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第6話:黒田あああぁぁぁぁ

「神様仏様厳木様! お願いします!」


 月曜日、白鳥さんが図書委員の仕事でいないタイミングで、私は黒田くんに呼び出されていた。その内容は、


「本当に返すんでしょうね?」


 10万円貸してくれ、というものだった。


「本当だ! 天に誓う!」


「1年以内に返すこと、それとは別に”焼肉エンペラー”のロイヤルコースを奢ること。これが条件よ」


 黒田くんの顔が、ぱぁっと明るくなった。”焼肉エンペラー”は焼肉のチェーン店で、ロイヤルコースは5,000円の食べ放題メニューだ。こいつ、年利5%を何とも思ってない。


「ありがとう厳木、いや厳木様!」


「約束さえ守ってもらえればいいのよ」


「ああ。絶対、これからバイトして貯めっから!」


 バイトすれば10万円なんて大して時間かからないだろうに、よっぽどすぐにお金が欲しいのねえ。もしかして、あのラブストーリーの主人公と同じことする気? 白鳥さんの乙女っぷりを考えれば上手くいくだろうし、面白そうだから止めないけど。


「そ。じゃあよろしくね」


【ザーーーーー。

 1年以内に返すこと、それとは別に”焼肉エンペラー”のロイヤルコースを奢ること。これが条件よ。

 ありがとう厳木、いや厳木様!】


「逃がすつもりはないから」


「あ、ああ! 任せろ!」


 この分だと、そう遠くないうちに返ってきそうね。


 --------------------------------


 放課後、ファミリーレストラン“ジャスト”。


「ちょっと早いかも知れないけど、おめでとう」


「う、うん。ありがとう。厳木さん、鈴乃ちゃん」


「もう一歩ね。頑張って、雪実」


「そ、それで、次のデートが土曜日のお昼からなんだけど・・・」


 さすがに今度は部活終わってからにしたか。この分だと日曜日もデートしそうねえ。


「あ、アドバイスが、欲しくて・・・」


 はあ? もう黒田くんもその気になってんだから適当でいいでしょ。


「もうコクっちゃえば?」


「!」


「ちょっと鏡子!」


「いやだって、いつかはコクんなきゃいけない訳だし、黒田くんもまんざらでもなさそうだったじゃん」


「それでもこういうのは丁寧にやんなきゃいけないのよ」


 でも私は黒田くんがお金借りに来てっからもう結果分かってんだけど。勝利確定案件をいつまでもダラダラ進めてる暇はないのよ。ファミレスでがっつりガールズトークやる暇はあるけど。


「じゃあさ、そのデートはどこに行くのよ?」


「えっと、北窓咲駅にお昼の1時、って言われてるけど」


 よし、そこにコバエ型ドローンを送り込もう。鈴乃の視線が痛いなあ、全くもう。あんたそんな冷めた視線送ってるけど、どうせ一緒に見るんでしょ?

 てか、白鳥さんの方から誘ったのに黒田くんがどこ行くか考えたのかよ。白鳥さんの純情っぷりに惚れちゃう気持ちも分かるけどね。


「北窓咲って言えば・・・」


「ん?」


「あ、いや、何でもない」


 鈴乃はギリ、ネタバレをせずに踏みとどまった。北窓咲でデートなら水族館に行くだろう。


「デート、頑張ってね。応援してるから」


 画面の向こうでね。


 --------------------------------


 そして迎えた、土曜日。私は鈴乃の家に上がり込んでいる。


「私のPCで見るんだからウチで良かったじゃん」


「あんな訳わかんない機械だらけの部屋で人のデート見るのは嫌よ」


「人のデート覗いてる時点であんたもマッドサイエンティストの仲間入りね」


「うるさいわね・・・だって気になるでしょ」


 いやそれでも友だちのデートとかウォッチングする奴なんてそうそういないでしょ。さすが私の親友だ。


【あ、純ちゃん。ごめんね、待った?】


【いいや、ついさっき来たとこ】


 嘘つけ。お前10分はそこで待ってたぞ。そしてまだ12時40分というね。


【んじゃまずメシにすっか。部活終わったばっかで腹減っちまって】


【うん】


 2人が移動を始めた。


「ところでさ、黒田くんって部活何やってんの?」


「バスケみたいよ」


「へえ」


 気になったから聞いてみたけど、割とどうでもよかったな。


 昼食会場は、ちょっと洒落たイタリアンレストラン。なに背伸びしてんだよ黒田。昼食の間は、思いのほか差し障りのない会話ばかりで、とくに2人がぎこちなくなることはなかった。何この、既にちょっと一歩進んでる感じは。



