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第53話:神のゲーム(後編)

 神が用意した恐ろしいゲームも、後半戦に差し掛かった。平原、砂漠、海、ジャングルと続いてここは、空の上。現状、一番のトラウマは海である。なんで砂漠とかジャングルを差し置いて海なんだよ・・・。


 創造主たる星岡が足場消滅からの2マス戻るという洗礼を受けた後、未だに海エリア相当の場所にいる鈴乃の番だ。1が出れば渦潮に呑まれてゲームオーバーなのだが、雲に乗ってるこの状況でも渦潮が出るのか・・・。


「別に牡蠣食べてないからゲームオーバーでもいいのよね。何あるか分かんないし」


 てめぇそのまま逃げるとか許さねぇかんな。


 出た目は、2。


「あーもう、こういう時に1出ないのよね」


 そうこなくっちゃつまんないだろ?


「これ、飛び移らなきゃいけないのよね・・・?」


「落ちたらステージの最初のマスだから、牡蠣食べるチャンスまだあるわよー?」


「うわ絶対ヤダ」


 ホワワ~ン、ホワワ~ンと、雲の弾力(?)で軽く跳ねながらタイミングを窺う鈴乃。


「地味に怖っ・・・」


 一面の青空とは言え、底なしだからな。


「そりゃっ!」


 ホワワワワ~~ン。


 鈴乃、ジャンプ。なぜか低重力にもなっているようで、ゆっくりと降下しつつ、着地。


「あ、意外と簡単ね」


 その調子でもう一歩も渡り終えた。で、鈴乃が受ける指令は、ドラゴンフルーツ。上空にいてもやはり普通にドラゴンフルーツが出て来て、鈴乃は食べた。


「あー美味し♪」


 何であれにはサルモネラも何も入ってないんだよ。どうかしてるぜ。


 さて、もう何巡したのか分からないのだが、暫定順位は、

1位、星岡、41マス目。

2位、私、38マス目。

3位、久保、35マス目。

4位、白鳥さん、33マス目。

5位、鈴乃、31マス目。

である。


 次は白鳥さんの番で、5が出た。


「ん・・・・・・」


 運動は苦手そうな白鳥さんだが、どうだろうか。


「だいじょぶダイジョブ、案外ポヨーンって簡単に行けるわよー」


 なんだよそのアドバイス。


「う、うん・・・」


 白鳥さんは鈴乃と同じように何度かその場で練習した後、


「えいっ」


 ポヨーン。


「わっ、わっ、わっ」


 体勢を崩しながらも、ポヨン、と両手両膝をついて着地。また立ち上がり、同じ動作を繰り返して5マス進んだ。


 指令は<猛獣を仕留めろ>だ。当然、上空にいても当然のように現れる。


「わっ、わっ・・・」


 さて、与えられたライフルで猛獣を仕留めなければならないのだが、


「ん・・・ん・・・・・・」


 ダメだ、完全に手が震えている。目もチラチラとしか開いてないし、ありゃ無理だな。これ、やられたらどうなるんだ? ゲームオーバーか?


「雪実! 早くやんなきゃ!」


「でも・・・!」


 相手は得体の知れない猛獣なのだが、ためらっているらしい。そもそもライフルなんて扱ったことないだろうからな。猛獣はそのまま白鳥さんに迫って行き、


「グォォォォォォォ!!」


「っ・・・・・・!」


「雪実~~~!!」


 誰もが固唾を呑んだその瞬間!


「ごろにゃ~~~~ん」


「・・・え・・・?」


 猛獣は、白鳥さんのふくらはぎに頬をすりすりしていた。


「え・・・どうなってんの・・・?」


 鈴乃の疑問に、星岡が答えた。


「フッ・・・まさか仕留めそこなう者が出ようとはな。そいつは、その女に懐いた。なんせ、殺されるために走っていたのを生かされたのだからな。このゲームの終わりまで離れんぞ」


