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第72話:地学部合宿!

「えー皆さん、本日はお日柄もよく・・・」


「せんせー挨拶はいいから早く行こー」


「まあそう急ぐでない笹山クン」


「ささ、みんな早く乗って乗って」


「ちょいちょいちょちょいちょいちょい!」


 今日は、待ちに待った地学部合宿。顧問のことなどガン無視で3年女子の笹山さんが部員たちをマイクロバスへ手招きする。だがよくあることなのか、顧問の尾峰もすぐに気を取り直して運転席へと向かう。


「仕方ない。詳細は移動しながら話すとしよう」


「せっかくだしみんなでトランプしよー!」


「笹山クン・・・!? 私を・・・私も、混ぜてもらっていいかな?」


「アタシが運転していいならいいですよ」


「それはそれは、妻への最後のメッセージを遺しておかねばならないな」


「言ったな~~!?」


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」


 仲が良いみたいで何よりだ。というか笹山さん、全然地学部って感じじゃないな・・・。


「ところで先生。何故この場に部外者である厳木さんがいるのですか?」


 と言ったのは部長の野々宮。絵に描いたようなガリ勉男子だ。3年は2人だから笹山さんが副部長。色々と正反対だから大変そうだ。


「僕も同意見です。それに、どうして黙っていたんですか」


 これはセルシウス。部活の合宿に幼馴染が来たというのにツレない態度だ。


「言ったら君たちは反対するだろう?」


「「それは今になっても同じです!」」


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」


 尾峰はわざとらしく笑って誤魔化した。授業で見る時も思ってたが、中々につかみどころのない人だ。地学に対する熱意だけは伝わってくるが。


「アタシは反対しないよ~? 楽しそうだし」


 笹山さん、すごくいい人。


「地学部の気持ちも分かるけどね・・・」


 鈴乃が同情を込めて言う。地学部の合宿に呼ばれたことを話したら同行を志願した。セルシウスだけでは不安だったらしい。


「本当に、大曲さんが来てくれて助かったよ」


「君津先生もいるともっと良かったんだけど、“監督は尾峰先生がいるから十分だろう”って」


 おい何勝手に君津にも話してんだよ。隙あらば監視係を増やそうとしやがって。


「なに、何かあれば揉み消す(すべ)も厳木クンが持っておるだろう。問題ない」


「今の発言が問題なんですけど・・・」

「なんで・・・」


 片手で頭を抱える部長とセルシウス。


「あたし知ーらないっと」


 おい、鈴乃。


「ま、ぶっちゃけダイジョブっしょ。せっかくの合宿なんだしみんなで楽しんでこーよ!」


 副部長も責任を取るつもりなど更々ないだろうな。


「思ったんだけど、笹山先輩と厳木さんが揃うって非常にまずいんじゃ・・・」


「摂津君も思った? あたしも。頑張って」


「見捨てないで・・・」


 セルシウスと鈴乃がそんな会話をしたところで他の部員たちも顔が青ざめた。ちなみに部員は、2年がセルシウス以外に男子2人、そして1年に女子が1人だ。全6人プラス顧問の尾峰プラス私と鈴乃で9人の旅路となる。

 ちなみにマイクロバスは尾峰の私物なんだとか。よく地学仲間と旅行に行くらしい。座席配置も改造したようで、みんなでぐるりと輪を囲めるようになっている。で、中央にはテーブル。


「さて、厳木クンに来てもらったのは他でもない」


 部員たちの顔が青くなったこの流れで、尾峰が発車準備をしながら話を続けた。一同が耳を傾ける。


「彼女が爆弾魔だからだ」


 おい今なんつった?


「爆弾魔、では語弊があるかな。実は調査を頼まれているものがあってね、今回の合宿はそれを兼ねることにしたのだよ。発破も許可されているから、どうにも厳木クンの手が必要という訳だ。気持ちは分からんが我慢してくれ」


 おい語弊ありすぎるだろ。私そんな頻繁に爆弾なんか使ってないぞ?


「教員が“気持ちが分からない”というのが問題なんですよ・・・」


 部長の野々宮が諦めたように嘆く。


「というか爆弾・・・」


 セルシウスが俯く。


「鏡子に合法的にそんな機会を与えたら・・・」


「きっと楽しい!!」


 1人テンションを上げる笹山さん。あなたはすごくいい人だ。


「そんな訳だからみんな、今回は部員じゃない人もいるが楽しくやってくれるかね?」


「もちろん!!」

「“楽しむ”の基準に個人差がありすぎるんですけど・・・」

「心労しかないです・・・」

「「「はーい・・・」」」


 なんで1/6しか歓迎されてないんだよ私。


(自分の胸に聞いてみなさいよ) by 大曲鈴乃16歳。


 鈴乃も1/6にしか歓迎されてないからな?


