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魔女の屋敷

作者: 理不尽な猫

高校の部活で書いてた短編小説です。

拙い所も多いですが気になった人はぜひ読んでみてください。

 中学一年生の夏休みが終わる一時間前、八月三十一日午後十一時に新原圭一は古びた屋敷の前にいた。


 町の外れにあるこの屋敷の周りは木々が覆い、老朽化の進んだ壁には蔓がまとわりついている。

 普段は人も寄り付かないが最近は魔女の幽霊が出ると噂されている廃墟だった。


 そんなところになぜ新原がいるのかと言うと、彼がオカルトマニアや廃墟オタク、ましては不審者などではなくバツゲームだからである。

 そもそもバッターの連中とバッティングセンターで勝負するのでは負け戦もいいところである。圭一はピッチャーなのだ。


 新原は半分雑草に支配されている青や赤色の花の咲いた花壇を横目に石畳を通り、錆びついた扉のドアノブをひねると鈍い音と共にゆっくりと開いた。


 その様子を魔女は窓の隙間から見ていた。



「お、お邪魔しまーす」


  念のため挨拶してみるがもちろん返ってこない。

 新原は持ってきた懐中電灯をつけてとりあえず奥に進んでいく。


「さっさと写真撮って帰るか」


  バツゲームの内容は屋敷の中の写真を撮ってこいと言う肝試しの様なもので、不気味な絵画でも取れれば御の字だろう。


  褪せた赤い絨毯を踏むと積もった埃が舞い、隅には苔の様に集まっていた。


「こほこほ、いつから使われていないんだここ?」


  剣を構えた西洋の鎧や電球のないシャンデリア。

 時折、扉を開くと一部屋一部屋が教室ほどの広さで、家具はどれも立派なものだった。


 それら全ては、時の流れを感じさせながらも決して朽ちているわけではなかった。

  そうして何度か扉を通り過ぎると一際大きな扉があった。


「なんだここ、リビングか?」


  ドアノブに手をかけ、扉を開くとそこは体育館ほどの広さの大部屋で所狭しと本棚が並んでいた。そしてその本棚の間から、青白い光が宙に浮いていることに気がついた。

  新原は反射的に懐中電灯の光を消していた。


(な、なんだあれ? ま、まさか人魂ってやつじゃ……)


 幸いにも光にはまだ気づかれておらず、新原は迷ったものの恐怖と興味が半分ずつぐらいの気持ちで本棚の間を縫う様に進んで行った。


(お、女?)