 マジかよ。別にいいけど。


「良かったじゃん白鳥さん。仲間が増えたわよ」


「あ、はは・・・。えっと、よろしくね」


「グォォォォン」


「え?」


「あっははっ。“乗れ”ってさ」


「ワフッ」


「じゃ、じゃあ・・・お願いしようかな」


「グォォォォン」


 白鳥さんがまたがり、ご満悦そうな猛獣。にしても乗り物か、便利そうだな。


(迷わず殺しちゃった鏡子には無理ね) by 大曲鈴乃16歳


 さて、白鳥さんにペットが出来たところで次は私だ。4以上を出して星岡を抜き去りたいところ。


「ほいっ、と」


 出た目は、3。ちっ、同点か。と思ったら、


<青い小鳥に出会い、もう1度サイコロを振る>


「おっ」


 ラッキー。


「ちっ、運のいい奴だ」


「日頃の行いが違うのよ」


「それ鏡子が言う?」


 移動し終えると、どこからともなく青い小鳥が飛んで来て、手のひらに乗せたらサイコロに化けた。振ると出た目は、2。


<足場消滅。2マス戻る>


 ヒューーーーン。


「フハハハハハハハハ! これは傑作だ! 日頃の行いが悪いようだな!」


 マジでナメてやがるこのゲーム。


 次、久保、1。ハチから逃げて3マス戻った。

 次、星岡、5。


<ハリケーン。ランダムで誰かと入れ替わる>


「くっ!」


 暫定トップの星岡、入れ替わりの憂き目に遭う。ハンッ、人を笑ったりするからだ。


「ぬ、ぬぉぉぉぉぉぉ!」

「え、きゃぁぁぁぁぁ!」


 どうやら、白鳥さんと入れ替わることになったらしい。私の前方には、猛獣に乗った白鳥さんがクルクル回りながら舞い降りて来た。一方の星岡は私の後ろ、3位に後退。いいザマだぜ。


 次、鈴乃、4。森のそよ風。長きにわたる最下位から脱出。そろそろレースに参加しろや。


 次、白鳥さん、4。本人に代わって猛獣が飛び移るのでスピーディだ。


<羽根になれ。失敗すれば9マス戻る>


「え?」


 イ・ミ・フ。とか思っていると。


「わぁっ」


 白鳥さんに羽根が生え、足場が消えた。猛獣は1マス戻り、白鳥さんが宙に浮いてる状態になったのだが、


「上よ!」


 上の方に、光ってる輪っかがあるのが見えた。多分、あれをくぐれば良いのだろう。


「い、行ってみる」


 体は自由に動かせるようで、白鳥さんはフワフワと上に向かって行った。しかし、


「ギャー!」


「きゃっ!」


 なんか、猛スピードで鳥が襲って来た。あれに羽根を破られたらアウトだな。


「白鳥さん目ぇつぶって!」


「え?」


「私が言う方向によければ大丈夫!」


「あ・・・うん!」


 後半で鳥の猛攻が激しくなると、多分白鳥さんには無理だ。


「右! 左! 上に加速! 左!」


「おい、貴様ら、卑怯だぞ!」


「だったら次からはプレイヤー同士の会話を禁止することね」


「くっ・・・」


 後半は1秒に4羽のペースで鳥が突っ込んで来て慌ただしくなったが、何とかリングに辿り着いた。


「ふぅ、ふぅ・・・。厳木さん、ありがとう」


「さっさと終わらせるわよ、こんなゲーム」


 次、私、3。


<大量のヒョウをゲット!>


 バラララララララララ!


「いでっ、いでででっ!」


 大量の雹が降って来た。


「フハハハハハハ! どうだ! 思い知ったか!」


 マジふざけてやがる。


 次、久保、3、甘い蜜を求めて3マス進む。

 次、星岡、4。


<わたがし>


 綿菓子が出て来て、それを食べた。


 次、鈴乃、4。


<ゴリラとバナナ早食い競争>


 もうジャングルじゃなくて上空だというのに、鈴乃の横にゴリラが登場してバナナが与えられた。バナナの出現が号砲だったようで、ゴリラがもしゃもしゃと食べ始める。


「えっ、ちょっ、早っ!」


 鈴乃も急いで皮をむいてバクバク食った。が、負けた。


「ベロレロレロレロレ~~」


 ゴリラはアカンベーで鈴乃を散々バカにして、消滅。


「うっざ・・・っ」


 ありゃウザかったな。


 次、白鳥さん。今いるのが50マス目だから、雲ステージも終わりだな。空中に透明の床でもあるかのようにコロコロと転がるサイコロが出した目は、2。そして猛獣が白鳥さんを運搬。


 ヒヤッ・・・。


 背景は、氷に変わった。このゲーム始まって初の屋内となり、足場も、壁も、天井も、全てが氷だ。マスの氷の塊で、少し滑る。6面が氷とか、何かのゲームで見たような流れだな。夏服で半袖だから冷気を肌で感じる。


「・・・ちょっと寒くない?」


 仕方ないね。こんな状況でも本のページはパラパラとめくられ、これから白鳥さんの身に起こるものが見えてくる。


<かき氷食って頭痛>


「・・・・・・」


 食当たりが治った後にかき氷は辛い。しかも、このゲームの仕様上、どんなスローペースで食っても頭痛が確定する。ふざけやがってよぉ。


「う・・・・・・」


 文字通り、頭を抱えることになった白鳥さん。あそこには止まらないようにしないとな・・・。とにかく前に進むべく振ったサイコロが出した目は、4。フワフワの雲がなくなって歩かねばならなくなったのが面倒だ。


