表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

役割が欲しかっただけの僕は、ある日、魔王になったらしい

作者: 仁科紫

こんにちこんばんは。

『狂い猫は今日も笑う〜in Wonder World Life Online〜』の作者、仁科紫です。

息抜きに別ジャンルの小説を書いてみることにしました。正直、設定とかガバガバなので、暇つぶし程度に読んでいって下さいな。

それでは、良き暇つぶしを。

 僕は今、崖の上に立っていた。あと数歩前に進めば、僕の命はあっという間に無に帰すことだろう。

 だが、僕の心はいつになく弾んでいた。



 □■□■□■□■



 僕は何の変哲もない辺鄙な村に生まれ、そこで死んでいくだけのただの村人Aでしかないはずだった。

 しかし、僕の立場はどうやらもっと複雑なもののようだったらしい。

 それを知ったのは5歳の頃。たまたま通りかかった家の中で話し声が聞こえたからだ。


『ねぇ、聞いた?あの話。』

『あぁ。アイツだろ?親無し子の話。』

『そうそう!あの子、なんでもね?…』


 気になった僕はその場でこっそりと聞き耳を立ててしまっていた。

 なんと、僕の母は身分が高かったにも関わらず、平民の父と駆け落ちをしたらしいのだ。しかし、この村に無事にたどり着けたのは僕、ただ一人だけだった。

 仕方がない、のだろう。父は母と赤ん坊だった僕を獣から守って死んだと推測されたらしいし、母は僕とこの村にたどり着いたときには既に危篤な状態だったらしい。一命は取り留めたものの、1年もしないうちに死んでしまったそうだ。

 結局、僕が両親から貰ったのは名前だけだった。


 でも、その名前を呼ばれることも少ない。僕のこの村での名前はおいだとか、お前だとかいったものばかりで、本当の名前を呼ぶのは一部の物好きばかりだった。そもそも僕と関わろうとする物好きが少なかったのもあるが。

 それでも僕は何を思うこともなかった。…思うと言うよりかは、考えることがなかったと言うべきか。ただ、一日を無為に過ごす。それが僕だ。

 どうしてか。簡単な事だ。僕はまだ7歳でしかない。それでも、水は汲めるし、草むしりだってできる。

 しかし、この村では農作業は大人の仕事であり、子どもは遊ぶのが仕事らしい。つまり、遊ぼうにも相手のいない僕には何もすることがないということだ。


「シエルくんっ!」


 …まあ、それも一部を除き、だが。


「ユフィ、そんなやつ、放っておいてあっちで遊ぼう?」

「そーだぞ!母ちゃんが言ってたもん。こんな穀潰しはとっととどっかに居なくなればいいって!」

「…シエルくん。」


 彼女は村長の娘のユフィだ。僕みたいな人間にも分け隔てなく接してくれるいい子、らしい。僕は放っておいて欲しいのだが。

 何せ、彼女のお陰で僕の生活水準は上がってもいるが、下がってもいる。正直、いい迷惑だと僕は思う。


「…僕はいい。みんなと遊んで。」

「ほら、そいつもこう言っているし。」

「…うん。ごめんね。」

「何言ってるんだ?ユフィ。悪いことなんてしてねーんだし。ほら、行くぞ。」


 実につまらない理由だ。僕はおかげで、穀潰しとしてしか見られない。


 僕の一日は村外れの小屋から始まる。以前は物置だったらしいそこは、雑多に物が置かれているものの、子ども一人が寝る分に十分な大きさだった。

 また、炊事する場所はなくとも、食べ物は村の人から譲って貰えた。でも、それは優しさなんかじゃない。食事を与えないことで餓死するならいいが、餓死せず、食べ物を盗もうとする可能性があるのならば、それを防ぐのはある意味当然の帰結だろう。


 どちらにしろ、何もせずただ生きている。いや、生かされているだけの僕は、ただ、なぜ生きているのかを考えざるをえなかった。

 誰かのために生きているわけでもなく、目的もない。ただ、食べて寝るだけの生活。そんなものに飽き飽きしていた僕は、ある日、願ってしまった。

 もしも願いを叶えてくれる存在がいるのなら、どうか、この意味のない生を終わらせてください。

 代償が必要なのであれば、感情でも、記憶でも構いません。どうか、僕に目的を、役割をください。と。なんて馬鹿らしく、意味のない願いだろうか。だが、それから数日後、村長から伝えられたのは…僕が栄誉ある生贄に選ばれたということだった。




