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第52話:神のゲーム(前編)

「ゆくぞ! 神の世界を見せてやろう!」


 星岡が両手を広げながらそう叫ぶと、私たち3人と星岡たち3人のいるちょうど間の場所に、ドス黒い小さな竜巻のようなものが現れた。どうやら、ボードゲームを召喚するようだ。


「・・・・・・」


 だが、一向にその様子はない。星岡が「フハハハハ!」と笑い、他全員が黙って見守っている中、竜巻はやがて、その中に雷鳴を轟かせるようになる。随分ともったいぶった演出をしやがる。


 そのうちピカーッと光って出て来るんだろうなとか思ってたら、風がこっちにまで届くようになった。


「えっ、何・・・!?」

「きゃっ・・・!」


 鈴乃と白鳥さんが髪なりスカートなりを押さえつつ風に耐える。ゲームが出て来る様子はまだなく、さっさとしろよとか思いながら見ていると、


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・!


「「きゃぁ・・・っ!」」


 今度は、地面が揺れ始めた。そこまでするかよ、全く。風も、少しずつ強くなってきているな。


「さあゆくぞ! 神の作った世界を、とくと味わうがいい!」


 体が浮き始めた。


「えっ!? ちょぉっ!?」

「っ・・・・・・!」


 これ、ゲームが出て来るんじゃなくて、


「フハハハハハハハ!!」


 ゲームに吸い込まれるやつだ。


「いやああああああぁぁぁぁぁ!!」

「きゃああああああぁぁぁぁぁ!!」


 私たちはそのまま、螺旋を描きながら竜巻の中に吸い込まれていった。



 --------------------------------



 気が付いた頃には、私たちは平原にいた。


「ここ、どこ・・・?」


 当然のごとく、鈴乃がそんな言葉を呟く。


「星岡くんが作ったゲームの中でしょ。私たちが実際に歩いてスゴロクするんじゃない?」


「え・・・」


 明らかに嫌そうな顔をする鈴乃。白鳥さんも、ものすごい不安そうだ。


「案ずるな。誰か1人でも上がれば全員解放される。ターンが回って来たらサイは振らねばならんがな! フハハハハハ!」


「案ずるわよ、そんなの・・・」


 そんな鈴乃の言葉をよそに、平原にはスゴロクのマスとなる丸太が2メートルぐらいの感覚で構築されていった。歩くのもメンドくさそうだな、これ。


「では勝負だ、“マッド才媛”よ! 順番もサイで決めるぞ!」


 まずは、順番を決めるために全員サイコロを振る。同点がいたら同点になった同士でもう1回。

 その結果、星岡の部下(こいつ、八雲組のメンバーだったな)がトップバッター、白鳥さんが2番目、私が3番目、八雲組メンバーじゃない方の部下が4番目、星岡が5番目、鈴乃がラストになった。


 という訳で、星岡の部下からスタート。どんなのがあるか分からんから、人柱にちょうどいい。


「フハハハハ! 安藤よ! 我が右腕の力を見せてみろ!」


 こいつは安藤と言うらしい。八雲組メンバーだし、覚えとくか。安藤が振ったサイコロの結果は、4。安藤は1つずつ丸太に乗っては進み、4つ目の丸太で停止。で、何が起こるかだが・・・、


「フハハハハ! いでよ! エンシェントブック!」


 星岡がそう叫ぶと、ちょっと離れた場所に黄土色の渦が現れ、それが少しずつ大きくなっていって、最終的に茶色い本になった。そしてそれが開かれて、古い本のような褐色のページがパリパリとめくられる。そこに書いてあったのは・・・、


