第88話:激流の決勝戦
ザザーーーーーーーーー。
決勝で用意したギミックは、激流だ。縦に、横に、斜めに、とにかくあちこちにグジャグジャに入り乱れるように激流が交錯している。
三角形のループとそこに向かう直線ばかりだから、流されるがままだと先に進めず同じ場所をグルグルと回り続ける。ゴールできなくても困るから、ひどく戻されることもないが。
「よくもまあ、こんなの作ったわよね」
「それよりも着ぐるみの方だろう。波なんかよりもよっぽど勝敗に影響してたぞ」
「私だって同じこと思ってますよ」
本当に、準決勝で用意した波は一体なんだったのだろうか。
【大変長らく、お待たせいたしました。これより、“ドキッ! 着ぐるみだらけの水泳大会!”、決勝戦を行います。選手が入場しますので、皆さん拍手でお迎えくださ~~い!】
「「「ワーーーーーーッ!!」」」
「「「キャーーーーーーッ!!」」」
「「「フーーーーーーッ!!」」」
「「「イエェーーーーーーッ!!」」」
どれほどサクラを仕込んでるか分からないのだが、よくもまぁこんなに盛り上がれるものだ。だって、首しかポロリしない水泳大会だぜ?
【第1レーン。人魚の泳ぎをご覧あれ♪ 氷町代表、アイスマーメイド!】
「「「ワーーーーーーッ!!」」」
「「「キャーーーーーーッ!!」」」
そんな水泳大会の決勝に華を添えてくれるアイスマーメイド。やはりラブリーデビルが負けてしまったのが悔やまれる。
ちなみに選手紹介に入ってるコメントは、選手たちに意気込みを聞きに行ったらしい。確かにあのお姉さん、今日支給したはずの着ぐるみで1回戦から普通にヒレを使いこなして泳いでたな。
【第2レーン。誰よりも速く駆け抜ける! 舞犬代表、イヌ娘ロココ!】
「「「ワーーーーーーッ!!」」」
「「「キャーーーーーーッ!!」」」
水泳大会なのに駆け抜けるとはこれいかに。
【第3レーン。窓咲の1番は渡さない! 中東町代表、コニカルタワー先輩!
「「「ワーーーーーーッ!!」」」
「「「キャーーーーーーッ!!」」」
多分、市内で1番高い建造物だから1番を意識してるんだろう。色々とアクシデントのあった準決勝第2試合だが、1人何にも巻き込まれず泳いで2位だったコニカルタワー先輩は、第1試合で1位ながらもスーパーパワーマンを止めるためスタート直後に足踏みしたアイスマーメイドよりタイムが良かった。このため、中央2レーンには第2試合の2人が来ている。
【第4レーン。速く翔べるのはこのボクだ! 翼町代表、大空ペンギン!】
「「「ワーーーーーーッ!!」」」
「「「キャーーーーーーッ!!」」」
だからなんで水泳大会なのに駆けるだの翔べるだの使うんだよ。そもそもペンギンは翔べない。普通に泳ぐ生物だろうが。
【さぁ非常に楽しみな勝負となりました! どこが優勝してもおかしくありません!】
強いて言うなら、イヌ娘ロココは少し分が悪いだろうか。準決勝は半ばラッキーパンチで1位になってる。泳ぎだけの勝負だったらラブリーデビルやミスター・クレイにも負けていただろう。
だがロココには影分身の術がある。前方向への跳躍はレギュレーション違反になり兼ねないが、横方向ならこの激流の中で役に立つ場面もありそうだ。
固有スキルで言えば、アイスマーメイドには氷漬けの技がある。しかしこの激流を凍らせるのは至難の業だし、他の選手も警戒してマーメイドには近付かないだろう。
そもそも凍らせる条件として感情が高ぶることが必要なのだが、他の3選手はイヌ娘と無機物とペンギンだ。頭を外したらイケメンが出てきたとかでもない限り、凍らせるのは無理なはず。ヤツは多分、真っ向勝負で行くはずだ。
なお、コニカルタワー先輩と大空ペンギンに固有スキルはない。中東町と翼町の自治会役員は芸が無い・・・じゃなくてまともなようだ。
てな訳で窓咲のゆるキャラナンバーワンスイマーを決める“ドキッ! 着ぐるみだらけの水泳大会!”、いよいよ決勝戦のスタートだ!
