運命の日 ー初めての敗北ー 後編
しかし人は追い込まれ、極限状態に陥ると普段一顧だにしなかった通常の精神状態では忘れ去られている生物にとって生きていく上でもっとも重要なものを思い出させてくれる、そんな機能が働いたのだろう。
だからもし遠藤がすこしでも対応を誤れば、すぐにでも襲いかかろうとしていたOを前にして、遠藤は本来の自分というものを取り戻し、持って生まれた弱者という立場にふさわしい態度を取ったのだ。
アルキメデスのような天才たちもきっと恐怖というものを感じる能力というものを持っているに違いないが、彼らはこの世の真理を解読するという、全人類に役立つ、その使命を果たそうという気高い志に対して、この世の中に存在する神々が勇気という名の、それを持っている生物には本来生まれ持った能力以上のものを発揮させる特殊能力、それを持っている間は神に近い働きを許された、人の世に降臨した神霊の如き働きをし、歴史という偉人たちのみがそこに名を刻むことを許された叙事詩の中にその永遠の生命を与えられるのだろう。
遠藤のような地べたを這い回る下等生物に等しい人間には、己の身の安全だけを考え、その場、その場で行動をするしかないのだ。
目の前で火山が噴火し燃える溶岩が飛んできたとしたら、たまたま近くを通りかかったアイスクリームを食べながら歩いている太った巨漢の身体の後ろに回り込み、その肉の壁を盾にして生き残り、また原始林から流れ出る川からワニがその巨体を現し噛みつこうとしたならば近くを通りかかったワニ革のバッグを人々に見せびらかして金ピカの貴金属を着けて歩いている厚化粧の女の姿がワニの目に入り、ワニの心にその同胞を殺され、その皮を剥がれ侮辱された仕返しをしようという復讐の炎が燃え上がり、その攻撃の矛先を変えてくれることを祈る、そんなことしか遠藤には出来ないのだ。
だから遠藤にとっては何が起こったとしても、それに気が付かず、何も分からない痴呆患者のように人からおかしな目で見られたとしても、ただいつもと同じ言動と行いをするのがよいのだ。
しかし果たしてそうだろうか?
遠藤の胸の中にある疑問が沸き起こる。
人はその育った環境によってその性質が決まるのではないか。
例えば盗人の集まりのような窃盗犯ばかりが住む犯罪者の巣窟のような場所で生まれた人間がいたとしよう。その人間は周りの人間からその持ち物、生きていくのに必要な必需品を周りの手癖の悪い人間たちに盗まれて生活に困るはずだ。
生活に困った彼は、その生命をつなぐ為に仕方なく他の人間から必要な物を盗むのではないか? 「他の人間たちもそうやっているのだから」と犯罪者がよく口にする善良な人間なら耐えられないような自己弁護の詭弁を口にして彼も社会の秩序を破壊する害虫のような人間の仲間入りをすることになるのだろうと遠藤は思う。
そんな彼も生まれた時には清い魂の持ち主であり、周囲の環境によって汚れの知らない精神が、排気ガスで汚された、それは何億年もかけてこの地球上の植物たちが作り上げた地表を覆う清浄な空気を一瞬にして見るものの心にさえ汚染してしまうだろう灰褐色のくすんだ地球に恵みを与える太陽の光を地上の生物に届ける邪魔をする、まるで地獄の国の大気のようなものによって汚され、本来なら人権というものを剥奪されても文句を言うことが出来ないもっとも低級な生物、それは生物の頂点に立つために与えられたその知能を己の欲望のためだけに費やして生きてきた、まるで放射能を辺りに振りまく核廃棄物のような迷惑な人間に成り下がるのだ。
もし高校時代にクラスの誰かが外国映画によく出てくる凶悪犯罪者たちがたむろする刑務所を舞台にした映画を昨日見たと話をしていたとしよう。
そこでハリウッド映画にはよくあることだが、檻の中に閉じ込められた犯罪者特有の性欲に狂った雄の群れの中で、新しく入ってきた、まだ一般人に近い正常な精神を持った若者が一人檻の中に放り込まれる。
そこで猿山のリーダーのような目つきの腐った、他人を威嚇して脅すことしか脳のない週に2日しかシャワーを浴びていない不潔で無精髭を生やした男が、自分と似たような下卑た笑いをその顔にたたえているその精神を表すような腐った匂いを辺りにふりまくゴミ捨て場に捨てられた生ゴミのような手下たちを引き連れて新入りの若い男の所に近づく。
