第60話:迷子の迷子の・・・
イズミーランドを周遊中、迷子を発見した。お人好しの鈴乃が真っ先に向かう。
「どうしたのボク? 大丈夫?」
「ぐすん、ぐすん。おかあさんがぁ~~・・・」
うむ、あまりまともに話せる状態じゃないな。
「どうしよっか? 迷子センターとかあるんだっけ?」
「あるんじゃない? パンフパンフ!」
ぽんぽんさんはパンフ、田邊さんはスマホで迷子センターを探し、鈴乃は子供の面倒を見ている。私と仙崎が傍観者になったが・・・3人いれば大丈夫だろう。
「ちょっと鏡子、なんかないの? こういう時のためにいるんでしょ?」
私は普通に遊びに来てるんだが? しかし、迷子お助けグッズがない訳でもない。
「しょうがないわねえ・・・じゃあこれ行ってみよっか。“お探しシャボンバブリーズ”」
「何よそれ?」
「まあ見ててよ。すぐに分かるから」
私はシャボン玉セットを持って子供の所に寄った。
「はいこれ。プクーーッて吹いてみて?」
「う、うん・・・」
シャボン玉セットを渡す。子供は棒を持って、思いっきり息を吸ったあと、シャボン玉を膨らませた。
「さあ行くわよ? 目指せ、お母さんのもとへ!」
「わぁぁぁ~~っ!」
ストローから発射された大量のシャボン玉は、すぐに左の方に曲がっていった。
「あっちね。行きましょ」
「キョンキョンすご・・・!」
6人全員で、シャボン玉を追いかける。とはいえ1人は子供だから、その子のペースに合わせざるを得ない。田邊さんとぽんぽんさんが2人で背中を押している。
「これって探し物に向かってくとかそういうやつ?」
聞いてきた鈴乃だ。
「そうよ。吹いた時に、吹いた人が心から欲しいと思ってるものを目指すの」
「鏡子にしては役立つのえお作ったじゃない」
あ? 普段作ってるのが役に立たないみたいな言い方だな? おい?
「って、めっちゃ注目されてるし・・・」
大量のシャボン玉を6人で追いかけてるんだ。そうもなる。
「わーーーー!」
なんか他の子まで混ざったし。
10分ほどしたところでシャボン玉が動きを止めた。
「ここ?」
しかし、何もない道端だった。シャボン玉はこの場にとどまり続け、ここがゴールだということを指し示している。
「あちゃー・・・移動しちゃったか」
「え・・・? 鏡子、それって・・・」
「うん。吹いた時にお母さんが居た場所にしか行かないわよ」
「ちょっと! 追尾機能ぐらい付けなさいよ!」
「無茶言わないでよ。どんだけ難しいと思ってんのよ」
「ホント何のために来てんのよ・・・」
だから遊びに来てんだよ。ここ遊園地だぞ。
「うぅ、おかあさぁん・・・ぐすん」
とは言え、迷子は何とかせねばならない。
「じゃあさ! やっぱり迷子センター行こうよ! アタシがそれ吹けば迷子センター行けるっしょ!?」
「それがいいわね。迷子センターは動かないし」
「ぽんぽん凄い! 珍しく冴えてる!」
「“珍しく”ってヒドくない!? アタシいつもポヨってるっしょ!?」
「ぽんぽんがポヨってる時は全然冴えてないよ!」
「ヒドい!!」
それはさておき、迷子センターを目指そうか。
「それじゃあいっくよー! せー、のっ!」
プクプクプクプクゥ~~~ッ。ぽんぽんさんが吹いたシャボン玉が、迷子センターがあるであろう方向に向かって行く。
「え!? これの向こう!?」
シャボン玉は突如浮上を始め、売店らしき建物を越えようとし出した。
「しょうがない! 売店つっきってこー!」
田邊さんの一言で方針が決定。売店にいる皆さまには悪いと思いながらも、シャボン玉に置いて行かれないように急ぐ。
「あ、あった!」