 4マス進み、氷の塊に乗って本を見る。


<フワフワ雲サンド>


 なんだそれ、思った瞬間に、


 フワッ。


 いきなり両サイドに雲が現れてサンドされた。


「・・・・・・」


 そういうことか。中々の感触だった。


 次、久保、2、わたがし。

 次、星岡、4、またハリケーンで、今度は久保と交代。

 次、鈴乃、4、足場消滅で2マス戻る。


 さて、次は白鳥さんのターンだが、まだ頭が痛そうにしている。


「ちょっとアンタ、あれいつまで続くのよ」


「無論、誰かが次のステージに進むまでだ」


 何が“無論”だよ、ふざけやがって。頭痛に悩む白鳥さんが出した目は、1。ドンマイ。更には、


<氷漬けで1回休み>


「え・・・」


 ピシッ。


 白鳥さーーーん!


「雪実!!」


 猛獣も一緒に凍っちまった。


「ちょっと! 何なのよアレ!」


「見ての通りだ。誰であれエンシェントブックには従ってもらう」


 そういやそんな名前だったな、あの本。それはさておき、次は私だな。3が出た。


<雪だるまになる>


 ボフッ。


 顔以外が雪に埋もれた。


「フハハハハハ! お似合いだぞ! “マッド才媛”!」


 くっそが。スタイルの欠片もない雪だるまにしやがって。これも次のステージまでそのままか? 冷たいんだが。


 次、久保、5。こいつも仲良く雪だるま。

 次、星岡、2。大量の雹を浴びた。ざまぁ。

 次、鈴乃、3。これまた雹を浴びた。


「いった・・・」


 あんたもたまには痛い目みな。白鳥さんが1回休みなので、次は私だ。4が出た。


「くっそ、重・・・」


 雪だるま状態で、足首から下だけが出てる状態でよちよち、ではなくもそもそと歩く。で、今度は何をさせられるんだ?


<ゴー、ゴー、バースデーケーキ>


 このクソ寒い状況で、直径10センチぐらいの円形ケーキ登場。さっきのかき氷といい、我慢大会でもさせたいのか? てか、雪だるま状態で手が出ないんだが。とか思ってたら、


「もが・・・っ」


 ケーキの方から突っ込んで来やがった。


「ほが、はぁ、ほぉ・・・っ」


「鏡子ー、頑張れー」


「意地汚い奴だ」


 てめぇのせいだろうボケが。


 次、久保、6。滑り台で3マス戻る。

 次、星岡、3。コケコッコーと叫べ。

 次、鈴乃、4。フワフワ雲サンド。


「あっ。これ結構気持ちいい!」


 だろ? 私の雪だるまと変わろうぜ?


 で、次、


 パリィィィン。


 氷が砕け、白鳥さん復帰。頭痛に加え、冷えてしまったのか腹も押さえている。サイコロの目は、5。


<こたつでみかん>


「ほっ・・・」


 ちょっと顔が緩んだ白鳥さん。現れたこたつに入り、みかんを食べた。次は私だ。6が出ればこの氷の部屋から脱出できるが、


「チッ」


 5だった。更に、


<お待たせ。水風呂だよ>


 フザけんな!


 バッシャーーン!


 うぉぉぉぉ・・・雪だるまが解けたはいいが・・・マジで我慢大会でもさせたいのかよ。


 次、久保、3。滑り台で3マス戻る。雪だるまのまま転がる姿は滑稽だ。

 次、星岡、3。羽根になってリングまで到達。

 次、鈴乃、5。氷漬けで1回休み。


「ちょぉっ!?」


 ピシッ。ざまぁ。


 次、白鳥さん。


「じらどりざん、はやぐ・・・」


 私は何気にまだ水風呂に入れられている。


「う、うん」


 結果、1。


<氷の魔法で好きな相手を氷漬けに>


「えっ」


 よっしゃ、やりぃ。戸惑っていた白鳥さんだが、


「星岡くんでいいでしょこんなの」


「えっと・・・」


「よっ、よせ。俺はいま最下位・・・」


 ピシッ。


 当然の報いだ。このゲームで白鳥さんが受けた仕打ちを考えれば、これでも足りないぐらいだ。次は、私だな。


「あ゛あ゛~・・・」


 ようやく、水風呂から出られたぜ。サイコロの目は、2。ここでようやく、氷の部屋からは解き放たれ、今度はレンガの空間になった。


「ふぅ。久々に、まともな場所に立った気分ね」


 足場もレンガで、周りにはレンガ造りのオブジェが多い。一応、屋外だ。それで、まさかレンガ食わされたりはしないよな?


