第51話:勇者現れず
MNCの連中が、機動隊ばりの武装集団を学校に送り込んで来た。奴らのターゲットである私と、人知れず隕石を落とした星岡、この騒ぎを見て飛び込んで来たクーロンくんと、奴らへの裏切りを決めた八雲組の皆さんで応戦している。
どうしても数的不利によりキリがない状態が続いていたが、八雲組の登場により形勢は大きく変わった。奴らとしても、強力な後ろ盾を失ったことはこの場の戦況以外の面でもキツいだろう。勇者など現れるはずもなく、敵兵が次々と倒れていく。
「クククククク、面白くなってきたな・・・ビハインドマリオネット!」
「のわっ! おい、何をする!」
「か、体が勝手に・・・!」
星岡が何かやったのか、敵が仲間割れを始めた。
「くっ・・・おのれ、マッド才媛・・・!」
私がやったと思われてるし。別にいいけど。
「ヒトセン流、気功術! 滅力孔 (メツリキコウ)!」
「ぬ・・・! が・・・あ゛・・・・・・!」
「ちか、らが・・・」
ドサドサドサドサ。
クーロンくんが正面に掌底をしたかと思えば、その延長線上にいた奴らがその場で崩れ落ちていった。気の流れを乱して全身に力が入らなくする、といったものだろうか。
「あのバカ、敵味方関係なくやりやがって」
八雲さんが呟いたように、味方も巻き添えを食らった。
「オラオラオラオラッ! そんなモンかテメェらぁ!」
「その装備はハリボテかぁ?」
八雲組の皆さんはやりたい放題だ。ま、都立施設が武装集団に襲われたんだから正当防衛っしょ。
「どうした。コイツは私を仕留めるためのモンじゃないのか?」
八雲さんは、敵の持つさすまた的な武器をつかみ、自身の首に当てて挑発している。無論そのまま押すような真似をすれば、失うのは指どころでは済まない。
「ふん、チキン野郎め。引っ込みな!」
「ふごっ!」
ジャンピング後ろ回し蹴りを左耳の辺りに決めて、撃沈。
しかし、ここまで敵味方が入れ混じる状態になると、ロボットアームは使いにくいな。小回りの利く方にシフトするか。ロボットアームを2本だけ残して仕舞い、スマホ片手に動き回る。
「素敵なヘルメットね?」
1本のスプレー缶を取り出し、ノズルを首元からヘルメットの内側に入れ込んだ。
プシューーーーー。
「おおぉぉ・・・! 目が、目がぁぁぁぁ!!」
倒れ込んでのたうち回る姿は見てて爽快だ。
「なっ、何をしやがった!」
安心しろよ。ただの催涙スプレーだ。その後も、催涙スプレー、スマホからの電撃、ふくらはぎへの麻痺針などにより、敵を沈めていった。
ひと息つきたくなったので、ミニバルーンで浮上して一旦後方に回避。すると、
「鏡子さん!!」
「あ?」
20人近くの男子生徒が集まっていた。野球部の連中だ。
「我々も助太刀します!」
いらん。
「アンタらは下がってなさい! 混ざれるレベルじゃないわ!」
「し、しかし・・・!」
「下がってと言ったら下がって! 私の邪魔をしたいの?」
「それは・・・!」
「勝ったら後でみんなで焼肉行くわよ」
「は・・・はい!! 応援してます!」
それで野球部の連中は玄関付近まで引っ込んで行った。さて、そろそろ大詰めだな。校庭中央と校門のちょうど中間辺りで激化したこの争いも、もう校門付近まで押しており、外側から八雲組が押していることもあって、敵陣営は包囲される形で追い込まれつつある。私は再度ミニバルーン浮上して、その中央に飛び込んだ。
「とっ、とにかくあの発明娘を捕まえろぉ!」
「しっ、しかしもう逃げ場が・・・!」
「なんで八雲組が敵に・・・」
「おらぁ!」
「ぐあっ!」
「ヤッ!」
「「「ぎゃあぁぁぁ!!」」」
「フハハハハハハ!」
「な・・・がぁ・・・」
プシューーーーー。
「お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」
そこからはもう、あっという間だった。あれから数分で、校門付近にはヘルメットにチョッキ、さすまた的な武器や盾を持った連中が大勢倒れているという状況になった。
八雲組の皆さんは戦況を見て1人ずつ撤収していったのか、気付いた頃には相当減っていて、最後には八雲さん含めて3人だけになっていた。その付属の2人もシュバッと去り、八雲さんも“終わったな”といった様子で踵を返して玄関へと向かう。
「やったナ!」
校門には私とクーロンくんが残っているのと、校舎の方を見ると屋上には星岡と思われる人物が仁王立ちしていた。生徒たちもまだ教室の窓際に集まっている。あと野球部も玄関に。
ブロロロロロ・・・。
「ん?」
車の音がして、道路の方を振り向いた。そこにいたのは・・・、
「厳木、鏡子さんですね。ご同行願えますか」
POLICE!!
