランチの時間、いそいそとやって来て、エルにまとわりつくミシェル。
可憐なしぐさ、耳に優しい言葉でエルを褒めたり慰めたりして男心をくすぐり、アクシデントに見せかけてさり気なくエルに触る。(もちろん速攻で間に割って入るが。)
これが肉食系女子とやらの攻め技なのか!
事前に父から指導を受けていたからソレと分かるが、もし何の予備知識もなく自分がこれをされていたら…ついニヤついてしまうかもしれない…!!
ちくしょう!軽く女性不信になりそうだ!
同じ指導を受けたにも関わらず拒絶しないエルは、もしやミシェルに絆されてしまったのかと思ったが、エルの表情や態度には終始、困惑と戸惑いしか感じられない。
嫌なら嫌で、俺はアステル一筋だ!とか言って拒否すればいいと思うのだがそれもしない。
もしや、アステル様にヤキモチを妬かせるためにワザとミシェルと一緒にいるとか?!
そうだとしたら、自惚れるんじゃねぇ!と鉄拳制裁かますところだが…。
よく考えたら、そんな恋の駆け引き的な事をする余裕があるならとっくに両思いになってるはずなんだ…。無いな…。
総合的に考えて、ミシェルに対して何か思う所があり、どう対応すべきか決めかねている。そんな雰囲気だ。
それならば、俺は待つしかない。
エルが動くまで、側でこの茶番劇を見守るしかない。
しかし、実態はそんな風でも、ミシェルとランチをしているという事実は事実なわけで…。
日を追う事によそよそしさを増していくエルとアステル様。どんどん俺に対する視線が険しくなるシャメア様…。
真綿で首を絞められる。そんな心地がするこの数日。
呪いさえ解ければ…。
呪いさえ解ければ全て解決する気がするんだ…!
何も出来ない俺は祈りを込めてアステル様を見る。
アステル様、どうか一日も早くその規格外な力でエルの呪いを解いてください!
エルを縛る心の鎖を消し飛ばしてください!
エルの青春の1ページに、両思い記念日という輝かしい思い出を刻ませてください!!
幸せそうに笑い合う二人が見たいんだ…。




