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第74話:尾峰 対 象の骨

「尾峰頸撃流の技、受けてみるがよいッッッ!!!」


 なんか尾峰が、その年老いた見た目からは考えられないようは俊敏な動きを見せたのちに構えを取って、そう叫んだ。実家が武術か何かの流派をしているらしい。


「厳木クン! 棍棒はあるかね!」


「棍棒?」


「いかにもッ! 尾峰頸撃流の真髄は棍棒の術にあるッ!」


 そうですかい。木の棒1本ぐらいならお安い御用だけども。


「これでいいですか?」


 直径2センチ長さ1.5メートルの丸棒を召喚して尾峰に見せた。


「よろしいッ! あとはこの私に任せたまえッッ!!」


 投げ渡した棍棒をキャッチした尾峰は、凄まじい手捌きでクルクル回してから、止まったと思ったら間髪入れずに前に飛び出した。


「ゆくぞ古代の象よ! 尾峰に棍棒とはそれすなわち鬼に金棒! その(くび)、この尾峰頸撃流でいただ…」


 ズォォォン!


「のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 は・・・・・・? 勢いよく向かってった尾峰が、象の牙のひと振りで跳ね返って来てんだけど。


「センセーーーーーーーーー!!」


 ドサリ。



 カラン、カラカラカラン。



 ・・・・・・・・・はぁぁぁぁ??? 転がる棍棒。大の字になって仰向けに倒れる尾峰。いや、おい、おい??


「す、すまない厳木クン・・・私は、ここまでのよう、だ・・・」


 ガクリ。


 おい!!!


「せんせぇぇぇぇぇ!!」

「尾峰センセーーーーーーーーー!!」


 上から見守っている部長と笹山さんの声が響く。


「・・・・・・」


 目を閉じたまま動かない尾峰。いや、まじふざけんな。お前何のために武器を手に取ったんだよ! 尾峰頸撃流の技を見せてくれるんじゃなかったのかよ! 棒クルクル回して走っただけじゃねぇか! 部員も見てるんだからもっと格好いい背中ってやつを見せろよ! 戦う直前がピークだったぞ!


 ズズズズズズズズ・・・。


 象の化石が私の方を向く。骨だけだというのに、その頭蓋骨の内側から覗かれている気分だ。


「厳木さんお願い!!」


 言われなくても・・・! とは言ったものの、どうするよ。


 ググググググ・・・。


 まずい、来る!


 ズゥゥゥゥゥン!!


 下に凸の放物線を描く凶暴な2本の牙が、大きく横に振られた。結構尖ってんじゃねぇのぉ? 幸いにも動きは遅いから、よけるのは難しくない。だが尾峰は避難させた方がいいな。このままじゃ象に踏まれる。


「ぐ、おぉ・・・」


 起きたか。歩けるか?


「すまない厳木クン、よもや、この私がお荷物になってしまうとは・・・」


 全くだよ。何の役にも立たなかったからな?


「動けるなら離れてください。無理ならドローンで運びますよ?」


「たす、かる・・・」


 そうこうしている間にも、象は動く。


 ズゥゥゥゥゥン!!


「くっ・・・」


 現状の攻撃パターンはのそのそ歩いて来て牙をブン、だけだ。さっさとバラバラにしてやるぜ。ロボットアームを出そう。


「きゅう、らぎクン・・・」


「何ですか?」


 ドローンに掴まれ宙吊りにされながら尾峰が言う。


「ここまで全身の部位が残っているのは、貴重・・・ゆえ、できる限り傷を付けずに、頼む・・・」


 無茶言うな! てめぇもさっき棍棒持って正面から行ってたじゃねぇか!


 ズズズズ・・・ズゥゥゥゥゥン!


「くっ・・・」


 尾峰に構ってたらやられちまう。ドローンに指示を出してとっとと上の方に運んでもらった。


「センセー大丈夫!?」


「む、無念・・・」


 さて、なるべく傷つけるなというのが尾峰の指示だ。骨って大して硬度ないからキツいんだぞ・・・。だがまあ、アームで殴り飛ばすよりは、こいつを使おう。


 シュルルルルッ、パシッ。


 私が出したのは、ムチ。自在に長さを変えることができる、名付けて如意鞭だ。これで崩しながら骨を縛っていこう。まずは、その足だ!


