第35話:プリンセスロード
次は、女子たちの気合いの入るイベント、“プリンセスロード”だ。見事クジ引きでプリンセスの座を勝ち取った人たちが純白のドレスに身を包み、同じく純白のタキシードを着た、女子たちの手によって選ばれた男子生徒のお姫様だっこにより障害物競争が展開される、そんな競技だ。
「「「キャーーーーーッ! アキラさまーーーーっ!!」」」
イケメン男子でもいるのか、そんな黄色い声援が聞こえてくる。
「「「カオルンくーーん! こっち向いてーーーっ!!」」」
2年の赤組の王子役は、セルシウス(摂津信司、私の幼馴染)を推す声もあったが、結構な差があってクーロンくんに決まり、セルシウスを推していた層も既にキャーキャー言っている。要は、見た目が好みなら誰でもいいのだ。
「残念だったわねえ? 選ばれなくて」
惜しくも2位になって落選したセルシウスは、テントにいる。真面目な性格だから、普通に応援するつもりだろう。
「あんなのは御免だよ。第一、抱っこなんてできないし」
そのほっそい腕じゃあねえ? クーロンくんもムキムキとかではないが、力を入れた時に間近で見ると確かにかなりの筋肉量であり、あの化け物じみた身体能力はそこから発揮されているものだと分かる。女子高生1人ぐらい何ともないのか、既にお姫様だっこしてるし。プリンセス役の女子は、クーロンくん首の後ろに手を回しており、もうすっかりお姫様気分だ。
一応はこれも競技の1つであるが、まずクーロンくんは負けない。本人が化け物であることに加え、運動能力度外視で女子人気が高い人物が抜擢されるからだ。なお、王子役が男子である必要はないので、去年は3年に宝塚ばりのイケメン女子がいてその人がやってた。プリンセス役が女子である必要もないが、こちらに男子が出たことはない。
【それでは、間もなく開始いたしますので、王子様の皆さんは、“抱っこ”をお願いしま~す!】
「「「キャーーーーーッ!!」」」
黄色い声援が飛び交う中、王子たちが抱っこを始める。女子とは言えど大抵は40キロはあるので、普通に辛そうにしてる男子も少なくない。実際、途中で一旦下ろすというのは認められており、それが頻発するために結構時間がかかる。
コースは、入場門から始まってトラックをぐるりと3/4周し、本部席の前で一旦トラックの内側に入り、最後、グラウンドのド真ん中に置いてある坂道のオブジェをのぼってゴールだ。この坂の傾斜が15度ぐらいあるために、地味にキツい。
「位置について、」
全員のお姫様だっこが整ったところで、
「よーーい、」
パァン!
スタートだ。
ビュゥン!
予測できたことで、クーロンくんが猛ダッシュを始める。
【速い! 速い! カオルーン君速い! これはさすがだぁ!】
「キャーーーッ!」
クーロンくんに抱っこされている女子生徒は、もうガッツリ抱きついてしがみついている。狙ってやってる感も否めないが、多分そうしないと普通に落ちる。
【さあ早速最初の障害物に差し掛かります!】
最初の障害物は、平均台。といっても足場の幅は30センチぐらいある。距離を開けて2つ並んでおり、落下防止用の警備員がスタンバってるが、
ビュゥン!