<積み木でもやってろ>


 ガラガラガラガラ。大量のレンガが出現。木じゃないのだが、これで遊んでろということか。変なもん食わされるより遥かにマシだが。


 次、久保、3。滑り台で3マス戻る。どんだけ滑り台好きなんだよあいつ。続く星岡と鈴乃は1回休みなので、白鳥さん。4が出た。


<レッツ・リンボー!>


 またかよ。しかも、最初のやつより明らかに難易度が上がってる。白鳥さんはもうやる気もないようで、普通に歩いて縄にぶつかりに行き、先住民のブーイングを浴びて帰って来た。この子、こんな顔するんだ。


 次は私だな。


「チッ、1か。・・・白鳥さんヤッホー」


 白鳥さんに追い付き、私もリンボー。謎の先住民2人、縄を持ってやって来た。ありゃ80センチぐらいか。


「ホッ、ホッ、ホッ・・・」


「厳木さん、すごい・・・」


 ヨユーっしょ。縄が顔面を通り過ぎたところで、体を起こして復帰。すると、


「「ヒューーーーッ!」」


 先住民は、失敗した時のブーイングとは裏腹に、歓声を送って来た。更に、


 シャッ。


 ひざまづいて花束まで。別に受け取ってもいいのだが、こいつらが星岡が用意したものだと思ったらなんかムカついてきたので、


 スコーーーン。


 思いっきり蹴り上げた。舞い上がる花束。呆然とする先住民。


「あんたらなんて願い下げじゃボケ」


 足を下ろし、バッドサインでブーイングを送ると、先住民たちはその場でしばらく震えたあと逃げるように走り去って行った。


「・・・すごいね。私あんなに体曲げらんないや」


「あんな奴らにブーイングされることがないように、鍛えてあるからね」


 次は久保のターンで、5が出た。


<氷の魔法で好きな相手を氷漬けに>


 あ、やば。


 ピシッ。


「ハッ・・・! 厳木さん!!」


 --------------------------------


 パリ、パリ、パリィィィン。


「・・・あ゛~~~」


 氷が砕けて解き放たれた。1回休みというだっけあって白鳥さんは6マス前にいて、久保は2マス後ろ、鈴乃は3マス後ろ、星岡は7マス後ろまで迫って来ていた。


「あ、鏡子戻った。う゛~~、さぶ」


 鈴乃は水風呂に浸かっていた。寒いだろん? ろぉん?


「フハハハハハ! じきに追い付くぞ! “マッド才媛”よ!」


 そう笑う星岡は雪だるま姿である。せめて何ともない時に笑えよ。サイコロを振ると、4が出た。


<レンガの壁を登れ!>


 ほう。


 パカッ。


「は?」


 ヒューーン。ドスッ。


「いって・・・」


 “登れ”って言うぐらいだから何かでるのかと思ったら、落とされる方が先なのか。いちいちフザけやがって。


「オラオラオラオラ! ・・・ふぅ」


 登り終え、復帰。


 次、久保、2、リンボー失敗でブーイング。


「Boooooo」


 私も便乗しておいた。


 次、星岡、5。


<レンガの奇跡。5マス進む>


 なんだよそれ。しかも、奇跡とか言っておきながら特に何も起こらず、星岡は普通に走っている。


「フハハハハハ! いいぞ! お遊びはここまでだ!」


 マジ、これまでであって欲しいんだが。


 次、鈴乃、4。


<誰かか封印を解くまで石化>


「は?」


 ピシッ。


 鈴乃、石化。


「鈴乃ちゃん!!」


「・・・封印って、どうやって解くの?」


「ククククク、封印を解くための鍵がどこかにあるぞ」


 そうか。次は白鳥さんで、2以上が出れば次のステージに切り替わるはずだ。封印を解く鍵がどっちにあるかは知らないが。


「あ。2が出た」


 白鳥さんは少し嬉しそうだ。さっさと終わらせたいもんな、これ。背景が、地平線の方から切り替わっていく。


「・・・・・・」


 引き続き屋外なのだが、


 ドポン。・・・・・・ドポン。


 空はダークな紫色、辺りにはマグマ、足場も頼りない感じの石だ。マグマからの熱気が暑い。足場は多分、大きめのやつがマスで、片足しか乗らなさそうな小さいやつは通り道。そして前方には石造りの階段のようなものが見えている。最後にあれを上ればゴールか。