<とりあえずこれを食え>


「え・・・何、あれ」


 知るかよ。


「ハハハハハッ。さすがは安藤、当たりを引いたようだな」


 どうやら、当たりのマスもあるらしい。安藤の方を見ると、手元にいきなりポンっと皿に乗ったみたらし団子が現れた。


「・・・とりあえず、止まったらあの本に書いてあることが起こるってことね」


「そういうことだ。次は貴様だ、ホワイトスワン。ゆけ!」


「え、え・・・?」


 妙な呼び方をされて戸惑った白鳥さんだが、やはり突如現れるサイコロを一旦胸の前で抱え、


「そ、それっ」


 両手で軽く投げた。出た目は、6。


「雪実、やったじゃない!」


「う、うん」


「ククククク、さすがは“マッド才媛”の同胞なだけはあるな。だが、喜ぶにはまだ早いぞ」


「っ・・・」


 そう、進むマスを稼げるに越したことはないが、悲惨な目に遭わされないことの方が重要だ。


「・・・ろ、く」


 6番目の丸太に白鳥さんが乗った。本のページがパラリ、パラリと2枚めくられ、そこにある文字が姿を現す。


<野犬に襲われ、ふりだしに戻る>


「・・・・・・え?」


 固まる白鳥さん。


「フハハハハ! 残念だったな! 最初から良い数字を出したものを喜ばせないように仕組んである! フハハハハハ!」


 笑う星岡。相変わらずムカつく笑い方だが、そんなことよりも、


「白鳥さんダッシュ!」


「え・・・え・・・!?」


 キョロキョロとする白鳥さん。そうこうしているうちに、


 ドドドドドドドド・・・。


 奥の方から野犬が押し寄せて来た。なんだよあの数。肉片1つ残る気がしねぇ。


「バウバウバウバウバウバウバウバウ!!」


「きゃ・・・きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 白鳥さん、体育祭でも見せなかったほどの猛ダッシュ。10メートルちょっとの距離を走り終え、こっちまで戻って来た。


「ハァ、ハァ・・・」


 両膝に手を着いて呼吸を整える白鳥さん。野犬の方はというと、まるで興味を失ったかのように退散して行った。スタート地点に戻るまで追いかけ回すっていう仕様だな、あれ。


「ちょっと! なんであんなのがいんのよ!」


「ゲームを盛り上げるためのものだ。しかし案ずるな。ふりだしに戻るのはあれしかない」


「“野犬はもう出ない”って言って!?」


 それをこいつに求めても無駄だろう。


「さて、次は私ね」


「見せてもらおう! “マッド才媛”の力を!」


 サイコロ振るだけだろうが。現れるなりポイっと振った結果は、4。


「お、ラッキー。団子じゃん」


「ふん、つまらん奴だ」


 悪かったな。進んでいると、安藤が乗っている丸太の横にもう1つ丸太が出て来たので、そっちに乗った。本も律儀に2ページ戻り、団子登場。地味に美味い。


「よし、久保、次は貴様だ! 奴より前に進め!」


 もう1人の部下は久保と言うらしい。私らより前に進むには5を出すしかないのだが、出たのは、2。


「使えん奴だ・・・」


 星岡の嘆きに落ち込みつつ久保が進み、


「・・・と言うとでも思ったか!」


<天使の助けで5マス進む>


「あ?」


 本にそう書いてあるのが見えたと思ったら久保が2人の天使に連れられ、私らの頭上を越えて7マス目に止まった。マジかよ。そこからは本は動かず、マスの効果で止まった分については何も起こらないらしい。


「でかしたぞ、久保!」


「イエス!」


 星岡に褒められ、ご満悦な様子でガッツポーズを見せる久保。


「ククククク、次は俺だな」


 しかし、星岡が出した目は、1。


「フハハハハ! この程度、ハンデというものぞ!」


 笑う星岡だが、6が“ふりだしに戻る”だし、1にはいいのを用意してるんだろうなと思ったら、


<落雷注意>


 ズゴーン!