【位置について、】
もちろん全員、飛び込みの準備。目の前の激流に臆する様子はない。激流はスタートからほぼ全面で、何もないのは中間地点の岩場と、ゴール前のラスト5メートルだけだ。
【よーーーい・・・】
パァン!
【スタート!】
バシャン。
号砲と同時に全員が飛び込んだ。しかし案の定、
【あぁーっと! 皆さんやはり流されています!】
飛び込んだ勢いで数メートルは前に進んでいたが、水面に顔が出る頃には全員随分と横にズレれていた。
【流れに身を任せてもゴールはできません! どこかで、どこかで前進が必要になります! あっと! アイスマーメイド再び潜った! 大空ペンギンも続く!】
準決勝の波とは違い、激流は水中でも有効だ。それでも基本的には横に流されることが多く、戻されても少し斜め後ろ、それで少し斜め前、そしてまた横へ、みたいな三角形なので、タイミングよく自身の体に推進力を与えれば前には進める。
アイスマーメイドと大空ペンギンは、潜っては別の場所で顔を出すというのを繰り返しており、確かに、徐々には前に進めている。
【一方でコニカルタワー先輩とイヌ娘ロココは、あまり潜らずに進んでいます!】
タワー先輩とロココは、シンプルに水底を蹴って前進を図っているようだ。進行度合いは、マーメイドやペンギンとも互角で、今のところ全員が拮抗してるように見える。と思った矢先、
「かげぶんしんのじゅつ!」
【おぉ~っと! ここでイヌ娘ロココが大ジャ~~~ンプ!】
ロココ、横方向への大ジャンプ。ダダダダダ、っと残像が残り、最終的に着水。すぐに顔を出して、斜め前への流れだからそれに沿って進み、真横への流れにぶつかった瞬間、
「はっ!」
また影分身の術。今度は別の、斜め前への流れの場所に落ちた。なるほど。
【イヌ娘ロココ、斜め前への流れを乗り継いでいく作戦のようです!】
よく見てるな。多分、次のジャンプでどこに向かうのかを、その時のジャンプで見ているはずだ。だとするとヤツは次、飛ばない。
【おぉっと、飛ぶのをやめましたねえ。エネルギー切れでしょうか】
そんな制約はない。飛ばなくなったのは、そこからでは左右どちらに飛んでも斜め前への流れがないからだろう。ヤツに横方向ジャンプがあるのは準決勝で見たからな。斜め水流の乗り継ぎだけで行けるままにはしてないさ。後付けの改造だからちょくちょく残すことにはなったが。
【イヌ娘ロココがわずかにリードでしょうか。他の選手同士も少しずつ差が出たように見えます】
見たところ、1位イヌ娘ロココ、2位アイスマーメイド、3位大空ペンギン、4位コニカルタワー先輩だろうか。しかし差は小さく、少しの停滞や今後の疲労でひっくり返る可能性は十分にある。
【さぁ選手の皆さんが、必死に、必死に前を目指します!】
ロココは時々真横に飛んで、マーメイドとペンギンは潜っては顔を出し潜っては顔を出し、タワー先輩は激流にあおられ沈むこともあるが自分から潜ることはなく、顔(?)と呼ぶべきだろうかとにかく胸部より上は基本的に水面に出して進んでいる。
だがタワー先輩、これまでの泳ぎの勝負では円錐形の胴体は水の抵抗を受けにくかったが、横から激流にあおられるようになると太い胴回りが影響していることだろう。
【あまり大きな差はつかないまま・・・順位も変わらずイヌ娘ロココがトップで中間地点に到達です!】
「「「ワーーーーーーッ!!」」」
ロココが1位を譲らずに前半を終えた。半分ぐらいは横っ飛び&斜め水流で進めてるからな。常に激流と戦うよりは楽なのだろう。それでも、
「ハァ、ハァ・・・」
【さすがに疲労の色が見えます。やはり影分身の術は疲れるのでしょうか!】
着ぐるみに備わってる機能は、瞬間的な筋力増大と残像拳だけだからな。大ジャンプ自体に体力を使うだろうから疲れは溜まるようだ。岩に上がったロココは、足元に気を付けながらピョンと次の岩に乗り移った。
【さぁ後を追うアイスマーメイドと大空ペンギンも中間地点に到達! アイスマーメイドは水中、大空ペンギンは岩の上を選択するようです!】
中間地点の岩場に激流はない。細身のアイスマーメイドは、衣装の都合上両足が分かれないこともあり岩には上がらず、水中で岩と岩の間を縫って進むようで、また潜った。
大空ペンギンも着ぐるみとしては細めだが、上がってピョンピョン跳ねた方がマシという判断だろう。1回戦と準決勝に続いて上を選択。しかしペンギンの着ぐるみゆえ足の可動領域が短く、デカい岩でヨチヨチ歩かねばならないことでロココより少しペースが遅いか。
【コニカルタワー先輩も中間に到達だ~~! しかしイヌ娘ロココが間もなく後半エリアに突入します!】
と、その時だった。
「ぷはぁっ!」
何!?
