第8話:様式美
「んじゃ、潜水艦モード行くわよ~。ポチッとな」
モードチェンジのボタンを押すと、ホバーを浮かせるためのエアーが止まりスカートも収納、そして船上は、ウイーーーーーン、とガラスで覆われた。
「凄いな、ガラス張りのまま潜水するのか?」
「そうよ。その方が見応えあるでしょ」
「潜水艦は窓が小さいことが多いからねえ。さすが鏡子ちゃん」
「でも、これで水の中に入るのは、ちょっと怖いかも・・・」
「安心して。深さ50メートルの水圧まで耐えられる強化ガラスだから」
「誰も、割れる可能性を考えて“怖い”って思った訳じゃないわよ。むしろ今の聞いて怖くなったわ」
「だから安心しなさいって。さ、潜るわよ」
潜水艦モードに遷移すると、上向き矢印と下向き矢印のボタンが有効になり、これで上昇・下降ができる。下降ボタンを押すと、ゆっくりと潜水艦が水に沈み始めた。そして船とガラスの境目が、着水。みんなその場面に注目しすぎ。そんなに私の発明が信用ならないのかしら? 失礼しちゃうわ。
やがて、完全に水没した。
「「「おおぉ~~~っ」」」
「って、言うほど綺麗じゃないけどね」
鈴乃がおどけてみせる。
「公園の池だし、こんなもんでしょ」
まあでも、そこそこ遠くも見えるし許容範囲内でしょ。魚もそれなりに見える。うっわブルーギルいんじゃん。
「おじちゃん、外来種駆除と水質改善ともどう? 私ならコバルトブルーにできるわよ」
「そうだねえ・・・考えておくよ」
潜水が浅いとまたスワンボートを転覆させ兼ねないので底の方まで降りきって、移動。潜水艦モードになっても操縦はこのレバーだ。
「あ、カニいんじゃん」
「ホントだ」
「あれはモクズガニね」
意外と見応えあるじゃない。潜ってもなんもないってなるとリピーター付かなくなるし、ラッキーね。
「きゃっ」
「うわっ、ヘビだ!」
「あの斑点模様はヤマカガシかしら? 毒ヘビよ」
「マジ?」
「見かけても刺激しないことね」
びちょ。
ん?
足下を見ると、なんか濡れてた。うわ~、やっべ~。最初の急発進で向こう岸にぶつかったときに穴でも開いたか? まあいいや、みんな気付いてないみたいだし、水面にはすぐに上がれるし、このまま行っちゃえ。
で、しばらく水中散歩をしてた訳だけど、
「ねえ、なんか濡れてない?」
気付くのが早いなあ鈴乃ちゃんは。
「うわっ、マジだ! 厳木、大丈夫なのかこれ?」
「最初にぶつかった衝撃で穴が開いたみたいね」
「・・・ちょっと鏡子? まさか気付いててほっといたの?」
「もうちょっと大丈夫でしょ」
「ちょっ、何言ってんの!? さっさと上に上がりなさいよ!?」
「まぁまぁ落ち着いて落ち着いて」
「あんたいつもそうやってトラブル起こすでしょ!」
ズンズンと鈴乃が迫って来る足音がして、
「このボタン押せば上がれるんでしょ、早く!」
後ろから手を伸ばしてきた。
「うわっ、ちょっ。まだ大丈夫よ。ヤバくなってから緊急脱出の方がスリルあんじゃん」
「そんなスリルいらないわよ! 浸水してんのよ!?」
鈴乃が上昇ボタンに向かって手を伸ばす。くそ、見た目に分かりやすくするんじゃなかった。私は鈴乃の腕をつかみ、なんとか上昇ボタン押下を回避。だが、お互いに力が入って檻、グググッって感じになってる。
「潜水艦と言えば、浸水が様式美でしょ」
「全然美しくないわよ! 早くしなさい!」
操縦席で鈴乃と私の揉み合いが始まる。ちょっ、暴れるのが一番ヤバいって。鈴乃、マジ、ストップ!