 泣きっ面に蜂だった。


「ぐは・・・っ! くっ、俺としたことが・・・。し、しかし、ホワイトスワンよりは前にいる事実は揺るがんぞ!」


 それを“ふりだしに戻る”よりマシだと思えるかは別だが。


「さ、さあ、次は貴様だぞ、ビッグカーブ」


「変な名前で呼ばないでよ」


「リンリーン、こっちでお団子食べよーっ」


「その呼び方もやめて!」


 で、鈴乃が出した目は、3。


「フツーね」


「ンなこと言ったらフツーじゃないのが出て来るわよ?」


「やめて?」


「あれも“やめて”これも“やめて”、私はどうすりゃいいのよ」


「“やめて”って言われないことをすればいいでしょ」


 そんなくだらんやりとりをしつつ、鈴乃が3マス目の丸太に乗った。


(“くだらんやりとり”って何よ、全く・・・) by 大曲鈴乃16歳


 で、何が出るかだが、


<とりあえずこれを食え>


 4と一緒だった。意外と引き出し少ないんだな。それとも別のが出て来るのか? と思ったら、


「あ、お団子。やった♪」


 一緒だった。となると考えられるのは、


「いっただっきまー」


 パクッ。


「ん゛ん゛~~~~~~~~~~~~!!!」


 鈴乃、絶叫。とんでもなくマズいやつだったようだな。


「フハハハハ! どうだ! 超限界突破酸味団子は!」


 どうやら、とんでもなく酸っぱいやつだったらしい。


「~~~~~~~~~~~~・・・!!」


 鈴乃は、絶対に吐き出すまいと両手で口を押え、目に涙を溜めつつも必死に耐えている。吐き出せよそんなもん。女子高生も大変だねえ。


「・・・・・・ア゛ァ゛、ウ゛ゥ゛、オ゛ォ゛・・・」


 1分にわたる格闘を終え、顔を上げた鈴乃。それもう女子高生が出していい声じゃないだろ。


「す、鈴乃ちゃん、大丈夫・・・?」


「え、ええ・・・。 アンタ、覚えときなさいよ・・・」


「俺とて自分で食らってるんだ。恨み合いなど無用」


「こんなゲーム作ったことを恨んでるのよ」


 そんな訳で、2巡目。私と同じ美味な団子を食べた安藤からだ。出た目は、2。はい、ふりだしに戻る。こっちは狙って来ないと分かってても、野犬、ビビるんだが。


 次、白鳥さん。


「えいっ」


 5。歩き終えると本がめくられ、


<レッツ・リンボー!>


「!?」


 驚く白鳥さんの前に現れたのは、2人で縄を持つ謎の先住民族。要は、体を反らしてこれをくぐれということか。高さは1メートル20ぐらいあるから、頑張れば行けなくもないが、


「むり・・・無理です・・・!」


 白鳥さんは星岡にそう訴えた。


「案ずるな。やりさえすれば失敗してもペナルティはない」


「・・・・・・」


 やるしかないようで、諦めたように肩を落とす白鳥さん。しかし意を決して、丸太を降りてリンボーに挑んだ。


「ん・・・ん・・・・・・」


 両手を肩の位置に上げ、頑張って体を反らす白鳥さんだったが、


「わっ」


 ペタン。


 バランスを崩して尻餅。


「「Booooooo」」


 謎の先住民はブーイングを浴びせるだけ浴びせて、立ち去った。白鳥さんは立ち上がって丸太に戻るが、


「・・・・・・」


 かける言葉がない。


 さて、次は私か。


「ほいっと」


 5が出た。久保よりも先に行けるな。


<ボヨヨ~ン。5マス戻る>


 うっざ。


「うわっ」


 本当にボヨヨ~ンと飛ばされ、元いた丸太に戻された。


「いって~~」


 まじナメてやがる。


 次、久保、3、ロバにツバを吐きかけられる。

 次、星岡、3、美味い方の団子。

 次、鈴乃、4、肺活量の限界まで笛を吹く。


 そんな訳で、10マス目にいる久保が暫定1位で2巡目を終えた。


「これ何マス目まであるの?」


 鈴乃が聞いた。


「80だ」


「あっそ」


 地味に長ぇ。


 安藤が酸っぱい方の団子を食わされて悶え、白鳥さんも顔が真っ赤になるまで笛を吹かされ、私のターン。4が出た。


<2マス進んだ先で落とし穴>


「・・・・・・」


 ふっざっけんなよ。しかし、従うしかなく、


 ヒューン。


 丸太に乗った瞬間に落とされた。


「フハハハハ! “マッド才媛”ともあろう者が滑稽ぞ!」


 あいつ、マジ後で泣かしてやる。落とし穴の底が自動で上がって行き、丸太も再生されて復帰した。


 その次、久保が3を出したのだが、


「・・・あれ?」


 久保が3マス目の丸太に乗った直後、景色が平原から砂漠に変わった。丸太も、よく分からん石に変わった。


「ずっと同じ景色では飽きるだろう。進むにつれて変化するようにしたのだ。フハハハハハハ!」


 それはいいのだが、


「あっつ・・・」


 暑さまでがセットだ。


「なんで暑さまで付けるのよ・・・!」


「何を言っている。この方が雰囲気が出るだろう」


「全く、どいついもこいつも・・・」


 おい、何で星岡が2人目みたいな言い方なんだよ。


 で、久保に課せられたものだが、


<火の輪くぐれ>


 鬼のようなものだった。


「ホォーーーーーーッ」


 久保は気合いを入れ、両手を頭上に突き出して火の輪に向かってダイブ。案の定、制服に火が点いた。水が降って来るなんてこともなく、久保はあっつい砂でのたうち回って消火した。


