第44話:響き合う想い! ピュアハーモニーストリーム!.
ピンチに陥ったピュアネオンを助けるべく、ピュアミラーとピュアジングルが爆誕。
「すげぇ・・・」
「お姉ちゃん、すっごーい!」
それぞれリアクションを見せる次男と三男。
「・・・・・・」
何とか言えよ長男。まあいいや。か弱い男子は指でもしゃぶりながら黙って見てな。
「行くわよ!」
「えっ、ちょっ!」
ピョーーン。
ピュアネオンこと茉奈ちゃんを捕らえたままのワールイコを目掛けて跳躍。鈴乃もすぐに慌てるように付いて来た。
「わっ、マジ飛んだ! 死ぬ死ぬ!」
おい、それでもフリピュアかよ。
「ごちゃごちゃ言ってないでやるわよ! はぁぁぁぁぁぁ・・・っ!」
「ああもう! たぁぁぁぁぁぁ・・・っ!」
私はライダーキック、鈴乃は右ストレートでワールイコに突進。
タァァン!
【のわぁぁぁぁっ!】
横から攻撃を受けたワールイコの手から茉奈ちゃんが離れ、ワールイコはそのまま傾いていき、ドスゥゥンと音を立てて横転した。
解放された茉奈ちゃんはそのまま着地。
「ミラー! ジングル! ありがとう!」
変身後は、コードネームで呼び合うのが通例らしい。
「ネオン、大丈夫?」
「うん! だいじょうぶ! ワールイコをやっつけよう!」
「オッケー!」
「・・・・・・」
(なんであたしまで・・・) by 大曲鈴乃16歳
【おのれ、フリピュア。3人に増えよったか・・・!】
ワールイコが立ち上がった。
「いくよ! ミラー! ジングル!」
「よっしゃあ!」
「ええ!」
(こうなったらもうヤケクソよ!)
三方向に散らばり、私は左、ジングルは右、ネオンは正面から突っ込む。
タァン! タァン!
私とジングル、それぞれの拳をワールイコが片手ずつで受け止める。しかし! ワールイコの腕が2本であることに対しこっちは3人!
「やぁーーーーっ!」
ダァァン!
【おわあああぁぁぁぁ!】
ネオンがワールイコのアゴを蹴り上げた。ワールイコは仰け反り、体が軽く後ろに傾く。そこへ、
「あらよっと」
ダァァン!
【ごああああぁぁぁぁっ!】
私がボディブローをかました。相手は巨体だが、こっちが装備してる純白の手袋にも色々と仕込んであるので、その巨体は後方に飛ばされる。そこへ更に、
「やぁっ!」
ダァァン!
【ぐぅぉぁぁぁぁぁぁぁっ!】
ジングルが、真上から降下しながらのキック。そのままワールイコを地面に叩きつけた。
「ジングル! はなれて!」
「わかったわ!」
地面に寝そべるワールイコを置いて、その腹に乗っていたジングルが飛び退いた。
【ぐ・・・お・・・】
立ち上がろうとするワールイコに、ネオンがロッドを向けた。
「いくよ! フリピュア・ネオンブラスト!」
ズドオオオォォォォン!!
【ぬ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!】
ピンクの極太ビームが放たれ、それに呑まれるワールイコ。普段ならこれでワールイコが浄化されるのだが、今回はそういう仕様になっていない。てなワケで、
「まだまだ行くわよ? おらぁっ!」
ダァァン!
【ごは・・・っ!】
自作ブーツの力を使い、ネオンブラストで吹っ飛ばされていたワールイコに追い付き、組んだ両手を頭上から振り下ろしてワールイコを地面に叩きつけた。でもって?
「これでも食らいなさい」
ロッドを横にしてかざすと、水色に光る壁のようなものが大量に現れ、ワールイコを囲い込んだ。
「フリピュア・オリエンタルミラーージュ!」
【ぬ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!】
ピンボールのように駆け巡る細い水色の光を浴び、悶えるワールイコ。しかし、ここでも浄化しませんぞ?
【が・・・はぁっ・・・!】
可哀想に、オーバーキルされまくってるワールイコは動くこともできないようだ。仕方ない、私が動かしてやろう。
「ジングル!」
【ごふ・・・っ!】
私は着地したあとすぐにワールイコを蹴り飛ばした。
「え、ちょっ!?」
おい、何とかしろよ。フリピュアだろうがよ。
「えっと、確か、こうして、こうで・・・」
ジングルが、ガチャリとロッドの上半分を回転させる。
「よし、できた! ・・・フリピュア、・・・ジングル・ベル・ショット!!」
ドォォン!
巨大な黄色の金が放たれ、
ゴ~~~~~~~ン!