クーロンくんは減速することなく駆け抜けていく。他の王子たちが平均台までの道のりを半分も進めていない中、爆進。
【カオルーン君、去年同様のダントツ1位! 誰も最初の障害物に辿り着けていない中、次の障害物へと向かって行くーーっ!】
カーブに差し掛かるところで第2の障害物、網だ。ただし、お姫様だっこをする仕様上、くぐるのではなく、無造作に丸められて置かれた大量の網の上を歩いて行くものだ。カーブも伴う10mほどの網のプールを渡ることになるのだが、
ピョン、・・・、ピョーーン。
クーロンくんは大ジャンプ、それで網のプールのド真ん中に着地し、2人の体重で網が潰れて沈んだ後、また大ジャンプで今度は普通の地面に着地した。
「「「キャーーーーーーッ!!」」」
「「「ワーーーーーーッ!!」」」
赤組の応援席が近いこともあり、盛り上がる。この競技、普通のイケメン男子生徒が出る場合はスタート地点からの追っ掛けも可能だが、クーロンくんの場合は置いて行かれるのでそれができず、始まる頃にはみんな応援席か、他のいい場所を探してそこで待っている。
「イェーーーーーイ!!」
こちらに向かってピースサインを決めるプリンセス役。楽しそうで何よりだ。クーロンくんは真面目に競技をやっているので、余裕そうな表情を見せているが特にこっちは見ない。しかし、タキシード姿のクーロンくんが飛んだり走ったりしてるだけでみんな満足なのである。
【例年多くの王子様が足を取られる網のプールもあっさり突破ーーっ! そのままカーブを駆け抜けて行くーーっ!】
カーブの後半は特に何もなく、ただお姫様だっこで走るだけとなっている。
【ここでようやく2位の王子様が平均台に辿り着きました! 警備員による壁に挟まれながら、一本橋を渡って行きます!】
クーロンくんは簡単そうに突破して行くが、お姫様だっこで平均台って、普通にムズい。もうほとんど両脇に並ぶ警備員に支えられる形で、王子様(笑)が平均台を渡って行く。
【さぁ1位のカオルーン君が最後の障害物に突入します!】
ゴールへの坂道を除いての最後の障害物は、強烈な横風とスポンジ吹雪。トラックの外側にビッシリ並ぶ業務用のデカい扇風機から、ウズラの卵ぐらいのサイズの大量のスポンジが強風に乗って飛ばされて来る。向かい風じゃないだけマシだが、結構オニだ。この吹雪を乗り越えた先に、2人の幸せなゴールが待っているとでも言うのか。
【カオルーン君、吹雪をものともせず突破ァ!!】
当然、スポンジの吹雪などクーロンくんの敵ではなく、難なく突破。そのまま、本部席前に辿り着き、トラックの内側に入って行く。
【さぁダントツ1位のカオルーン王子、残すはゴールまで駆け上がるのみとなりましたーーっ!】
未だに2位でさえ平均台を突破していない中、クーロンくんだけはゴール間近である。長さが10m、傾斜が15度ほどの坂をのぼりきり、頂上にある鐘を鳴らせばゴールだ。何気に頂上は3m弱ぐらいの高さになるのだが、幅がかなり広いので落ちることはまずない。
ビュゥン!
幅が広かろうと狭かろうとクーロンくんには関係のない話で、坂道とサクサク駆け上がって行き、
ゴーーーーン、ゴーーーーン。
「「「キャーーーーーーッ!!」」」
「「「ワーーーーーーッ!!」」」
ぶっちぎりの1位でゴール。
「勝ったゾーーーーッ!」
「イェーーーーーーイ!!」
クーロンくんはプリンセス役の女子を肩の上に乗せ、空いた方の手を上げてガッツポーズ。女子の方も、両手をYの字に突き上げて大喜びだ。1番にゴールした王子と姫のカップルに歓声が飛び続ける。その一方で、
【さぁ~て、2位のカップルがようやく最初の障害物を突破しました!】
2位は、やっとこさ平均台を渡り終えたところである。それも、
「ゼェ、ハァ・・・」
乳酸が溜まってきたのか、プリンセスを下ろして座り込んだ。
「頑張れーー!」
「王子しっかりしろーー!」
色んな声援が飛び交う中、続々と王子たちが平均台を突破し、休憩する。だが、
【あぁーーっとっ、青組の、1年生でしょうか? 平均台からも一旦降りて、腕を休めています】
人選はほぼ女子が行うので、こういったことも起こり得る。見たところ、クーロンくんやセルシウスのような童顔枠で、小柄な上に非力そうに見える。
「すみません、全然ダメダメで・・・!」
「だいじょぶダイジョブ、ゆっくり行こ♪」
何を言ってるかは聞こえないが、非力だと分かった上で選んでるだろうから、雰囲気は悪くない。
とは言えど、暇だな。普通に考えてあと15分は掛かる。アイスでも勝ってくるかー。クーロンくんたちは坂道の反対側にある階段を下りてグラウンドを歩いているが、未だにお姫様だっこを続けている。全員ゴールするまでああしてられるからな。応援席にでも遊びに来るのだろう。
「鏡子トイレ?」
「いや、アイス」
「んじゃあたしサイダーね。お釣りはいいから」