 2人がレストランを出た。


【それじゃあ、こっち】


【!!】


「わぁっ、黒田君、やる~~ぅ!」


 手を繋ぎましたよ? 黒田くん。そして真っ赤になって俯く白鳥さん。いやぁ、青春ですねぇ。


 そして向かった先は、やはり水族館。私のコバエ型ドローンも、スタッフの目をかいくぐる必要もなく中に入って行く。


「ねえ、あたしたち、金払わずに水族館見てることにならない?」


「バレたら犯罪でしょうね」


 だが、これも私のビジネスのため。魚ではなく、あくまで白鳥・黒田カップルをウォッチングするためにやっていることだ。どうせこの2人メインで映すしイイっしょ。


 黒田くんに手を引かれ、半歩後ろを歩く白鳥さん。どんだけ乙女なんだよこの人。


 2人で薄暗い水族館内を歩く中、時々肩がぶつかる!


【ご、ごめん・・・!】


【あ、俺は、大丈夫。むしろちょっと、嬉しかったから・・・】


【~~~!!】


「ちょっと黒田ぁ!」


「落ち着きなさいよ鈴乃」


 先週のハンバーガー屋とは違い、自分の家だから鈴乃はめっちゃ叫んでる。


 今度は、つまづいた白鳥さんを黒田くんが抱きとめる!


【大丈夫か? 雪実】


【だい、じょうぶ・・・】

(全然大丈夫じゃない・・・!)


【ほら、気を付けろよ。まあ、いざとなったら、俺が助けてやるけど・・・】


「黒田ぁ!!」


 鈴乃うるせー。いいじゃんか別に。白鳥さんも嬉しそうなんだから。

 こうして麗しの白鳥さんが巣立っていく訳ですね。見届けてあげようではありませんか。


 その後も鈴乃が叫ぶ展開が何度かあった後、2人は水族館内の喫茶店で休憩に入った。


「鈴乃あんた、叫んでばっかで疲れないの?」


「黒田が悪いのよ黒田が。よくもあんなキモいこと言えるわよね」


「とか言っちゃって、自分も言われてみたかったりするんじゃないの?」


「人前であんなこと言われたら殴り飛ばすわよ」


「2人きりだったらいいの?」


「っ・・・そうじゃなくって!」


 あ、これ、図星のやつだ。


「ホントもうあいつ、雪実が純情だから受け入れられてるだけで、普通だったらとっくにドン引きされてるわよ」


「実際、近くにいた人たち引いてたわよね」


 隣歩いてる高校生カップルがあんなセリフ吐いたら引くわ。



 休憩を終えた2人は水族館内の散策を再開。相変わらず手を繋いでいたのだが、なんと、白鳥さん自らが“恋人繋ぎ”を実行!


「雪実ぃ~~!」


 いや喜べよ鈴乃。あんたも情緒不安定になってないか? なんか、「あああぁぁぁ」とか言って悶絶してるし。今日に限っては、私より鈴乃の方がマッドだわ。

 でもここまでくると、あとで「自分から恋人繋ぎやるなんて凄いじゃない」とか言ってからかいたくなってくる。白鳥さん、マジ可愛いから。


 ここで黒田くんが、白鳥さんに応えてギュッと手に力を入れた。白鳥さん、気をしっかり!

 私がからかわなくたって、黒田くんがいれば可愛い白鳥さんを見ることができるんだな。恋のパワーには私も勝てないわ。



 もう回り終わったのか、水族館のエントランスに戻って2人。


【俺ちょっとトイレ行ってくるわ】


【うん、待ってるね】


 1人になった白鳥さん。ここぞとばかりに胸に手を当てて深呼吸している。心臓に悪いもんね、黒田くんの言動。白鳥さんが自滅するパターンもあるけど。


【ちょっと彼女ぉ、今日1人? 俺らと遊ばね?】


 ・・・あ?


