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第97話:舞台女優へのスポットライト

<警察が嗅ぎまわっているようです。明後日の遠藤さんの訪問、警察が用意した影武者が来るようなのでキャンセルなさったがよいかも知れません>


 遠藤さんに警察からコンタクトを取った際に、一緒にいた友人B~Dもセットになったのだが、そのうちの1人、友人Dが間宮の“お友だち”だったようで、警察から解放されるなり“マコ”さん相手にこんなメッセージを送った。

 この友人Dの役割は、間宮璃子の立場では見れない近隣住民その他の見張りといったところだろう。“マコ”は“マミヤリコ”の略かな。元世界的舞台女優にしては芸が達者とは言えないが。


【こんなことがあるんですね】


 映像は警察も見ている。古川も感心した様子だ。さて、これに反応するのは中身が川島の自称間宮璃子か、中身が間宮の自称川島蒼子か。


 動いたのは、既に新幹線で移動していた自称間宮璃子の方だった。


<連絡ありがとうございます。名古屋で降ります>


【なるほど、こうして私たちの目をかいくぐっていたのですね。東京駅で待ち伏せしても無駄になる訳です】


 そんなことがあったんだな・・・。


「同じ新幹線に乗って見張るとかはしなかったんですか?」


【彼女が乗る時はいつもグリーン車が満席なのです。JRに頼んでも“どうしてもお譲り頂けるお客さまがいなくて・・・”と返されて。協力金を用意しても譲ってもらえませんでしたよ】


 なるほど。そりゃ間宮とその関係者で全席押さえてあるな。警察とて同じ車両に乗れなかったから常に間宮を見張れる訳でもない。途中で降りる客ぐらいはチェックできるだろうけど、グリーン車内で着替えられたらお手上げだ。


 さて、今回もそうされてしまうのだが問題ない。


「全席押さえられてしまってるなら簡単ですね。名古屋駅でグリーン車の人間を全員とっちめましょう」


【え・・・なるほど。そうするしかないようですね。無関係な人がいたら巻き込んでしまうのですが、時間がないので身元を調べるのは後回しですね】


 だいじょぶダイジョブ。もし時間を奪った後で善良な市民だと判明しても協力金を出せば許してもらえるさ。

 そもそも既に善良な市民がグリーン車に乗ってる可能性が低い。強いて言えば一般車両の乗客は足止めを食うだろうが、それこそ協力金で何とかしてくれ。


【愛知県警に連絡し、当該車両が名古屋駅に到着次第グリーン車に突入してもらうことにします。同時に、川島蒼子ほか、関係者の確保も進めましょう】


 もうわざわざ土曜日を待つ必要なんてなくなったな。こうなると、間宮の隣に座ってる友人Aも“お友だち”で確定。東京にいる友人Dは泳がせていいや。ドローン映像は警察も見てるから勝手に他の“お友だち”を炙り出してくれるだろう。


 中身が川島の自称間宮璃子は、車掌がいないことだけを確認したら大胆にもその場で着替え始めた。やはり全席“お友だち”が座ってるのだろう。20女性の着替えに、通路越しに視界に入ってるであろう中年オヤジも見向きもしない。で、友人Aがスマホを操作し始めたのでドローンで拡大。


<警察の動きがいつになく良いです。嫌な予感がするので念のため今日にでも国外に出てください>


 おぉっとぉ、本物の間宮璃子に国外逃亡指示だぁ。もし影武者が捕まっても本体は逃げ仰せようってのか。


「古川さん」


【えぇ。手配される航空券を本部の方で確認してもらいつつ、成田か羽田を目指しましょう。厳木さんにも迎えを用意するので、ご準備を】


「了解です」


 うっし、伝説の元舞台女優を成敗しに出掛けようじゃないか。人を宝石泥棒に加担させようとしてくれやがって。


 友人Aは続いて“さとみさん”にメッセージを出した。内容は飛行機の手配を頼むもので、これに反応した人物は間宮の家の使用人。警察に裏で調べてもらうまでもなく、どの空港に向かうか分かりそうだな。


 メッセージを確認した使用人はすぐさま動き、旅行会社のシステムにログインするではなくメールを書き始めた。おそらく上級会員用のコンシェルジュだろう。空席があったようであっさり確保できた予約内容はこうだった。


 ・川島蒼子、成田発ミュンヘン行き

 ・仁藤里美、羽田発ワシントンDC行き


【これは・・・】


「わざわざ2人分取るなんて、入れ替わるかも知れませんね。2人の動きをチェックしながら移動しましょう」


 私のところに警察の迎えが到着する頃に、使用人は車で出発した。川島になりすましてる間宮を迎えに行くようだ。だとすると尚のこと、2人の出発空港が違うのはおかしい。


 自称川島蒼子は元から海外移動の準備を進めていただけあって、多少の省略は発生しただろうが手短に支度が済んだようだ。迎えの到着を待っている。

 そこへ向かっている使用人の戸籍が“仁藤里美”かは分からないが、捕まえれば血なんて後でいくらでも採取できる。多分飛行機の名義に使うぐらいだし、念には念を入れて一般人として暮らしてる名義貸し専門の協力者の戸籍だと思う。使用人の本名は全然違う名前だろう。


「厳木さん、準備はいいですか」


「もちろんです」


 こっちの迎えは古川と、運転手として男性警官が1人だ。それに加えて2台、乗用車だが近所で見覚えのない車が停まっている。あれも警察だろう。


「港区の住民には追いつけないでしょうが、駐車場ではなく保安検査場での確保を目指します。上級会員だと行列待ちがなさそうですが、立体駐車場内での徐行運転に加え、構内での徒歩もそれなりにあるでしょう」


