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第49話:神降臨

【ククククク、ククククククク・・・】


 電話の相手は、悪役のような笑い声を上げている。


【まさか貴様の方から接触してくるとはな、“マッド才媛”よ】


 こいつは私と同じ窓咲高校の生徒で、封印されし右手には神の力 (ガチ)が宿っていることから、“ゴッド星岡”と呼ばれている。

 バレンタインには屋上に男子生徒を集めてチョコを召喚したり、体育祭ではピンポイントで雨を降らすなどをやった。私に対しても妨害してきたので拉致して“神の紋章”(右手の刺青)を消すことで無効化してやったが。


 こいつの携帯番号など知らないので、学校のデータベースに侵入して家の電話番号を調べ、かけたところ親が出て来たが代わってもらった。


「ちょっとやりたいことがあってね。手を組まない?」


【手を組む・・・貴様とか?】


「もちろん、タダでとは言わないわ? 焼肉、遊園地、温泉旅館、なんでもござれよ」


【むぅ・・・先に、貴様がやろうとしていることを聞かせろ】


「MNCを潰す。あんたにはその、最初にして最大の一手を担当してもらいたい」


【MNCだと・・・!? フッ・・・フハハハハハハハ!!】


 なんかいきなり笑い出したぞコイツ。


【フハハハハ。ついにあの、傲慢な闇の眷属と決着を着ける時が来たということだな。フハハハハハハハ!】


 コイツはコイツで、MNCには思うところがあるようだ。


「さっきの放送聞いたでしょ? 私んトコにはもっとナメたメッセージが届いてね。売られたケンカを買うことにしたわ。今日さっそくやりたいんだけど、イケる?」


【無論だ。我がアジトへ来い。詳しい話はそこでやろう。待っているぞ。フハハハハハハハ!】


 通話終了。すげー乗り気だったなアイツ。好都合だからいいけど。


「話が着いたわ。天文部の部室に来いって言われたから学校行くわよ」


「オッケ。すっごい笑ってたね星岡君」


「大丈夫、かな・・・?」


「安心して。私にケンカ売って無事で済んだ奴はいないから」


「大丈夫、かな・・・」


 --------------------------------


 天文部の部室前。


「星岡さんがお待ちだ。入れ」


 何のことはない部室棟のドアの前に、2人の男子生徒。星岡の手下だろう。


「くれぐれも、神に失礼のないようにしろよ。小娘ども」


 ピキ・・・。随分とナメたクチ聞くじゃねぇか。あぁ~~ん? しかしここでやり合って仕方がないので、開けられたドアの内側に入る。


「ククククク・・・待っていたぞ、同士よ」


 部室の中にいたのは星岡だけだった。私らの後ろには門番の手下どもがいるが。ここは天文部の部室のはずだが、それらしいものは地球儀だけで、カードゲームやボードゲームが所々に雑に置いてあり、棚には神話やら古代の魔物・魔術大全やらが並んでいた。

 天井から吊り下げられている、巨大な魔物(?)とそれに立ち向かう神々(?)のフィギュアからも、コイツらの趣味が窺い知れる。鈴乃と白鳥さんも、少し顔を引きつらせながら部屋を見回している状態だ。


「話の前に、腹ごしらえでもどう? もうすぐお昼だし」


 私はコンビニ袋を軽く掲げてそう言った。寄ったのはコンビニではなくスーパーだが、惣菜に菓子、ジュースが入っている。門番2人がいたのが想定外だったが、足りるだろう。


「クククク、いいだろう。腹が減っては戦もできぬ、と言うからな」


 怪しげなオブジェやら本に囲まれながら、オードブル形式で皿に取ったものを、もしゃもしゃと食べる。


「あれは何?」


 ここまで色々あると興味を示した方がいいと思ったのか、鈴乃がとあるボードゲームを指差してそう言った。神話とか魔物について語り出されたらヤバそうだからな、無難なチョイスだ。それにあれなら、私も知っている。