【ぬ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!】
ワールイコに直撃。もちろんこれでも浄化せず、ワールイコは飛ばされて墜落するだけになる。
「みんな!」
ネオンから招集が掛かり、集まる。さて、仕上げだ。
「「「はああああああぁぁぁぁぁぁ・・・!!」」」
3人でロッドを掲げ、エネルギーを溜める。
(ぜったいに、ワールイコをやっつける!)
(たまにはこういうのも悪くないもんだ)
(何やってんだろ、あたし)
それぞれの想いがある中で、エネルギー充填完了!
「ひびけ! わたしたちのおもい!」
「「響け! 私たちの想い!」」
さらばだ、ワールイコ。
「「「ピュアハーモニーストリーム!!」」」
ズドオオオオオォォォォォォォンン!!!
【ぐわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!】
ピンク、水色、黄色。3色の光が螺旋を描きながら直進し、最後、それらが交わって虹となり、ワールイコを呑み込んだ。
【ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・!】
この技で浄化する仕様にしているので、声は消えていき、攻撃の光で見えないが、ワールイコ本体も消滅していっているはずだ。
【ぁぁぁぁぁ・・・】
光が細くなって消えたその場には、何も残っていなかった。どうやら、中にいた野球部連中は光が強いうちに退散したらしい。グッジョブ。
こうして、無事に私たちはワールイコを撃破。それと同時に、変身も解けて元に戻る。
「やったわね、茉奈ちゃん」
「うん!!」
パチン、とハイタッチ。
「ふぅ・・・」
疲れた様子を見せる鈴乃。そういうのは子供が見てない所でやりな。
「おーーーーーい!」
駆け寄って来る浜西兄弟。
「まな! 本物のフリピュアみたいだったよ!」
「でしょ!? ワールイコやっつけちゃった!」
先週に仮面ランサーを務めた勇気くんから褒められ、大満足の様子の茉奈ちゃん。
「厳木先輩、本当にありがとうございました。それから、大曲先輩も」
「いいのイイのこれくらい、お安い御用よ。ね、鈴乃」
「え、ええ・・・そうね・・・」
何だよその人を恨むような目つきは。
「そんじゃあ、みんなにキャンディ食べてもらうわよ?」
「「わーーーーーい!」」
「もしかしたらお店で売られるかも知れないから、ちゃんと感想聞かせてね」
「「はーーーい!」」
てなワケで、試食タイム突入。まずは、サンプルNo.1。
「あまくておいしい!」
「うん!」
「ちょっと甘すぎじゃない?」
「普通の味のが普通に甘いからね。100缶に1粒だし、激甘の方に振ってみたんだけど」
「僕も、ちょっとキツいかな・・・」
「俺も・・・無理ッス」
「そっかぁ」
まあ、私的にも微妙だったしな。幼い子には好評のようだが、“まどさキャンディ”社員も大人であることを考えると、採用は厳しそうだ。次、サンプルNo.2。
「う゛え゛~~っ」
「まじ~~~っ」
「う~~~ん」
「これは・・・」
「鏡子、何なのよコレ」
「A5ランク和牛味」
「は・・・?」
「だから、A5ランク和牛」
「そんなお土産みたいな味作らないでよ。言われてみればお肉っぽい味するけど」
「そこの再現度を高くできるのがこの私よ?」
「再現しすぎよぉ。アメでこの味出されても正直困るわ」
「えぇぇ~っ? おいしいのにぃ」
「あたしもうむり~っ」
「ほら茉奈、吐き出すならこっちだ」
変だな。ワトソンにも好評だったのに。諦めて3号に移るかと思ったその時、
「こ・・・これは、凄いですよ!」
次男、覚醒。
「この、溢れ出んばかりの肉汁! ほどよく効いた山椒の風味! まだ食べたことがない高級食材の味が、このひと粒に集約されている!