「それに、屋内の方が逃げ場が少なくて良いですね」


 とは言え、急ぐ必要はある。運転手の男性警官はアクセルを踏み込んで、大した道幅もない住宅地を軽快に進んだ。曲がり角でも無駄がない。こりゃ、運転専門の人を用意してるな。パトライトを点けてサイレンを鳴らしてるので、他の車とばったり会っても相手は既に徐行していた。


 使用人が川島のマンションに着いた。川島に扮した間宮が出て来るのを待つではなく、インターホンから呼び出してオートロックを開けてもらい、中に入った。

 やがて使用人が部屋に到着し、川島の姿をした間宮が招き入れる。空港に急ぎたいはずなのに何をするかと思えば案の定、化粧を越えて変装を始め、使用人は“川島蒼子”に、間宮は仁藤里美と思われる人物になった。そしてクローゼットから出てきた本格的な装置で、顔認証をチェック。更に、指に何やら透明なフィルムを貼って指紋認証が通ることも確認していた。


「あんなものも用意してるなんて」


 古川が呟いた。


「詐欺グループにも一定の技術力はあるでしょう。あれくらいなら、私じゃなくても難しくないでしょうし」


 しかしこれで、本物の間宮璃子が、仁藤里美名義で取ってある羽田発の便に乗ることが分かった。なりすましの状況はこんな感じか。


 ・間宮璃子 → 仁藤里美として羽田からワシントンDCへ

 ・使用人 → 川島蒼子として成田からミュンヘンへ(チケットだけ取って乗らない可能性あり)

 ・川島蒼子 → 間宮璃子として名古屋で新幹線を降りる

 ・仁藤里美 → 名前だけ貸して普通に生活してる


【映像は本部でも見ている。羽田を本命として進めるぞ。念のため、成田と茨城も気を緩めないように。自衛隊基地等の自家用機の利用も制限を掛ける。何としても間宮を確保するぞ!】


【【【はいっ!】】】


 結構な人数かけてんだな・・・。


「恥ずかしい話ですが、ここまでに1年かかりましたからね。それまでの2年間は気付いてすらいませんでしたし」


 個人間で装飾品の貸し借りをしてただけだからな。どちらかと言えばレプリカを作りまくってる連中を早期発見して頂きたかったが、そっちの方は間宮以外にも太客がいる規模のグループかも知れん。世界的に黙認されてる可能性すらある。川島になりすましてる間宮とて、本人が直接買いに行ってる訳じゃないだろう。


「向こうも出発しましたね」


 川島に扮した使用人の運転で、仁藤に扮した間宮が羽田空港に向かっている。既に川島の家には覆面車両が数台あり、入れ替わり立ち替わりで2人の乗る車を見逃さないよう追跡しているようだ。私のドローンは車のスピードには敵わないので、使用人&間宮の車両内だ。目立たない場所に張り付いている。


【かなりの確度で私たちのことを突き止めているようね。まさか、遠藤さんの訪問で影武者を送り込んでくるなんて】


 仁藤の姿をしてる人物が言ってるので、間宮だ。それに対して、川島の姿をしている使用人が答える。


【被害者ですらない、本当にただの友人ですからね。彼女にコンタクトを取った時点で、ほぼ確信を持たれてしまっているでしょう】


【そして被害者からは、警察がそうと把握してるかは別として装飾品を預かっている。レプリカのことも、川島蒼子の存在も認知されているわね。いつの間に・・・一体どこで】


 私の家さ。川島蒼子として来ちゃったのが間違いだったね。しかも本物と称してレプリカを渡してくるなんざ。そのレプリカもただのガラスて・・・女子高生をナメすぎなんじゃないのか? 分析すればバレるようなもん作るなよ。元世界的舞台女優なら、詐欺を働くにしても優雅にやってもらいたかったね。


【とにかく今は日本を離れましょう。向こうに着けば“リンデ・アーデル”として事業を継続できますから】


 なりすましになりすましを重ねやがる。外国拠点の代表者なんだろうけど、国内ですら上場してないから社長たる間宮以外の幹部情報が分からないな。

 “事業を継続”は表向きの装飾品販売だと思う。アメリカの警察にまで追われたくないだろうから詐欺は日本でしか働いてないはずだ。名古屋で捕まるであろう“本物の川島蒼子”が逃げ切れたら詐欺事業も継続かも知れないが。


 その“本物の川島”が乗った新幹線が間もなく名古屋に着く。グリーン車の客全員を捕まえるのだが、そうすると別車両に乗った仲間が“本物の間宮”に連絡を入れたりしないか? できれば保安検査場まで泳がせたいのだが。


 と思っていたら、警察の方でも“本物の間宮”の確保を優先したのか、完全な別人に扮した“本物の川島”を私のドローンで追えることもあり、名古屋で騒ぎを起こすのは控えることにしたようだ。間宮と使用人と川島の3人は、同時にとっちめるのがいいだろう。


 新幹線が名古屋に着いた。川島は、新幹線のいち乗客して普通に降りた。間宮璃子の名前で確保され続けている座席には、名古屋で乗ってきた別人が座った。

 グリーン車の客の入れ替えは3割ほどあったものの引き続き満席で、全部間宮の関係者だろう。運悪く東京まで乗る担当になった人はお縄についてしまう訳だ。名古屋や横浜で降りる担当も時間の問題だとは思うが。


 さあ、私たちはボスの間宮だ。既に引退した人間に言うのも難だが、二度とレッドカーペットなど歩けないと思え。私たちの用意する舞台には上がってもらうし、取調室で強烈なスポットライトを浴びてもらうことにもなるがな。

次回:化ける女狐に制裁を

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