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第59話:夏休みイズミー

「レッツ、イズミーーーー!!」


「イェーーーーーー!!」


 今日は、イズミーランドに来ている。いつぞやのフリピュア衣装作りで協力してもらった美術部員・仙崎への報酬支払いのためだ。しかし私には猫探しで君津にもらった年パスがある。今日1日奢る程度など、痛くない。

 どっちかというと古川からもらった20万が君津とキンダイチの手で溶かされたことの方が痛い。その心の傷を癒すためにイズミーに来たと言っても過言ではない。


「みんなどったの? テンションポヨってくよ!」


「イェーーーーーー!!」


 やたらテンションの高いこの2人は、ポヨがソウルワードのぽんぽんさんと、猫探し以来の仲である田邊さんだ。はっきり言って仙崎と2人でイズミーはキツい。あと鈴乃もいるから5人だ。


「朝っぱらから元気ね2人とも・・・」


 イズミーの鉄則。朝イチで行かないとロクに遊べない。イズミーランドは千葉にあって、窓咲からだと1時間以上かかる。

 あとクイックパスというのもあって、一言で言えば専用レーンに並べるチケットだ。朝イチに来てこれを入手することがイズミー攻略の鍵となる。という訳で今日は7時に窓咲駅集合で出発していた。


「元気出してこうよリンリン! イズミーだよ!?」


 基本怒る時以外は静かな鈴乃をアゲようとするぽんぽんさん。彼女は人をあだ名で呼ぶのが常態化しており、鈴乃はリンリン、私はキョンキョン、田邊さんは紀香だからのんのんだ。仙崎はと言うと・・・?


「そいえばひーひーと遊ぶの初めてだね! ぽよぽよ~~⤴?」


「ひ、ひーひー・・・?」


 戸惑う仙崎。ああ、ひとみだから“ひーひー”か。しかしこの基準でいったらそのうち重複が出そうだな。ぽんぽんさんは友達50人以上作れないかも知れない。


「そ。ひーひー。いえーーーーーい!」


「はぁ・・・」


 仙崎の曖昧な返事をよそにテンションアゲアゲなぽんぽんさん。仙崎はしばらく固まっていたが、やがてぽんぽんさんが田邊さんと喋り始めたのでひと呼吸ついて、遊園地鑑賞に戻った。早速なんか描いてるし・・・美術部員として興味があるんだろう。


「やっぱり最初はアレ! スプラッシュヘル!!」


 ぽんぽんさんが指差したのは、泉に向かって急降下して完全に水没までしちゃうアトラクション、スプラッシュヘルだ。10秒ほど息を止めるのを求められるが、その水没中の浮遊感と44度の湯温が人気を呼んでいる。

 言い忘れていたが、イズミーランドの“イズミー”の語源は“泉”である。そして隣には全アトラクションに海水を使用したイズミーシーもある。もちろんアトラクションの重複はないが、淡水にしてくれと思えるようなものも少なくない。


 スプラッシュヘルの入口に到着。クイックパスをもってしても30分待たされるのは常識だ。人気アトラクションに30分で乗れるだけでも有難いと思わなければならない。女子高生の30分は安くないんだがな。


 その30分を有効活用すべく、田邊さんとぽんぽんさんと軸にガールズトークを繰り広げるのである。


「ひーひー夏休みの宿題ポヨった!?」


「え、ポヨ・・・? あー・・・いえ、まだです」


 一瞬戸惑いを見せた仙崎だが、ぽんぽんさんの言わんとしてることは理解したらしい。これで君もポヨマスターだ!