そして一対一の勝負をする度胸もない見かけだけの腰抜けのタフガイを気取る精神異常者の群れのリーダーが「おい新入り、今日からここで暮らすのなら場所代を払え」と自分には何の権利もない、檻に閉じ込められたオラウータン同然の人間の分際で労働者の税金で立てられた豪華な廃棄物保存所の賃貸料を払えと請求する。
新入りの若い男は当然「金を持っていないので払えない」と言い「ならお前の身体で払え」と生物と紙幣の違いも理解しない、長年下水道の中で暮らしていたかのような、淀んだ腐ったニオイの息を口から吐き出しながら猿同然の知能しかないのに人間の言語を、まるでインテリの態度がデカイ国家公務員のように発して命令をするのだ。
そしてその後は――、というシーンを映画で見たと遠藤の高校のクラスメイトが話したとしよう。
それを聞いた小沢がいつものように「刑務所で襲われると言えば遠藤だよな」と言う。
そしてクラスの誰かが「襲われるって、どんな風に」と言うとしたら、小沢は「じゃあ遠藤、いつものようにやってみせろよ」と無茶なことをきっと言い出すだろう。
そんな小沢の発言を聞いて驚く遠藤に対して、同級生の鈴木、彼はジムに通ってその身体を鍛え、プロテインとインターネットの闇サイトから手に入れた、アメリカという開拓者精神旺盛のあまりよく物事を考えない態度と身体だけはデカイ人間たちが愛用している、まだ人体の実験によって安全性の確認もすんでいない危険なステロイドの力によって、日本人の高校生とは思えない化け物じみた筋肉を手に入れた男が遠藤にゆっくりと近づいていく。
筋肉の繊維の塊ような鈴木は他のボディービルダー仲間と同様、筋肉のみではなく、その性欲も異常に発達させ、彼らの仲間がするように人々にその裸体を見せ激しく興奮するという露出狂の犯罪者のごとき精神の持ち主であり、道徳心を失い国家の決めた法律を無視することを何とも思わない彼が遠藤の身体をその丸太のような腕で掴む。
そして昨日テレビで放送された、娯楽映画という物語の中なら何をしても許されるという、IQ80以下の人間程度の理解力しかない脚本家の書いたベッドシーンさえ入れておけば客が満足するだろうという安易な考えによって考え出された刑務所での新人に行われるかわいがりのシーンを再現するのだ。
それを見たクラスメイトの誰かが「まるで遠藤は楽しんでやっているみたいだな」とか「遠藤は自分から男を誘う好き者だな」と言い、それを聞いた小沢や周りの生徒たちから笑い声が漏れる
そしてそれから遠藤は淫乱で男を見ると自分からその辺の物陰、教師たちに見つからない場所に男を誘いこむ売春婦のような男だという噂が学校中に流れ、遠藤が廊下を歩いていると筋肉の鎧に覆われたような筋トレ愛好家たちに音楽室や美術室、保健室に遠藤のそのストローのような細い腕を掴んで引きずり込み、遠藤を楽しませるという理由でポルノ映画のワンシーンを演じさせられるのだ。
そんな学生生活を遠藤が送ったと仮定使用しよう。
もしそんな人生を遠藤が歩いてきたとしたら、Oにホテルの部屋に呼ばれたとしても、遠藤は堂々と胸を張って、先輩芸人を相手にしても怯むこともなく、自分からOの隣に座り、その心には何の動揺もなく、Oの「お前とツッコミをしたい」、「お前にツッコミたいんだ」という提案に対し、爽やかな十代の野球少年のように「はい、お願いします」と恐らく答えたことだろう。
そしてOに気に入られた遠藤はOの番組にたびたび呼ばれるようになり、世間の人気者の仲間入りをして、芸人Sのように年収が億をこえる大物芸人になっていたはずだという考えが遠藤の頭の中に浮かぶ。
そんなバカな空想が遠藤の頭の中をよぎり、後悔の念のような訳の分からない悲しさのようなものを感じ始めたが、遠藤の中にわずかに残る良心の残り滓のような心が遠藤を叱責し、握力300kgと言われるオラウータンのような怪力で頭を鉄パイプで殴りつけ、壁に頭蓋骨を叩きつけるような強烈な力をその魂に加え、人としてもっとも劣った恥知らずというレベルにまで落ちようとしていた遠藤の精神を正気に戻し「それは間違ったことだ!!」と遠藤の心臓の中から絶叫のようなものが聞こえた。
自分は何を考えていたのだろう。
何かとんでもない考えがその頭を支配し、遠藤の清い心を悪の道に引きずり込もうとしていた、そんな気がするが頭がまるでレンガにでも叩きつけられたかのように痛み、頭がぼやけて前後の記憶がなくなったようだ。