 次、星岡、1、見るに堪えないリンボー(成功)。

 次、鈴乃、2、ボヨヨ~ンと5マス戻る。


「いった・・・っ。何なのよ・・・」


 次、安藤、4、笛。

 次、白鳥さん、4、まだ誰も止まったことのない場所だが・・・?


<激辛カレーを召し上がれ!>


「・・・・・・」


 泣きそうになってる白鳥さんの顔も、もう見てられない。ちょくちょく何か食わされるゲームだからカレー自体は小盛りだったが、白鳥さんは、水もない状態でマジ泣きながらカレーを食べた。うん、よく頑張ったね。


 次、私。1が出たら激辛カレーかと怯えていると、2が出てひと安心。


<水をどうぞ>


 ビッシャーーン!


「・・・・・・」


 ナメてんのか。


 次、久保。


「あんた、さっさと進みなさい。砂漠とはオサラバするわよ」


「お前の指図などは受けない」


 うざっ。


 で、出たのは6。


「指図は受けないんじゃなかったの?」


「くっ、一生の不覚・・・っ!」


 それほどかよ。てかお前だって砂漠イヤだろ。


<全ては蜃気楼だった。元いたマスに戻る>


「う・・・ぬぉっ!」


 久保はホワワ~~ンと消え、サイコロを振る前の場所に戻された。


「チッ、ったく、役に立たないわね」


「お前のためではないと言っただろう」


 次、星岡、2。


「くっ・・・」


 お、私の後を追って、”2マス進んで落とし穴”だぜ。砂漠になったことで丸太が岩に変わっているが、


 ヒューン。


 同じように落ちた。あー滑稽滑稽。だがぁ?


「ぬあああぁぁぁぁぁ!!」


 私がタダで落とされる訳ないだろ? 次に落ちた人のために電撃を用意しておきましたよ?


 プスプスと煙を上げながら、星岡が戻って来た。


「き、貴様・・・何をした・・・っ」


「何が? 自分で作った落とし穴でしょ?」


「くっ・・・覚えていろ・・・」


 やなこった。


 次、鈴乃。


「とにかく、あっこの5マス戻るを乗り切れば“ふりだしに戻る”はなくなるわ。せめて3か4!」


 そんなことを言ってると、


 2。


<野犬に襲われ、ふりだしに戻る>


「ああもう! 何なのよ! このゲーム!」


 星岡が作ったんだ、これくらい当然さ。



 その後も、


<サボテンが飛んで来る>


 とか、


<砂に呑まれて1回休み>


 とか、


<鳥に連れ去られて3マス進む>


 とかにそれぞれ翻弄されながらもゲームは進み、白鳥さんが暫定1位に踊り出た時に、


「あっ」


 背景が海に変わった。ようやく、砂漠終了。マスは砂に変わり、当たりは一面のコバルトブルー。マス間も海なのだが、そこだけは歩けるようにかなり浅くしてある。それでも足濡らして歩く必要があるが。


 さっきは、スタートから11マス目に久保が止まった時に砂漠に変わり、今度は白鳥さんの21マス目到達で海に変わったから、多分、10マスごとに変わるようにしてるんだろう。

 1位の居場所で背景が変わるが、マスごとの指令は変わらないので、下位連中が“サボテンが飛んで来る”や“砂に呑まれて1回休み”を受けるのも変わらない。


 で、海エリア第一号の白鳥さんが受ける指令だが、


<サメに襲われる気分を味わえ!>


「え・・・!? きゃっ!」


 バッシャーン。


 突如白鳥さんは足場を失い。海に落ちた。そこへ、


 スススススススス・・・。


 水面から灰色のヒレのようなものを出した何かが白鳥さんに迫る!