「大曲さん、色々とよろしく」


 2/6になった、だと・・・。



 --------------------------------



 目的地は栃木県にあるようで、まだまだ車移動中。


「トランプも飽きちゃったね。厳木さん何かある?」


「んーっと、今回は爆弾が多めなんだけど」


「んん~、爆弾で遊ぶのはまだ後かな~~」


「「「「「後でもやめてください」」」」」


 部員5人が止めにかかった。ぶっちゃけ私も、“後でならいいんだ” とか思ったけど。


「それじゃあ、書いてあることが実際に起こるカルタとか」


「やめて!!?」


 笹山さんの反応を待たずして鈴乃に止められた。トラウマあるもんね・・・。星岡が作ったのはスゴロクだったが、あれにあやかってカルタを作ったのだ。サイコロに従うしかないスゴロクと違って、カルタなら札を取らないことで回避できるからな。私ってば天才。


「ええ~? 面白そうじゃんやろうよ!」


「絶対ダメです! 爆発しますよ!? 死人が出ますよ!!?」


 死人までは出ねーよ! 爆発する札はあるけど。


「そっか~、車の中じゃまずいよね~」


(((((外でも爆発は嫌なんですが))))) by 地学部員一同


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。手持ち無沙汰なら私の武勇伝をば」


「「「「「「それはいいです」」」」」」


「そうか・・・」


 先生・・・。



 --------------------------------



 ちょうど正午が迫る頃に、目的地に到着。


「やっっほーーーーー!」


【やっっほーーーーー!】

 【やっっほーーーーー!】

 【やっっほーーーーー!】

 【いやっふぅぅぅぅぅぅぅぅ!!】


「え゛、なんかおかしいの混ざってなかった!?」


「・・・鏡子、何したの」


「これよこれ」


 私が取り出したのは、片手で握れるサイズの装置。ボタンとスピーカーが付いている。


「なんなのそれ?」


 笹山さんが食いついた。


「“オネスト山びこ”って言って、人の大声をインプットすると、その時点での心の声の上位2つのうち1つが出力されるの。1位か2位かは知らないけど笹山さんの心の中に“いやっふぅ”があったみたいね」