【あ、えと、その、・・・】


「ちょっ、誰よあいつら!」


 白鳥さん、ナンパされちまったよ。相手はまあ、イケメンっちゃイケメンだけど、白鳥さんと付き合えるレベルには遠く及ばないわね。(まあ普通に黒田くんも及んでないけど)


「ちょっと雪実、そんなの断っちゃいなさいよ。彼氏と来てるとか言って」


「それ火に油じゃない? あいつら、“カレシとかほっといて俺らと遊ぼうぜ~”とか言うでしょ」


 そんな強引な態度じゃ、せっかくのイケメンが台無しだと言うのにね。まあ私にとって、イケメンはあくまで観賞用。言葉を喋る必要はないのです。


【えと、人を、待ってるので・・・】


 お、きっぱり断った。


【いいじゃんかよ~。今日1日ぐらい】


 強引に手をつかむナンパ野郎。


【や、やめてください・・・!】


「ちょっ、黒田君、早く戻って来なさい!」


【ゆ、雪実!】


 ヒーローが駆けつけて来た。


【なんだ兄ちゃん、今日は俺らがこの子と遊んでんスけどぉ?】


 今ナンパしたばっかで何言ってんだこいつ。


【違う! 今日は俺が雪実とデートしてるんだ! お前たちには渡さねぇ!】


 黒田、かっけぇ。鈴乃も、「ほぉ~~」と感心している。


【ああ~~ん? 兄ちゃんは社会ってモンが分かってないみてぇだなぁ?】


 ナンパ衆の1人が、黒田くんの腕をつかむ。


「ねえ、これヤバくない?」


 ちょっとした騒ぎになってるようね。周囲も距離置いて見てる感じ。

 さすがにお兄さんたち、ちょっとやり過ぎなんじゃないかしら。うちのクライアントに手ぇ出すなんて良い度胸じゃねぇかよ、ああ~~ん?


「平気よ」


「え?」


「行きなさい、カラスちゃんたち!」


【バサバサバサバサ!】

【バサバサバサバサ!】


 画面の中で、ナンパ野郎にカラスが群がり始めた。


【うわっ! なんだコイツ! ここ建物ン中だぞ! くそっ、このっ!】


「これ・・・まさか鏡子?」

 

 元は、何のハプニングもなかった時にカラスに襲わせて、黒田くんに白鳥さんを守らせるつもりだった。まさかガチでナンパ野郎が寄って来るとは思わなかったが、結果オーライ。