「そらっ!」


 ピョン。


「え?」


 象の骨、跳んだ。そして、斜め上に牙を振り上げて、


 ズゥゥォォォォォォオン!!


 折り返すように斜めに振り下ろして来た。


「っ・・・・・・」


 よけるのは難しくない。全く、人が傷付けないよう気を遣ってるというのに、お構いなしにブンブン振り回しやがって。地面に当たって折れても知らないぞ?


 ズズズズ・・・。


 なおも、象は私に照準を合わせてくる。


「厳木さんムチャだよ! 一緒に逃げよう!?」


 確かに、この場を離れたらコイツは止まるかも知れない。多分追っては来ないだろう。だが、


「この私がケンカ売られて逃げると思ってるの?」


「思えない!」

「ちょっとぐらいは思わせて!?」


 思いたいなら思えばいいだろ? その想像通りに人が動くかは別問題だがな。


 のそり、のそり。


 にしても、どうするかな。足を狙ってもよけられるなら、いっそデカい胴体の方にいってみるか。


「はっ!」


 如意鞭を象の胴体、数多く並ぶアバラの方に伸ばした。すると、


 バラバラバラバラ・・・。


「は?」

「えぇっ!?」


 象の骨、一瞬にして空中分解。そして、鞭がパシュッと私の手元に戻ると、バラバラに散った骨がまた集まり、元の標本のような姿に戻った。


「野郎・・・」


「むむむ・・・さすがはこの尾峰頸撃流を沈めた相手・・・」


 あんたは黙ってろ。胴体を狙うと散らばられるのは厄介だ、とも思ったが、実は狙い目なんじゃないか? もっかい行くぜ?


「そらっ!」


 シュルルルルッ。


「厳木さん、またそれやっても・・・!」


 バラバラバラバラ・・・。散らばるだけだろうな。だが! ゆけ、私の可愛いドローンたち! 散らばった骨どもを捕まえろぉぉ!


 ギューーーーーーン。30台を超えるミニドローンたちが、一斉に骨の方に向かう。


「おお! このまま捕まえちゃえー!」


 私も鞭で加勢…


「なっ・・・!」


 ドローンより骨の数の方が多い。ドローンをかわした骨は、私目掛けて襲い掛かって来た! だが甘い!


 シュパァッ。


 すかさず網を召喚。パッと開いて、直径3メートルを一瞬のうちに包囲する捕獲用だ。結構掛ったな。網の目は、ミツバチぐらいの小さな虫でも脱出できないほどには細かい。

 捕まった骨どもはもぞもぞ動いているが、その網は本物の象やライオンでも引きちぎることはできない。どこの馬の骨とも知れない象の骨なんかにゃ無理だ。


 さて、あとは今の網から逃れた奴らだな。


「鏡子! まだ来るわよ!」


「誰に言ってるの?」


 網は自動でキュッと縛られ地面に着地。その横から回り込むように残った骨どもが私に迫る。だがこの程度の数なら問題ない。如意鞭と、30本のロボットアームで対処だ。


「そらっ!」


 アームの方は自動で動いて、骨を捕まえては、さっきの網の中に上手く逃げられないように放っていく。そしてアームの手をかい潜ってる奴らを、私が鞭で捕まえる。1本、また1本と、鞭に直接結びつけていく。如意鞭は伸びるから、いくらでも骨を付けられる。


「よし」


 鞭はもう、センスのない骨のアクセサリーみたいになっている。まじセンスねぇなこれ。敵も自動アームだけで対処できる数になったので、鞭で捕まえたやつは別の網を出して閉じ込めた。さて後は、


「鏡子! 上!!」

「厳木さん上!!」


 本体と言うべきか、デカい牙を持つ頭蓋骨だ。図体の割にすばしっこいんだろうけど、なんとかこの鞭で捕まえてやろう。


 頭蓋骨は、狙いを定めるようにクッ、クッ、と動いたのちに、ロックオンできたのか固まった。さぁ、来いよ。と思ったら、


「ふぅぉぉおおおおおおおおおお!!」


 尾峰・・・!? 私のドローンにどう頼んだのかは知らないが、運ばれながら頭蓋骨に後ろから迫っていた。そしてドローンが、勢いそのままに尾峰を放り投げた。


「棍棒は無くとも尾峰頸撃流に技は有りッッ!! 食らえ、頸裏床崩(けいりしょうほう)け…」


 ブゥゥォォオオオオオオン!!


「ぬぅぉわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「センセーーーーーーーーーーーー!!」


 バカか。だがまあ、隙を作ったことだけは認めてやる。尾峰が突撃してくる前にスキャンした結果、あの頭蓋骨の中に球体の固形物があることが分かった。多分そいつがこの骨を動かしている。大絶賛落下中の尾峰はドローンに任せて、今の攻撃で後ろを向いた頭蓋骨に向かって、スパッと鞭を伸ばして首の下から中に入れて球体を捕らえた。


「・・・ふふ、勝負ありね」


 捕らえた瞬間に分かった。この骨は今、私の制御下に堕ちた。ゆっくり、ゆっくりと頭蓋骨を降ろしていき、最終的に地面に着地。


「え! え・・・!?」


 笹山さんを始め、面々は驚いているようだった。ちょっとイタズラしちゃえ。


 ズゥゥゥゥゥゥゥン。


「「「わぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」

「「「きゃああああぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」


 頭蓋骨を上の面々の方にズゥゥンと近づけたら、絵に描いたようなリアクションを取ってくれた。


「あっっはははははは! ホントにそんな反応になるんだ~~!」


 さすがに、爆笑する私を見て鈴乃は悟ったらしい。


「鏡子あんたわざとやったでしょ!」


「違うわよちょっと気を抜いたら動いちゃっただけだって」


「それでも今まで狙って来なかったこっちに来るとは思えないんだけど?」


「私には敵わないと悟ったんじゃないの?」


「どうだか。まったく・・・」


「何を言っても無駄だよ、大曲さん」


 セルシウスは、突然迫って来た頭蓋骨に驚きこそしたが、特に声を上げたりもせず私のイタズラだと気付いて落ち着いたままだった。今は呆れている様子だが。


 いずれにせよ、象の化石ゲット、ってね。頭蓋骨を降ろしきったあと、中の球体は目玉から出して私の手元まで運び、しっかりと掴んでから鞭をシュルシュルと戻した。


「素晴らしい、素晴らしいぞ厳木クン。ぐふっ・・・私の見込んだ通りの腕前だ・・・っ」


 尾峰頸撃流はとんだ見込み違いだったけどな。


「ところで、その球はなんぞ?」


 気を取り直して、手に入れた球体に目を向ける。金と茶色を足して2で割ったような、そんな色合いと光沢だ。


「さあ。中に入ってたみたいですけど」


 何にせよ、明らかに超常現象だったし地学研究の成果にはしづらいな。


「ひとまずは私らで持っておくとしよう。また動き出しては敵わんからな」


 尾峰頸撃流では文字通り敵わないみたいだしな。


「厳木クンが持っておいくくれるかな?」


「いいですよ」


 正直、人に任せられるようなものじゃない。もしまた動き出されたら、敵いはするが手間だ。


「どったのそれ?」


 笹山さんたちも降りて来ていた。


「あん中に入ってたのよ。鞭でこれ捕まえたら動かなくなったってワケ」


 そう答えると、鈴乃が突っかかって来た。


「やっぱりさっきのはわざとだったのね?」


 なんだ、そんなことか。


「説明いる?」


「ちょっとぐらいは悪びれなさいよ!」


「反省するぐらいなら初めからしないわよ」


「反省しないなら初めからしないでくれる?」


「もうやめようよ大曲さん・・・」


 最終的にセルシウスがそう呟いて終わった。分かってないなぁ鈴乃は。反省を前提にイタズラするやつがどこにいるんだよ。


「さて、みなの者、そろそろ引き返すとしよう。厳木クン、このサンプルは運べるかな?」


「だいじょぶですよ」


 象の化石一式ともなると、収納するしかないがな。ボワワンカプセルの準備をしようとすると、


「ん?」