【なんとっ! アイスマーメイドが中間地点の終わりに顔を出しました~! 潜って進んでいる間に逆転したようです!】
「「「ワーーーーーーッ!!」」」
ここでアイスマーメイドが1位に躍り出た。1回戦はあの岩場で時間を食っていたように思えたが・・・? まさか、修正してくるとは。準決勝はスタート直後こそスーパーパワーマンの相手で時間を食ったが、余裕はあった。決勝に向けてルートの確認をしていたのかも知れない。そして、岩はあれど激流がないことで本人の体感としても泳ぎやすかっただろう。
【しかしイヌ娘ロココもすぐに来ます! 後半戦のスタートです!】
アイスマーメイドが岩を蹴るべく潜り、その数秒後にロココが地上での移動の勢いそのままに飛び込んだ。そしてそれを追う2人だが・・・、
「ぬぅぉぉぉおおおおおお!!」
【あぁーーっとっ! コニカルタワー先輩、速い! 速い速い! 猛スピードで3位の大空ペンギンに迫ります!】
「「「ワーーーーーーッ!!」」」
コニカルタワー先輩が雄叫びを上げながら大躍進。中の人は若めの男だろうか。もはや走るように岩から岩へと移っていく。そして大空ペンギンを横目に見ることもなく3位に浮上、そのまま後半戦に突入するだろう。
【大空ペンギンも急ぎますが、陸の上は専門外でしょうか、差が開く一方です!】
「大空ペンギンー! 頑張れーー!」
翼町の応援席から声が飛ぶも、苦しそうだ。
【コニカルタワー先輩が後半戦に突入! 1位争いは・・・アイスマーメイドがリードを守っています!】
アイスマーメイドとロココは前半と同じ戦法のようだ。マーメイドは潜って進み、ロココは底を蹴って前進しつつ、影分身という名の横ジャンプで斜め前への水流に着地する戦法。だが、
「ゼェ、ハァ・・・」
明らかに疲れている。ジャンプに頼れない時の自力での進行が鈍っており、その影響からかジャンプの頻度は減った気がする。マーメイドとの差は少し開いただろうか。そしてそこに、
「おぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお・・・!」
もはや“ゆるキャラ”という設定を忘れたコニカルタワー先輩がガチの泳ぎで迫っている。死に物狂い、とは正にこのことだろう。底を蹴るのをやめてずっとクロールで泳いでおり、ロココはおろかマーメイドとの距離も縮めている。
【コニカルタワー先輩が怒涛の勢いで進んでいます! 大空ペンギンも後半戦に入りましたが苦しいでしょうか・・・! 上位3選手の争いになりつつあります!】
「「「ワーワー! キャーキャー!」」」
「アァイスマーメイドォォォォォォォ!」
「ロココ負けるなーーっ!」
「コニカルタワー先輩いけーっ!」
「大空ペンギンー! 意地を見せろーーっ!」
各チームの応援にも熱が入っている。
「ぷはっ! はぁ、はぁ・・・」
アイスマーメイドにも疲れが出てきたか。
「おおおおおおおお・・・!!」
コニカルタワー先輩はただひたすらに、激流に何度もあおられながらもガムシャラに前に進んでいる。
「ハァ・・・ッ。かげぶんしんのじゅつ・・・!」
タワー先輩に迫られるロココに焦りが見え始めた。そして、
「え・・・」
ボチャン。着水した先が、斜め後ろに戻る水流だった。ジャンプの距離が足りなかったのだ。戻されたのは2秒で斜め前への水流に乗ったが、このミスは精神的に痛い。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ・・・!」
呼吸は荒く、顔だけは水面に出して維持しているものの、体は動かせないでいる。力が出なくなってしまったようで、その場の水流のループに身を任せ続ける状態になった。
【イヌ娘ロココ、動けません。体力の限界でしょうか・・・!】
「ロココーーーーーっ!!」
少なくとも、優勝争いにはもう絡めそうにない。既にタワー先輩には抜かれてしまっている。
【に、2位に浮上したコニカルタワー先輩がアイスマーメイドに迫ります!】
「「「ワーワー! ワーワー!」」」
アイスマーメイドは残り10メートルといったところで、激流5メートルと穏やかなラストが5メートルだ。そしてタワー先輩との差は3メートル。どうなるかはまだ分からない。
「おぉぉぉぉおおおおおおお・・・!!」
斜め後ろへの水流にぶつかっての逆行がありながらも、とにかく前にだけ進み続けるコニカルタワー先輩。
「ぷはっ! ハッ、ハァ゛ッ、んっ!!」
ロココほどではないが疲労の色が見え、それでも水流を見つつ潜水で進むアイスマーメイド。