「け・・・圭人?」
突然の弟の変化に驚く兄。このひと粒の素晴らしさが分かるとは、さすが圭人くんだぜ。
「これが、これこそが人類の追い求めていた味ですよ! 決して俺たち庶民では手が届かない、A5ランクの感動がたったひと粒で手に入る! 100分の1という幸運をつかんだ者のみが味わえる、究極の贅沢!」
「おに・・・いちゃん・・・?」
「う・・・うおおぉぉぉぉぉ!!」
その後、圭人くんが落ち着くまでしばらく時間が掛かった。そう、本来であれば、これほどまでに人を魅了するものであるはずだったのだ。しかし、この領域に辿り着けるのはごく一部のようで、幼い子にとっても不味いとなると採用は無理だな。次、No.3。
「お・・・結構いいかも」
「おもしろいあじ~~っ!」
「確かに悪くないわね・・・イカスミ?」
「そ。甘さは完全にカット、マジもんのイカスミで味付けたわよ?」
「でも言うほど美味しいかって言うと・・・キャンディでこの味である必要ある? ってカンジ」
「まぁね~」
難しいんだよ、それが。結局なところはシンプル・イズ・ベストで、色んなお菓子メーカーがひしめき合う中で出回ってるアメの味のバリエーションが限られてるってことは、そういうことだ。カップ麺とかポテチもたまに変な味出るけど、作ってる側もロングセラーにするつもりなどないだろう。
「ふむ・・・やっぱりA5ランク和牛の方が・・・」
圭人くんのお気にも召さなかったようだ。次、No.4。
「げえ゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛っ」
「こら茉奈! 地面に吐いちゃダメだろ!」
「だってぇぇぇ」
「味しない方がマシな味なんだけど・・・何コレ」
「A5用紙。ごめん。ネタに走った」
「・・・は?」
「だから、A5用紙。どう? ヤギになった気分は」
「ゲホッ、ゲホッゲホッ!」
茉奈ちゃんが吐いたキャンディをティッシュで拾いながら、浜西くんもむせ上げて吐き出した。
「そんなの作んないでよ!」
「いや~、どんな反応するかな~と思って」
「全く・・・。だいたい、B5とかA4なら違う味になるってワケでもないでしょ」
「ですが、普通、紙なんて食べないッスから、これはこれでアリかも知れないッスね」
「普通人が口にしないような樹木のエキスを使ってるけどね」
「ゲホッゲホッ!」
次、No.5。
「わ~~っ、ハートだ~~~っ!」
「へえ、ハート型が入ってれば大当たり、的な?」
「まあまあ、食べてみなさいな」
「おいし~~~い!」
「ほんとだ~~!」
「この、シンプルな味わいの奥にある深み・・・ッ!」
「これは美味しいですね」
「美味しいけど、普通って感じ? ホントに形だけの大当たりなのね」
「そう言ってられるのも今のうちよ」
「え?」
「おねえちゃ~ん、もっとないの?」
「あるわよ~。もう1個食べる?」
「うん!!」
「ボクも~~!」
「これは・・・やみつきになってしまいそうだ・・・ッ!」
「僕も、もらっちゃおうかな。本当に美味しいです」
「確かに、ついつい手が次の1個に伸びてしまいそうだわ。鏡子、これ何の味なの?」
「スウィートハート味」
「何なのよそれは」
「スウィートハートと言ったらスウィートハートよ。それ以上でも以下でもないわ。美味しいっしょ?」
「美味しいっちゃ美味しいけど、何だろう、この、もう1つ欲しくなっちゃうような感覚は・・・ん・・・」
ピクリ、と鈴乃の眉が動いた。勘付かれたか。
「・・・何を混ぜたの」
「もち、私の愛情よ」
「はぁ?」
「隠し味はヒ・ミ・ツ♪ それには私の愛情が詰まってるのよ。スウィートハート味、イイっしょ」
「・・・ちょっとこっち来て」
「えぇ?」
私の手を引っ張り、浜西くんたちから距離を取る鈴乃。そして、小声で会議が行われる。
「何を、混ぜたの」
「・・・果汁、とか」
「“とか”には何が混ざってるのかって聞いてるのよ」
「・・・愛情」
私は目を逸らして答えた。
「そんなそっぽ向くような愛情がどこにあるのよ」
ぐぐぐぐ、と鈴乃が私の首を強引に正面に向ける。
「真心だけが愛情じゃないのよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
妙なにらみ合いが続く。
「・・・媚薬、じゃないでしょうね」
「・・・・・・」
首が鈴乃の手で固定されるので、視線だけを外した。
「っ~~~・・・!」
あ、これ、どやされるやつだ。
「待って。極限まで薄めてあるから影響は出な…」
「やっぱり混ざってるんじゃないの! 今すぐ吐き出しなさい!」
ここで私が吐き出してどうなるんだよ。
「それ絶対ダメだからね! 絶対だからね!」
「最終的にどうするかは“まどさキャンディ”次第よ。材料もちゃんと薄めた状態で支給するし」
「もしそれ出回ったらSNSで色々と言いふらすから!」
「そんなことしたら“まどさキャンディ”に営業妨害で訴えられるわよ」
「いいわよそれぐらい! “まどさキャンディ”もろとも歴史の彼方に葬ってやるわよ!」
マジかコイツ。
「おねえちゃーん?」
「ほら、呼んでるわよ。小さい子の前なんだから、みっともなく大声出さないでよね」
「小さい子になんてモン食べさせてんのよ・・・!」
「私の愛情」
「世界一いらない愛情ね。反吐しか出ないわ」
「カネさえなればいいのよ」
「マジでSNSでブッ潰してやる・・・!」
「茉奈ちゃーん、もう1個いる?」
「いるーー!」
「あーダメダメダメダメ! ごめんね? さっき最後の1個をあたしが食べちゃったの」
「えぇ~~っ!?」
こうして、新作キャンディ試食会が終了。No.5、採用決定。
次回:魅惑のスウィートハート