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ぺラリ、ぺラリ。
「・・・金町地区団地のエレベーターを改造して一時的に使用不可能な状態にした。間違いありませんね?」
「はい」
ぺラリ。
「その団地に軍用犬を始めとした6頭の犬を連れ込み、通りすがりの人を怖がらせた。これも間違いないですね?」
「はい」
警官が、紙をめくりながらその内容を読み上げる。金町地区というのは、白鳥さんの住む団地のある辺りだ。
私はあの後、現れたパトカーに乗せられ窓咲署に連れて来られた。その場にいたクーロンくんは警察相手でも構わず突っかかったが、私がいさめ、大人しく“ご同行”することにした。半年ぶりぐらいだっけか、これ。
「本日、あなたの通う窓咲高校でちょっとした闘争があったようですが、心当たりは?」
優しい口調を心掛けて、というのと、隙を与えないように、というのを兼ね備えた様子で聞いてくる。こっちが女子高生であることを踏まえてか婦人警官なのだが、窓咲署に来た時はいつもこの人だ。古川と言う。
「ないです。ただ、直前に教師から、“MNCが話したがっている”と聞かされていたので、MNCの関係者がやって来たんだと思います。教師からは、“無理矢理にでも”という言葉も出ていました」
「そうですか。MNCと言えば、昨日、隕石による被害が出ていますよね。こちらについて心当たりは?」
「ないです。突然のことで私も驚きました」
「そうですか、そうですよね。宇宙開発機構でさえも発見が遅れたものですから、子供のいたずらで出来るようなものでもないでしょう」
古川は淡々とそう言った。さすがに慣れてるのか、ポーカーフェイスだ。ただ、こっちの言葉の裏を見抜かんとするオーラのようなものは感じる。めんどくせー。
「そのMNCについてですが、社員があなたから精神的被害を受けたと知らせが入ったのですが、こちらについてはいかがでしょうか」
ちっ、結局警察に駆け込まれたか。
「多分、おとといのことを言ってるんだと思います。友人の家に遊びに行っていて、パフェを食べに出掛けようとしたらMNCの人が来ました。友人の姉に用があったようですね。
どのみち私たち高校生では何もできませんし、引き取り願おうとしたら粘られて、こちらにも貴重な休日の時間がありましたから、ちょっとイタズラをして帰ってもらおうとしただけです。こちらとしても、数分近く足を止められた上に無駄な問答をさせられたという意味では、精神的にストレスを与えられています。お互い様です」
「イタズラとはどのようなものを?」
「その場で幻覚を見せるものです」
「日頃からそのようなものを持ち歩いてるのですか?」
「護身用です。女子高校生という身分ですと、特に男性には、何かとしつこく迫られることがありますから。実際に以前、こちらの許可なく家の敷地に侵入して来た人もいます」
無論それはMNCのことだ。
「分かりました。何かと物騒な世の中ですからね。しかし、相手が精神的被害を訴えるほど、というのは、やり過ぎたとは思わないでしょうか」
「私としても日々、しつこく粘る人からはストレスを感じて過ごしています。被害を訴えたか訴えていないかの差でしかないと思います。先ほど述べた友人の姉も、何度も来るMNCの営業が原因で精神科に通うようになったと聞いています」
「そのようですね。こちらでも調べました。それに関しては、こちらからMNCに対して聞き取りを行っているところです」
ほう。八雲組の後ろ盾がなくなった以上、奴らはもう逃げられないだろう。てか、さっきの乱闘現場には八雲組のメンバーが山ほどいたのに、わざわざ引き下がるのを待ってまで連行するのが一介の女子高生ってどうなのよ。
「ですが、それとは別問題で、あなたからMNC社員に対するものにつきましても、聞き取りが必要なのです」
ちっ、くそが。
「さきほど、“被害を訴えたか訴えていないかの差でしかない”と仰いましたが、相手方は被害を訴えています。実際にイタズラもされたようですね。このことに関して、何か言いたいことはあるでしょうか。場合によっては示談も成立するかと思いますが」