「フハハハハハ! ついにここまで来たな! 神の祭壇に到達し者が勝者だ! しかしマグマに落ちれば即ゲームオーバー! 気を付けることだな! フハハハハハハハ!」


 ゴールは近いがゲームオーバーと隣り合わせってことね。まあ、よほど足を踏み外さない限りは落ちないが。


「・・・・・・ゴクリ」


 唾を飲んだ白鳥さん。そうだ、これから指令が出される。バラバラとめくられて開いたページに書かれていたのは、


<大戦争。負ければゲームオーバー>


「え・・・・・・」


 大戦争ってなんじゃい。と思ってたら、


 ドドドドドドドド・・・。


「わっ、わっ!」


 地面が揺れ始め、白鳥さんのいる所にガララララと何かが組み上がっていった。あれは、戦車か。キャタピラと、その上にボディ。更にそれっぽい砲台まで付いている。

 キャタピラはマグマにも耐えるほど頑丈なようだが、装甲は脆そうだ。負ければゲームオーバーってのは、あれが壊れてマグマに落ちるからだろう。白鳥さんはその戦車っぽいやつの上に乗っている。


「っ・・・・・・。どうすれば・・・・・・」


「大丈夫! 私の言う通りにして! ボタンとかある?」


「う、うん!」


 オッケー、じゃあいける。やがて、対戦相手となる戦車が現れ・・・


「う、そ・・・」


 多いな。ざっと10はある。


「全部マグマに沈めるわよ!」


 コバエ型ドローンを派遣し、白鳥さんの手元を調査。前進と後退はレバーか。後は砲台の向き調整と発射ボタン。めんどい、全部私がやるか。ドローンに付いているスピーカーを通して、白鳥さんに指示。


「レバーをひたすら前に倒してて。後は私がやる」


 あの程度のボタンを押すぐらい私のドローンちゃんなら可能だ。4体追加で送り込み、準備万端。


「とりあえず正面! 次にその右!」


 一応、私の指示で白鳥さんが操作してる風に装うか。


 ヒューーン、ドーーン。 ヒューーン、ドーーン。


 意外や意外。一発当てるだけで沈んでいくぞ、あいつら。だが、一撃で死ぬのはこっちも一緒か。


「ごめん、レバー半分ぐらい戻して」


 もう射程圏内に入った。大した速さでもないが全速力である必要もない。


「とにかく一番手前のやつを狙ってって!」


 ヒューーン、ドーーン。 ヒューーン、ドーーン。


「何・・・ッ! やるな、ホワイトスワン・・・」


 やってるのは“マッド才媛”だからね。


 ヒューーン、ドーーン。 ヒューーン、ドーーン。


「よし、ラスト!」


 ドーーーーン。


 最後の1台も仕留め、敵軍は炎の海に沈んでいった。全てが終わると、白鳥さんの体は浮かび上がって元の場所に戻って来た。


「やったわね、白鳥さん」


「う、うん。ありがとう、厳木さん」


 胸の前で両手を合わせる姿がキュートだ。よく戦車に乗って戦ったなあ。さて、次は私だな。


「ほいっと」


 5が出た。お、白鳥さんよりも1歩先に進めるぞ。小さな石の足場を大股で渡って行き、マスに相当する大きめの石を5個分進んだ。さて、何が出る。


<これまでで一番最悪だったトラップ再び>


 は? “これまでで一番最悪だった”? そんなもん、もちろん・・・


「う゛・・・!」


 やっべぇぇぇ。腹痛、復活しやがったぁぁぁ。


「うおぉぉぉ・・・マジ、ざけんな・・・!」


「きゅ、厳木さん!」


「フハハハハハ! いいザマだな! “マッド才媛”!」


 マジふざけたゲームだぜ。マグマに飛び込んでリタイアしてぇ・・・。


 次、久保、4、一旦落とされてレンガの壁を登った。無論、落とし穴には電撃トラップを仕掛けさせて頂きました。


 次、星岡、5。ここへ来て一気に追い付いて来たな。白鳥さんと同じく大戦争で、自分で作っただけあって勝利。


 鈴乃は石化中なので、次は白鳥さん。てか、石化解除、どこだよ。まあ鈴乃ほっといてゴールしてもいいや。白鳥さんが出した目は、4。お、残り5マスでゴールの位置だ。


<悪魔の術に掛かり3マス戻る>


「え・・・わっ」


 白鳥さんがダークな紫に光る球体に包まれ、瞬間移動。私の横に新たに足場ができてやって来た。幸いなことに、“一番最悪だったトラップ”の発動はナシ。


 次は私だ。


「腹いてぇ・・・」


 1が出た。


「チッ」


 片手で腹を押さえつつ、歩く。


<暗黒ドリンクを飲む>


「は」


 暗黒ドリンク、だと・・・。何が入ってるか分かったもんじゃねぇ。


「・・・・・・」


 出て来たのは、色こそ暗黒ではなかったが、良くても青汁、悪ければ別の何かだ。


「どうした“マッド才媛”! 怖気づいたか!」


 この私が? 片腹痛いぜ。食当たり再発したからマジで痛いけど。


「ゴクリ、ゴクリ・・・」


 !