「んん~~!」


 すぐさまそれに背を向けた白鳥さんだったが、


「んん~~~~!!」


 反対側からも、サメが迫って来ていた。そして、それらがジリジリと距離を詰め、


「「シャーーーーーーッ!」」


「んんん~~~~~~!!!」


 水面から鋭い牙を見せながら白鳥さんに飛びかかったところで、それらは消え、白鳥さんもペタンと砂の上に座る形で地上に戻った。


「ハァ・・・・・・。ハァ・・・・・・」


 コバルトブルーの海のド真ん中で、顔面蒼白な白鳥さん。ありゃトラウマもんだぜ。


 さて、暫定順位だが、

1位、白鳥さん、21マス目。

2位、久保と安藤、18マス目。

4位、私、17マス目。

5位、星岡、15マス目。

6位、鈴乃、10マス目。

となっている。


「もう、みんなで頑張って・・・」


 鈴乃はもう戦意喪失しているようだ。ぶっちゃけ、後ろにいた方がどのマスに何があるか分かるから楽だ。誰かがゴールすれば終わりだし。


「次は私ね。ほいっ」


 何故か海の上でも普通に転がるサイコロが出したのは、5。白鳥さんを抜いて1位に踊り出る訳だ。


<ボーナス! 波に乗れ!>


「・・・・・・は?」


 何を言ってるんだと呆けていると、


「うおっ」


 足場がぐらつくと同時に上昇していき、気付けばサーフボードの上で波に乗っていた。だが、


「ちょっ、これマジか・・・!」


 波、荒れ過ぎだろ。結局、5秒ももたず、


 バッシャーーン。


 落水。


「・・・・・・」


 そして、ズブ濡れのまま砂の足場に下ろされた。


「フハハハハハ! 良かったじゃないか! 4マス進めたぞ!」


 あいつ、マジ泣かす。


 次、久保、3、サメに襲われるもネタバレ済みなので大したリアクションなし。

 次、星岡、2、サボテンが飛んで来る。

 次、鈴乃、3、火の輪くぐり。周りが海で良かったね。

 次、安藤、5、新マス。


<生牡蠣で食当たり>


 良かったじゃないか。大当たりだぜ、安藤。


「・・・・・・」


 安藤の手元には、皿に乗った生牡蠣。食ったら当たるって分かってるものを食わねばならない不条理。


 パクリ。


「・・・う・・・く・・・・・・」


 腹を抱える安藤。大丈夫なのかよこれ。


「案ずるな。次のステージに進めば治る」


 それまではそのままか。頑張れ、安藤。


 次、白鳥さん、2。


「・・・・・・」


<生牡蠣で食当たり>


 次、私、1。


<4マス戻って牡蠣も食え>


 フザけんなよ!


