第43話:フリピュアに大変身!
「あ゛あ゛~~・・・・・・」
日曜日の夕刻、私は自室の椅子のリクライニングを全開にして背伸びをしていた。
「やっと見終わったね」
鈴乃も一緒だ。勇気くんの仮面ランサー変身を大成功に収めたのも束の間、妹の茉奈ちゃんからフリピュアを求められたのである。キャンディの試食会は延期した。
フリピュアとは、仮面ランサーと同じく日曜の朝にやっている番組で、普通の女の子のもとに妖精が舞い降りて来て、フリピュアと呼ばれる戦士に変身して悪と戦うものである。“フリッフリでピュアピュア”がキャッチコピーで、変身後のフリフリ衣装が人気らしい。これも1年ごとに代替わりするシリーズなのだが、今は“ピカピカシャイニーフリピュア”。
「ま、でも仮面ランサーよりはパターン少なそうだったし、1週間ありゃ行けるっしょ」
35話オーバーだった仮面ランサーとは異なり、こちらはまだ20話だったのが救いだ。必殺技は少なく武器の進化とかもない。しかし問題は、
「衣装はどうすんの?」
そこだ。仮面ランサーは割とガチガチのスーツだったが、フリピュアは普通に布である。合成繊維を使えば、ロッドのギミック回してフリフリ衣装に変身、を再現することは難しくないが、あの衣装は手持ちの3次元加工機では作れない。
「ま、こういう時のための人脈っしょ」
「人脈ぅ?」
私はスマホを操作し、とある人物に電話を掛けた。
【もしもし?】
「もしもし。厳木だけど、もっかい私とビジネスする気ない?」
電話の相手はもちろん、体育祭のドラグーンパニックを監修した美術部員である。名を、仙崎ひとみと言う。
【・・・詳しく聞かせてください】
「女の子向けアニメ番組の衣装よ。裁縫とかは得意?」
うちに被服部がない以上、まず当たるのはこの人物になる。ダメだったら演劇部だが、
【・・・駅前の“メテオバックス”で待ってます】
「オッケー♪」
さすがは信頼できるビジネスパートナーである。やはり17歳は違う。
ちなみに、メテオバックスとは喫茶店チェーンのことである。コーヒーに400円払える気はしないのだが、フラッぺに600円なら払えるのが、マッドサイエンティストなのだ。今回は仙崎の分も奢らねばな・・・。
「んじゃ、話つけたからメテバ行くわよ」
「なんかやだ・・・」
「何が嫌だって言うのよ。小さな子供の夢を叶えるために高校生が力合わせて東奔西走する。これ以上に心あったまる話があると思う?」
「そこに鏡子が絡んでなければ目頭アッツアツよ」
私じゃなきゃできないんだな~これが。
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「これが衣装よ。生地は私が準備できるけど、今度の土曜までに行けそう?」
「ふむ・・・・・・」
スマホ画面に出したフリピュア衣装を、仙崎が覗き込む。20話まで放送されていることもあり、色んなアングルからの画像が出回っている。
「部活をサボ・・・休んだ上で少々徹夜すれば問題ないでしょう。最悪は学校もサボ、休めば確実です」
「んじゃ決まりね」
(何でそれで“決まり”になるのよ・・・) by 大曲鈴乃16歳
「・・・それで、今度は何を頂けるんです?」
(当たり前のように報酬の話に入っちゃうし・・・)
「イズミー1日フリーパスでどう? 私は年パス持ってんだけど、鈴乃と2人で行ってもって感じだし」
「ほぉ・・・・・・」
目をパチパチさせる仙崎。ハイクオリティなフリピュア衣装を5日で作れと頼むんだ。これくらいはないとな。人を動かすのに、モチベーションは大事。
それに、私には“まどさ式ドロップス”の売上の1%が舞い込んで来るのだ。先行投資としては高くない。
「いいでしょう。美術に携わる者として、人気テーマパークには興味があります。お金以前に、私としても行く機会はほとんどないですし」
友だち少なそうだもんね仙崎。
(絶対いま失礼なこと考えたでしょ鏡子)
絶対いま失礼なこと考えただろ鈴乃。
「・・・それ、あたしも行くからね。自腹切ってでも」
どうぞご自由に。この人と2人でっていうのもキツいし。
「んじゃ、これが生地ね。採寸データはこれ。よろしくぅ~」