それは飲酒運転をし、人を轢き殺し、警察に捕まり、その罪を逃れるために飲酒中の記憶が一切なく、自分が何をしたかまったく覚えていないというデタラメな証言をする被害者のことを考えない自分勝手な、おそらくこの世界で最も道徳心の劣った嘘つきのような作り話ではなく、本当に遠藤の頭の中から考えの一部が抜かれる、それは精神病院の患者が医者に対して主張するような、自分は神や歴史上の偉大な人物であるとか、何者かによってその頭の中の考えを抜き取られて操られているとかいう不可思議で神秘的な現象が今、遠藤に起こったのである。
遠藤が大きく息を吸い、心を落ち着ける。
後悔などしても仕方がないことなのだ。
人生というものは繰り返さず、ただその時、その時の予想も出来ない出来事が流れていき、それが死が訪れ、肉体を失うその瞬間まで続いていくのだ。
人には色々な可能性があり、もし他の生き方を選んだり、あの時他の選択を選んでおけば、今とは違う別な人生を歩んでいたという、そんなよく言われる話は妄想のようなもので現実にはありえないことだと遠藤には思われる。
この地球はその誕生の時から変化をし続け、太古の昔に生息していたミクロサイズの原始生物から始まり、大気にさらされると苦しみだす海中の生物、それから海と陸を往復することが出来る迷子のような居場所のない両生類、そしてその身体が数十メートルにも及ぶが脳みその大きさがネズミ並と揶揄される爬虫類の王恐竜――、この世界を支配する生物は次々に変わっていくが、同じ生物がその支配者になることなど一度もないのだ。
それは紙に写った異性に興奮し、生物に与えられた発射能力の限界を超えた、一年中白い液体を放出し続けることが出来る変質者、いや変質した生物の成れの果てと言われる人間でさえ同じことなのだ。
この世の中では同じことは繰り返さない。
過去に過ちを犯したからといって、また過ちを犯すとは限らないのだ。
果たしてそうだろうか?
科学の法則というものがある。
それはこの世界には法則があり決まったことを繰り返すというものである。
地球上を落下する物体は常に決まった速度で落下し、それは何者にも変化させることは出来ないし、光の速度は常に一定で変化しない、そんな学校の教科書にも乗っている一般的な教養のようなものがそれだ。
この世に存在するすべてのものが法則に操られ同じことを繰り返すとするなら、痴呆患者と呼ばれて人から笑われた遠藤は世界を支配し強制するその力によって人々から笑われ続け、その子孫までも人から嘲笑されて生きていくのかもしれない。
しかし、どうだろうか?
もしこの世界が法則によって同じことを繰り返すのなら赤ん坊は赤ん坊のまま成長しないだろうし、生物も進化しなかったのではないのか?
いや、それとも進化するという法則にしたがって変化し続けているのか?
例えば遠藤がズボンを履き忘れて道を歩いていたとしよう。
それを見て人は脳を病魔に侵され数分前の記憶を失い、自分が何をしているのか分からなくなった男が人々にその大切な人にだけ見せるという建前上の約束になっている腰より下にある見る人々に激しい興奮を起こさせる息子とも形容されるその身体の一部を見られているのに気が付かない愚かものであると言うだろうか、それとも人前で下半身を露出することだけを目的に生きている脳が半分腐ったような異常者、変質者として警察に逮捕され、その姿を高精細の最新式の毛穴まで写すと言われる携帯カメラで写真に取られ、インターネットや新聞にその画像を無断で掲載されるような犯罪者として扱われるのだろうか?
きっとそれは人によるのだと思う。
その人の考え方が遠藤がどんな人間かを決めるのだ。
だとしたら科学とは何なのだろうか。
科学はこの世の中の出来事は法則によって決まっており、それは人類が誕生するずっと前から決まっていた、そんなことを言っている。
なら人間が何を考えようが、この世には何の関係もないことになるが、人々の考え方次第で遠藤が病人になったり、変質者になったり、ある時は痴呆患者に、ある時は極悪犯のかっ歩する刑務所でその身体を狙われ襲われる新人に変化したりするというのなら、科学者の言うことは間違っている。
だとしたら、この世には科学でその存在が証明されていない宇宙人や幽霊、チャパカプラ、その他――、不可思議な現象も存在するということになるのではないのか?