「というかまだ1日目ですけど」


 終業式昨日だったからな。


「たまにいんじゃん! 夏休みの宿題ソッコーでポヨる人! ひーひーもそうなのかと思って!」


「さすがに1日では・・・」


「だよねー! てかせっかくの夏休みなのに宿題とかポヨれないわぁ~」


「ですね」


 ちょっと疲れた様子の仙崎。その気持ちは分からんでもない。


「そういえば仙崎さんって部活は?」


 今度は田邊さんからだ。そういや夏休み初日から遊びに来てたな。てかぽんぽんさんと田邊さんも何部なんだろ。


「美術部ですけど」


「美術!」


「美術! ポヨい!」


「えっと・・・お2人は?」


「アタシはテニス! 今日はお土産を約束してサボリ!」


「同じく帰宅部! 今日は遊びたいからサボリ!」


 何がどう“同じく”なのか分からんが、ぽんぽんさん帰宅部とは意外だな。あーでも家族旅行とかしょっちゅう行ってるんだっけか。だとすると部活はメンドいか。


「キョンキョンとリンリンは!?」


「私も帰宅部。金にならないからね」


「キョンキョンまじウケる! リンリンは!?」


「あたしも帰宅部よ。鏡子がほっとくと何しでかすか分からないから」


「リンリンまじウケる! キョンキョンやばいもんね!」


 この人って普段私のことどう思ってんだろ。単純そうに見えて謎多き人物だから地味に気になる。


「今日は大丈夫なんでしょうね・・・」


 細い目を向けてくる鈴乃。相変わらず失礼なやつだ。


「大丈夫に決まってんでしょ。だいいち今日は遊びに来ただけよ」


「その“遊び”が怖いんだけど?」


「他意なんかないわよ・・・」


「キョンキョンの遊びは時々ポヨっちゃうもんね!」


 言うて最近ってポヨったか? 最後になんかあったのは・・・星岡のリアルすごろくが爆発したやつか。いやあれ星岡のせいなんだが。私まで巻き添えで説教食らったけど。


 と、ここで田邊さんが話題を切り替えた。


「てか迷いなく絶叫系来ちゃったけど鈴乃と仙崎さんは大丈夫?」


 なぜ私には聞かない? まあ大丈夫なんだが。


「あたしはちょっと怖いけど、まあ」


 苦笑いの鈴乃。まあ割と普通だったはずだ。


「てか鏡子と一緒にいると鍛えられるし」


「あ、そだね」


 こいつらサラッと私に失礼なんだが?


「仙崎さんは?」


「私も・・・あんまり乗り過ぎると気分悪くなるかも知れませんけど」


 こいつも人並みか。苦手だったら美術資料のためとは言えこのテンション高そうなメンバーでは来ないか。だが? もし苦手だったとしても対策はちゃんと用意してあるぜ?


「不安なら酔い止め薬もあるわよ? あと、緊張とか不安がほぐれる薬も」


「副作用は?」


 すかさず聞いてくる鈴乃。仕方ない、答えるか。


「前者は効果が切れた時に猛烈な吐き気に襲われる。後者は効果中、喜怒哀楽の感情も欠如する」


「ダメじゃん!!」


「何がダメなのよ? どうしてもって時に耐えられるのは大事なことよ?」


「副作用なしってのはできないワケ?」


「犠牲なしに何かを得ようだなんて甘いのよ」


 人間の体を誤魔化すってのはそういうことよぉ。


「薬だけは無駄に甘いクセに・・・」


「口にするものなんだから美味しい方がいいに決まってるじゃん」


「副作用もない方が良いに決まってるでしょ!!」


 それは我慢すべきだな。味を犠牲にしたところで改善できるものでもないし。


「でも変な副作用あるって言われると逆に気になるよね! 飲んでみよっかなー!」


「え、本気?」


 思わずぽんぽんさんの方を見てしまった。


「マジマジ! ちょっと飲みたい!」


 マジか。


「なんで作った本人が“本気か”って聞いてんのよ・・・」


 いや~、こんな物好きもいるんもんなんだなと思ってね。


「じゃあ、はい。10秒ぐらいの量で」


 私は丸薬の端っこの方を指2本でえぐりとり、親指でピンッとぽんぽんさんの口に飛ばした。感情が欠落する方の薬だ。


「あむ」


 もぐもぐ、ごくり。


「どう? ぽんぽん」


 興味津々で覗き込む田邊さん。これはアレだな。薬は気になるけど自分では飲みたくないってやつだな。ぽんぽんさんは、その好奇心がゆえに人柱となったのだ。


 そのぽんぽんさんの反応だが・・・?


「ほわ~・・・ほわわ~・・・ぽよぽよ~~・・・・・・」


「ダメじゃん!!」


 すぐさま肩を支えに行く鈴乃。それに田邊さんも続いた。


「ぽんぽんしっかり!! 戻って来て! あたしを置いて行かないでーーー!!」


 田邊さんは演劇の練習でもしてるのか?


「一度こういうの言ってみたかったんだ~」


 作用でございますか。


 で、仙崎は?