【これは、これは凄い戦いになりそうです・・・!】
これまで通り、2人の差はジリジリと迫っている。中の人の体力差もあるだろうが、アイスマーメイドは潜水だ。肺への負担も大きいだろう。
「はぁぁ゛・・・っ!」
それでも何とか、追い抜かれることなく激流を抜けてラストの5メートルに到達した。だがその差はもう1メートルもなく、コニカルタワー先輩もすぐにラスト5メートルに到達した。
【いよいよラストスパートです! これは、これはどうなってしまうのでしょうかーーーーっ!!】
「「「ワーーーーーーーーーーーー!!」」」
「マーメイド! 頑張れ! 頑張れ!!」
「コニカルタワーー! 絶対1番だよーーー!!」
「おぉぉぉぅおおおおおおおおおおおおお・・・!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ・・・!!」
歓声と、選手2人の叫びがこだまする。コニカルタワー先輩は変わらずクロールだが、アイスマーメイドは激流がなくなったのを境にバタフライに変わった。スピードが先輩と互角と言えるほどに上がり、体のしなりに合わせてキラリと、着ぐるみ素材で表現された氷の尾ひれが光る。
【これは分かりません! ビデオ判定の準備を・・・!】
そうなるだろう。これはほぼ同着だ。
「おおお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛・・・!!!」
「あああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・!!!」
そして、決着の瞬間が訪れる。
バシャァァン!!
【ッ・・・!!】
どっちだ・・・!?
ゴールに着いて止まった2人が顔を出す。どっちの手が先に着いたかなんて、本人たちにも分からないだろう。ビデオ判定を待つしかないのだが、
「フーーーーーーッ」
大きく息をついたのは、アイスマーメイド。まさか結果が分かって・・・? いや、あれは・・・
【あ、あ・・・!】
なんと、いうことだ・・・
【アイス、マーメイドの、胸の貝が取れてしまっています・・・!】
こんなことが・・・! 確かに、胸の氷の貝が1つ、ラスト5メートルの真ん中辺りに浮いていた。マーメイド本人も自覚しているようで、自身の胸を腕で隠している。外れてしまったのは、左胸の氷か。正確にはサテン生地だが、ここへきて痛恨のポロリとは・・・!
【全てのパーツが揃ってなければならないという規定により、アイスマーメイドのゴールは認められません・・・こ、コニカルタワー先輩はどうでしょうか・・・】
コニカルタワー先輩が、プールサイドに上がった。そして・・・、
【パーツの欠損はありません! 従って優勝は・・・中東町代表、コニカルタワー先輩!!】
「「「ワーーーーーーッ!!」」」
「「「キャーーーーーーッ!!」」」
「「「どっ、しゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
「「あぁぁ~~~っ・・・」」」
湧く歓声と、氷町応援席の落胆の声。コニカルタワー先輩は、両手の拳を上げてガッツポーズ。と言ってもその手は自身の円錐形の体の頂点には届いてないが。
「ふぅ」
場内が歓声に包まれる中、アイスマーメイドは肩をすくめたのちに平泳ぎで、胸は水面に出さないように貝を取りに戻った。元のヒモには何とか結びつけられたようでまた進み、今度こそゴール。
【惜しくもハプニングで敗れてしまいましたが、それでも見事準優勝、氷町代表、アイスマーメイド!】
「「「ワーーーーーーッ!!」」」
「「「キャーーーーーーッ!!」」」
「良かったよーー!」
「ホントに惜しかったっ!」
アイスマーメイドはプールサイドに上がるなり、手を振って応えた。そして、
「失敗しちゃったわ。ざんねん」
コニカルタワー先輩に手を差し出す。握手だ。もちろん先輩もそれに応じる。
「多分だけど、さっきのが無ければ負けていたよ。いい勝負をありがとう」
後日公開されたビデオ判定映像でアイスマーメイドが先にゴールしていたというのは、まだ誰も知らない話。
【最後まで熱い戦いを繰り広げた2人の間で握手が交わされます! 皆さんも是非、盛大な拍手で2人の健闘を称えましょう!】
「「「ワーーーーーーッ!!」」」
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!