「ククククク、良いところに目を付けたな、同士よ」


(勝手に同士にしないでもらえるかしら) by 大曲鈴乃16歳


「そいつはバックギャモンだ。サイコロを振って進むという意味では双六と似ているが、これが中々に奥が深いものでな、・・・」


「「「・・・・・・」」」


 軽く5分はバックギャモンについて語られたと思う。自分の好きなものに興味を持たれたら語り出す、典型的なタイプだったな。しかし、機嫌を損ねて追い出される訳にもいかないと思っているのか、鈴乃と白鳥さんは、たまに相槌を打ちつつ頑張って聞いていた。やっぱり、人に頼んなきゃいけないっていうのは、良いもんじゃないな。


「それで、我が封印されし神の力で、どうしようと言うのだ」


 飯も食い終わったところで、本題に突入。


「あんた、隕石落としたりできる? あいつらの本拠地にズドーンって落としてまとめてブッ潰そうと思ってるんだけど」


「ぬ・・・」


 星岡は、一瞬だけ怪訝な表情を浮かべたが、


「フッ・・・フハハハハ! そうきたか! だが、それこそが最善の策と言えよう! いかなるシステムも、心臓がやられては動かんと言うものぞ!」


 だよな。思わず、私の口もニヤリと動く。


「いいだろう。隕石の1つや2つ、我が神の力をもってすれば容易いことぞ。傲慢な闇の眷属のアジトなど、一瞬にして葬り去ってやろう」


 オッケー。さすがは神だぜ。


「それやるとして、何時にやるの?」


 そう言ったのは鈴乃だ。ぶっちゃけ何時でもいいのだが、


「日没後にしましょうか。外に出てる人が多いと面倒だし」


「ククククク、闇討ちという訳だな。面白い」


 よし、これで奴らのペチャンコは決定だな。


「で、報酬は何がいい?」


 同士などという呼ばれ方をされてるが、そんなのは今日限定だ。余計な貸しを作らないためにも、きっちり精算しておこう。


「そうだな・・・」


 手をアゴに当てて考え始める星岡。だが、思い付かないというよりも、これを言っていいものか迷っているように見える。


「焼肉でも遊園地でも、よいと言っていた、よな・・・」


 少し顔を上げてこっちを見る星岡。なんか、遊び相手が欲しい子供みたいな目だ。


「じゃ、じゃあ・・・」


 目を逸らす星岡。何をためらってるんだか。


「っ・・・俺の作ったボードゲームを共にやってもらう、というのはどうだ・・・?」


 そしてまた、星岡はチラリとこっちを見た。その仕草やめてくんない?


「今、この場にいる6人で?」


「そ、そうだ・・・」


「「「・・・・・・」」」


 やっすっ。


 要は、たまにはリア充したいということか。再び目を逸らした星岡の視線は、さっきよりも下に落ちている。なんか、見てるといたたまれない気分になるな。鈴乃たちの考えを伺うべく顔を向けると、2人とも肩をすくめて優しい苦笑いを返してきた。


「別にいいわよ。ただし、あくまで成功報酬だから全部片付いてからね」


 そこで星岡は、パァッと明るく顔を上げた。


「そ、そうか! やってくれるか! フハハハハ! 絶対だ、絶対だぞ!」


「甘く見ないでちょうだい。契約を破るようなことはしないわ」


「フッハハハッ! そうだったな、貴様はそういう奴だったな!」


 忙しい奴だな。隕石を降らせるほどの力を持っていながら、それやってもらう対価が一緒にゲームで遊ぶ程度とは、人間ってやつは不思議なもんだ。ま、安く済んだからいいけど。