「カラスちゃんたちには申し訳ないけど、これも乙女の恋のため、ってね」


 一番は、私のビジネスのためだけど。


 ナンパ野郎たちは、相変わらずカラスに襲われている。


【ゆ、雪実、今のうちに逃げるぞ!】


【うん!】


 黒田くんが手を引っ張り、2人はその場を離れて行った。


「お疲れさま、カラスちゃんたち」


 カラスをその場から退散させると、ナンパ野郎のもとに警備員が寄って行った。あとはプロに任せて、コバエ型ドローンで2人を追い掛けた。


 結局、屋外まで出たようだ。


【雪実、大丈夫だったか? 酷いことされてないか?】


【う、うん。私は、だい、じょうぶ・・・】


 だが、ポロポロと、白鳥さんの目から涙が流れ始めた。


【こわ、かったよ。純ちゃん・・・。ううぅぅぅ・・・!】


 黒田くんの胸に顔をうずめ、泣き始めた。


「ちょっと鏡子、あいつらにもっとお仕置きしなさいよ」


「もう無理よ。姿見えないんだから」


「うぅ~~。雪実を泣かせるなんて、許せないわ」


「それは黒田くんも一緒でしょ。あとは彼に任せましょ」


【ヒック、ヒック・・・】


 白鳥さんが落ち着いてきた。


【ごめんな、雪実。俺がもっと強ければ怖い目に遭わずに済んだのに】


【ううん。純ちゃんは、悪くない】


 何この展開。


【私を守ろうとしてくれたこと、とっても嬉しかった】


【雪実・・・】


 おいおいおいおい。道端で何やってんのこの2人。青信号になっても渡らずに止まって見てる人、めっちゃいる。


【雪実。その・・・。こんな俺でも良かったら・・・】


 そう言って黒田くんは抱き止めていた白鳥さんから離れた。まさか、こいつ。


【?】


 白鳥さんは、目に涙を残したまま不思議そうに黒田くんを見る。


 そして黒田くんは、カバンから小さな箱を取り出し、その場でひざまづき、箱をパカリと開けながら、



【俺と、付き合ってください】



「黒田あああぁぁぁぁ!!!」


「ちょっと鈴乃うるさい!! もっと静かに遊びなさい!」


 ついに、鈴乃母から怒りの声が飛んで来た。


 いやしかし、黒田の奴、やりおった。先週見た映画のワンシーンのように、プロポーズではないながらも周りに人がたくさんいる状況で、10万円で買えるものだけどペンダントを渡しながら、告白しおった。


 そして白鳥さんの返事だが、もちろん、



【はい・・・!】



 嬉しそうに涙を流し、受け入れた。


【【ワーーーーッ!】】

【パチパチパチパチ!】


 エキストラの皆さんも、これを祝福。通りすがりの高校生カップルが告白を成功させたら、私も祝福するわ。


「いや~~っ、やりましたねぇ、あの2人」


「ホントよぉ、いきなりでビックリしちゃった。こんな所で、ムードも何もないじゃない」


「もうこればかりはあのナンパ野郎の功績ね」


 何もなくても夕方にはコクってたかも知れないけど。


「それとこれとは別問題よ。今度同じことする奴いたら、二度と外歩けなくなるぐらいにブチのめしてよね」


「“二度とナンパできないぐらい”じゃダメなの?」


「足りないわよそんなんじゃ。あんたマッドサイエンティストでしょ?」


「そうだったわね。再起不能なレベルでブチのめさないとね」


 さて、2人が成就された時点で、もうウォッチングを続ける必要もない。


 プツン。


「あ!」


「どうしたのよ?」


「何消してんのよ。いいトコなのに」


「依頼の完遂が確定したわ。これ以上見る必要はないでしょ」


「あるに決まってんでしょ。早く点けなさいよ」


 両手でグイグイと胸ぐらをつかんでくる鈴乃。


「嫌ですー」


 誰が好き好んで人のイチャイチャなんか見るのよ。


「それでもマッドサイエンティストなの?」


「マッドサイエンティストだからあんたの言うこと聞く必要もないわよね。撤収よ撤収」


「ええ~~?」


「後で本人から聞けばいいでしょ」


「全く、妙なトコで真面目なんだから」


 真面目ってか、マジ、あの2人のイチャイチャを見てられない。


 --------------------------------


 その日の夜。


 タンタラタンタラタタララララララ♪


 白鳥さんから電話が入った。


「はい、厳木だけど」


【あ、厳木さん。実は、その、今日・・・】


 ん? 何だね? お姉さんに話してみな?


【じゅ、く、黒田君と、付き合うことに、なり、ました・・・///】


 うん、知ってた。


【えと、その・・・グスッ・・・】


 え、ちょ、泣いてんの?


【本当に、本当にありがとう。厳木さんのお蔭で接点できて、お出掛けもできて・・・もしあのまま疎遠になってたらと思ったら、私・・・!】


 ちょっちょっちょっちょっちょっちょっちょっちょっ、分かったから、分かったから!

 ここまで熱烈に感謝されると、こっちまで反応に困る。


「別にお礼なんていいわよ。私は、報酬さえもらうことができればそれでね」


【あ、うん・・・でも、ありがとう】


 律儀だねえ白鳥さん。


「で、報酬の方だけど、黒田くんと2人で新作のテストだからね。ちゃんと誘っておいてよ?」


【あ、それなんだけど、明日で、大丈夫だよ】


「え、明日? ・・・オッケー、じゃ、鈴乃は私が呼んでおくから、後で時間と場所伝えるわね」


【うん。本当に、ありがとう、厳木さん】


 急きょ明日に決まったけど、まあどうせ鈴乃も暇でしょ。


次回:新作テスト

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