まさか、こんな幕切れになるとはな。激流にずっと耐えてきた貝が最後の全力のバタフライで外れてしまうなんて。あるいは、激流の影響で外れる寸前にまでなっていたのだろうか。その謎は永遠に分からないままに、水泳大会は終幕へ向かう。
【第3位! 疲れ果てながらも激流を超えて完走です! 舞犬代表、イヌ娘ロココ!】
「「「ワーーーーーーッ!!」」」
アイスマーメイドのゴールから2分ほど遅れて、イヌ娘ロココがゴールした。そこからさらに15秒遅れて、大空ペンギン。
【惜しくも4位となりましたがそれでも4位! 最後は3位にも迫る追い上げを見せました! 翼町代表、大空ペンギン!】
「「「ワーーーーーーッ!!」」」
なんだかんだロココを抜かせるんじゃないかと思ったのだが、ロココが舞犬応援席の声に応えて進み出したのと、終盤は大空ペンギンの方にも疲れが出たことで逆転は起こらなかった。
「キミがいたから、最後まで頑張れたよ。ありがとね」
「次は絶対負けないペン!」
こっちの2人でも握手が交わされて、歓声。これで決勝戦も無事に終了。最後に簡単な表彰式が行われて、散開となった。
【本日は、ご来場いただき、誠にありがとうございました。着ぐるみだらけの水泳大会は、全日程を終了いたしました。皆さま、お忘れ物のないようにお帰りください。お帰りの際は是非、商店街でのお買い物もどうぞ】
「ふいぃ~~~~っ。ようやく終わった~~~っ」
「本当にお疲れだったわね」
「とにかく、何事もなく終わって良かったな。さすがに停学決まってる身で余計な気を起こす気にはなれなかったか」
「そりゃそうですよ。伊達に停学処分食らっちゃいませんから」
「日本語は正しく使え」
「ホントに何がどう“伊達に”なのよ・・・」
「それじゃあ伊達に停学食らってない身として、なんかやらかして欲しかったですか? センセ♪」
「ふざけるな。人の夏休みをなんだと思ってる」
「大人の夏休みは、子供の面倒を見るためにあるんですよ」
「だったら二度と停学にならないように、毎日監視してやろうか?」
「うわストーカーとかやめてくださいよー。こっちは女子高生なんですよ?」
「安心しろ。保護者の許可は取る」
「マジで許可出しそうなんでやめてくださいよマジで」
「とにかく残り1週間と、停学になる1週間は大人しくしてることだな」
「へーーい」
どのみち残り1週間はともかく、夏休み明けてから女子高生が平日の昼間にウロついてたら職質の対象だ。私は警官に顔も知られてるし。
「2週間もセンセに会えないの寂しいんでなんか御馳走してくださいよ~」
「2週間以上ぶりに顔を合わせた今日、邪見に扱ってきた癖によく言えるな」
「それはそれ、これはこれですよぉ。ほら、市のイベントに協力したご褒美に」
「市から報酬が出るだろうが・・・まぁ、商店街に定食屋があったし寄ってくか。大曲もどうだ?」
「あ、いいんですか? じゃあせっかくなので行きます」
「鈴乃は私が奢られるとき乗っかるタイプだもんね~」
「失礼なこと言わないでくれる?」
半分ぐらい合ってんだろうがよ。
こうして、“ドキッ! 着ぐるみだらけの水泳大会!”は大盛況のうちに幕を閉じた。言うまでもなく、今日のために作られた各地区のゆるキャラは今後もそれぞれの地区のキャラクターとして残る。
どこまで精力的に活動するかは地区によってバラバラだろうけど、今日が水泳用の着ぐるみだったから、また製作依頼が来そうだな。
で、後日実際に来ることになり、火炎放射や風起こしなどの特殊能力を付ける要望もセットになって来ることを、君津の奢りでトンカツ食べてる私は知る由もなかったとさ。めでたしめでたし。
次回:約束された美少女