それで鈴乃が渡してきたのは、150円。たかだか数十円で私をパシろうなどナメた真似をしてきたが、まあいいや。受け取り、テントを離れる。
自販機の所に着いた訳だが、
「クククククク・・・」
星岡のヤローがいた。しかもなんか、天文部の子分たちとカードゲームをやってる。
「貴様もくだらん茶番に付き合い切れなくなったか、“マッド才媛”よ」
時間が掛かりそうだからアイス買いに来たのは否定しないが、
「アンタらと一緒にしないで。腹ごしらえに来ただけよ」
「ククククク、ククククククク・・・」
相変わらず訳の分からんやっちゃなー。
「分かるぞ、分かるぞ」
何がだよ。
「あの、脳内お花畑連中だけが盛り上がり、それを傍から見るしかなく行き場を失ってしまった貴様の嘆きが・・・!」
うっわー。ひがみだしたぞコイツ。
「くっ」
「くそ・・・っ」
ぐぬぬと拳を握りしめ、悔しさを滲ませる子分たち。アンタたち、モテそうにないもんね。哀れな奴らだ。
「そんじゃ、私は戻るから。寝るなり遊ぶなり好きにしてれば?」
「クククク、ククククク・・・。強がるでない、“マッド才媛”よ」
付き合ってらんねー。アイスとサイダーを買って、テントに戻った。
戻る頃には、2位は網のプールを抜け、ドベの子がようやく平均台を渡り終えるところだった。やっぱ時間かかりそうだねえ。
「キャーーーッ!」
「カオルン君、次アタシ、次アタシ!」
テントでは、クーロンくんによるお姫様だっこ会が行われていた。モテたらモテたで大変だねえ。
「はいよ」
「ひゃっ!」
サイダーをほっぺに当てると、鈴乃は典型的なリアクションを取ってくれた。
「なんかムカつく・・・」
「たった30円で私をパシるからよ。追加料金、まいどあり」
「絶対鏡子の方が日頃の行い悪いのよねぇ・・・」
言ってろ言ってろ。
アイスを食べながら王子たちの奮闘を眺めていたのだが、
ゴーーーーン、ゴーーーーン。
2位のカップルがゴール。
「よっしゃーー! 事実上の1位だぜーーっ!」
そう叫びたくなる気持ちは分かる。あの化け物と張り合ってはいけない。そいつはゴール後も頑張って30秒ほどお姫様だっこを続けたが、さすがに疲れたのか下ろして、2人で階段に座ってイチャつき始めた。
「ブーブー!」
「早く下りろーーっ!」
「べーーっ」
その男子も中々の人気のようで、観衆の女子からブーイングだ飛んだが、プリンセスを務めた女子があかんべーで対抗。しばらくそこに残った。
その後、3位以下も続々とゴールしていき、例によって鐘が鳴らされてはプリンセス役が王子にベタベタしてブーイングが飛び交った。一部、ゴールした直後にプリンセスを下ろして倒れ込み、プリンセスに「コラーーーッ!」と怒られた奴もいるが。
さて、11組がゴールして残るは1組となったが、
「ぐ、う・・・!」
あの青組の1年の子は、ようやくスポンジ吹雪の入口に着いたところだ。もう腕はパンパンの状態だろう。ちょっと進んでは女子を下ろして休憩、を繰り返している。無事にゴールできるといいが。
「ごめんね、あたし重くって」
「いや、僕の力が弱いだけだから。こっちこそ、ごめん」
「ごめんね・・・」
会場全体の雰囲気としては青組以外からも「頑張れーー!」と声が飛ぶなど悪くないが、肝心の2人がちょっと暗い感じになりつつある。それを見兼ねたのか、
「青組応援団! 3・3・7ビョーーーーシ!」
ピッピッピッ! ピッピッピッ! ピッピッピッピッピッピッピッ!
青組応援団が、さすがに着替えまではしないが、テントの前に出て、笛を鳴らし、それに合わせて手足を動かす応援パフォーマンスを始めた。3・3・7拍子の他にも、応援合戦でやったのと同じものをやって2人の応援を続けた。
ゴールを目指す2人は、少しずつ、少しずつではあるが、着々とスポンジの吹雪の中を進んでいる。本人が希望してるのかは知らないが風や吹雪が弱められることはなく、他のチームは何気にプリンセスんを下ろしたついでに少し四つん這いして稼ぐなどをなぁなぁで流してやったりもしたのだがそれも一切なく、だっこして進んで下ろす、を繰り返して、進んで行く。
「赤組応援団! あの子を応援するぞぉ!!」
「「「ウォォーーーッ!!」」」
「同じ学校の仲間を応援する、これが体育祭だッ!!」
もう順位が決まっているからか、赤組も、黄色や緑も同じように応援団が前に出て、応援を始めた。
【これは、これは・・・! 奮闘を続ける青組の選手に対して、青組のみならず各チームからエールが送られています! 熱い! これは熱い! この私、感動のあまり涙が出そうです!!】
へえ、あんたにも流せる涙があったのね。
やがて、2人が吹雪のエリアを抜けた。本部席前から最後の坂道の入口までもひと苦労で、王子役の男子生徒は、必死に、必死に、時には両手を地面について息を切らしながら、進んで行く。
ピッピッピッ! ピッピッピッ!