 シャカシャカシャカシャカ。


 なんかスケッチブックに向かってめっちゃ描いてた・・・。


「そういや専門って人物画?」


 せっかくなので聞いてみた。


「いえ、静物画や風景が多いですね。人からは“美”を感じないので」


 ・・・ん? 今こいつから闇を感じたんだが。


「でも今は人を描いてんのね」


 今のポワッってるぽんぽんさんからも“美”が感じられるとは思えないんだが。


「ああいった、人が理性を脱ぎ捨てた状態からは生命の美を感じます」


 うぉ・・・今のも聞かなかったことにしよう・・・。


「ああ~ビックリした~~。アタシ今ポヨってなかった!?」


 ぽんぽんさん復帰。


「ポヨってたって言うかポワってた!」


「ポワ!? アタシついにポワっちゃった!?」


「うん! ポワかった!」


「今日はポワ記念日だね! キョンキョンありがとーー!」


 自分で作った薬を飲ませといて言うのも難だが、ここまで楽観的だと逆に心配になってくる。


「ぽんぽんさんの性格なのか薬の後遺症なのかが分からない・・・」


 鈴乃は何やらぶつぶつ呟いてる。なに半分私のせいにしてんだよ。



 行列が進みスプラッシュヘルの順番が近付いて来た。だがまずはロッカーに通される。アトラクションの仕様上ズブ濡れになってしまうから、荷物を置けるのと、水着とジャージも用意されている。


 だが私には急速乾燥ボックスがあるから不要だ。イズミーは濡れるアトラクションばかりだから、電話ボックス的な感じで入ればブワーーッと瞬間乾燥する道具を作った。

 それでも水着になることがイズミーの醍醐味らしく、面々は着替えている。レンタルのやつもイズミーのキャラクターがプリントされていたりとキュートだが、本職の女子高生は自前で持って来る人も多い。


「あ、ぽんぽんまた新しいの買ったの?」


「ぽよぽよ~~⤴? 2年連続同じ水着とか、2日連続で同じご飯食べるようなもんだよ!」


 何とも言えない例えだな・・・。まあ、芸がないって言いたい気持ちは分からんでもない。


「おー! キョンキョン私服のままとか勇者!」


「すぐに乾かす道具もあるからね」


「普通に服着たまま濡れるってのもアリだよねー!」


 実際、そういう遊び方をする人もいる。特に夏場は。


「ちょっと鏡子それ私にも貸しなさいよ」


「鈴乃も私服のまま乗るんならね」


 鈴乃と仙崎はレンタルの水着にジャージだ。ジャージの方にもイズミーキャラがプリントされており、この2人にはあんまり似合ってない感じになっている。タオルも用意されてんだから自分で拭けよ。


「けち」


「そうね。金払うんなら貸さなくはないわよ」


「べーー」


 舌を出して来る鈴乃。そこに私はほんのひと欠片の薬を投じた。


「ん? ・・・ほわ~~・・・ハッ、ちょぉっ! 何飲ませんのよ!」


「ごめん手が滑った」


「あんたね・・・!」


「リンリンもいい感じにポワッてたよ!」


「はぁ・・・怒る気も失せる・・・」


 まぁまぁ、せっかく遊園地に来たんだから、テンションアゲて遊ぼうぜ?


「お客様、準備はよろしいでしょうか」


「「は~~~~い!!」」


 順番が回ってきたので移動。5人中2人が水着、2人がイズミーキャラのシャツ、1人が普通の服という統一感のない取り合わせになった。


「のんのんちょっとは痩せた?」


「やめて! 頑張ったけど今日のメンバー細い人ばっかりだから自信ないの!」


「ダイジョブだよ! イズミーで遊び尽くせばみんな痩せるよ!」


「違うよ! 痩せてて自信のある人しかイズミーには来ないんだよ!」


 でもぶっちゃけ田邊さんも気にするほどではない。それぐらいの肉付きが好みってやつも少なくないはずだ。それはそうと、無言で背を向けてるスタッフはどんな顔してこの会話を聞いてんだろ。


(やっぱりジャージだけじゃその敷居は取っ払えないかあ・・・元気な子はジャージなんて着ないし)


 スプラッシュヘルは木製のボートで、横2人×4の8人乗りだ。先頭に元気な2人、2列目にジャージの2人、3列目は私とサングラスを掛けたジャージお姉さん―――いわゆる1人イズミー戦士―――、最後尾にはカップルだ。