 持っていた球体が突然光り出した。


「えっ、なに!?」


「待って待って。また動き出すとかナシだからね!?」


 慌てる笹山さんと鈴乃。他の面々もセルシウス以外はザザッと私から距離を取った。セルシウスよ、そこはハナちゃんの盾にならないと合格はもらえないぞ? なんてことを考えていると、ブォン、ブォンとゆっくり点滅する球体が私の手から離れようとした。


「ぐっ・・・」


「耐えて厳木さん!」

「耐えて! 鏡子!」


 これは無理だ。私は球体を押さえることを諦めて、


 ボワワ~~ン。


 骨を全部カプセルに収納。これでひとまずは問題ない。それでみんなもホッと肩の力が抜けたようだ。さて、私の手を離れて浮かび上がった球体だが。


【人の子よ】


「あ?」


 なんか声が聞した。


「しゃべった!?」


 笹山さんやみんなの様子を見る限り、気のせいでもないらしい。


「みなの者、静かに!」


 尾峰の声で、静まり返った。さあ、球体は何を言う。


【よくぞ、地の封印を解いてみせた。水の封印と天の封印も解いてみるがよい。さすれば、稀代の賢人が遺した秘宝を手に入れることができよう!】


 そう言って球は光るのをやめ、ストンと私の手に落ちて来た。


「・・・・・・」


 何だったんだ、今の。水の封印に天の封印て。聞こえた声を信じるならば、それらの封印を解けば秘宝とやらが手に入るらしい。よく分からんが、面白そうじゃないか。


「鏡子まさか、やる気になってるんじゃないでしょうね・・・?」


 止められないって知ってて聞くなよ。第一、私が今のに惹かれなくたって、


「素晴らしい! 素晴らしいぞ厳木クン!」


 尾峰が乗らないはずがないだろ? 返事をするまでもなく、鈴乃は諦めたように首を横に振りながら俯いた。


「あはは、センセならこうなるよね」


 地学部員たちは、“いつものこと”と言わんばかりだ。さすがに化石が動き出して封印がどうとかは初めてのようだが。


「やはり合宿はこうでなくてはッ! 我らは、稀代の賢人が遺した秘宝に迫ることができるのだッ!」


 相変わらず興奮している様子の尾峰。


「何なのか知ってるんですか?」


「管理人に聞いてみようぞ!」


 そうですかい。


「もう。センセってば」


「何はともあれ、一旦外に出ませんか?」


 顧問がこんな状態だからか、部長の野々宮が落ち着いた様子で撤収を促した。


「それではこれより撤収する。大義であったッ!」


 あんたは何の義も成してないけどな・・・。手に入れた球体をポケットに仕舞い、歩き出す。


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 久しぶりの外へ。


「んっ、ん~~~~~~っ」


 大きく伸びをする笹山さん。そして視線を外す男子たち。草食系でも年頃の男子なら仕方ない。男子の前では気を付けなさいと、同級生なら鈴乃が注意したことだろう。


「そんで、水の封印に天の封印って話だよね?」


 笹山さんがそう言うと、一同の視線は湖の方に向いた。あんだけ大きな湖なんだ、水の封印って言われたら真っ先に頭に浮かぶ。しかしもうすぐ5時だ。夏とはいえ今から手を出すにはチト遅い。歩いてる間にクールダウンした尾峰も同じ考えのようだ。


「ひとまず今日はここまでにしよう。私は管理人に話を聞いてくるから、夕食の準備の方を頼む」


「アイアイサー!」

「「「はいっ」」」

「「はい」」


 なんだかんだで統率が取れてるな、地学部。草食系男子たちも活動そのものに関しては積極的なようだし。もっとも、地学じゃなくてオカルト研究の領域に入ってきたが。いずれにせよ明日は、湖の調査だな。

次回:合宿の夜はガールズトーク!

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