脱出後、難なくシャボン玉は見つかった。あのまま高所を漂っていくようだ。
「追いかけよう!」
それから5分ほどしたところで、シャボン玉は降下を始めた。
「近いよ!」
そしてついに到着。シャボン玉は。ピザ屋の目の前で止まった。
「って、ピザ屋さん・・・?」
当然のごとく、鈴乃が疑問を呟く。
「えっと近くに迷子センターは・・・」
田邊さんが辺りを見回し始め、全員で同じように探したが、それっぽいものはナシ。ということは、もしかして・・・。
「もしかして、ピザが食べたかったとか?」
ぽんぽんさんに聞いてみた。
「えぇっ!?」
オーバーなリアクションを見せるぽんぽんさん。これはあれだな。図星だ。
「吹いた時に、吹いた人が心から欲しいものを目指すから・・・」
もし、迷子のお母さんを探しながらも、ピザ食べたいなーとか思ってたら、シャボン玉はピザのある方向を目指すことになる。
「え、えぇっ!? そ、そりゃ、おなか空いたし食べたいとは思ってたけどぉ~~・・・」
視線を外すぽんぽんさん。誰も、迷子がどうでもいいと思ってたんじゃないかと疑ってる訳じゃないさ。迷子本人が母親を探す気持ちと、そこに居合わせた女子高生が迷子センターを探す気持ちが同じなはずないからな。私のシャボンは、人の心を映すのさ。
「なんでそんな妙なトコに精度があんのよ・・・!」
ぎりり、と睨んでくる鈴乃。
「しょうがないでしょ、そういうやつなんだから。こりゃ多分、当事者じゃなきゃ無理ね。心の底から迷子センターを求める人なんていないから」
ぽんぽんさんは悪くない。本人はヘコんでるけど。
「あ、そうだ!」
田邊さんが何か思い付いた模様。
「スタッフの人に吹いてもらおうよ。プロだからきっと心の底から迷子センターを求めてくれるんじゃないかな」
なるほど、それもアリかもな。しかし、
「スタッフの人なら迷子センターの場所を知ってるのでは?」
仙崎から冷静なツッコミが入った。
「ああ~! そうじゃん! 何考えてんだろアタシ~~」
「ピザのことを考えてたアタシよりマシだよ・・・」
ぽんぽんさん・・・。
スタッフを捕まえ、迷子はそのまま面倒見てもらえることになった。ここまできたら最後まで送り届けたかったが、後のことはプロに任せよう。
「結局また鏡子の道具に振り回されたわね・・・」
「何か出せって言ったのは鈴乃でしょ」
結果が出なかったからって失礼なやつだ。
「まあでも、お昼はピザにすればいいって分かったから良いじゃん!」
「それやめて!」
頭を抱えるぽんぽんさん。まあ、仕方のないこととは言え、迷子を助けてる真っ最中に昼飯のこと考えてたのが露呈されたからな。
「ホント厳木さんの道具って凄いね・・・」
自分じゃなくて良かったと胸をなで下ろす田邊さん。せっかくなら仙崎にこの貧乏くじを負わせたかったと思って見たら、目が合った。
「私に吹かせたら、地球の裏側まで行くかもしれませんよ。心は常に“美”を追求してますから」
あぶねえ・・・何考えてるか分からんやつは怖いな。
色んな意味でぽんぽんさんを気遣う形で、シャボンが止まったピザ屋で昼飯にしたあと、午後の部スタート。引きずらないタイプなのか、ぽんぽんさんはすっかり元気だ。
「ピザも食べたし締まってこーー!」
引きずっては居るようだな。自虐してるし。
食後ということで、軽めのアトラクションにした。というかイズミーは絶叫系はそんなに多くない。2大絶叫マシーンに真っ先に行っただけだ。
まずは、大豆の人形劇の映画をモチーフにした部屋を乗り物で進みながらデカい水鉄砲で射的のゲームをする“ソイ・ストーリー・ハウス”。
「あ! ひーひーあっち狙って! アタシのんのん狙うから!」