  三メートル程離れたところからよく見えないものの相手が人間だと分かると新原の体から幾らか緊張感が抜けた。


  落ち着きを取り戻すとなぜこんな所にと言う疑問が浮かぶ。

  女と言うより背丈を見るに新原と同い年ぐらいの少女は本棚を物色している様だった。

  そして新原がもっと近づこうと出した足が本棚の角にぶつかった。


「痛っ」

「だ、誰! ってきゃっ⁉︎」


  少女は無理に振り返ろうとしてバランスを崩したのか、後ろの本棚に頭をぶつけてうずくまっていた。


「えっと、大丈夫ですか?」


 新原は懐中電灯をつけて駆け寄る。

「あいたたた。うん、大丈夫で、って新原⁉︎」

「相沢! なんでここに?」


  相沢加奈。新原の幼稚園からの幼馴染で小学生の頃までよく遊んでいた。

 中学に上がると同性の友達と遊ぶ様になり苗字で呼び合う様になったが、今でもお互い異性の中では一番話す相手だった。


「そっちこそ、なんでこんな所にいるのよ」

「いや、俺はなんと言うかその、バツゲームだ」

「バツゲームって何よそれ、意味わかんない」

「いいんだよ俺のことは。そっちこそ、こんな所で何やってんだ」

「私は思い出作りみたいな感じよ」

「なんだよそれ、そっちの方が意味わかんねーよ。だいたいなんでここなんだよ」

「これよ、これ」

  相沢は手に持った懐中電灯を掲げてみせる。


「ただの懐中電灯だろ」

「違うわよ、これは退魔ライトよ」

「退魔ライト?」

「そうよ、通販で見てねピンときたわこれだっ、てね。しかも今ならパワーストーンも付いて来るのよ」


  相沢は自信満々にポケットからいろんな色の石を取り出す、がどれも大したものには見えなかった。


「それで肝試しがしたくなったと」

「ま、まぁ端的に言えばそうかもね」

 相沢は少し言いにくそうに頬をかいていた。

「一人で山とかにいくよりはマシでしょ」

「確かにな。相沢は森に行ったら迷子になるもんな」

「もう、いつの話よ」


 小学三年生ぐらいの頃、相沢が迷子になって一日中見つからないことがあった。結局は夜中に警察の人が山で泣いている相沢を見つけたのだった。あの時は誘拐騒ぎにもなって大変だった。