でも、そんなことはどうでもよいことなのだ。
遠藤にとってはやはりOに呼び出された高級ホテルの密室で何事も起こらず、いや実際には遠藤のその精神に深い傷跡を残すことになったのだが、身体は嫁入り前の花嫁のように綺麗なままだというその事実だけが遠藤にとって大切なことなのだとしたら、それがこの世の中でもっとも大切なことなのだろう。
だから今何を見ても、何が起こったとしても、あの永遠にも思える、ループという言葉がもっとも似合うあの恐ろしい遠藤の身体を穴のあくほどじっと見ていた大物芸人Oの目の前から逃れた時のように、ただいつものように同じことを言い、同じことを繰り返すのだ。
あの疑惑のまなざしを変質者に向けているような小菅リカの鳥類を思わせる細い鋭い目つきを前にして、何事にも気づかないフリをして過ごすのだ。
そう遠藤は決心し、そしてそのように行動した。
小菅リカとピーナッツ遠藤、芸能界の底辺に位置する二人の眼差しが激しく交差し、見つめ合い、お互いの心の中を見透かそうとする、そんな時が止まったかのような時間が流れる。
リカという女と遠藤という男の心の中はすれ違い、お互いを誤解し、その心中を理解することは出来ない。
それは男女というものが本質的には別の生き物であり、別の種の生物が他種の生物の心理を推し量ることが出来ないのと同じように、相手のことを理解する能力が与えられてはいないということが原因なのかもしれない。
もしも愛の女神というものがいるのなら、二人のその冷めた心臓を流れる血液の流れを速め、二人の心を熱く燃えたぎらせ二人の間に愛の絆を築いて恋と呼ばれるものを作り上げることが出来たのかもしれない。
しかし、そこには愛の女神はいなかった。
それはリカと遠藤、二人の外見が通常よりも劣った平凡なものであるがために美しさを愛する女神に二人が嫌われ、女神が二人から目を背けたことが原因かもしれない。
二人はお互いに疑心暗鬼に陥り、お互いを人類の中でも地の底を這う青虫のようなつまらない生き物であると軽蔑し、どうせロクデモナイことを考えているのだろうという偏見から、相手のことを軽蔑し、敵視し、蔑み、そして相手の見た目に嫌悪感を覚える、そんな憎しみ合う敵のような気分でいたのが二人の間に恋心が生まれなかった原因なのかもしれない。
しかしそんな二人を哀れみ、このままではこの二人はこの先の人生で伴侶となる人物を見いだせず、ただでさえ凡庸なその外見を年令とともに老いさらばえさせ、寿命がつきようとする時に全身が腐り始めようとしている植物のような末路を迎え、誰からも愛されずに路傍で野垂れ死にされたら迷惑だと思った道の神が愛の女神に土下座をし、何とか二人の間を取り持つように必死にお願いをし始めたその時に異変は起こった。
「ちょっと何するつもりよ」
サヤの言葉に薄ら笑いを浮かべながら、レナがリカの背後に忍び寄る。
「おばさん、ブラジャーのヒモが透けてるぞ!!」
リカのその脂肪に覆われた山男のような背中をレナがパシッ!!と叩く。
レナの女子高生とは思えないその腕力がリカの脂肪を振動させ、脂肪が共鳴現象を起こし、波のようにその身体中にある脂肪を伝わっていった。
リカの身体を長年ささえてきたブラジャーと呼ばれる数年前に安売り店のバーゲンで手に入れた装身具、それはランクAと呼ばれるブラジャーの世界では最も低い位置に位置する世間の人間から嘲笑の的になる、そんな卑賤の身分のものであった。
彼はその身分にふさわしく大した装備も与えられておらず、粗末な布と錆びついた鉄工所から出されたタダ当然で手に入る金属製のワイヤーからその身体を構成されており、遥か海を渡った大陸、中国と呼ばれる、そこでは賄賂が横行し、商人たちは消費者よりも役人の機嫌を取ることに一生懸命で、消費者たちには工場で生産された汚染物質のようなものが混じった食料品や、時限爆弾を備え付けられたスイッチを入れると100万分の1の確率で爆発すると言われている電化製品が流通しており、それらによる年間数万人という被害者を生み出しているが、世界一と言われる人口の多さが人命というものを価値のないゴミのようなものであるという価値観を人民の心に植え付け、そこで暮らす人々にはもはや安全というものがまったく存在せず、生きていること自体が賭け事であるかのような、運任せ、天任せの人生を送るしかないそんな国で彼は生まれた。