ビシャッ。
「うわっ! やったな~~!」
仲間割れは定番である。協力プレイなんて子供のすることさ。
「こっちも巻き添えなんですけど・・・!」
「戦線離脱は禁止だよリンリン!」
水鉄砲合戦になるなんて、最初から分かっていた。
次、リアルにあったかいお茶の入ったカップに入ってぐるぐる回る“フィルド・ティーカップ”。
「ねえひとみん、思いっきり回してもいい?」
「ええ。どんな状況でも描くのが、絵描きの務めですから」
ほぼお茶風呂状態のこれに浸かりながら絵を描くとは、優雅なものだ。
「みんな知ってるー? このお茶って結構美味しいんだよ?」
と言いながら迷わず飲むぽんぽんさん。お茶は1時間に1回は交換されるらしいが、普通に前に乗った人のダシとかもあるだろ・・・。
「それーー!」
こっちはぽんぽんさん、鈴乃、私のカップだが、当然のごとく全力回転だ。回転する風呂ってのも中々いいな。
次、水族館のように水槽の立ち並ぶ迷路に数多くの幽霊がひそむ“ホーンテッド・アクアリウム”。
「ぎゃーー! 出たーーー!」
「こっちこっち! 早く飛び込んで!」
順路にはプールも並走しており、そっちに逃れることもできる。しかし、
「ぎゃーーー!! こっちにもーーーー!!」
魔の手はどこからでも忍び寄る。というかプールだとマジで引きずり込んでくる。
「のんのんガンバ♪」
「知ってたなこのー! あぁ~~ばばばばばば・・・」
田邊さん、水没。高校生ぐらいにもなると容赦ないからなイズミースタッフは。なお上級者はスタッフと水中戦を繰り広げることもあるらしい。
そんなこんなで、夕方を迎えた。
「最後にアレいこー! “イズミーワールド”!」
最後を飾るのも、定番中のド定番、世界中の泉のレプリカを船で巡る“レッツ・ザ・イズミーワールド”だ。もちろん現地の実物より小さなミニチュアモデルだが、細かいところまでよく再現されていて旅行気分を味わえる。仙崎のスケッチも捗ることだろう。
順番が回ってきて、乗り込む。
♪~~♪♪~♪~♪~~♪♪~
ここで流れるテーマソングも人気の理由の1つだ。世界各国の泉を巡りながら、その国の言語に翻訳されたものが入れ替わりで流れていく。
「おぉぉ~~っ」
「いい景色だ~」
このアトラクションはあまりワーギャー騒ぐものじゃない。せいぜいBGMと一緒に歌うぐらいだ。
「テレビで見るのと一緒だぁ。相変わらずどこの泉なのか分からないけど」
雰囲気を重視しているのか、登場する泉がどの国の何という泉なのか説明するものは一切ない。BGMの言語が分かれば多少は絞れるが、歌の方も何て言ってるかよく分からない。最初はスペイン語っぽいが。
しかしそれもイズミーの醍醐味であり、生命の源である泉を、小舟でゆったり巡る。その国の特色を示すものぐらい置けばいいものを、それもなく、一応動物の模型はあるが現地の森や岩場がそのまま再現されている。愉快な音楽に身をゆだね、生命の神秘を見つめ直すのが“レッツ・ザ・イズミーワールド”の楽しみ方だ。
「見て見てー! ヘビとカエルがキスしてるー!」
ここは、幸せな世界。種族が異なる以上は食物連鎖が発生するが、それは生きるために必要なことであり、ここでのキスは感謝を示す友好の証である。
カエルとヘビだけではない。トラ、ライオン、シマウマ、トンビ、もちろん魚も。色んな動物たちが世界の泉に集結し、お互いの命を尊重する姿が描かれているのだ。
ここは、全ての生命の楽園。我々の体を作る水と、それを求めて集まる動物、その場で生きる植物。人間は模型がない代わりに、私たち乗客が巡る。ここでは、ここにいる間だけは、タンパクだとかビタミンだとかを忘れて、みな共通のエネルギーである水を、争うことなく分かち合うのだ。