示談だ? 笑わせるな。
「結果として精神科医の診断が出るほどになったことは、申し訳ないと思います。しかし、客観的に考えれば、営業訪問先の妹の友人という本来関係ない立場の人間に対して数分にわたり足止めしたことでイタズラという形で反撃を受けたものであり、営業訪問中の出来事であることを踏まえると業務上災害、私の立場からすると民間企業のセールスマンから逃れるための正当防衛であり、“加害者であることを認めろ”と言われても、拒否します」
私なんかほっといて白鳥家の呼び鈴を鳴らしまくってりゃ良かっただけの話だ。もっともその時は“友人をしつこいセールスから守る”という名分に変わるだけだが。
「・・・分かりました。そのように伝えておきます。続いてですが、」
「チッ」
まだあんのかよ。
「悪態をつくと響きますよ」
「はいはい」
「っ・・・先ほどの騒ぎについてですが、MNCとしては、あなたとの対話を望みましたが返事が“力尽くでも捕まえてみろ”だったため実行に移したそうです。この発言があったことは、本当でしょうか」
「まず言っておきますが、学校を襲撃してきた団体がMNCだったことは、今知りました。MNCかも知れないとは思っていましたが、確定したのは今です。
“力尽くでも捕まえてみろ”と言ったのは確かですが、教師からは“無理矢理にでも”という伝言を聞いていましたし、“捕まえてみろ”と返事をした直後に盾を持った人が押し寄せて来ましたから、向こうも準備をしていたのは間違いありません」
「あなたは先月、図書館を丸ごと浮上させていますね。それも、そのままの高度で運用できるようにもしている。そのようなことができる人物が相手なので警戒態勢で臨んだ、というのが相手方の説明です」
「そうですか。ですが、それが今日である必要はどこにあったのでしょうか。私は高校生です。学費を払って通学しています。警察に呼ばれれば素直に従うのはご覧の通りですが、民間企業の呼びかけに応じる必要は本来ないはずです。向こうだって夕方まで待つこともできたはずです。それを授業中に訪れて、“無理矢理にでも”、ですよ。
外に出た時は校門前に真っ黒の車が1台停まっているだけでした。女子高校生という身からすれば恐怖さえ感じました。なので、“捕まえてみろ”と言って相手の出方を伺いました。幸いにも学友に、拳法の達人がいますから」
クーロンくんのことだ。彼のことは警察も知ってるだろう。
「“無理矢理にでも”なんていう言葉を使う相手が用意した車に1人で乗るよりも安全だろうと判断した結果の挑発です。すると案の定、向こうは武装集団を用意していたではありませんか。結果として相手方が全滅したというだけであって、やはりこれも正当防衛であると主張します」
こうして警察に連れて来られたことさえ不服だ、という本心も隠さず乗せて言った。
「・・・分かりました。こちらとしても、十代後半の子供たちの通う学校に、武装した一団を引き連れて訪れるというのは看過できないので、本腰を入れて調査を行います」
八雲組にも見捨てられたし、警察の本格介入でMNCは終わるだろう。
「ですが、土曜日の“イタズラ”も含め、これほどの騒ぎに発展したことについては、“厳重注意”とさせて頂きます。学校側にもそのように伝えておきます」
「はーーい」
つーん。私はそっぽを向いて肩をすくめた。
「い、い、で、す、ね」
「はいはい」
「“反省の色なし”、と書いて欲しいのですか?」
「まさかまさか! バッチリ反省してます♪ ハイッ!」
私はわざとらしくビシッと気を付けの姿勢をした。
「・・・・・・。ところで、最後にもう1点ですが」
「はい?」
今度は何だよ。
「金町団地の住民の方から、“よく分からないけどあなたからの頼みを聞いて金銭を受け取ってしまった”と相談があったのですが、これは本当のことですか?」
「え・・・・・・」
ん!? えーっと、何だっけ・・・あぁ、あれか。MNCの奴らを階段から滑り台で落とした後、エレベーター復旧を知らせるためにひと役演じてもらった親子への賄賂だ。・・・って、マジ?