「ぶフォォッ! ガハッ! ゲホッ! ゴホッ! ゴホッ! ガハァッ・・・!」


 マッズ! 何だこのマズさは! 私の作った激マズエキスに匹敵するレベルじゃないか! 星岡のヤローにもこんなものが作れたとはな・・・。


「下品な奴だ・・・」


 知るか。あんなもんまともに全部飲むぐらいなら、品性なんて捨ててやる。


 次、久保、3。誰も止まったことのない場所だが・・・?


<封印を解く鍵を獲得>


「ハッ・・・!」


 お、きたか。鈴乃、復帰だな。あいつにもぜひ、さっきの暗黒ドリンクとやらを飲ませたいもんだ。久保の手元に鍵が出て来たのはいいが、


「・・・・・・」


 何も起こらない。まさか・・・、


「あんた、まさか、使わないつもり?」


 獲得者の意思がないと石化が解けないとかか?


「当然だろう。なぜ敵陣営を助ける必要がある」


 久保は淡々と答えた。


「そんな・・・!」


 白鳥さんが声を上げる。


「マジかよ・・・」


 いや、久保が鈴乃を助けないのは当然なんだが、まさか、石化解除が自動じゃなくて獲得者の意思もセットだったとは。仕方ない、鈴乃は諦めよう。

 でもあいつ、牡蠣食ってないからこの痛みを味わってないんだよな。なんかムカつく・・・。


 パシッ。・・・ドボン。


 ロボットアームを出して鈴乃の石像をパシッと叩き、マグマに落とした。


「・・・!? き、貴様。何を・・・」


「どうせもうゲームオーバーでしょ? だったらいいじゃん別に」


 これくらいの気晴らしはさせろ。


「それはそうだが、石化中でも痛覚は残るぞ・・・? しかも、多少は耐えるから消滅しきれん・・・」


 え?


(あっつ! あぁっつ!! 何これ!? どうなってんの!? あつあつあつあつあつ・・・!!)


 ・・・・・・鈴乃、ごめん。


 次、星岡。


「フハハハハハ! ここで一気に躍り出ようぞ!」


 6が出た。


「フハハハハハハ! これぞ、これぞ神の力!」


<悪魔の手に捕らわれて1回休み>


「のわああぁぁぁぁぁぁ!!」


 騒がしい奴だ。


 星岡はよく分からんがマグマから出て来た黒い手に捕まった。そう書いてあるからには1回休みだろう。鈴乃は脱落した(私のせいじゃないよ!)ので次は白鳥さん。4が出た。


<ホーリーディバインブレード発動。魔王に120のダメージ>


「・・・?」


 なんだコレ。白鳥さんも首をかしげている。とりあえずゲームマスターに聞いてみるか。みっともなく悪魔の手に捕らえられてるが。


「あれどういう意味なの?」


「悪魔に120のダメージだ・・・それ以上でも以下でもない」


 ゲーム上の意味はなさそうだな、こりゃ。


 次は私だ。ゴールも近くなってきたが、ここは73マス目だから6が出ても届かない。特に気合も入らず雑に投げると、5が出た。


「っし・・・!」


 腹痛に耐えつつ小さくガッツポーズして、歩き始める。ゴールは階段の上だが、見た感じ、あれだな、マグマ上の石の並びが79マス目で途切れてその先が階段だから、最後の1マス分だけが階段のようだ。で、78マス目に到着。


<デモンズキャリバーを受けてみよ!>


 ん?


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 いででででで! なんだこれ、雷か?


 プスプス、プス・・・。


 落ち着いた頃には、体から焦げたような煙が上がっていた。腹も痛ぇってのによぉ・・・。


「フハハハハ・・・我がデモンズキャリバーの威力はどうだ・・・!」


 あんた神なんじゃなかったのかよ。しかもあいつはあいつで黒い手に捕まってるから妙にダサい。


「厳木さん、大丈夫・・・?」


「何とか、ね・・・あとちょっとだから、さっさと終わらせましょ」


「うん」


 次、久保、4。


<時空の裂け目に落ちてゲームオーバー>


「え・・・! なっ、うっ、うわぁぁぁぁぁぁ!!」


「久保ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 久保、時空の裂け目に落ちて脱落。マジかよ。てか、どうせゲームオーバートラップがあるならもっと早い段階で散りばめて欲しかったぜ。そうすりゃさっさと5人脱落して終わったのによ。


「くっ、おのれ・・・貴様ら、よくも久保を・・・」


 お前が作ったゲームだろうが。


 その星岡は悪魔に捕まってて1回休みなので、次は白鳥さん。4以上でゴールだ!