「って、あんたそれ」


 仙崎が、A5サイズの木の板と細いクレヨンを持っていた。スプラッシュヘルが水にダイブするのを知ってのことか? クレヨンなんて水で落ちるだろ。


「この上でしか描けないものが、きっとありますから。たとえすぐに消えてしまうとしても、一度作った作品は私の中で生き続けるのです」


 なんて芸術家魂だ。こいつを甘く見てたぜ。


 そんなワケで出発。スタートから洞窟で雰囲気が出てる。だが急降下があるのは最後だけで、基本的にはボートでゆったり進む。


「うわぁぁっ、きれ~~~い」


 水晶の洞窟、


「これはこれで良い味出てるよね~~」


 茨のジャングル、


「まさに地獄だね!」


 溶岩のたぎる谷。いろんな場所を巡りながら、再び洞窟の中に入った。これを抜けた先で、地獄へのダイブが待っている。といっても44度のお湯だが。


「あなたよくこんな暗い場所で描けるわね」


 鈴乃が仙崎に声を掛けた。確かに洞窟内は薄暗く、オブジェを照らす照明があるだけだ。


「目で見て描くのは二流のやることです。感じたものを、感じたままに描くのです」


 インスピレーションってやつか? でもなんかこいつちょっとアブナイ奴に見えてきたぞ。


「でも自分で何描いたか見えないんじゃ・・・」


 さっきから仙崎は、描いては水で消すのを繰り返している。板が1枚しかないから止む無しだが、洞窟の中で複数描く時は一度も日の目を見ずに消されることになる。


「どんなものが仕上がったかぐらい、見なくても分かりますよ」


 そうだぞ鈴乃、芸術家ナメんなよ。


「うん、なんかごめん・・・」


 分かればよろしい。


「もうすぐ! もうすぐでゴートゥーヘルだよ!」


 洞窟の出口が見えて来た。最後はそれなりに角度のある上りで、水を離れてコンベアで押されて進む。ゆく先は光。暗い洞窟の出口が白く輝いている。


 しかし、その先に道はない。待っているのは、園内を見渡せる景色と、真下で待つ地獄だ。湯温こそ44度だが、明るいオレンジに着色されていて、どうやっているのかグツグツと煮立ってるような演出もある。【フハハハハハハハ!】という不気味な笑い声と共にボートは傾き始め、このあと私たちは急転直下、地獄へ落ちて灼熱の水しぶきを上げるのだ。


「ちょぉっ、意外と高っ!」


「これは・・・3秒で描けるか・・・」


「ぽんぽん!」


「のんのん!」


「今までありがとう! 楽しかったよ・・・!」


「私もだよ! のんのんと友達になれて、とっても幸せだった!」


「ぽんぽん・・・!!」


「のんのん・・・!!」


「「アイルビーバーーーーーーーック!!!」」


 2人の妙な叫び声と、他の面々の悲鳴も上がるなか、ボートは真っ逆さまに落ちて行った。ひゅぅ~~~っ! この感覚がたまんないね! 仙崎、お前、この状況でもいっちょ描こうっていうのか・・・!


 そして地獄が目の前に来て、


 ドッボーーーン。


 水没。ああ、あったかいを超えてちょっと熱い、この温泉みたいな感じ。手を離し、シートベルトだけに身を任せて浮遊感を満喫する。これでこそ、イズミー。これでこそ、イズミー!


 やがて、浮上。ふぃ~~っ。気持ちよかったぜ~。


「ぽんぽん!」


「のんのん!」


「私たち、生きてる・・・!」


「うん。生きてる、生きてるよ・・・!」


「「良かった~~~~!!」」


 さっきからそのメロドラマは何なんだ。それをやるのが定番なのか?


「んっ、んん・・・っ、ハァ」


 後ろのカップルもイチャついてんじゃねえよ。隣の1人イズミー戦士が舌打ちしてんじゃんかよ。



 スタート地点に帰還。


「お疲れさまでした~。地獄の旅はいかがだったでしょうか?」


「「サイコーでした~~!」」


「ありがとうございます~」


 ボートを下りてロッカーへ。さっそく乾燥ボックスを召喚して中へ。アクリル面があるから外の様子が見えるのだが、着替えているのは仙崎だけだった。田邊さんとぽんぽんさんは水着、鈴乃はジャージのままで過ごすらしい。


 乾燥は30秒で終わり、外へ。仙崎の着替えも大して時間は掛からなさそうだ。


「2人とも水着で過ごせばいいのに~~」


 常時私服の私と、わざわざ着替え直した仙崎に向かって田邊さんが言った。


「いつも着てる服じゃないと落ち着かないのよね」


「あ、それ分かります。一番しっくりくるのも制服だったりするんですよね」


 だよな。何故かは知らないか、仙崎からは妙なシンパシーを感じるぜ。


「鈴乃もジャージ脱がないのぉ~?」


 田邊さんが鈴乃に迫る。


「あたしはムリムリ、2人みたいにスタイル良くないから」


「このおなかでそれを言うか!」


 がしっ。


「ちょっとやめてよぉ~。おなか出てないだけがスタイルじゃないでしょ?」


「これ飲んどく? 3秒でボンキュボンッよ」


「後遺症は?」


 せめて“副作用”って言え?