「どうなんですか?」
何でだよ・・・そんなの黙ってろよ・・・冷静になって良心が働いた、とかか? これだから面識のない人を買収しちゃいけないんだよなぁ・・・。
「個人間のやりとりです。“贈与”なら年間110万円までは問題ないはずです」
「ええ。なので、その方については問題ありません。ご本人にもそのように伝えました。では、あなたは?」
「渡す側には税金も何もないかと」
「受け取ることもありますよね? “鏡子ちゃんがエアコン直してくれたからお小遣いあげちゃったよ”というお話しをよく聞きますが?」
誰だよンなこと警察に何言ってんのは! もう直してやんねぇぞ!
「・・・課税されるほどではないかと」
「計算されていないのですか?」
する訳ないだろうが。
「まあそれはいいです。立証するのも困難でしょうから。ですが、法人からも受け取っているという噂も耳にしますね。これについてはどうですか?」
マジで誰が喋ってんだよ。
「嫌な噂が立っているものですね。恐らく、個人間のやりとりが多いことで、そんな根も葉もない噂が出たのでしょう」
「嘘はつかない方がいいですよ? それに、法人から受け取っている場合も、一時所得という扱いにすれば50万円までは非課税ですから」
その手には乗らんぞ。企業側が私に金品を渡した分を帳簿に書いてるはずがないから、ここでそれを“受け取った”と認めることはできない。下手すれば私の信用がガタ落ちし、仕事が舞い込んで来なくなる。嘘をつくことで、守られる信用があるのだ。
「どうなんですか? 法人からも受け取っているのですか?」
引き下がる様子を見せない古川。こうなったら、
「・・・1週間前の日曜日、だったでしょうか」
「ん・・・それは、“受け取った”ということでしょうか」
まあ、聞けよ。
「仲が良さそうにしているカップルを見かけました」
「・・・? 何の話でしょう。金品の授受と関係あるのですか」
「すごく、すごく仲が良さそうでした。きっと、定期的にああして会っているのでしょう」
「話を逸らさないでください。法人から金品を受け取った事実があるかどうか聞いているんです」
「さて、私がそのカップルを見たのは、喫茶店“ルルエール”です」
ピクリ、と古川の眉が動く。
「それがどうしたと言うのです。喫茶店ぐらい誰でも行くでしょう」
「凄いですね。日曜日とは言え、毎週毎週、同じ時間に。男性側はいつもスーツですから、仕事の合間を縫っているのでしょうか」
「だからそれがどうしたと言うのです。訳の分からないことを言ってないで金品の授受について答えてください」
「それと、もう1つ凄いことがあり、女性側にはなんと、この人とは別に、毎日のように会っている男性がいるのです」
古川の顔がこわばる。
「・・・それを、私に言ってどうしろと言うのです? できれば民事で解決して頂きたいですね」
「さて私は、独自の手法により、この女性が言い逃れできなくなる材料を入手しました」
あるいは、この事態を突破するための“主砲”とも言えるだろうか。
「そ、そうですか。興信所のようなこともやっているのですね。ですが、届出をせずに探偵業を行うと、”厳重注意”では済みませんよ?」
「さて、この女性の特徴ですが、髪の色はダークブラウン、長さはミディアム、休日ということもありウェーブが掛かっているようですね」
「へ、へえ。大人の女性ですからね、そのくらいのお洒落はするでしょうね」
「この女性の普段の仕事の様子ですが、おや、なんと、制服を着ていらっしゃる」
「っ・・・まあ、制服とはかっこいい。どのようなお仕事なんでしょうね」
「私はその制服を、幾度もなく見た覚えがあります。私はその職場を訪れ、その女性にとって困る存在であろう写真を渡すこともできます」
「・・・・・・」
見えない冷や汗が、古川のこめかみにしたたる。
「しかし困った。その女性は公務員。どうやら公務員というのは、個人からの献品を受け取ることができないらしい。それどころか、民間人同士の授受にさえ文句を付けてくる。さて困った。どうやって渡そう」
「っ・・・・・・!」
古川は下を向いた。そしてそのまま、口を開いた。
「・・・今度の日曜日の午後2時、“ルルエール”に来てください」
「ん? お茶のお誘いですか? いいですよ。今回のMNCのことと言い、何度も迷惑かけちゃってすみません。たまにはお互いの立場を忘れて、世間話に花を咲かせましょう♪」
「・・・では、あなたの主張はMNC側にしっかりと伝えておきます。客観的に見ても正当防衛ですからね。大丈夫だと思いますよ」
それは頼もしい。警察が味方につけば安心だな。
「よろしくお願いします。では、今度の日曜日に」
「・・・はい」
(駅のトイレで変装までしてたのに、どうして・・・)
甘く見てもらっちゃあ困る。私からすれば目の前の相手は、いつも“お世話”になってる警官だ。弱みを握るぐらいのことはするさ。もっとも、軽率な行動を取ったのは迂闊だったとしか言えないがな。“今日もバレてない♪”って感じで闊歩する姿はお笑いだったぜ。
しかし、もうこの手は使えないだろうし担当が変わることもないだろう。MNCにトドメを刺すためのカードだと思って諦めるしかない。
警察署を出た。
「ようやく解放されたか」
君津が来ていた。校長も一緒だ。
「話は後で聞く。学校に戻るぞ」
そして、真っ黒でも白黒でもなく、黄ばみの目立つ白い車に乗り込んだ。その直後、
ゴツン。
「いったぁ~~い」
これである。おい、ここ警察署の前だからな? お巡りさーん! 今、殴られましたー!