「あっははー! 何それ、おもしろ!」


「地味に怖い道具作んないでよ」


「心の中で余計なことを考えてなきゃいいだけでしょ」


「そっそそっそ、このアタシみたいに!」


「では第2位の心とは?」


 笹山さんに“オネスト山びこ”を向けてみた。


「ないないナイナイなんでもない!」


【お腹鳴るの隠すために“やっほー”言ったなんてバレたくない!】


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」


 しゃがみ込んでしまった笹山さん。


「「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」」


 なんか、ごめんなさい。


「アタシだけ恥かくなんてナシ! みんな1回ずつ使うこと! 副ぶちょーめーれー!」


「だったら僕は聞かなくていいですね。みんなも聞かなくていいですよ。部長の僕が許可します」


「こんの裏切り者~~~! それでも部長か~~~~!」


「部長だからみんなを守るんですよ」


 実際、真面目そうな部長さんや1年女子の子に使ったら大惨事になり兼ねないしな。



 さて昼食はバーベキューだ。大きな湖のほとりでバーベキュー、合宿の醍醐味だね。


「合宿の最初に遊びなんてセンセー分かってるぅ~~っ」


「ふぉっ、ふぉっ。モチベーション管理は教育者の基本だからね」


 多分この先生自分が休憩したかっただけだな。まあタイミング的にも自然だし、3時間運転した後すぐ地学調査開始ってのも酷だろう。


「バーベキューといえばこの私。じゃーん、セミオートバーベキューセット!」


 いつでもどこでも肉を焼けるように、このセットは常にボワワンカプセルに入れて持ち歩いている。


「そこはフルオートじゃないのね」


「さすがに全部自動だったらつまんないでしょ。待つだけになるわよ?」


 今まで一度も、頼まれたことすらないからな。需要の無さが伺える。


「だったらフルマニュアルでも良かったんじゃ・・・」


 とセルシウス。


「お肉のパック開けるとか焦げそうなやつ回避とかはあった方がいいじゃん。あとダンシングファイヤーも」


 ホルモンとかの油で火が上がると、なんとその炎が踊り出すのだ。これは私のバーベキューセットでしかできない。


「それが一番いらないんだけど」


「必要だよ! 絶対面白そうじゃん!」


 需要がある。ならば、作るしかない。それがマッドサイエンティストだ。



 --------------------------------



 ダンシングファイヤーを眺めたり、尾峰がマグマについて語り始めることがあったりしながらも、バーベキューはつつがなく終わった。


「さて、食事も終わったことだが、さっそく1時間の自由時間とする。私は管理人と話をしてくるのでね」


「いえぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」


 開幕から遊んでばっかだな地学部合宿。


「去年もこうだったの?」


 セルシウスに聞いてみた。


「そうだね。本格的な活動は2時か3時からだったよ」


「ま、初日はそんなもんか」


 いずれにせよ自由時間だ。湖があるということは・・・、


「おっよぐぞ~~~!」


 男女別になっているコテージで更衣室で水着に着替え、いざ湖へ。


「なんで私だけ!?」


 いやメンバー見ましょうよ・・・。私は水遊びは普段着でするタイプだし、鈴乃もぶっちゃけ自ら進んで水着を着るタイプじゃない。そもそも湖があるなんて聞かされてないからな。


「ハナちゃんは水着持って来るように言ってたでしょ~~?」


「えぇ~っと、でも・・・」


 もじもじするハナちゃん。ハナちゃんというのが1年女子の子で、織絹(おりぎぬ)羽菜衣(はなえ)というらしい。大人しめの感じで、まぁこの子も夏の湖でキャッキャするタイプじゃない。というか普通地学部にそんな人はいない。


「ダイジョブだって。男子なんてほら、もうあんなところでボートに乗り込んじゃって」


 笹山さんが指差した先では、部長と2年男子Aが安っぽい造りの木のボートに乗り込んでいて、セルシウスと2年男子Bは水辺から離れた位置で文字通り休んでいた。


「スタイル抜群の水着女子に目もくれないなんてねえ。これだから文系は」


 それを言うなら“文化部”だろう。地学部はガッツリ理系だ。


「んじゃ厳木さん、ハナちゃんの水着おねが~~い」


「はいはーい」


「えっ??」


 人ひとりの水着ぐらい簡単に用意できるに決まってるだろ?


「よっと」


 サラサラサラサラ・・・。使ったのは“お着替えパフューム”。人に向かってパッと撒くだけで、キラキラの粉末に覆われて瞬時に衣装が変わる。使用者、つまり今回の場合は私の思いのままに。


「え、えぇぇ~~~~っ!??」


「かっっっわいい~~~~~!! これなら草食系男子も求婚してくること間違いなしだよ!」


「というよりお嫁に行けないです・・・」


 言うほどでもないはずなんだが。一応私は、少なくともお嫁には行けるように露出は抑えたつもりだぞ? もちろん、水着の範囲内ではあるが。


「うぅぅ~~・・・っ」


 あ、睨まれた。多分この子、今が一番私が合宿に来たことを恨んでる。


「んじゃ、鈴乃の分は笹や…」


 パシュッ。


「え?」


 鈴乃の衣装は笹山さんに決めてもらおうとパフュームを投げたのだが、瞬時にインターセプトされた。


「自分で使うわよ。濡れてもいい服装に」


「あぁ~~っ。ざんね~~~ん」


 ショートパンツ+ラッシュガードという服装を選んだ鈴乃を悔しそうに見る笹山さん。てか鈴乃、さっきの速さ人間技の限界ギリだったんだが・・・。


(人間の防衛本能って凄いわね・・・)


「あ、あの、私にも・・・」


「ハナちゃんはダメ~。せっかく可愛いんだから」


「うぅぅ・・・」


 てなワケで水遊び開始。ボールでバレー的なのをやったり水を掛け合ったり、事故のフリしてハナちゃん柔肌を堪能したり、といった感じだ。


「あう・・・」


 お嫁に行く強い意志を保つんだ、ハナちゃん。


 --------------------------------


 1時間が経ち、尾峰が戻って来た。休憩終了だな。


「それじゃあみんな、存分に休憩できたかな?」


「存分に遊べましたー!」


 ハナちゃんはお疲れの様子だけどね・・・。


「よーしではいよいよ地学研究部としての活動を始めるぞ? 目指す先は、あそこだ!」


 バン、と尾峰が指差したのは、割と近くにある岩山。それなりに大きいが、見上げるほどの高さはない。


「意外と近いねセンセ・・・」


「近くまで車で来てしまったからね」


 まぁわざわざ歩かないよな。険しい道を進んだ先で、という方が雰囲気が出るのは確かなんだけど。


「という訳で頼んだよ厳木クン。地学研究はバクハツだ!」

次回:地学研究はバクハツだ!

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