 波で4マス押し戻され、牡蠣も食わされた。いっ、て・・・っ。マジかコレ。


 次、久保、2。


<生牡蠣で食当たり>


「うぉ・・・!」


 次、星岡、6。


<生牡蠣で食当たり>


「ぬ、うぉぉぉぉ・・・」


 アホかコイツ。結局、鈴乃以外の5人が牡蠣食って当たるという絵面になった。


「うわ・・・せっかくの海なのに・・・」


 てめぇも牡蠣食いやがれ鈴乃。そんな鈴乃は、サボテンが飛んで来るなどどいう呑気なことをやっている。


「ぐ・・・これマジやべ・・・誰かさっさと次進みなさいよ」


 とは言えど、5人とも同じマスである。さあ安藤、牡蠣被害者の会会長の意地を見せてみろ。


「っ・・・」


 苦しそうにサイコロを投げた安藤。そして出た目は、1。


<海鮮丼を召し上がれ♪>


「っ・・・・・・」


 この状況で海鮮丼を食わされる悪夢。


「ちょっとアンタ、バカじゃないの・・・!」


「いや、これは、牡蠣か海鮮丼かで当たりハズレにしたつもりだ・・・」


 マジでバカだった。小盛りだったこともあり何とか海鮮丼を食べ終えた安藤。もう顔を上げることさえできてねぇぞ。


「たの、む・・・」


 もはや敵味方かまってられる状態ではなさそうだ。安藤よりはマシな顔色をしている白鳥さんが、サイコロを振った。出た目は、4。


<4マス戻って牡蠣も食え>


「・・・・・・」


 ようやくお腹から手を離した白鳥さん、その手は、顔を覆う方に向かった。最悪だよ、これ。


「アンタ、マジでバカなんじゃないの・・・!」


「こっ、これは、無傷で突破した奴にも牡蠣を食わせてやろうと・・・」


 マジのマジにバカだった。

 白鳥さんは、同じマスに戻るハメになるにも関わらず水場を歩いて4マス進み、波に押し戻され、牡蠣も食わされた。


「う、うぅ・・・」


 やべぇだろコレ。


 次は私だ。とにかく、あの4マス目だけは踏まずに突破せねばならない。そしてイチ早く、先へ進んで


「んっ」


 出た目は、5。


「っシャァ! いでででで!」


 やべぇ、力入れると腹に響く。で、何が出るんだよ。


<イカスミ>


 ビシャッ。


 ハッ! その程度か! 何ともないねぇ! フハハハハハ!


 次、久保、3。


<サンゴ観覧ショー>


 すると、辺り一帯が麗しいサンゴ礁の景色になった。


「わぁぁ・・・綺麗・・・」


 だが、それを楽しむ余裕は鈴乃にしかなかった。しかも、無駄に30秒ほど効果があって私らが苦しむ時間が長引いただけだった。


 次、星岡、2。


<海底迷路を抜けて4マス進む>


「くっ・・・」


 バシャン。


 星岡、水没。下で何が起きてるのかは知らんが、多分、泳いで迷路をクリアすれば4マス進むとかだろう。テメェのせいでこうなってんだ。私らのためにちょっとぐらいは前に進みな!


 数分後、星岡が海から上がって来た。


「ちょっと・・・おっせーよ・・・!」


「無茶を言うな・・・このコンディションなんだぞ・・・」


 テメェのせいだろうが。


 鈴乃は4を出してラクダとツーショット。海の上にラクダが立ってるとか、もはやどうでもいい。


 次、安藤、6。でかした。奴はトータル30マス目に到達し、遅くとも次でこの腹痛から解放されることが確定し…


<渦潮に呑まれてゲームオーバー>


「・・・は?」


「安藤ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 星岡が叫ぶ中、安藤は海へと引きずり込まれていった。


「おい、何だよ、あれ・・・」


「言葉の、通りだ・・・。安藤は、脱落した・・・」


「あ・・・?」


 つまり、あれか? あいつだけこのゲームから脱出できたってことか? フザけんな?


「奴は今、海中を彷徨っている・・・この腹痛と共にな・・・」


 うわ・・・。


「誰かがゴールするか、1人だけを残して呑まれるまでは、そのままだ・・・」


 でも、これで私が次のステージに進めば腹は治るんだろ? そしたら平和な海の中で誰かのゴールを待つだけかよ。


「ステージが変わっても、奴は海に中に残されるから腹痛も止まらん・・・」


 安藤ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!


 いやいやいやいや、人の心配をしてる場合じゃない。明日の我が身だ。5人があそこにハマるなんて考えられないから、ここで抜けておかないととんでもないことになる。この腹痛を抱えて水中に投げ出されていつになるか分からない終わりを待つとか、気が狂う気しかしない。


 次、白鳥さん、3。サンゴ観覧ショー。海鮮丼や海底迷路、もちろん渦潮よりもマシだと思ったのか、ちょっと安心した風に見える。牡蠣2回も食ったから顔色めちゃくちゃ悪いけど。


 次、私。3以上が出ればこの苦痛から解放される。そして、2だけは出してはいけない。絶対に・・・。


 鈴乃と安藤以外の一同が見守る中、サイコロが最終的に見せた目は、4。


「っせぇい!!いででででで!!」


 ガッツポーズと同時に腹痛に襲われる様式美。だが、これで解放される!


「敵ながら、でかしたぞ、“マッド才媛”・・・」


 ゲームバランス調整し直せ、このボケが。


「ハァ、ハァ・・・」


 腹を押さえながら4マス歩き切ったところで、背景が切り替わった。ジャングルだ。


「おぉぉっ」


 同時に、牡蠣にやられた腹痛も消えた。ああ、この日を待っていた。健康って素晴らしい。


「厳木さん、ありがとう・・・」


 フッ、どうよ。今の私ってヒーローじゃね?


「せっかく綺麗な海だったのにー」


 テメェそのセリフは牡蠣食ってから言えやコラ。


 で、ジャングルでは何が待ってるんだ? 腐った木の実でも食わされんのか?