ゴン。
「「あ」」
鈴乃の肘がヒットしたのは、モードチェンジのボタン。
「・・・ねえ、これ、水中にいる時は動作しないよね・・・?」
私は、ニッコリと笑みを作って答えた。
「・・・只今より、ホバークラフトモードに遷移しま~す♪」
ウイーーーーーーン。私たちを水から守っていたガラスがオープン。
「・・・・・・!!」
「「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
--------------------------------
「ゼェ、ハァ・・・。俺、生まれて初めて死ぬかと思った・・・」
鈴乃が(そう、あくまでも鈴乃が)モードチェンジボタンを押したせいで池の水に呑まれてしまった私たちだが、ホバーの送風によって船ごと水面に上がってくることができた。船上はもちろんプール状態だけど。
「雪実、黒田君、おじちゃん、ホントゴメン・・・!」
私には?
「全くよ。人の操縦の妨害をするのが危険だって分かった?」
「あんたねぇ・・・元はと言えば浸水に気付いた時点で上がってれば良かったんでしょうが。・・・私も反省してるけど」
ん? 最後の方なんて言った? ボソボソ言ってちゃ聞こえないよ?
「やっぱ厳木って、トラブルメーカーなんだな・・・」
「私はマッドサイエンティストよ? トラブル作らずに何作れって言うのよ」
「普通に世の中の役に立つものだけ作ればいいでしょ!」
「普通に役に立つ、では世界は変えられないのよ」
「世界変えたいなら1人で命懸けてなさい。まずあのボタン、水中じゃ効かないようにすることね」
「それは・・・やろうと思うわ」
これには視線を逸らさざるを得ない。さすがの私もあんな自爆スイッチを放置するつもりはない。子供が「何これー?」とか言って押しちゃう未来が見えた。
「まだちょっと、改良が必要みたいだね・・・」
ポリポリと頭を掻くおじちゃん。
「待ってて。ちゃんと完全版にするから」
私は立ち上がり、水の抵抗を受けながらも歩いて操縦席に向かい、排水ボタンを押した。船上に溜まってた水が横から外に出されていく。
「私たちも使いましょっか、乾燥部屋」
--------------------------------
「お待たせ。ココアを淹れたよ」
「あ、おじちゃんサンキュー」
乾燥部屋は暖房が効いてるのと、強めの送風機も回ってるから着替える必要もなく乾いていく。
「ごめんね雪実、せっかくのお洋服びしょ濡れにしちゃって」
だから私には? 今日はボーイッシュにパンツスタイルでキメてきたのよ?
「私は大丈夫だよ」
(純ちゃんがいるから言えないけど、これも合わせて厳木さんへのお礼だし)
「ま、私の新作のテストに来るっていうのは、こういうことなのよ」
こういったバグ出しをするためにやってんだから。
「あんたが言うんじゃないわよ」
「次からもやっぱ、クジで決めてくれ・・・」
あっはっはっは。黒田くんも懲りたようねえ?
「あんたもちょっとは凝りなさい」
「言われなくても、私は凝り性よ」
「そこは一番凝んないで欲しいんだけど」
30分ほど乾燥室で休憩し、
「なんかこのままじゃ煮え切らないから、普通のボートで遊ぼっか」
「えぇ・・・鏡子と一緒って怖いんだけど」
「スワンもカヌーも私が作ったんじゃないわよ」
「危険なのはモノじゃなくて人よ」
「だったら尚更、鈴乃も同伴することね」
「あんたね・・・」
「せっかくだから遊んでってよ。料金はオマケしちゃうからさ」
「さっすがおじちゃん分かってるぅ~っ」
てな訳で、私と鈴乃はスワンボート、白鳥さんと黒田くんはカヌーになった。おおっ、黒田くん。自分だけオール持って漕ぐ気ね? かっくぃ~~っ。
次回;既存設備利用