舞台が英語圏に移ったのか、英語の歌詞が聞こえてくる。もちろん日本語歌詞が一番有名なのだが、こっちも聞き覚えはある。我らは、友だち。我らは、家族。我らは、水の世界で生きている。ただひとつでありながら世界中に存在する水を、私たちは共有しているのだ。ここはそんな、幸せの楽園。
このアトラクションはたっぷり10分を要する。世界で最も番幸せな10分間と称されており、確かに普段の喧騒も忘れられそうな感覚に浸ることができる。あまりに幸せすぎる空間が逆に怖いという声もチラホラあるが、人間社会の闇に当てられ続けた結果だろう。もはや病気とも言える領域だが、実際に闇と欲望が渦巻いてるから仕方ない。
「あ、日本語キタ!」
「やっぱ最後はコレだよね!」
世界中を巡ったあと、最後は日本で締めくくられる。いいトコで歌が日本語に変わる演出がニクい。
日本代表の泉は、ここイズミーランドそのものだ。というのも、今まさにこの舟が進んでいるここに、リアルに湧き水があるのだ。正確に言えば、湧き水がある場所にこの遊園地とこのアトラクションが作られた。だから”現地再現”のオブジェはイズミーランドということになり、全アトラクションの模型が周りには広がっている。そして、
「わーー! イズミーラビットだーー!」
主役のイズミーラビットを始め、イズミーキャラクターが勢揃いで私たちの帰りを出迎えてくれる。最後を飾るのにふさわしい演出だ。ゴールへとゆっくり向かう舟の上で、私たちもイズミーキャラクターに手を振った。
”レッツ・ザ・イズミーワールド”終了。
「いやぁ~~、楽しかったね~~!」
「ね! イズミーキャラみんな出て来てビビッちゃった!」
「公式動画にもそこは載せてないからね~」
自慢げに語るぽんぽんさん。個人動画ならネタバレもふんだんにあるのだろうが、わざわざ見ないからな。
「夜はパレードだよ! ご飯食べてテンションポヨってこ~!」
「またピザにする?」
「やめて~! イジらないで~~!」
イジられ慣れてなさそうだからな、ぽんぽんさん。
「もう着替えても大丈夫なんですか?」
と、仙崎。結局途中から着替えるのが面倒になったのか、仙崎もジャージon水着のままになっていた。最後に乗ったイズミーワールドはほとんど濡れなかったし、後はパレードだけだ。だが?
「パレードもめっちゃ濡れるよ!」
イズミーにおいて濡れないのはイズミーワールドぐらいである。パレードも生易しいものではなく、キャストが水鉄砲撃ちまくるのはもちろんのこと、パレードカーにも水の大砲があるし、地面とか建物からもバンバン水が飛んでくる。
「そうですか・・・ちょっと冷えそうですね」
「これ飲む?」
「・・・どんな副作用が」
「次の日に熱出して寝込むぐらいよ。飲まずに寒くて風邪引くか飲んで寝込むかどっちか選んでネ♪」
「うわサイアクの2択・・・」
鈴乃は黙ってな? どうせ飲まないんだろ?
「・・・遠慮しておきます」
あんたも飲まんのかい。
「んじゃさっさとピザ食べに行きましょ」
「だからピザじゃないって!!」
「あ、ごめん。間違えた」
今のは素で間違えた。私は別に2食連続ピザでも構わないけど。
晩飯は趣向を変えて中華になった。食い終わる頃には良い感じに暗くなっていて、パレードにもってこいの状態になった。
「レッツ・パレード~!」
「イェ~~~~イ!」
私たちは意気揚々と、パレードが行われる通りへ向かうのだった。
次回:アクアティックパレード・ドリームウェイブ