<ラフレシアに食われて1回休み>


「フッ」


 今度はこっちが食われる番、ってね。すぐそばにラフレシアが生えてきて、


 ガブッ。


 視界が暗転。


 --------------------------------


 ラフレシアから吐き出され、元の場所に戻った。1回休みの後のターンが回ってきたようで、白鳥さんが1マス前にいたのと、久保と星岡の姿がなくてラフレシアが増えてた。あいつらも今あん中か。


「鏡子ーーっ! 海鮮丼おいしかったわよーーっ!」


 あいつ、マジふざけてる。お前なんて4マス戻って牡蠣食って当たってしまえー!


 で、私がサイコロ振る番だな。


「白鳥さん、そこ何だったの?」


「う・・・お猿さんに、スイカの種を吐かれる・・・」


 相変わらずマイナス要素が多いな。何のためのゲームなんだ。サイコロを振ると、3が出た。とりあえず、スイカの種を吐かれるのは回避できたらしい。


<ハチに刺されたくなくば3マス戻れ!>


「あぁ~ん?」


 ブブブブブブブブ・・・。


 正面から、蜂の大群が迫って来た。しかもオオスズメバチだ。あの数に刺されたら死にそうだが、“刺されたくなくば3マス戻れ”ってことは、絶対に3マス戻んなきゃいけない訳じゃないんだな。


「しゃらくせぇぇ!」


 プシューーーーーー。


 害虫用スプレーを召喚し、撃退。ちょろいチョロイ。星岡も見てないしな。


「うおっ!」


 で、その星岡がラフレシアから吐き出された。私の次の順番は久保のはずだが、ここで出て来てないってことは、1ターン遅れで食われたのか。星岡が出した目は、4。チッ、私の前かよ。更に、


<甘い蜜を求めて3マス進め!>


 うざっ。


「フハハハハ! 俺が1位だな!」


 まあ、最悪はこのゲームさえ終われば何でもいいのだが。


 次、鈴乃。そっからだと3を出せば4マス戻って牡蠣だぜ? しかし、出た目は、1。海底迷路で4マス進む。


「やった! 牡蠣食べずに済む!」


 おい、そんなことが許されていいのかよ。間違ってるだろこんな世界。しょうがないから後で私特製の下剤を飲ませることにしよう。


 ジャングルになったというのに、鈴乃は突然足場を失って沈み、数分後、どこからともなくバシャリと音を立てて現れた。


「あー、気持ちよかったっ。熱帯魚もたくさんいてサイコーよ♪」


 神よ、鈴乃に罰を。


 次、白鳥さん、3。彼女はハチから逃げて元のマスに逃げ帰った。

 次、私、2。


<猛獣を仕留めろ!>


「はぁ?」


 手元にポンッと現れたライフル銃。そして、


 ササッ、ササッ、ササッ。


 何やら猛スピードで迫る影。あれを仕留めろってか。


「グオオオォォォォ!!」


 なんかトラともクマとも言えないイミフな猛獣が出て来たが、


 パァン!


 撃ち抜いた。ドサリ、と猛獣が倒れ、そのまま消滅。


「ふん、たやすいものね」


「どこでそんなもん訓練してんのよ・・・」


「色々あるのよ、女子高生には」


「ないわよ!」


 次、ラフレシアから吐き出された久保、3。


<森のそよ風>


 フゥゥッ。


 本当に、そよ風が吹いただけだった。


 次、星岡も3。これで、ジャングルエリアも終了だな。星岡が進むと背景はまた青を基調としたものに変わった。だが、さっきの海とは全然違って、


「空ぁ!?」


 空の上だった。マスは、雲。すげぇフワフワしてる。足場がマスしかないのだが、体もフワフワしてるから飛んで渡れそうだ。


「落ちたらステージの最初のマスに戻されるぞ。気を付けろ」


 なんだよそのアクション要素。で、上空ではどんな苦難が待ち受けているかというと、


<足場消滅。2マス戻る>


「ぬおおおぉぉぉぉぉ!!」


 さっそく星岡自身が洗礼を受けていた。何はともあれ、トップが40マスを突破して後半戦に差し掛かった。安藤、大丈夫かなぁ・・・。

次回:神のゲーム(後編)

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