各チームの応援が続く中、最後の坂道に突入。だが早くも、その男子生徒は休憩に入る。
「ハァ、ハァ・・・ア゛ァ゛ッ!」
「中村君・・・!」
もう彼は限界に近い。腕・心臓とも疲労困憊の状態であの坂道は相当にキツいだろう。それでも彼は再びプリンセス役を抱え、進んでは、また下ろす。
「近くまで行って応援するぞぉ! 青組応援団! 出動ーーーー!!」
「「「ワーーーーーーーーーッ!!!」」」
ついに青組応援団が飛び出し、坂道を上がる2人のもとに向かって行った。更に、
「あたしたちも行こう!」
「オッケー!」
「青組ぃ! 応援団に続けぇぇ!!」
応援団に続き、一般の青組の生徒も動き出す。
「応援団入ってなくても関係ねぇ!!」
「今はみんなが応援団だ!!」
「中村くーーん! 私がついてるよーーー!!」
青組の面々が、みんなしてワーワー言いながら突撃していく。野球で最後のバッターを討ち取ったピッチャーのもとに駆け寄るような感じで。ただし、人数はめっちゃ多い。
「「「赤組も行くぞぉぉ!!」」」
「「「ワーーーーーーーーーッ!!!」」」
もはやチームの色など関係ないと言わんばかりに赤組も続く。当然のように、黄色と緑も。
【さぁゴールまでもう少しです! みんなの声援が、頑張る王子様の力となって、2人をゴールへと導いてくれることでしょう!】
応援に突撃して行った生徒たちは、競技中の坂道までも上がって行き、王子とプリンセスの2人を囲み始めた。
「中村くん! 頑張って!!」
「中村ぁぁ! ファイトだぁぁぁ!!」
「あとちょっと! あとちょっと!!」
その2人の周りには、空港にハリウッドセレブでも現れたかのように人だかりができ、ワーワーワーワー歓声が聞こえてくる。
「見えないじゃん・・・」
鈴乃が呟く。坂道は応援の生徒たちで埋め尽くされ、競技中の2人の姿は完全に見えなくなった。幅のある坂道オブジェとは言え、何百人も乗るようなスペースはなく、下の方でも生徒たちが声を張り上げて応援している。
そのままずっと、2人を囲んでエールを送り続ける人だかりを見守った。しばらくすると、
「「「キャーーーーーーッ!!!」」」
「「「ワーーーーーーッ!!!」」」
「「「フーーーーーーッ!!!」」」
坂道の頂上まで付いて行った生徒たちが、一斉に両手を上げて歓声を上げた。
「あ、ゴールしたっぽい」
鐘の音さえ聞こえないが、あの様子を見る限り、ゴールしたのだろう。
【ここからは見えなくて確認できないのですが・・・! 無事にゴールしたようです!! くぅ~~っ! 素晴らしい! 私も近くに行きたかった~~っ!!】
当然、放送席からも見えない。奴らとしても雰囲気から感じ取るしかないだろう。
「中村君、だっけ。お疲れだね」
鈴乃が、パチ、パチ、パチ、パチ、と手を叩く。他の生徒たちもゴールしたことを把握したようで、拍手を送り始めた。
「あの子、いいトコ持ってっちゃったわね~」
まだまだ坂の頂上で歓声は続いており、おそらくあの男子生徒は横たわっているだろうが、プリンセス役の女子がほっぺにチューでもしたのか、再び「「「ワーーーーーーッ!!!」」」という歓声が沸くことになった。
数分でほとぼりは冷め、生徒たちは坂道を下りてテントに戻って来る。全員参加の団体競技でも終えたような雰囲気だ。
「いや~っ、燃えたな~~っ」
「な! これぞ体育祭ってカンジだったよな!」
「あの子カワイかった~っ! 健気に頑張るんだも~ん!」
それぞれ思い思いの感想を述べながら、ジュースやスポーツドリンクを飲んでカラッカラになっているであろう喉を潤した。やがて競技で使われた障害物の撤去も終わり、
【続いては、第16種目、今年度の新競技、“ドラグーンパニック”です。搭乗する選手の皆さんは、入場門にお集まりください】
さて、次は私が乗り物を作った“ドラグーンパニック”だ。ここからは団体競技が続き、この次は騎馬戦となっている。“プリンセスロード”の盛り上がりをそのままに、午後の部も後半戦へと突入していく。
次回:龍の混乱と騎馬の戦