「1週間のあいだ無性に油ものと甘いものを食べたくなる日が続く」


「マジで後遺症じゃん・・・」


 1週間で終わるものを後遺症とは言わん。


「そんじゃ次いってみよ~!」


 で、外に出るなりぽんぽんさん指し示したのは・・・、


「ビッグサンダーヘヴン!」


 やっぱりな。

 ビッグサンダーヘヴンは汽車の外見をしたジェットコースターで、雷鳴の轟く渓谷地帯を逃げ惑うように走る。なぜ“ヘヴン”かと言うと、最後、急加速して天に向かって真上に進む場所があるからだ。

 その最高到達点はスプラッシュヘルよりも高く園内最高で、そこには真上を向いたまま到達して数秒ほど止まり、一発デカい雷が落ちると同時に座席に電流が走る。そのあと後ろ向きに急降下してしばらく走って終了。スプラッシュヘルと並んで人気アトラクションとなっている。


 開園からしばらく経ったことで1時間ほど待ったが、スタート。


「あ、こっちにも水あるんだ」


 と鈴乃。ま、イズミーランドだからね。川を横切る時は着水するし、川と並走どころか実際に浸かって進むこともある。そして途中からスコールにもなるから、ズブ濡れは避けられない。


 最初は普通に好天なのだが、次第に薄暗くなり、雷が落ち始める。


「「ワーーーーー!」」


「「キャーーーーー!」」


 雷鳴轟く鉱山からの脱出がテーマなので、スピードが結構あるのと上下左右にぐわんぐわん揺れる。仙崎、お前・・・チラリと見えた木の板には、まさに今見ている景色そのものだった。アトラクションの宣伝に使えるレベルだな。この後のスコールで消えてしまうのが惜しまれる。


 もちろんアトラクション用の人工風雨なのだが、荒れに荒れ、イズミーが手掛けたという映画のワンシーンを再現した暴風雨になった。描いた瞬間に消えるというのに、仙崎はまるでそれが残っているかのように、続きを描き続けている。ヤツの瞳には、まだ見えているというのか。いや、目で見て描いてるんじゃなかったんだな。もはや私の理解を超えた世界が、そこにはあるようだ。


 アトラクションの方もクライマックスを迎え、いよいよ急加速からの天への滑走に至る。雷から逃げるのになぜ高い位置へ向かうのかと言うのは、無粋なツッコミである。どんな困難であっても立ち向かう勇気をくれる。それがイズミーランドなのだ。


「「ワーーーーーーーッ!!」」

「「キャーーーーーーーッ!!」」


 乗客の悲鳴が響くなか、スピードに乗った列車が90度上を向いて、天国を目指す。しかし、レールは天国までは続かない。途中で止まってしまうところを、雷が直撃するという形で我らは天へと導かれるのだ!


「ぽんぽん!」


「のんのん!」


「どんなことがあっても、ずっと一緒だよ・・・!」


「うん・・・のんのんと過ごした日々を、きっと忘れない・・・」


 マジでこのメロドラマは何なんだ?


「「世界の一番高いところで、私たちは愛を叫ぶ!!」」


 その台詞はなんじゃい、と思った矢先、



 ドォォォォォォォォォォン!!!



「「「キャーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」」」



 強い光と共に轟音が鳴り響き、同時に座席に電流が走った。地味に痛ぇんだよこれ。しかし、これこそがイズミーランドである。地獄へダイブし、雷で天へと導かれる。この天地コンビこそがイズミーの定番であり、私たちも全力でそれを満喫したのである。早起きが必要? かわいいものだ。 服が濡れる? むしろ濡らせ。 遠くて行けない? それもロマンさ。非日常を味わえるからこその、夢の泉の王国なのである。



 ビッグサンダーヘヴンも終了。


「いや~楽しかったね~~! ちょっと休憩しよっか?」


「さんせ~~。はしゃぎ過ぎちゃった~~」


 いい時間にもなってきたから昼飯だな。


「どっこにっしよっかな~~」


 店選びは元気印の2人に任せよう。昼飯を求めて練り歩いていると、


「うえぇ~~ん。おかあさぁ~~~ん・・・」


 立ったまま1人で泣いてる子供を見つけた。


「ありゃりゃ? 迷子?」


 みたいだな。

次回:迷子の迷子の・・・

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