「で、どんなゲームなの?」


 それを切り出したのは鈴乃。隕石降らせるような奴が作ったゲームだ。ただのスゴロクって訳じゃないだろう。事前に知っておきたい気持ちも分かる。


「ククククク、よくぞ聞いてくれた。これはな、止まったマスに書いてあることが実際に起こるものだ」


「え」

「え・・・」


 鈴乃と白鳥さんが固まった。どうやら、言うほど安上がりじゃなかったようだな。どっかの映画で見たようなボードゲームを、ガチで作ったらしい。


「案ずるな。生命をおびやかすようなものは無い」


 良かったじゃないか鈴乃。死にはしないってさ。


「そ、そう・・・楽しみね・・・」


 --------------------------------


 夜にはまた天文部の部室に戻ることにして、私たち3人は一旦私の家に向かうことにした。さすがにあいつら何時間も過ごすのはキツすぎる。


「はぁ・・・どんなのがあるのかしら。鏡子の発明品をテストさせられる気分だわ」


「言ってくれるじゃんか。あいつのがどうかは知らないけど私が作るのはちゃんとした物でしょ?」


「池に落ちたのと図書館が空飛んだの、忘れてないからね」


「忘れなさいよそんな昔のこと」


「覚えてなきゃ同じ過ち繰り返しちゃうでしょうが!」


「あら、自分の過ちだって認めるのね」


「あんたも認めなさい!!」


「えぇ~~?」


 池に落ちたのは鈴乃が無駄に騒いでボタン押しちゃったからだし、図書館が飛んだのは“押すな”っつった赤のボタンを押したからじゃん。


「星岡君って、ちょっと怖いなぁって思ってたんだけど、話してみると、普通の男の子、って感じだったね」


 あははと笑いながらそう言った白鳥さん。星岡への評価甘すぎるだろ。変に懐かれるからそれ本人に言わない方がいいぞ。彼氏持ちなら尚更だ。


「典型的なモテない男子だったけどね」


 まあ、普通は鈴乃みたいな感想になる。


「協力してくれるんなら何でもいいわよ。今夜が楽しみね」



 自宅付近に到着。無論そのまま塀が途切れてる部分から入るのだが、そこに着く手前で、向かいの家から人が出て来た。幼馴染のセルシウス (本名は摂津信司)だ。


「こんにちは」


 鈴乃と白鳥さんもいるからか、こいつにしては珍しく私よりも先に声を掛けてきた。


「やっほ~」

「こんにちは」


 鈴乃と白鳥さんが軽く手を振って返事。


「休日の昼間にどうしたの? 買い物?」


「いいや、図書館に行こうと思って」


 こいつは、プライベートなことを聞いても割とすんなり答える。はぐらかした方が面倒だと思ってるのだろう。正解だ。


「お、もしかして、私が空に打ち上げた図書館?」


「やっぱりあれは君の仕業だったのか・・・だけど、今日は普通の図書館。あそこは遠いし」


「そ。勉強熱心なのはいいけど、8時までには帰った方がいいわよ?」


「・・・何をする気なの。MNCから放送があったのも、どうせ君が原因でしょ」


 さっすが心の友セルシウス。よく分かってるじゃんか。


「それは8時になってからのお楽しみ♪ ってね」


「はぁ・・・街のみんなまで巻き込まないでよ」


 そりゃ無理だ。みんなが契約してるWiFi提供業者が潰れるんだから。


「それじゃ」


 セルシウスはチャリに乗り、鈴乃と白鳥さんに向かって軽く頭を下げてから去って行った。


「摂津君って、幼稚園の頃からの幼馴染なんだっけ。大変そ」


「ホント、昔は可愛かったのにね」


「誰だって友達を選びたくはなるでしょ」


「じゃあ鈴乃は、選んだ結果の私なのね」


「・・・たまに、豪華客船とか乗れるしね」


 なるほど。


 玄関前のアプローチ部分の落とし穴ほか多数の罠を解除し、中へ。


「お邪魔しま~す」

「お邪魔します」


 あーやっべ、今、あんまり親に会いたくなかったんだが。


「あら、鈴乃ちゃんに、この間バーベキューしに来た子よね? もしかして、鏡子がお世話になってのはあなたのおうち?」


 そういや、“友達んちに泊まる”としか言ってなかったな。


「あ、はい。ですけど、きゅうら・・・鏡子ちゃんには、色々と助けてもらってて・・・」


「あら、そうなの。・・・それで、MNCって訳ね」


 大体の想像はついたようだ。


「でも奴ら、相当本気みたいよ? ケンカ買うつもりなら気を付けることね」


 もちろん、私が大人しく金を払うつもりなどないことは母も知っている。もし裁判になって負ければ保護者が対応を迫られるが、後で母から私に請求が来るだけだ。


「分かってるって。勝算はあるけど手は抜かないわよ」


「そ」


 それで母は引っ込んで行った。私たちはそのままラボへ移動。隕石落下地点となるMNC本社をウロついては怪しまれるのでドローンを送り込むが、隕石を待つ間は衛星情報取得の機能を付けたい。