テーブルに生地を召喚し、また仕舞って仙崎に渡した。採寸データも、昨日その場で、どうせ衣装もスカートだからと茉奈ちゃんを撮影した。
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「さーてやるかー」
鈴乃・仙崎と別れ、帰宅。衣装は仙崎がやってくれるので、それ以外の部分を仮面ランサーと同じようにやればいい。ぶっちゃけ、ロッド1つでいいので大した作業じゃない。仮面ランサーが多かったんだよなぁ・・・。
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金曜日の放課後、文化部棟。美術部の活動場所はもちろん美術室だが、文化部にも運動部と同様に部室棟がある。星岡率いる天文部の根城はここだが、天文部以外はほとんど使わないために改修もされないから木造でボロい。
「うわ・・・」
案の定、美術部の部屋もほぼ倉庫と化していた。あちこちにクモの巣が張ってるのと、オンボロ屋敷みたいな匂いがする。だが、人目に付かない場所という意味では打ってつけだ。
「これです。どうでしょう?」
仙崎が、完成した衣装を召喚。
「うん、完璧!」
私はグーサインを出して見せた。
「また何かあればどうぞ。あなたからの話は悪くないので」
それはお互い様ってモンよぉ。またよろしくね、仙崎ちゃん♪
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そして迎えた土曜日。私と鈴乃は先週と同じ河川敷まで足を運んだ。茉奈ちゃんのフリピュアお披露目の時だ。なお、仙崎は家族で用事があるとかで欠席。
「お姉ちゃーーん!」
茉奈ちゃんによる、元気なお出迎え。子供ってのは純粋だねえ。
(高校生にもなるとドロッドロになる人がいるのにね・・・)
「チワッス」
「こんにちはー!」
「厳木先輩、またしてもすみません・・・」
もちろん、3人の兄もいる。
「ビジネスなんだからそういうのはいいわよ。キャンティ食べる覚悟だけはしといてね?」
「キャンディ食べるのにどんな覚悟がいるのよ・・・」
「人が作ったものを食べる。それだけで結構なリスクよ」
「鏡子がそれ言わないでくれる?」
「お姉ちゃーん、フリピュアー」
「待っててね、はい」
まずは、ロッドを茉奈ちゃんに渡す。中央のギミックを回して「フリピュア、シャイニーチェンジ!」と叫べば変身が始まる。でもその前に、
ドスン!
「「わぁっ!」」
「おっと」
「おわぁっ!」
「きゃっ、何!?」
大きな音と共に、大きな振動が発生。そりゃあ、この場で茉奈ちゃんが変身したところで、敵がいないと、ねえ?
【ガーーハッハッハッハッハ! これが地球という星か! 我らがもらって行こうぞ!】
物陰から現れたのは、巨大なモンスター。フリピュアは、敵幹部がその辺のオブジェに何かを与えて巨大化させるのが通例となっているので、モンスターだけだが再現させてもらった。操縦は、クジ引きによって厳選された野球部員が担当している。
「でたな! ワールイコ! ちきゅうしんりゃくなんて、ぜったいにさせない!」
“ワールイコ”というのが、あの巨大化したモンスターの通称である。あれを倒すことによってフリピュアの1話は完結する。さあ、茉奈ちゃん、伝説の戦士・フリピュアに変身するのだ!
「フリピュア、シャイニーチェンジ!」
パァァン!
ロッドから、光が放たれる!
タラララ~ラ~ラ~♪ タラララ~ラ~ラ~♪
「わぁ~~~っ」
テレビと同じ音楽が流れ、やはりテレビと同じようにピンク色の光に包まれて、茉奈ちゃんの変身が始まる。服もピンク色に光り、一箇所ずつ、パァン、パァン、と衣装が姿を見せていく。
「すっげぇ~・・・」
「ふふん♪ どうよ。圭人くんも欲しくなった?」
「いや、俺はいいッス」
だろうな。
パァン、パァン。
手首、足首にもアクセサリーが付いて、
ボワッ。
長めのピンクのボブカットの髪がボワッと出て来て、
「やみをてらすひとすじのひかり、ピュアネオン!!」
決めゼリフも放って変身完了。ピュアネオンの誕生だ!
