22日目part2
クラスメイトと昼食を食べ終え、教室で本を読んでいたら、アステルが来た。
昼休みも残り15分というこの奇妙なタイミングで、今更ランチへの強制拉致ではないはず。
一体どうしたのかと見ると、目元を赤くして唇を噛み締め、今にも泣きそうな顔をしていた。
「ちょ、どうしたのさ?!エルピス様と何かあったの?」
「じゃべあざばぁぁ…!」
図星だったようでたちまち涙が零れだした。
あと僕の名前がスゴい事になってる!
「あーーーもう!とりあえず保健室!行くよ!」
公衆の面前で泣かせ続けるわけにもいかないので、肩を抱くようにして強引に歩かせる。
ホントはカッコよくお姫様抱っこでもしたらいいんだろうけど、可愛い僕はどっちかというと抱っこされる方が似合ってるからやらない!
意識あるうちはキビキビ歩いてよね!
途中すれ違ったアステルのクラスの女子に、「上手く誤魔化しておいて?」と可愛くお願いして、さっさと保健室に連行した。
アステルをベッドに寝かせて、僕はその傍の椅子に座り、ごく近い範囲に遮音魔術をかける。これで二人の会話は漏れないはず。
保健医がギョッとしていたが、内容が内容だけに聞かせる訳にもいかないし、こんだけ丸見えの状態でヤラシイ事なんてする訳ないでしょと知らん顔をする。
「で、何があったのさ?」
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涙腺崩壊したらしいアステルの話を辛抱強く聞いて、思わず頭を抱えた。
なにその安っぽい芝居みたいな展開…。
お互い好きあってるのに一歩踏み出せなくてモダモダしてるカップルの所にライバルの女が登場…。
カップルの女は男の為を思い身を引こうとする。今ココ。
この後はライバル女にハメられて、すれ違いのジレジレってお決まりの展開が続くんだろうね!
「馬鹿じゃないの?好きなら戦え!とっととエルピス様に告白して婚約者の座におさまって、ぽっと出の女なんか、いつも僕にするみたく魔力に物言わせてやっつければいいじゃんか!」
「ちゃ、ちゃんと手加減してるっ!」
だからそこじゃないっての!
「エルピス様があんたを大切に想ってくれてるのは分かってるんでしょ?!信じて飛び込めばいいダケじゃない?」
「エルピス様のアレはヒナの刷り込み的なもので…!」
「刷り込み上等!そもそもあの人マトモな人生歩んでないんだから、今更普通を求める必要なくない?開き直ってあんたが最初で最後の女になればいいんだよ!」
「そんな開き直れるほど大層な女じゃないぃぃ!」
何言ってんのこのヒト。18年誰も解けなかった呪いを解いたってだけで充分大層な女でしょ。むしろそれを恩に着せて王太子妃になったって誰も文句言えないと思うけど。
エルピス様は生い立ちのせいで純粋培養の奥手だし、自分に自信がないから将来を約束するような言葉なんてきっと伝えていない。
だからアステルは宙ぶらりんのままで、名前の付かない二人の関係に戸惑ってる。
周りは二人を結婚させる気満々だし、ほっとけばいずれ纏まるハズだったのに、空気の読めない女がしゃしゃり出て来るなんて…。
誰もそんな展開望んでないんですけど?!
ようやく涙がおさまったアステルを見ると、手で擦って赤くなってしまった目元には、よく見たらうっすら隈まで出来ている。
きっと夜寝れなかったんだろう。思いつめすぎ。
ただでさえ解呪の練習で魔力もすり減らしてるっていうのに…。
アステルの目元を覆うように手を広げ、杖を構えた。
「とりあえず、今あんたに必要なのは睡眠。よく寝て起きたら自分に自信を持つこと!あんたはエルピス様を救える、ただ一人の偉大なる魔術師。そして、エルピス様の最初で最後の最高の女になるんだからね!
《彼の者に癒しの眠りを》……おやすみ。」
アステルは瞳を揺らして小さく頷くと、僕の睡眠魔術を受け入れて、健やかな眠りに落ちた。ついでに真っ赤な目元を冷やす効果もオマケしておく。
シーツを握りしめたままになっている手を解して包み込んで魔力を流し込む。
今日はきっとエルピス様を避けて魔力供給もしないだろうから緊急措置。
9個目の呪いを解くために毎日、魔石の記録再生をしてるらしいアステル。
一度見せてもらったけど、ただ再生するだけじゃなくて、特定部分を繰り返し低速で見たり、一時停止したり、魔力をゴリゴリ消費するような方法だから驚いた。
並の魔術師なら速攻で魔力枯れる。
そんな膨大な魔力持ってるくせに指の筋肉が足りないとか言って必死にテーブルを連打してトレーニングする、意味のわからない不思議なヒト。
出会ってからずっと振り回されっぱなし…。
なんだかイラついたから、寝顔をじっくり見てやった。
いつか仕返しのネタに使ってやろう…。
それにしても…解呪が終わった後、エルピス様の行動次第ではアステルが泣くと予想していたけど、こんなに早く泣かされるとかどうなの?
そんな予想、当たっても全然嬉しくないんだけど?
エルピス様も、このヒトこんなに泣かせて何やってるんだよ…。大国の王太子なんてやりたい放題な立場なんだから、さっさと囲い込めばいいのに!
僕だったらとっくにそうしてるのに…。
レースのカーテン越しの柔らかな陽射しの中、つかの間悩み事から解放されて眠る、そのあどけない頬をつついてみる。
僕より柔らかいとか、なかなかやるじゃん…。
とりあえず、ライバル女がどんなもんなのかと、エルピス様が何考えてるのか見定めないと…。
そこまで考えて、深い溜め息が漏れる。
知り合ったばかりなのに、なんで僕こんなに肩入れしてんだろ?
ちょっと解呪手伝うだけのチョイ役だったハズなんだけど?
人生って何が起こるかわからないもんだね…。
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次の日、「9個目の呪いが解呪出来たら勇気を出して告白するから、それまでエルピス様との気まずいランチ、一緒に居てください!」と、強制拉致をしに来たアステル。
まだ告白してなかったのか!!
ライバル女に猶予与えちゃうなんて、後手に回ってる気がするけど、これでこのヒトの精一杯の決断なのだろう。
昨日より血色の良くなった頬に、潤んだ瞳で震える小動物…。
こ、この僕の庇護欲を掻き立てるなんて、なかなかやるじゃん…!
仕方ないからブリザード覚悟で一緒にランチしてあげるよ!
ジレジレは好きじゃないんだから早く決着つけてよねっ!
シャメアはアステルのオカン