「す、ごい・・・」


 そういや、白鳥さんは初めてだったか。


「悪魔のラボよ」


「救世主のラボだと言ってもらいたいね」


「隕石落とそうなんて考える救世主がどこにいるのよ」


「あなたのすぐ近くに」


「はぁ・・・さっさとやるわよ。何番の部品使うの?」


「3の8の1。悪魔の研究に加担するってワケね」


「手伝わないわよ」


「冗談じょーだん」


 てなワケで、作業開始。


 --------------------------------


 ドローン改造は時間に余裕をもって完了し、7時半に迫ったことろで学校に向かうことにした。母が鈴乃たちの分まで食事を用意したので、腹ごしらえもバッチリだ。で、出発した訳だが、


「よう」


「ん?」


 道路に出るなり、声を掛けられた。


「・・・・・・」


 そこにいたのは、窓咲市内をシメる暴力団の跡取り娘、八雲さんだった。ボディガードも2人いる。


「な、なんでしょう・・・」


「ちょっとツラ貸しな」


 手首を返して親指で“こっちに来い”っていう仕草、マジであるんだ・・・。鈴乃と白鳥さんには待ってもらって、道路脇の方へ。身長差20センチぐらいあるから怖ぇ・・・。八雲組の跡取り娘が何の用なんだろうか。


「天文部に送り込んでる舎弟から聞いたぞ。MNCにケンカ売るらしいな」


「え・・・」


 テンモンブニ、シャテイ?


 しかもそれが、わざわざ組の方に報告されてるってことは・・・、


 これ、もしかして、指チョンパされる系? 肝が冷えて行くのを感じつつ、八雲さんの次なるセリフを待った。


「好きにしろ。奴らはやり過ぎた。悪評も広がって人口が減ってるし、時間の問題だと思ってた頃だ。ちょうどいい」


「はぁ」


 ・・・ってことは、ゴーサインか。


「もう十分に稼がせてもらった。お前たちとやり合ってまで守るほどじゃない。用済みだ」


「・・・・・・」


 つまり、八雲組としては見切りを着けたってことか。MNCの連中が妙に強気だった理由も分かったが、これで奴らは最強の後ろ盾を失ったってこったな。ざまぁ。


「では、遠慮なく」


 それで八雲さんは、悠々と立ち去って行った。裏の繋がりの証拠隠滅でも進めるのだろう。

 しっかし、まさか八雲組と繋がってたとはな。相変わらず腐敗指数の高い街だぜ。私も人のことは言えた義理じゃないが。


「お待たせ」


「何だったの?」


「なんか、エアコン壊れたから直してくれってさ」


「ふーん」


 さっきのは、一種の契約だったことにしよう。八雲組に飛び火しないように奴らを消す。その対価として身の安全は保障される。だから守秘義務は守らないとね!


 --------------------------------


 そして迎えた、午後8時。


「ククククク・・・さあ、ショーの始まりだ・・・っ!」


 シュルルルルルルルッ。


 星岡が、まるで封印された力でも解き放つかのように、右手に巻かれている包帯を解いた。そこには、本人が“神の紋章”と呼んでいる刺青があった。デザインは、まあ、それっぽい感じのものだ。しかしあれを消すと何もできなくなるらしいから、実際に封印された力が宿っているのだろう。