「ワールイコ、かくご~~!」
地面を蹴ってワールイコに飛びかかる茉奈ちゃん。
「えぇっ!?」
「マジで!?」
「すごーい!」
「嘘でしょ!?」
驚く3人の兄と鈴乃。茉奈ちゃんの大ジャンプがよほど衝撃だったようだ。
「鏡子・・・!」
「私はテレビで見たものをそのまんま再現しただけよ? ほら、当の本人は馴染んでる」
私が作ったブーツの力で5メートルを超える跳躍を見せた茉奈ちゃんだけは、それが当たり前であるかのように真っ直ぐに敵に飛びかかっている。
「たぁーーーーっ!」
拳を振り抜く茉奈ちゃん。
【ウォーーーーーッ!】
応戦するワールイコ。そして、その2つの拳がぶつかる時!
ドオオォォォォン!!
大きな衝撃はが発生。
「どうなってのよ・・・」
「テレビで見たのを再現しただけよ」
女の子向けと侮るなかれ、フリピュアは中々に激しい戦いを見せるのだ。
「わぁーーーっ!」
パンチはほぼ相殺され、弾き飛ばされた茉奈ちゃんが尻餅をつく。
「茉奈!!」
「茉奈ちゃん!」
あの高さからの落下に浜西くんと鈴乃が声を上げるが、
「だい、じょうぶ・・・!」
もちろんテレビのキャラクターと同じように、あの程度ではすり傷程度にしかならない。しかし、
【ウォーーーーーッ!】
「きゃああああっ!!」
先に体勢を立て直したワールイコが、その大きな手で茉奈ちゃんをつかんだ。
「う・・・うう・・・っ!」
ワールイコの手中で苦しむ茉奈ちゃん。大ピンチだ!
「わーーん! このままじゃやれれちゃうーーーー!」
まずいぞ! 茉奈ちゃんが敵の魔の手から脱出できそうな気配はない! 伝説の戦士フリピュア、このままやられてしまうのかーー!
てなワケで、
「鈴乃」
シュッ。
「え?」
パシッ。
反射的に出された鈴乃の手に乗ったのは、黄色を基調とした配色のロッド。そして私の手には、その水色バージョンがある。
「え・・・嘘、よね・・・?」
「見てたでしょ? フリピュアは3人よ。そして今、主人公がピンチになってる。分かるわよね?」
「わーーん! やーらーれーちゃーうーーー!」
【ガーーハッハッハッハ! フリピュアもこの程度だったか! どう料理してくれようか!】
なおも、ピュアネオンのピンチは続いている。
「いや、ほら・・・その・・・」
“冗談だよね?”とでも言いたげな視線を向けてくる鈴乃。
「だから見てたでしょ? 3人で力を合わせて戦うのがフリピュアなのよ。あの子も仲間の到着を待ってる」
「いやいやいやいやいや・・・私たち、高校生、・・・ね?」
「それが何? 女の子なら、誰でもフリピュアになれるのよ。それに、あんた1人が一生モンの恥かくだけであの子に一生モンの思い出ができるんだから、安いモンでしょ?」
「っ・・・ぐ・・・!」
苦虫を嚙み潰したような顔を見せる鈴乃。もしできないってんなら、あんたの中にある“あの子が喜ぶ姿が見たい”っていうのも、その程度だったってことさ。
「ああもう! やればいいんでしょ!」
それでこそ我が親友だ。
「行くわよ」
2人そろってロッドを胸の前で持ち、空いてる方の手で中央のギミックを回した。
「「フリピュア、シャイニーチェンジ!」」
タラララ~ラ~ラ~♪
変身開始。私は水色、鈴乃は黄色の光に包まれて、さっきの茉奈ちゃんと同じように変身が進んでいく。衣装はもちろん、仙崎に3人分頼んでいた。採寸データも、私の分と、鈴乃の分もこっそり撮って渡しておいたのだ。
パァン、パァン、と衣装が組み上がっていく。へえ、マジですげぇな、これ。こんなフリッフリの衣装を着る日が来るとは思ってなかったぜ。マッドサイエンティストってのは、時としてファッションショーをやる必要もあるらしい。ついでにこれから、アクションシーンも待ってる。
手首と足首のアクセサリー、そして、水色のロングウェーブの髪がボワッと出て来たところで、浮いていた体が着地。うっひょー、自分が自分じゃないみたいだぜ。傍から見たらどうなってんだろ。
ストッ。
同じように、黄色に変身を済ませた鈴乃が隣に並んだ。さて、後は決めゼリフだ。
「万物を映す真実の瞳、ピュアミラー!」
「っ・・・知を研ぎ澄ます深淵の音色、ピュアジングル!」
変身完了!!
次回:響き合う想い! ピュアハーモニーストリーム!