 そうして、僕はここにいる。

 なんてことはない。ただ、崖から落ちるだけのお仕事だ。それで、僕の人生が終わろうとも、最期に役割を貰えたのだから不満はない。

 だから、別にいいんだ。少しばかり縁のあった子と永遠に会うことがなくなったとしても。

 なぜか悲しみに暮れている、いつも食べ物をくれたお姉さんがいたとしても。

 何も、何も問題はない。だって、僕は役割を貰えて、嬉しいから。これで、ようやく無為に生きなくてすむ。無為に生きてきた自分を許すことができる。

 そうして落ちていく僕は尖った岩に衝突する前に目をつぶった。


 それでは、さよなら。世界。もう二度と会うことはないと──


『こんにちは♪シエルくん。』


 思ったのだが。僕はおかしな夢でも見ているらしい。

 いや、死んだはずの人間ならば、夢は見れないはずだ。ならば、これは走馬灯というものだろうか。たとえそうであったとしても、おかしいのだが。

 なにせこのような可愛らしい子は見たことがない。

 銀髪のショートに金色の目。色白の肌はすべすべもちもちとしていそうで、子どもらしい愛らしさに満ちている。

 そして、何よりも目を引くのは人にはない、大きな翼だ。


『あれ?聞こえてますかー?もしもーし。』

「あ。うん。聞こえてる…。」


 その少女はなかなか答えない僕に痺れを切らしたのか、確認するかのように目の前で手を振る。とても綺麗な手だ。畑仕事とは無縁であるらしい。


『良かったです。これでもし失敗なんてことになったら、私がどうなるか分かりませんでしたからね。』


 そう言ってニコニコ笑う彼女は実にご機嫌であるらしい。何かいいことでもあったのだろう。

 さて、そろそろ僕も現実と向き合うべきのようだ。僕は崖から落ちた。恐らくそのまま死んだのだろう。そして、ここに居るのはどうやらこの少女の仕業らしい。ただし、それを命令したのは彼女より偉い人のようだが。


『クスクス。とって食べたりはしませんよ。安心してください。私たちはただ、貴方にとある役割を果たしていただきたいだけなんですよ。それだけです。』


 唐突に話されたのはそのような話。

 僕は一度自身の役目を果たしたはずだが、一体何をさせようと言うのだろうか。


「役割…?」

『そう、役割です。貴方が何を代償にしてでも欲しいと願った、その役割です。』


 ニコッと笑って、その少女はこともなげに言う。

 一瞬、僕は何を言われたのかがわからなかった。

 確かに願ったことはあった。ついこの間のことだ。それを忘れるはずもない。だが、それが本当に叶うとは思っていなかった。

 だって、そうだろう?人生は一回きり。その人生で僕は最期になる直前まで何の役割も役目もなかったわけだ。ならば、もう一度役割を貰えると思うことが出来るわけがないだろう?


『何を驚いているのです?