「フハハハハハハ! 傲慢な闇の眷属どもよ、我が神の力の前に滅びよ!」


 星岡が、何か気でも溜めるように右手の指を曲げて力を入れ、それを、バッ、と真上に向かってかざした。


「カデーレ・メテオリーテース!」


「「「・・・・・・」」」


 シーーーン。当然、この場に隕石が落ちて来られても困る。という訳で、現地に送り込んでいるドローンの映像と、隕石ともなれば世間が騒ぐだろうからネットニュースの方もチェックしている。


「ククククク・・・やがて、来るであろう。奴らの破滅の時がな! フハハハハハハハ!」


 相変わらず賑やかな奴だ。ドローンのカメラを上空に向ける。さすがにまだ何も見当たらないが、衛星情報の方が反応を示した。


 ピコン、ピコン、と、何かが迫って来るのが分かる。本当に、いきなり出るんだな。しかるべき機関はこれからテンヤワンヤになるだろう。とか思っていると、


【【【ホワンホワンホワンホワン!! ホワンホワンホワンホワン!!】】】


 この場にいる6人全員のスマホから大音量の警報音が響き渡った。これは、あれだ。地震の直前に鳴るやつだ。突如現れた隕石の存在を察知し、早くも市民への呼びかけに移ったらしい。


「うわ・・・」


 鈴乃が、スマホを開いて固まる。


「これ、私たちがやってるのよね・・・」


 鈴乃と白鳥さんは顔が真っ青だ。一方、


「フハハハハ、フハハハハハハハ!! これこそが、神の鉄槌なり!!」


 星岡はご満悦の様子だ。手下のうちの片方は顔面蒼白で、もう片方は冷静な無表情のままにスマホを眺めている。あっちが八雲組のメンバーだな。ひえー、言われなきゃわっかんねー。


 ネットニュースに目を向けると、各局、速報を出しているようだった。


【現在、東京都上空に未確認の飛行物体が確認されております。隕石である可能性が高く、東京都への落下は間違いないと見込まれており、落下地点の予測が急ピッチで進められております。都民の皆様は、最新情報の確認を怠らないようにしつつ、避難の準備を始めてください。隕石は非常に小さく、影響範囲は半径100メートルにも満たないだろうと予測されておりますので、パニックにならず、落ち着いて対処するよう心掛けてください。

 繰り返します。現在、東京都上空に・・・】


 うっひょー、盛り上がってるねえ。当然私らは落下地点を分かってるのだが、教えてしまうとシャバに戻って来れなくなるだろうから、見守る以外にない。とある民間企業の建屋に向かってることぐらい、プロの人たちがすぐに計算してくれるだろう。