「いきなり乱闘おっぱじめる奴があるか」
だからっていきなりゲンコツする奴があるか。
「じゃあ大人しくあの黒塗りの車に乗り込んでろと?」
「別にいいだろ。その方が被害者ヅラできるんだから」
「被害に遭ってからじゃ遅いんですー」
「だからって加害者になることは無いだろ」
「だぁいじょうぶですよ。警察側も正当防衛として扱ってくれるみたいですし」
「あんな散々に打ちのめしておいてか? こっちも大変だったんだぞ」
「あの後どうなったんですか?」
「無論こっちも学校で色々と聞かれた。なんせ、あの直前にMNCとやり取りをしてたんだからな」
だろうな。私が署まで連行された一方で君津や校長がその場で済んだのは解せないが。
「まあ、警察としてもMNCにガサ入れする方向で動くようだ。あんな武装集団を送り込んで来たんだから当然だが」
八雲組の後ろ盾もなくなったしね。
「お前、カオルーンに何て言ったんだ? あいつ、“悪い奴らが来たって言われたから戦った”って言ってたが」
私と一緒に校門にいたからか、彼も同席することになったようだ。
「ああ、確かにそれっぽいこと言っちゃいましたね」
そう吹き込んでおけば信じてくれるからな。嘘でもないし。
「全く・・・」
何とかなったからいいものの、と言いたそうに君津は溜め息をついた。
「しかし君、どうすればMNCがあんな形で仕掛けてくるのかね」
校長が聞いてきた。多分、土曜日の団地でのことは警察にも聞かされてないのだろう。
「ウチも契約してませんから、ちょっと前に絡まれたのを追い払っただけですよ。これも警察は正当防衛として扱ってくれるみたいです」
「そうなのか? ならいいが・・・」
もう面倒なことはゴメンだといった様子の校長。生徒が武装集団に狙われたんだからちょっとは心配してくれませんかね。
「それで、昨日の隕石についてはどうなんだ。偶然じゃあるまい」
今度は君津からだ。しつこいな。
「あれは神の仕業ですよ。警察も私を疑ってません」
「お前、警察に何かしたか?」
「聞かれたことに答えただけです。ただちょっと、週末にお茶に誘われましたが」
「・・・・・・」
それに対する反応はなく、君津の運転する車は学校の方へと向かって行く。
「それで、今回授業を受けれなかった分の学費は戻って来るんですか?」
そんな訳はないだろうが、好奇心半分で聞いてみた。
「安心しろ。希望するなら無償で補修をしてやる」
「希望しないことにします」
「お前は何のために学費を払って学校に来てるんだ」
「友達を増やしたくて」
「金づるの間違いだろ?」
「ギブアンドテイクの、非常によい関係を築いています」
「貸し借り勘定を気にしてるうちは友達とは呼べんな」
「親しき仲にも礼儀あり、ですよ」
「お前と親しくなっても賄賂しかないだろうが」
親しいからこその賄賂なんだよ。分かってないねえ。親しくない奴に渡したら、告発されちゃったりするんだから。
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「ふいーっ、疲れたーーっ」
学校に戻る頃には、昼休みを迎えていた。
「あ、鏡子お帰り。どうだった?」
隕石落としに関与したからか、不安そうだ。クラスメイトからの注目も集まる。
「土曜のも今日のも正当防衛で通りそう。MNCにガサ入れするってさ。隕石なんて、心配するまでもなく自然災害で扱われるわよ」
「そ、そう・・・」
「良かった・・・」
鈴乃は呆気に取られ、白鳥さんはホッとした様子だ。
「意外とあっさりね。あんたのことだからもうちょい揉めると思ったんだけど」
「人を何だと思ってるのよ。警察相手にケンカ売るような真似する訳ないでしょ」
「それをやる人だと思ってるわよ。さっきの騒ぎ見たら尚更ね」