 貴方が願った。だから、貴方が選ばれた。ただ、それだけの事ではありませんか。』


 何を当たり前のことを?と言いたげに少女は言う。そういえば、この少女の名前を聞いていないことに今更ながらに思い至る。

 だが、口から出たのは別の言葉だった。


「理解はできる。納得は、別…。」

『なるほど。まあ、説明はするので安心してください。説明なく押し付けるほど非常ではありませんから。私。』


 そう言って、可愛らしく自分を指さす少女。

 説明はして貰えるらしい。安心はできた。だが、僕は死んだのだ。何ができるとも思えないが。


「説明して?」

『はいはい!ふふふ。乗り気なようで助かりました。

 では、ことの始まりは…貴方の国の王が他国に攻め入ろうとしていることにあります。』


 僕のくにのおうとはなんの事だろうか。恐らく、偉い人ということで良いのだろうが。僕は村長より偉い人を知らない。聞いたことがないからだ。

 それに、たこくにせめいる、とはどういう意味だろうか。

 僕は言葉をあまり知らなかったという事実に愕然とする。


『あれ?これ、伝わってませんね。ちょっと待ってくださいね?』


 少女にも伝わってしまったようだ。…別に構わないが。無知は罪だと村に来ては騒ぐ人が居た。すぐに村人に追い出されていたが、今回はその状況に当てはまるのだろうか。


『ふむふむ。あー。なるほど。そういう事でしたか。仕方がないですね。今回は特別サービスしちゃいますよ!』

「…え?あ゛ぅ…。」

『あれ?そう言えば、人間にはキツいんでしたっけ?やっちゃいましたか。まあ、なんとかなりますよね───』


 その言葉を最後に、僕の意識は途切れた。



 □■□■□■□■


「う゛っ…。」


 よくは知らないが、気づけば玉座の間と呼ばれる場所にある椅子に座っていた僕は目を覚ました。ここはどこか。そう思ったが、答えはすぐに出てきた。

 なるほど。ここは魔王城であるらしい。

 そして、伝えられるはずであったらしい情報も頭の中に既に入っていた。これから何をすべきかも。



 ここは先程も述べた通り、魔王城である。

 そもそも、この世界の魔王とは人類の敵のことを指す。しかし、その性質はただ、敵対するする存在という所にはない。本質は寧ろ、人類が滅ぼし合わない為の救済機関の一つという所にある。その性質上、魔王は強くなければならず、冷酷かつ残忍でなければならない。

 また、もともと魔王は人間から選ばれる。選ばれるが、全員が全員、魔王という運命を享受できるわけではない。選ばれる対象は人間を憎むもの、悲しみにくれるもの、死が間近のもの、既に死んだものなど、様々だ。

 その中で、僕が選ばれた理由…それは、願い事をしたからなのだという。しかし、僕にその記憶はない。だが、記憶がなくとも、与えられた情報がそうだと言うのだから、その通りなのだろう。

 僕は願い事を叶えてもらった代償として感情と記憶を失ったらしい。その代償分の力が僕に与えられているのだという。

 ここで僕は淡々と勇者を待ち続け、撃退する日々を送るのだ。



 □■□■□■□■



 カツカツと廊下に鳴り響く音で眠りから目を覚ました僕は、ギィィっという扉が開く音を聞いた。

 玉座から見下ろすとそこ居たのは青年が一人と女が三人だった。


「え…?シエル、君?」


 その内の一人が言う。その声を、その容姿を見て、僕は何も思わなかった。相手は余程驚いているのか、こちらが魔王であるというのに、警戒心をいだけていない。


 あれから時が経った。どれくらいかは数えていないから知らない。

 だが、その間、僕は僕を倒しに来るものをただ、気絶させては送り返した。殺さないのは効率的でないからだ。血で住処を汚すのは処理に時間がかかる。それならば、血を出させず、お帰り願うのが単純で最適な選択だろう。

 そうして過ごしていたわけだが、僕は何年経とうと成長することはなかった。

 だから、初めて僕を見た人は、僕が本当に魔王だとは信じない者が多かった。そのお陰で楽々と処理できたのは誤算であったが。


 しかし、今回の相手はどうやら、一味違うようだ。

 何せ、初めから僕を警戒しているのだから。


「知っているのか?ユフィ。」

「え、ええ。でも、あの子は10年前に死んだはず、です。」


 何やら言っているようだが、僕には覚えのない少女だった。恐らく、10年前と言えば、僕が魔王になった頃の話、いや、少し前、僕が人間だった頃の話かもしれない。

 だが、そんなことはどうでもよかった。今回は少し苦戦するかもしれないが、いつも通りに戦って、いつも通りに送り届けるだけなのだと。そう考えたからだ。


「10年前…魔王の発生の時期と同じ…!」

「ねぇ!シエル君!どうしてこんな事をしているの!?」


 …意味がわからなかった。これが僕の役目だ。役割だ。死ぬまで人間の脅威として存在し続け、戦争を考える愚かな人間がいなくなるまでは生き続けなければならない。それが魔王だ。