「えいっ!」


 コロ、コロコロコロ。マグマの上でも転がるサイコロ。


 5が出た。


「やった!」

「やったぜ!」


 ようやく、この腐ったゲームから解放される・・・!


「ククククク、甘いぞ! 愚か者ども!」


 あ?


 白鳥さんの奥で、未だに悪魔の手に捕まってる星岡が叫んだ。


「このゲームは、ぴったりゴールに止まらねば上がれんぞ!!」


「え・・・!」

「はぁ!?」


 フザけんなよマジで・・・。しかも、折り返した先に1回休みとかデモンズキャリバーがあるとか、何なんだよ。


「階段の往復はめんどかろう。3マス進めばよいぞ」


「わかり、ました・・・」


 これには白鳥さんも落胆だ。ちっくちょうが。まあ割と普通のルールなのだが、各マスの内容がクソすぎて苦行期間が長くなるだけだ。


 白鳥さんが、移動を終えた。


<魔王に消されてゲームオーバー>


「え・・・・・・」

「あぁ!!?」


 マジ、かよ・・・。白鳥さんの体が、ダークな紫に光る。


「フハハハハハハ! さらばだ! ホワイトスワンよ!」


「・・・・・・」


 白鳥さんは、私の方を振り向いて、穏やかに笑った。


「ごめんね、厳木さん」


 パァァァァン。


 白鳥さん、消滅。猛獣も一緒に消えた。


「くっそが・・・」


 残るは、私と星岡の2人だけ。


「ククククク・・・リーダー同士の一騎討ちだな、“マッド才媛”よ」


 謎の黒い手に捕まってる状態で言われてもな。次は私の番で、2が出れば上がりなのだが、


「これ、私までゲームオーバーになったらどうなんの?」


「無論、その時点で俺の勝ちが決まる。そうならないようせいぜい祈ることだな。フハハハハハハ!」


 1か3が出りゃゲームオーバーか。マジで厄介な場所に置きやがって。


「せいっ」


 コロ、コロコロコロコロ。


 4が出た。


<デモンズキャリバーを受けてみよ!>


「ぐあ、あ゛・・・・・・!!」


 またかよ、ちっきしょうが・・・。


「ハァ、ハァ・・・。ハァ・・・」


「デモンズキャリバーを2度食らって立っていられるとはさすがだな、“マッド才媛”よ」


 そういや、バランス崩してマグマに落ちてもゲームオーバーか。気を付けないとな。


「・・・ふぅ。ようやく俺の番だな」


 悪魔の手から解放された星岡がサイコロを振る。


「これでジ・エンドだ!」


 コロ、コロコロ・・・。


 あの位置からだと、3が上がり、2と4がゲームオーバー、1と5がデモンズキャリバー、6だとまた1回休み。


 コロコロ、コロ。


 3だった。


「フハハハハハハ!! 勝負あったな! 勝利の女神は、神たるこの俺に微笑んだということだな。フハハハハハハ!!」


 うっざ・・・。まあいい。さっさと終わらせてこの腹痛から解放しやがれ。あと、マグマの中で熱さに苦しんでるであろう鈴乃も。


(あつ、あつあつ・・・! 早く誰か助けて~~~!)


「ククククク。では、行くとしよう」


 意気揚々と、星岡が歩き出す。1マス進んだ位置には私がいるので、横に足場が追加された。そこに向かって、星岡が斜めに足を伸ばす。


 ドゴッ。


「ぬ゛・・・!?」


 私は、星岡に飛び蹴りをかましていた。


「き、貴様、何を・・・!」


「マグマ、落ちればゲームオーバーなんでしょ?」


 ゴールするまでがスゴロク、ってね。


「なっ・・・! そんなふざけたことゲフ・・・ッ!」


 足の裏が星岡の腹に決まったまま勢い余って膝が曲がっていたので、それを伸ばして奴を押した。


 ドボン。


 星岡、マグマに転落。


「ぐああぁぁぁぁぁ!! きさ、ま・・・!!」


 マグマに沈みながら、悲痛な表情を浮かべて睨んでくる星岡。


「敵の妨害をしちゃいけないってルールなんてなかったでしょ?」


「それは、なかっ・・・・・・ちぃきしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 次までにルールを改訂しておくことだな。


「ぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・!!」


 星岡、脱落。


「さて」


 どうなるんだ? 自動的に元の世界に戻されるのか?


