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第7話:新作テスト

 翌日の午後。私たちは、窓咲公園に集まっていた。新作のテストに入る前に、


「いや~、その、何と言うか、・・・俺たち付き合い始めました」


 交際開始の報告は白鳥さんから昨日の晩に私にも鈴乃にも入ってたが、改めての報告。もっとシャキッとせんかい黒田。


「おめでとう、2人とも」


「ま、私のクジ引きが功を奏したって言うか?」


「マジで、厳木には感謝してもしきれない・・・」


「2人とも、本当にありがとね」


「どういたしまして。でも、2人が頑張ったからこそよ。あたしたちは、なんにも」


 むしろデートをウォッチングしてただけだし。


「白鳥・黒田のカップルで白黒、いや、オセロカップルね」


「そ、それは・・・」


「変な呼び方しないでくれよ」


「鏡子は一度決めたあだ名は取り下げないわ。諦めて」


「マジか。・・・まあいいけど。てな訳でこれからもよろしくな、大曲さん、厳木」


「はいはい」


 新作のテストだけじゃなくて、普通にビジネスパートナーになってくれることも期待してるわよ、黒田くん♪


「で、新作ってやつはどこにあるのよ?」


「後でちゃんと出すわよ。でもここじゃ無理だから、池の方に行くわよ」



 池に移動した。サッカー場4つ分ぐらいの広さはあり、スワンボートやカヌーがレンタルで楽しめる。


「お、鏡子ちゃん、来たね。友だちも一緒かい?」


「ええ。持って来たわよ、新作」


 ボートレンタルのおじちゃんに挨拶。


「早速疲労しましょうかね」


 私がスマホをチョチョチョイッと操作すると、ボワ~~ンと煙が立ち込めた。


「うわっ」

「きゃっ」


 おいおい、煙ごときで驚いてんじゃないわよ。


 煙が晴れたところに姿を現したのは、


「おぉ、船か! こんなのも作れるんだ厳木って」


 船は船だけど、


「これは・・・ホバークラフトか!」


 正解の単語を出したのはおじちゃん。


「そ。でも、ただのホバークラフトじゃなくて、潜水機能付きホバークラフトよ」


「潜水? そりゃまた凄いものを」


 伊達にマッドサイエンティストやってる訳じゃないからね。


「ホバー・・・何とかって、普通の船となんか違うのか?」


「違うわ。これはね、真下に空気を送り込んで浮かぶのよ。だから水の上だけじゃなくて、デコボコさえなければ陸上でも走れる」


「マジ!?」


「す、ごい・・・」


 でしょ?


「で、それに潜水機能付けちゃったワケ?」


「そうよ。スイッチ1つでモードチェンジ、あっという間に潜水艦に大変身よ」


「そりゃタマげたなぁ・・・確かにこれは、お客さんがつきそうだな」


 既に、日曜日の昼間というだけあって、ボートがいくつか池の上を漂っている。私はおじちゃんの肩に手を置き、


「コッチの方は頼みますよ? 旦那ぁ」


 と言いながら、もう片方の手で“マネー”を示すサインを出した。


「ちょっと鏡子、金取る気?」


「このホバーについては寄付するだけよ? ただ、おじちゃんからチョッとお小遣いをもらうだけで」


 おじちゃんの給料は、このボートレンタルの売上げと直結してるらしい。私の発明品で売上げが増えるんなら、そりゃあね。


「そもそもおじちゃんに頼まれて作ったものだからね。ビジネスよビジネス」


「だったら寄付じゃなくてちゃんと契約すればいいじゃないの」


「嫌よ、自治体がやってる公園と取引するなんて。高校生に金払う訳ないし。それに、モノ売ったら税金払わなきゃいけなくなるじゃん」


「払えばいいじゃん。脱税する気?」


「違うわよ。寄付するんだから私の売上げはゼロ。つまり税金もかからない」


 その代わり、おじちゃんの給料が増えたら個人的にお小遣いを頂くって寸法よぉ。


「ドロッドロじゃん・・・」


「忘れたの? 私はマッドサイエンティストよ」


「今すぐ忘れたいから記憶を消す薬を作ってくれないかしら?」



 てな訳で、早速試乗。陸上も走れるこいつだけど、池と陸地の間に斜面がないから既に水上に乗っている。


「もう浮いてるのかコレ?」


「まだよ。今は単に水に浮いてる状態」


 で、エンジンをかければ、


 ゴオオオオオォォォォォォ・・・!!


 やっぱうるさいなー。


 ホバーの周囲に、水しぶきが出来る。


「すげぇ! これもう浮いてるのか!?」


 音が大きいから声張らないと会話できないわね。


「そうよ! 動かすからどっか捕まってなさい!」


 みんなして、ワタワタと適当な場所に捕まり始める。


「てか鏡子、あんた免許とか持ってるの!?」


「おじちゃん! ここはドコだっけ!」


「我々にとっては私有地だ!」


 オッケー。


「マジかよ・・・」


「厳木さん・・・」


 まあ、営業のためにおじちゃんには小型船舶の免許を取ってもらうけど。


「それじゃあ行くわよ!」


 巷に出回ってるホバークラフトがどうなってるかは知らないけど、こいつはワイヤーに繋がれたレバーを引っ張るだけで発進だ。行くぜ!


 ブオォォン!


 レバーを引くと同時にけたたましい音が鳴り、


 ビュウウウウウウゥン!!


「え?」


 超加速で発進!


「「「わあああぁぁぁぁぁ!!」」」

「きゃっ・・・!!」


 やべぇやべぇストーーーーップ!