「大変なことに、なっちゃった・・・」


「ま、そういうことやってんだからしょうがないよね」


「鏡子は慣れてるでしょうけどねえ・・・!」


「いやこんなニュースになるようなことは初めてよ? それに、実行犯は私じゃなくて星岡くん」


「うわ・・・最低・・・。でも指揮者は鏡子でしょ」


「そんなこと言ったら、今の私ら全員、下手すりゃ共謀罪よ?」


「え・・・・・・」


 こんなプレハブ小屋に6人集まって集会。そして、相手が民間企業とは言え隕石落とし。テロじゃなきゃ何なんだ。


「さい・・・あく・・・・・・」


「鈴乃は別にいいでしょ。前は豪華客船の密航もやったし、既に前科何犯かあるんだから」


「誰のせいだと思ってるのよ!!」


 伊東だよ。


「・・・・・・」


 白鳥さん、顔を上げることもできないようです。ドン☆マイ♪


 私、星岡、八雲組メンバーの3人が悠々とネット情報をチェックし、他3人が項垂れる中、


 タンタラタンタラタタララララララ♪


 電話が鳴った。母だろうか、と思いながら見ると、違った。担任の君津だった。


【どうして俺が電話したか、分からんとは言わせんぞ】


「すみません、分からないんですけど」


【ナメてんのか】


「あー・・・もしかして、ニュースになってる隕石のことですか?」


【当たり前だろうが】


「さすがの私もあんなの無理ですよ。被害は100メートルにもならないって言ってますし、落ち着いて状況判断していくしかないですね」


【落下地点はどこだ】


「だから知りませんって」


【・・・明日、日の目を見れると思うなよ】


「私んちに落ちれば見れないかもですね」


【ブツッ】


「・・・・・・」


 切れたか。しっかし、まだ落下地点が割り出されてもないのに私を疑うとは、よく分かってんな~あいつ。さすがは担任だ。


「きょ、鏡子、これ・・・」


 多少は気を持ち直したらしい鈴乃が、パソコンの画面を指差す。どうやら、宇宙開発機構的な組織が会見を始めるらしい。フラッシュがけたたましくパシャパシャとたかれる中、作業着を着たおじさんが椅子に座り、マイクに口を近付けて話を始める。


【突如確認された未確認飛行物体ですが、落下予想地点が割り出されました】


 パシャパシャパシャ、パシャパシャパシャパシャ。


【落下予想地点は、東京都窓咲市、中央西町2丁目にある、窓咲ネットワークセンターです】


 パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ。


【落下予想時刻は、今から13分後の午後8時22分。被害範囲予測は速報と変わらず半径100メートル未満ですが、念のため、窓咲ネットワークセンター付近にお住まいの方は、至急、できる限り離れた場所にある学校や公民館に避難してください】


 パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ。


【どうして直前まで気付かなかったんですか! 隕石が大きければ多くの被害者が出たかも知れないんですよ!】


【突如レーダーに現れ、発見が遅れたのは事実です。しかしこれは他国についても同様であり、決して我が国の発見が遅かった訳ではありません。相手は自然ですから、全てを完璧に捉えることは不可能なのです。もちろん日々、精度の向上に務めております】


 そんな感じで、会見は進んでいる。落ちる場所と時間が分かったことで、多少は落ち着くだろう。


「「「・・・・・・」」」


 3人はもう、生気を失ったような様子だが。


 ヴーーーッ、ヴーーーッ。


 君津からメールが来た。


<言い訳と家族に遺す言葉を考えておけ>


 返事はしなかった。この分だと家の方にも何本か電話がいってるだろうな。電話線を抜くなんて犯人宣言はしないだろうし、後でグチグチ言われそうだ。


【ピン、ポン、パン、ポーーン】


 防災無線も入った。テレビで言ってるようなことを並べ立て、市民に避難を促していた。



 あと数分で8時22分になろうかという時、ドローンがついに視覚的に隕石を捕らえた。遠くに光る、ひと筋の点。それが、ドローンの待つMNCに迫る。場合によってはドローンは殉職することになるが、着弾後の様子も見たいので離れた位置にもう1台スタンバイしてある。


【もう間違いありません! 隕石は窓咲ネットワークセンターに直撃します! 窓咲市民の皆様、急いで避難をお願いします!】


 ネットは同様のニュースや動画で溢れ返り、ここにはないがテレビも似たよなものだろう。


 時間が、着々と進む。ドローンに映る光が、少しずつ大きくなってくる。私と、星岡と、2人の手下と、鈴乃と、ようやく顔を上げた白鳥さん(顔色は悪い)がパソコンの画面を見守る中、ついに、遥か遠くより訪れた光が、にっくきMNCを討ち滅ぼす絶対神が、この地に舞い降りた。



 ズドオオオオオオォォォォォォォォォン!!!



「うわっ」

「「きゃあ・・・っ!」」


 さすがに、結構揺れるな。案の定メインのドローンは画面が真っ暗になり、もう1台のドローン映像の方に、崩壊するMNCの建屋と、その場で巻き上げられる無数の瓦礫が映し出されていた。


「フハハハハハ!! 見よ!! これが神の力だ!!」


 揺れに耐えながら、この揺れと、パソコンに映る現地の様子が落ち着くのを待った。



 1分もしないうちに、落ち着いた。揺れは完全に止まり、MNCの方は、特撮の怪獣にでも踏み付けられたかのように跡形もなかった。

 飛び散った破片は、敷地がそこそこ広いので大半はMNC内に収まっているが、ドローンで見て回る限り、外まで行ってるのもゼロじゃない。窓割れちゃった家もあるようだが、今後MNCの受信料を払わずに済むってことで大目に見て欲しい。相手は自然現象だし、ね?