 パラパラパラパラ・・・。


 これまで散々に散々な指令を出し続けてきた本が、私の前まで移動してきた。


 パラパラパラパラ・・・。


 開かれたページに書かれていたのは、


<最後まで生き残りし者よ、祭壇へと進むがよい>


「フン」


 私は肩をすくめ、未だに痛む腹を押さえながら、一面に石の地面が広がってマグマがなくなった場所を進み、階段を上った。魔法陣のようなものがあったので中央に立つと、体が光りだし、そのまま、視界が真っ白になったところで意識が途絶えた。



 --------------------------------



 ストッ。


 馴染みのある景色に戻った。このゲームを始める時にいた、学校の屋上だ。腹痛もなくなったスッキリ。


「あ、あれ・・・熱くない・・・」


 同じタイミングで戻って来たのか、星岡以外の面々は自分の体を見たりキョロキョロしたりしている。安藤、無事だったか。


「くっ、くそ・・・」


 星岡は悔しがっている。


「おい! “マッド才媛”! 卑怯だぞ!」


「あなた“マッド”の意味知ってる? 卑怯じゃなきゃ、私じゃないのよ」


「くっ、くっ・・・!」


 今度は同じ手を食わないように、ゲームそのものに改良を加えることだな、お得意の神の力で。


「きゅ、厳木さん・・・」


 白鳥さんが、“もしかして、勝ったの・・・?”といった様子でこちらを見ている。今のやりとりで何となく分かったようだ。


「私たちの勝ちよ。やったわね」


「あ・・・やった。でも、卑怯って・・・?」


「ちょちょいのチョイってね♪」


「は、はぁ・・・」


「どうせ鏡子のことだからロクでもないことしたんでしょ。それよりさあ、最後めっちゃ熱かったんだけど、何があったの?」


「あ、あぁ~・・・最後の場所がマグマだったのよ。そのせいじゃない?」


「あ、そうなの? でも石化しててあの熱さだったのよ? みんな大丈夫だったの?」


 マグマには落ちてないからな。


「・・・・・・」


 白鳥さん、目を逸らさないで。


「“マッド才媛”!」


 星岡が叫んだので、そっちを向いた。


「今日のところは不覚を取ったが、次はこうはいかんぞ!」


 次なんかいらねーよ。


「あ、ちょっと待って。その本、燃やさせなさいよ」


 マジで、それだけはしないと気が済まない。


「これか? まあ、やる度に少し中身を変えるから不要だが・・・」


 やる度に変えてんのかよ。


「だが、貴様が燃やすには及ばん」


「はぁ?」


「元々一度しか使わないからな。手間の掛からんようにしてある。役目を終えたコイツは、自動的に・・・、」


「・・・自動的に?」


「爆発する」


 ドオオオォォォォォン!!



 --------------------------------



「・・・お前ら、分かってるんだろうな」


 声の主は、君津。私と星岡の2人は、職員室で正座させられている。


「ちょっと待ってください。星岡くんが勝手にやったことで」


「細かいことは知らん。あの場にお前らがいたんだからそうだろう」


「生徒の話をちゃんと聞いてくださいー」


「だったらもっと信用されるように努めるんだな」


「フン、あのような姑息な真似をしたんだ。自業自得だろう」


「あぁ!? 普通に勝っててもあれは爆発したんだろうが?」


「やかましいぞ厳木。とにかく、2人とも反省文だ。書くまでは帰さんぞ。それから、明日で屋上の修復をするように」


 あぁ!?


「明日って土曜日なんですけど」


「それがどうかしたか?」


「私たち、高校生・・・」


「嫌なら業者に頼むが、弁償という形で費用は負担してもらうぞ?」


「ぐっ・・・」


 私は星岡を睨んだ。


「・・・なんだ」


「明日は来なくていい。私1人でやる。でも今度、焼肉おごらせるからな」


「ふん・・・」


「反省してるのか厳木ぃ?」


「もちろんです! 屋上に穴開けちゃってゴメンナサイもうしません!」


「まったく・・・もういいぞ、反省文に取り掛かれ」


 くっそが・・・完全にとばっちりじゃねぇかよ。焼肉、高級店指定してやる。



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 屋上の修復も無事に終わり、日曜日。


「あぁ~・・・だり~~・・・」


 私は、古川と約束の喫茶店“ルルエール”へと向かった。


次回:日曜日、喫茶店で

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