 私はすぐさま鍵を回してエンジンを切った。だが慣性でホバーは進んで行き、一応は失速してるけど、


「ぶつかるうううぅぅぅぅ!!」

「うわああああぁぁぁぁ!!」


 ボフン!


 向こう岸に激突。そして一瞬だけ逆ウイリー状態になり、


 バッシャーーン!


「「きゃあああっ!!」」

「「うわあぁっ!!」」


 派手に着水。


 ああ~、ビビった~。なんであんな超加速だったの? 手元のレバーを確認。


 あ~、やっべ~・・・。このレバーまんまアクセルだったの忘れてたわ。そりゃ全力で引いたらアクセル全開なるわ。昨日の今日で急に試乗することになったから忘れてたよ。てへ☆ぺろ。


 後ろを振り返ると、みんな顔面蒼白の様子で呆然としてた。私のミスだったことは隠したいな~。


「楽しかった?」


 聞いてみてもみんな固まってたけど、2~3秒後に最初に反応したのは、鈴乃。


「っ・・・! 楽しい訳ないでしょ! 殺す気!?」


「ごめん、ごめんって、おふざけはこれくらいにするから」


「きゅ、厳木さん、あれ!」


 後ろを向いた白鳥さんが指差した先で、


「白鳥ひっくり返ってる!」


 黒田くんは“白鳥”としか言わなかったが、もちろんスワンボートのことである。衝突はしなかったけど、近くを全速力で通ったせいで転覆しちゃったか。てことは、人も落ちてる? 見ると、確かにバシャバシャともがいている人の姿が2つ。やっべー。


「管理人として今すぐ助けないと! はっ!」


「おじさん!?」


 バシャン!


 鈴乃の呼び掛けに応じることなく、おじちゃんは池に飛び込んだ。


「おじちゃん、無茶だって」


 私はスマホを操作し、ガチャコン、ガチャコン、と、ロボットアームを召喚。10メートルまでは伸びるので、頑張って泳ぐおじちゃんを捕獲。


「おおっ! 何だ!?」


「泳いだって間に合わないし、下手すりゃおじちゃんまで溺れるわよ?」


「鏡子ちゃん・・・!」


((ホバークラフトよりこっちの方が凄いんだけど・・・)) byオセロカップル16歳


「ここにあんじゃん、超スピードの船」


「鏡子あんた、まさか・・・」


「3人は降りてなさい。私とおじちゃんで行くわ」


 再びホバーのエンジンを入れ、導入しておいた180度旋回ボタンをポチッ。ガーーーーー、と音を立てながらホバーが180度回った。


「言われなくても降りるわよ! 1回ちゃんと動いてるとこ見せてよね」


 3人は後ろの方から陸に降りた。


「それじゃあ行くわよおじちゃん」


「頼んだよ、鏡子ちゃん!」


 さっきの感じだと、全力でレバー引いて1.2秒後にエンジン切ればちょうどあの辺りで止まるまず。自分で撒いた種だけど、人命救助と行きますか!


 ブオォォン!


 ビュウウウウウウゥン!!


 そして、エンジンオフ!


 ウウウウゥゥゥゥン・・・。


 よし、完璧。


「おじちゃんは男の人お願い!」


「よし、分かった! そりゃっ!」


 おじちゃんは救命うきわを投げ、微妙に通り越したけど相手がヒモを引っ張って手繰り寄せ、事なきを得た。その間に、私はロボットアームで女の人を救出。


「あ、ありがとうございます・・・」


 いや~それほどでも~。てか落ちたの私のせいだし。


「何だったんだ、今の・・・?」


 よかったー。私のせいだってバレてないみたい。

 ひっくり返ってるスワンボートをホバーにくくり付け、レンタルボート小屋に向かった。もちろん今度は、ゆっくりレバーを引いて徐行で。鈴乃には歩いて戻って来るようにメッセージを入れておいた。



 小屋には、池に落ちた人のための乾燥部屋があるらしく、2人をそこに連れて行った。さて、気を取り直してリベンジ。


「確かに、ちゃんと動くみたいね」


「誰が作ったと思ってるのよ」


「それが分かってるからこそ不安なのよ」


 じゃれ合いはこれくらいにして、再び5人でホバーに乗り込んだ。エンジンを入れ、ゆっくりとレバーを引く。


「おおぉ・・・っ!」


「どう? 風が気持ちいいでしょ?」


「いいから前見て運転しなさい!」


 はいはい。

 このレバーがハンドルも兼ねており、回せばホバーもカーブする。適当に、余裕がある時はスピードを上げたり岸の近くではレバーを押して減速しながら池の中を走り回った。他のボートの近くもちゃんと避けたよ?



 一旦停止。


「おお~っ! 確かに楽しいじゃんこれ!」


「私の発明品なんだから当然よ」


「最初は、ちょっと怖かったけど・・・」


「雪実もっと言ってやって」


「怖さも兼ね備えるのが私の発明品なのよ」


「乗り物に怖さなんて要らないわ」


「そしたら世界中の遊園地がつまんなくなっちゃうわね」


「あんた絶対遊園地に商品提供しないでよ」


 笑止。


(返事せんかい) by大曲鈴乃16歳。



「じゃあ鏡子ちゃん、そろそろ潜水の方を見せてよ」


「おっまかせ~」


 潜水艦に乗る機会なんてそうそうないからねえ。公園の池とは言えそれができるなら売れるっしょ。見せてあげようじゃないの。潜水の様式美ってやつを。


次回:様式美

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