【さ、先ほど、隕石の落下が確認されました! 推測通り、窓咲ネットワークセンターに直撃した模様です! これから、被害状況について調査が行われると思われます。窓咲市、および東京都の皆様は、引き続き、こまめな情報チェックをお願いします】


 さて、現地調査が始まる訳だが、確かめたいことが1つ。


「鈴乃、MNC繋がる?」


 わざわざ隕石まで落とした目的は、奴らがサービス提供できない事態に追い込むことだ。


「あ、ちょっと待って・・・えっと・・・あ、ない。そもそも出て来ない!」


 オッケー。接続先の選択肢からMNCが消えたようだな。完全に電波飛ばせなくなってる訳だ。現地の事後処理はお偉いさん方に任せよう。


「これ、どうなっちゃうの・・・?」


 白鳥さんが不安そうに言う。


「なるようになるわよ。ジュースでも飲みながらくつろいでましょ」


 暗いし、どうせ今日には何も決まらんと思うが。



 20分ほどすると、現地に人が集まり始めた。市やMNCの職員、作業服を来た土木関係者、それから野次馬といったところだろう。

 私が行けば怪しまれるか、行かない方が却って怪しまれるかというところだが、MNCに直撃したという時点で奴らが私につっかかってくるのは間違いないので、姿をくらませておくことにする。学校から出るとこ見られたくもないしな。


「鈴乃たちはどうすんの? 私は学校で泊まるけど」


「え!? 着替えどうすんの!?」


「持って来てるに決まってんじゃん」


 制服も全部リュックの中よ。3泊した白鳥さんちを出た荷物のまんまだし。


「あ、あたし、そのまま鏡子んちに泊まれって親に言われたんだけど・・・」


「わ、わた、しも・・・」


 マジか。まあ、変に外出させたくはないか。


「んじゃ、明るくなったらマッハで家帰るこったね」


 とは言え、こんな不気味な部屋で寝るつもりはない。


「んじゃ星岡くん、報酬のゲームは明日の様子を見てからってことで」


「あ、そ、そうだな・・・俺たちも、夜を明かす準備をするか」


 天文部の連中もここで泊まるらしい。そういや星岡の力って、どこまで世間に知られてるんだろうか。自然現象が多い上にチョコ召喚ぐらいしか周りに見せてないようだが。


 天文部の連中に別れを告げ、外へ。さすがに、さっきの今だからちょっとザワついてるな。塀とか木があるから見つかることはなさそうで安心できるが。


「どこで寝るの?」


「美術部んとこで良いっしょ。一応この部室棟に部屋もってるみたいだし。その前にテニス部んとこでシャワー借りるけど」


「あっ、ズルっ! 自分だけ着替えあるからって!」


 知るかよ。明日朝シャンすりゃ良いだろ。


「鍵は開けてくから待ってなよ」


「なんで美術部んとこの鍵なんて持ってるの?」


「鍵がなきゃ開けらんないっていう固定概念を排除することね」


「あんたが排除してるのは固定概念じゃなくて常識よ」


「固定概念にしても常識にしても、それらの排除は発明の基本よ?」


「犯罪の基本の間違いでしょ?」


「嫌なら屋外で寝ることね」


「・・・開けて」


 背に腹は代えられない。そうなったとき人は、固定概念とか常識ってやつを打ち破る。


 --------------------------------


 シャワーを済ませて戻って来ると、鈴乃たちは預けてたパソコンでドローン映像やらニュースやらを見ていた。なお、ドローンは自動操縦に切り替えてある。


 状況は、大して変わっていない。MNCの建物が崩壊して周囲に瓦礫が飛び散ったという、ハナから分かってることが現地で確認されたに過ぎない。明日もっかい確認する流れになっている。


 さぁ~て明日、どうなっかな。

次回:一夜明けて

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