「パトカーには大人しく乗ったでしょ? 見てなかったの?」
「降りてから暴れ出す可能性は十分にあるわ」
マジで人を何だと思ってるんだよこいつ。
「暴れないわよサルじゃあるまいし。人間には知能ってモンがあるのよ」
私は、コン、コン、と自分のこめかみを指でつついた。
「その“知能”を使って鏡子がやることと言えば買収でしょ」
よく分かってるじゃないか。
「ま、さすがに警察相手にやるとは思えないけど」
分かってなかったようだ。
「・・・あ、そうだ白鳥さん。お姉さんのことについても警察は調べてくれるそうよ? 多分、元から似たような相談が多かったんでしょうね」
「あ、そうなんだ。・・・じゃあ、もう大丈夫なのかな。ありがとう、厳木さん」
隕石落とし後はずっと不安そうな顔だった白鳥さんがようやく、笑顔を見せた。隕石落とし自体に負い目を感じてるのか、まだ顔色は微妙だが。
「そうね。後は警察に任せてもいいでしょ。MNCはもう終わりよ」
あの後、警察がすぐに動いたようで、“行き過ぎた営業活動により精神的被害を訴える市民多数”ということで捜査が進めれた。
これまで黙って耐えていた人からも続々と声が上がり、隕石が落ちて注目を浴びたことで市民の体験談もこれまで以上に広まり、メディアからも散々に叩かれ、あれよあれよという間に追い詰められ、木曜の朝のホームルームで君津からMNC解体の旨が告げられることになった。彼らを救うべく立ち上がるような勇者は現れなかったようだ。
なお、古川を脅したのがどこまで効いたかは知らないが、学校や私のもとに警察は一度も来ていない。
「正真正銘、一件落着ね」
「疲れたわ。あいつら、話が通じないんだもの」
「乱闘に持ち込んだ鏡子が言うと説得力があるわね」
「言っとくけど、乱闘に持ち込んだのは向こうよ?」
「聞こえたわよ? “力尽くでも捕まえてみろ”って」
「その言葉だけは通じた辺り、奴らの知能が知れるわね」
「ま、ホント、良い気味だけど」
鈴乃も隕石落とし後は顔色が悪かったが、あれは単に“疑われたらどうしよう”的なものであり、負い目は感じてなさそうだ。私の親友だからね。
「白鳥さんちのご飯、美味しかったんだけどな~」
早期解決したことでそれだけが悔やまれた。月曜からは普通に自分の家に帰ったし。
「お父さんが、“また来てもらいなさい”って。お礼、全然できてないから」
「おっ」
成功報酬込みで“解決までのタダ飯タダ宿”だったのだが、もらえるものはもらおう。
「んじゃ早速今日ね」
「早くない?」
「大丈夫だよ。メールしておくから」
白鳥さんの父親が仕事に戻るのは来週らしく、この日も豪勢な料理が振る舞われた。冴絵さんも元気を取り戻しつつあるようで、時期にアパートに戻り復学するそうだ。
「そういえば星岡君のやつは? ゲームやんなきゃいけないんでしょ?」
MNCを潰すに当たり、初手となる隕石落としをしてもらう対価として、あいつが作ったボードゲームで一緒に遊ぶというのを要求されている。確か、止まったマスに書いてあることが実際に起こるんだったか。
「明日だってさ。楽しみね」
「不安しかないわよ・・・」
今日のところは白鳥家で美味しいご飯をいただき、明日に備えた。
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翌日、金曜日の放課後。
「ククククク・・・よく来たな、闇の眷属を共に打ち滅ぼし同士よ」
私たちは、学校の屋上に来ている。
「大丈夫、なんでしょうね・・・」
鈴乃が呟く。
「大丈夫じゃなくても、やるしかないでしょ」
「あは、は・・・」
白鳥さんは不安そうな苦笑い。
「ではゆくぞ! 神の世界を見せてやろう!」
次回:神のゲーム(前編)