そして彼は日落ちる国に移動し、そこの低所得者用の3枚で500円という捨て値同然の価格で売られることになり、そこから無造作にリカの女に似つかわしくない産毛に覆われたその太い腕に掴まれ、ワンコインによって買われて、連れ去られていったのだ。
彼が連れ去られた場所は彼の同類たちの置かれた職場の中でも最も劣悪な環境で彼は労働を強いられることになる。
それは中国の貧村に生まれ、金持ちになることを夢見てかつての経済大国、今は見る影もない、返すあてもないのに多額の借金をし、他の借金地獄にハマったヨーロッパの国々からさえも終わった国と言われる、世界一の金持ちから一転、世界一の借金大国へ転落した恥晒し、過去には名誉を傷つけられたなら腹を切ると豪語する侍と呼ばれる武人が支配する国ではあったが、その子孫たちは堕落し、彼らの国に核兵器という大量破壊兵器を使用し彼らの同胞を大勢殺したメリケンと戦争中はバカにしていた、メリケンサックの語源ともされる表面的には平等を叫ぶ人種差別者の金持ちたちが住む国に対して、彼らのおかげで金持ちにしてもらったからと頭を下げてご機嫌をとる、彼らの先祖が見たならば立腹し、その腐りきった精神の宿った図体だけはでかくなったが中身はスカスカの根性無しで忍耐力のなくなった子孫たちに制裁を加えようとするに違いない。そんな人の命よりも金、名誉よりも金、金を持っている人間が偉いという拝金主義者たちの集まりの国に彼はやってきた。
そこで金持ちの豚と蔑称されるのとは別な、ただの食べ過ぎと中年を過ぎその肉体の維持能力が衰え、重力に逆らう力を失い、ただの太ったとしか形容することしか出来ない運動不足の口だけの女性の元で働くことになった彼は、日々増え続けるリカの肉の圧力に必死になって耐えてきた。
それは人権擁護とは建前だけで白人以外の外国人を見下す極東に位置する田舎者、世間知らずのイモのような農業国家の土くさい文明の遅れた国の人間が文明開花で欧米では数百年という時をかけて手に入れた科学文明を猿真似と称される、自分たちでは何も発明せず、ただ人の真似をすることだけがうまい、そしてそれを手に入れた後は自分が発明したんだという顔をする自身起源説を主張する極東に位置する土人たち特有の厚顔さで生活している成金の日本人たち、彼らの急成長を遂げた経済の裏では法律無視のサービス残業、パワハラ、イジメ、ブラック企業と揶揄される大手企業たちが駆使するそれら法律無視の過酷な労働で、その労働者を圧政国家の元首のような厳しさで、その労働に見合わない低賃金でこき使い手に入れた世界一の金持ちの座を、自らの驕り高ぶった、自分たちが賢く、この世界を支配するだけの知能の持ち主であると勘違いした、人類の歴史上重大な発明をした著名人をまったく持たず、取るに足らない金儲けの生きていくには必要の無い娯楽品の開発にのみ熱中した、年収でしか相手の力量をはかることが出来ないもやしのような青白い体をした、もしゴリラに殴られたならその全身の骨を簡単に砕かれてしまうような、そんな人間たちである彼らは、かつては土下座外交と呼ばれる頭を下げて陰と陽、それは文明国家の小学一年生でも理解できるような二元論を誇らしげに自慢する科学を理解することが出来ない、その辺の地面に生えている木の根っこや鉄くず、虫の死骸を医療行為に使う漢方薬というものを発明して得意顔をしている文明が栄えて4千年を超えている自称しているが、実際はジャングルに住む野蛮人の文明とほとんど違わない、北京原人から大して発達をしていないその文明を地面に頭をこすりつけながら何とか盗もうと必死になっていた、土器を作ることしか知らない石器時代をやっと抜け出たばかりの日本人たち、彼らは中国文明をたやすく盗むと手のひらを返してすぐに相手との関係を断ち切り、ひらがなという線虫がのたくったような文字を発明して得意顔になり、自分たちの発明した言語は世界一難解で優れていると、実際はその言語の大半を漢字と呼ばれる16世紀の大航海時代、ヨーロッパ人が港にやってくるとその船から捨てられる生ゴミに群がると歴史書に書かれた人民たちが住む国から盗んだ言語から借用し、それを前述したひらがな、カタカナと呼ばれる幼稚園児が遊びでつくったような単純な言語に翻訳しただけのつまらない言語、そんなものは普通の人間は誰も学ぼうとしない、海外の異性から相手にされないオタクと呼ばれる一部の人間たちのみに愛好されるその言語を世界一の言語と言い切る日本人たちは、その卑屈な精神に相応しい表面的には親切と形容される一見民主的とも思える法律を国として施行しているが、実際にそれらが守られることはほとんどなく、特に海外からやってきた弱い立場の外国人労働者には人権というものを基本的にはまったく認めていないチョンマゲと呼ばれる彼らの偉そうな態度を表すナスのような髪型をしていた先祖たちと同じように異人を見下し、最低賃金を大幅に下回る法律無視の農園での過酷な労働を課し、己の経営能力の低さからくる経営不振を盾に取り、非合法な労働を正当化しようとする、選挙権を与えられる資格もない農業経営者たちの無茶な命令に必死に耐える中国の貧村出身の中華麺のようにやせ細った体を持つ労働者のごとく、リカの誰からも襲われる心配もないその胸を、見えない敵を相手にするかのように必死に守り続けてきたAランクの戦士の体は長年の酷使により、通常のブラジャーであれば限界がきていつ弾け飛んでいてもおかしくない状況にあっても、その驚異の精神力でリカの胸を重力に逆らい支え続けた彼は、レナの無慈悲とも言える一撃によって、その体に加わる運動エネルギーは彼の限界を遂に越え、メリメリという破滅をもたらす音をさせた後、ブチッと40年間真面目に会社に勤めてきたおとなしい社員が上司からの嫌がらせに対して遂に堪忍袋の緒が切れたかのような音をさせ、もし彼が人間であったなら「もう、無理……」という最後の言葉を残したであろう、残り少ない命の炎を燃やした後、燃え尽き、その寿命をリカのブラジャーは終えた。
「キャッ!?」
その外見に似合わない、周りの環境やその世界、社会情勢、あらゆるものに対して調和をすることがない、その紛れもない女だけが出すことが出来る、決してオカマ、女性のフリをした雄の声帯から発せられることがないリカの悲鳴は、それを聞くものの心に寒気のような、吐き気のような気分を起こさせた。
リカの体がプルプル震える。
それは雨に濡れたチワワが飼い主の気を引こうとしてするゴマをすっているようにも見え、リカの外見がその態度に似つかわしければ見る人間に恋慕の情を起こさせたに違いないが、リカの外見は残念なものだったのでそんなことはなかった。
「すみません。やっぱり私無理です!!」
そうつぶやくとリカは顔を抑え、その場を肉のよくついた身体をゆさゆさ揺らしながら走り去った。その目には涙がキラリと光っていた。
「えっ、チョット――」
驚いた遠藤や番組スタッフがリカの後を追いかけていく。
そしてその場には誰もいなくなった。
「何なのアレ?」
レナは知らぬ間に300勝を上げたが、それは静かな勝利であり、レナはそのことにはまったく気がつかなかった。
レナが意見を聞こうとサヤの方を振り向くと、そこには見たこともない生き物が立っていた。
それは頭から角を生やし、手には金属で出来た金棒を持っており、まるで節分の時によく見る鬼のようであった。
「……何なの、これ……?」
レナが近づいてよく見ようとすると、金棒を持った鬼の手がゆっくりと持ち上がる。
「???」
鬼の頭上に振り上げられた金棒はレナの頭頂部に向かって振り下ろされ、レナの頭部を直撃する。
レナはもしも生身の肉体であったなら、その頭蓋骨が陥没し、脳髄が飛び散り、目玉が文字通り飛び出る、そんな激しい衝撃を頭に受け、頭部の1方向より加わる強烈な力がレナの意識を攻撃を受けたその部分に集中することを余儀なくさせ、人間が持つ許容量、感覚が受け取る能力の許容量というものを超えたその一撃により「ぐぎゃっ!!」と今まで発したこともない音声をその口から出し、方向感覚を失い、前後の記憶も失い、自分の置かれた状況というものもよく分からないまま、この感覚は以前どこかで感じたことがある、そうあれは――、という想いが頭の中に浮かんできたが、レナの意識はそこで途切れ、操り糸の切れた人形のように地面に向かってパタリと倒れた。