 どうしてなどと、聞かれたところで答えようがないだろう。この在り方こそが魔王であるのだから。


「…どうして?関係ない。排除する。」

「待って!話し合えば分かり合えるはずだよっ!」


 話し合えば、分かり合える…?この少女はどうやら、魔王という存在が何であるかを全く知らないらしい。そういうものかとばかりに僕は杖を構える。


「…今の彼は正気ではないのかもしれない。

 戦闘するしかないんじゃないかな。」

「そんなっ!?」

「ほら、構えるのじゃ。ユフィ。」

「そうですね。聖女としての力をここで発揮しなくて、どこで使うというのですか。」

「うぅ。そう、だよね。ごめん。

 …今、正気に戻してあげるからねっ!」


 …意味が分からない僕は首を傾げるしかない。

 この世の知識は初めに貰ったはずだった。なのに、このような訳の分からない状態になるのは一度や二度ではなかったが…。今回は今までで一番理解できない状況のようだ。


「行くよ!はぁあああああああああっ!」


 青年達は何やら自己完結したようだ。僕を巻き込むのは頂けないのだが…。まあ、全力で追い出すだけである。


 とりあえず、僕は障壁を貼ることにした。あれに当たるのはあまり良くなさそうだからだ。


「護れ。」


 ガッキィイイイインッ!!!


 どうやら、今まで来た中ではなかなかにやる方であるらしい。いつもよりはいい音がしている。


「サポートします!水の調べ!彼の者を守護せよ!『水の護り』!」

「我も行くのじゃっ!せぇえええええいっ!!」

「私も!全ての根源たる神よ!彼の者に祝福を与え給えっ!『祝福の鐘』っ!」


 ふむ。どうやら、青年が両手剣使い、丁寧に話すのが魔法使い、小さいのに老人のような話し方をするのが両手斧使い、ユフィと呼ばれたのが神聖魔法使いのようだ。前衛二人、後衛二人。まあまあ、バランスのいいパーティではないだろうか。…まあ、送り返すだけだが。


「はぁあああああああああっ!」


 ピキっ。


 ふむ。そろそろ割れそうだ。が、しかし。別にこれは本気の障壁であるわけでもなく、張ろうと思えばもっと強いものはできるのだ。

 今のは、ただ、いつも護ってくれる精霊に命令しただけだ。…本来、障壁を張る時は精霊に祈るものである。精霊は命令しても、いやいや従うだけならば弱い障壁しか張ってくれはしない。

 つまり、命令してある程度耐えることのできる障壁を張ることが出来るものは、世界広しと言えども一部だけだ。そのうちの一人が僕だったというだけである。


 では、なぜそんな障壁を張ったのか。単純なことである。それで十分だったからだ。

 これで、僕の勝ちは決まりだ。


 ピキピキピキ…パリーンッ!


「ふふふ。余裕ぶっていられるのもここまでだよ!

 魔王!これで俺の攻撃が通る!」

「そんなときは、こない。」


 言ったと同時に用意していた魔法陣が輝き出す。


「何を…!?」

「勇者様!この魔法陣から出てください!これは…!!」


 何やら気づいたようだが時すでに遅し。


「もう遅い。」


 次の瞬間には目の前にいた4人はいなく───


「あれ?…勇者様!?リコ!?メルファ!?」


 …何故、この少女だけここに居るのだろうか。

 うん。よくわからない。寝よう。


 すー…。


「え!?な、なんで寝るの!シエル君!?ねぇ、シエル君ってば!」


 …このうるさいのは何時まで居るのだろうか。


「あ。目を開けたね!ねぇ、なんでここに居るの?」


 さっきのはただの転移魔法なのだから、今頃は所属していた国の王城へと飛ばされているはずだ。この少女も戻ればいいのに。教えるべきだろうか。

 …面倒だ。寝よう。


「だから、寝るなぁー!?」


 すー…。


この後、魔王となった少年はどうなるのか。一人取り残された少女はどうなるのか。

書き連ねてはいるものの、終わりが見えないのでこの辺りで一度、投稿してみることにしました。

…まあ、結末は皆さんが思い思いに想像していただければと思います。

それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