 そういえば、相沢が見つかったのもこの辺りの山だったような気がする。


「それより、もうこの屋敷から出ない? 新原がいるとスリルがなくなるわ」

「まぁ、待てよ。少し見ていこうぜ、写真も撮らなきゃいけないしよ」

「早くしてよ」

「へいへい」


 本棚を見るとほとんどが洋書でタイトルも読めなかったが、どれも丁寧な装丁で高そうなものばかりだった。


 日本語で書かれた本もあったが『不老不死の魔法』『若返りの魔法』『時を遡る魔法』『入れ替わりの魔法』などといった魔法に関する本ばかりだった。

 普段なら胡散臭いの一言で終わるものの、ここが魔女の出る館となれば言葉の重みが違ってくるのだった。


 新原がそんな本の写真を撮っている時だった。

「きゃぁぁぁぁぁ!」

 相沢の悲鳴が響いた。


「ど、どうした!」

 声が聞こえた方へ向かうと相沢の数メートル先に薄汚れたローブに腰まで届きそうな黒髪の女が立っていた。


 女が相沢に近づいて手を伸ばす。

「くそっ! 相沢、しゃがめ!」

 近くの本棚から本を抜き取り、相沢と直線上にいる女に向かって思いっきり投げつけた。


 すると女は相沢とほぼ同時にしゃがみ、本はそのまま女の後ろに落ちていった。

 しかし女は突然現れた新原に驚いたのか、呆然としたように立っている。


「今のうちだ、逃げるぞ相沢!」

  新原は相沢の手を掴み、反対方向に走り出す。


「ね、ねぇ新原。あれってもしかして……」

「……噂の魔女じゃないか、なんかやばそうだし」

「う、嘘。本当にいたんだ……」


 後ろを振り返ると女は追ってきていた。

「まずいな、幽霊の癖にすばしっこいぞ」

  新原たちは部屋の反対側まで行くと左から回ろうとするも、女はどんどん迫ってきた。


「がえ……て。がえ……て」

 女は濁った声で呻いていた。


「やばいって、帰れって言ってるぞあいつ」

「もうっ、だから早く帰ろうって言ったのに。これでも喰らえ!」


  相沢はポケットとから数個パワーストーンを取り出すと、女に向かって投げた。

 するとパワーストーンが女のローブに当たった途端、

「ぐがぁぁぁぁぁ」

  パワーストーンが弾け飛び、女は膝をついた。


「き、効いてる?」

「よくわかんねーけど、この隙に行くぞ!」

 新原たちは急いで部屋の入り口へと向い、そのまま元来た道を全速力で駆け抜ける。


「ま、まだ追って来てるわ!」

  女は先程よりもペースを上げて来ていた。

「ぎぶ……て、げべ……ぢ……ん」

「相沢、さっき投げた石貸してくれ!」

「はいっ!」

「よし、そのまま走れ!」


 新原は振り向き、両手を掲げ、いつもの投球ホームをとった。

「喰らえっ! 魔女!」

 全力で投げられた五つのパワーストーンは全て女の胸に当たり弾け飛んだ。

「ぐ、ぐうぅぅぅぁぁあぁぁ!」

 女は今度は立ち止まらず、まだ歩き続けていた。


「相沢! 逃げろ逃げろ!」

「……っで、……がだい……。げ……ん」

  魔女の言葉を背に新原たちは外に出て、石畳を通り抜け、そのまま町の方へと走った。





「はぁはぁ、もう……追って……来てないみたいね」

「あぁ……そうだな」

 新原たちはいつの間にか屋敷から随分離れた所にいた。


「しかし、本当にいたとはな魔女」

「えぇ、そうね。びっくりしすぎて心臓が止まっちゃうかと思ったわよ」

「だな」


  深夜の町には誰も居なかったが屋敷とは違い生活感を感じられる暗さだった。

「ねぇ、新原。あの屋敷でのこと二人だけの秘密にしない?」

「えっ?」

「ほら、指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます、指切った!」

  相沢は自分の小指を新原の小指に結びつけて、早口に唱えた。


「おい、勝手に」

「それじゃあ、私こっちだから。明日遅刻しないようにね、バイバーイ」


 相沢は小走りで帰って行った。

「そっちもなー! たくっ」


 新原は反対方向に歩き出しながら、明日部活の友達になんて誤魔化すかを考えていた。


































 魔女は屋敷にいた。

 魔女が指を鳴らすとライトは青の花びらと電球にパワーストーンはガラスと色とりどりの花びらへと変わっていった。


「即席にしては良く出来てると思わない?」

 魔女は微笑むともう一人の人物を見つめた。

「ねぇ? 相沢加奈」


  相沢は悔しそうに唇を噛み、地面を見つめていた。

「それにしても驚いたわぁ、四年もかかったとは言え私の封印を破るなんて。流石は私の体、いえ私の友達と言うべきかしらねぇ」

「友達だなんてよく言えるわね。あんなことしておいて」

「あら? 先に言い出したのはあなたじゃない。まぁ、そんなことはどうでもいいのだけれども」


  魔女は相沢へと近づいて行く。

「私があなたに会いに来たのはもちろん、もう一度あなたを封印するためよ」

「くっ」

  相沢は逃げようとするも体は動かない。

「でも、まさかあんな邪魔がはいるなんてねぇ。運命ってやつかしらね」

「圭一くんは? 彼にも何かしたの!」

「大丈夫よ、あなたと違ってちゃんと家に帰ったわ。ただちょっと魔法は掛けたけど」

「な、何をしたの!」


 魔女は心底愉快そうに笑った。

「ふふ、そんなに睨まれる様なことはしてないわぁ。今日あったことを忘れるようにしただけよ」

「そろそろ本題に入りましょう。大丈夫、怯えなくてもいいわぁ、殺しはしないもの」


 魔女は鎧の構えていた剣を取り相沢へ向ける。

「ただし、今度はもっと深く封印するわ。あなたの意識が無くなるくらいに」

「い、嫌よ。せ、せっかく圭一くんにも会えたのに」

「あなたは死ぬわけじゃないわぁ、あなたに私の記憶があるように私にもあなたの記憶があるもの。もう慣れたものよ」


 魔女は相沢の胸を剣で捉える。

「返して、返してよ! 私の体よ!」

「ごめんなさいね、そしてさようなら」


  魔女が深々と相沢の胸に剣を刺していく、血は流れないものの相沢の体はピクリとも動かず、剣から出た白い球体に飲み込まれて行く。


  そしてその様子を見届けた魔女は満足そうに笑い、踵を返し部屋を後にした。


  こうして相沢加奈は屋敷から出て行った。

叙述トリックとか使ってみたけど意味が分からなかったら聞いてください。

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