第31話:ゴッド星岡の神隠し
今日は、楽しい楽しい体育祭。去年とある生徒から頼まれてドーピング薬を盛ったところバレて今年は徹底マークさることになった一方で、神の力 (ガチ)を持つ星岡くんは局所的に雨を降らすという行いに打って出た。
自然現象ゆえに証拠がつかめず、なぜか実行委員も妙に甘いので、このままでは星岡のヤローのやりたい放題になってしまう。私が窮屈な思いをしてるってのにあのヤローだけ好き勝手やるとはナメてやが・・・楽しい楽しい体育祭で不正なんて許さない! 星岡くんを止めて、清く正しい体育祭にするんだから!!
てなわけで、月に代わ・・・役立たたずの実行委員に代わって、この私がとっちめてやることにした。ただし、私は徹底マークされているので野球部を使って。
シャワーを浴びている間に第6種目の二人三脚が終わっており、これから第7種目の400m走が始まろうというところだ。
私の次の出番は、第9種目の“馬・馬・馬”。これは、竹馬でトラック1/4周、ポヨンポヨン跳ねる馬の玩具でトラック1/4周、そして最後に四つん這いの人間に乗ってゴールまで駆け抜けるという競技だ。男女混合だが、最後の馬を男子生徒がやることが多いので女子は出たがらない。しかし、各クラスから5人選出する必要があり、小柄で運動神経がそこそこの人物が足りず、午前中の種目ということもあって引き受けた。
そしてこの“馬・馬・馬”の次が午前中最後の競技である、2年全員参加の綱引きだ。そこで星岡のヤローが調子こいた真似をするのを防ぐため、今から始まる400m走と、次の“エースストライカー”(ドリブルしてトラック半周後にシュート、競争の順位でポイントが入るのとシュートで打ち抜いた的のポイントも加算される)の間に星岡を拉致する必要がある。
だが、こっちには野球部の包囲網がある。
<あんた、星岡くんと同じクラスだったよね? あいつ私に対してナメた真似やったからシメるわよ。捕えなさい>
<ウォッス!>
返事はすぐに来た。こんなこともあろうかと、野球部連中には普段から私が持ち歩いている発明品セットを渡している。相手は神の力 (ガチ)を持っているが、同じ黄組のメンバー相手なら無警戒であろう。
「よぅ星岡ぁ」
私からは見えないが、適当に星岡に声をかけてもらって、
「パン食いん時の雨ってお前か? やるじゃん、ひゅ~っ」
「クックックククク・・・よくぞ見破ったな」
神の力に興味があるフリをして、
「なぁなぁ、その包帯の内側ってどうなってるんだ? 見せてくれよぉ」
「クッククク、いいだろう。だがここでは人目につく。移動するぞ」
「だったらウチの部室に来いよ。他に誰も来ないし、校舎より近いから」
人気のない場所に移動してもらう。
<連れ出し、完了しました!>
オッケー。今日はコバエ型ドローンさえないから、マジで普通のスマホでのやり取りしかできない。
(ニヤついてるってことは上手く行ってるみたいね・・・) by 大曲鈴乃16歳
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「おぉーっ! マジやっべー! これ刺青か!?」
「表面に書いてあるだけだがな。だがこの”神の紋章”が、神の力を呼び寄せる術式ぞ」
「かっけぇ~。写メっていいか?」
「好きにしろ」
パシャリ。
「満足か?」
「ああ、サンキューな。んじゃそろそろ戻ろうぜ?」
ガチャ、ガチャガチャ。
「お?」
「どうした」
「いや、なんかドアが開かなくなっちまって・・・。なにー! 閉じ込められたー! うわー! どうしよー! このままじゃ体育祭に出らんないよ~~!」
「喚くな。なに、これしきのこと、神の力を以ってすれば造作もないことよ。うぉぉぉぉ・・・!」
(今だぜ!)
「何だ! な・・・に・・・・・・」
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<ターゲット捕獲、無事完了しました!>
<ナイス♪ 後でご褒美をあげるわ>
<あざっす! 光栄っす!>
よし、上手くいったようだな。神の力を持っていようと、星岡くん自身は生身の人間。クスリの1つでイチコロって訳よ。あとは綱引きが終わるまでその場で監視してもらうだけだ。その野球部員も綱引きに出れなくなるが、どんなことにだって犠牲はつきもの。てか黄組の野球部員が戻って来なくても私は困らない。“ご褒美”は、私があげるものなら駄菓子1個でも喜ぶんだから安いものだ。
<あいつ、こんな刺青いれてやがりました!>
送られて来たのは、星岡くんの右腕の写真。ふぅん、これが“封印されし右手”ってやつね。あ、そうだ。
<その刺青消しておきなさい。“なんでもリムーバー”持ってるわよね?>
<ウォッス!>
鏡子ちゃん特製の“なんでもリムーバー”は、どんな汚れもこれ1本! 今ならなんと、お値段4980円!
「あんた星岡くんをどうするつもり?」
鈴乃は、午前中はもう綱引きしか出番がないらしくずっとこの場にいる。
「どうするって、私は正義の使者として不正を行う輩を排除してるだけよ」
「どうせ私怨で動いてるクセに」
「何が悪いってのよ。結果として不正も排除できるからいいでしょ?」
「9割以上私怨クセに正義がどうとか言わないでって言ってるのよ」
「全ての正義は、私怨から成り立ってるのよ」
「やめて? それ鏡子だけだからね?」
自分に都合のいい方に持って行くのが、正義ってやつなのさ。
10分後。
<星岡の刺青、無事消去できました!>
<オッケー! あんたは偉い!>
<ありがとうございます!>
刺青を消すことに意味があるかは分からないが、どっちにしても綱引きで星岡を封じることができた。さすがに1日中の失踪ともなれば怪しまれるから、昼休みには解放してやろう。午後は午後で手を打てばいいし。
<鏡子さん!>
今度は別の野球部員から連絡が入った。何だ?
<天文部の連中が星岡の失踪に気付いて探し始めました! どうしたらいいでしょう!?>
おっと、もうバレちまったか。“天文部”は天文学部のことだが、星岡が去年作ったもので、実情としては奴とその親衛隊の根城になっており、神の力の新しい応用法を開発したりボードゲームで遊んだりしてるという噂だ。
<死守しろ。部室には誰も近寄らせるな>
<ウォッス!>
普段はどうしようもない野球部連中だが、今日は私の発明品セットを持たせてある。
「あんた、スマホばっかり見てないで応援しなさいよ」
「何言ってんの。綱引きの勝敗がこれに懸かってんのよ? 1%の足しになるかも分からない応援よりよっぽど有益よ」
「少なくとも野球部は、鏡子の応援1つで100倍頑張ると思うけど」
「その野球部が今、場外乱闘を頑張ってるのよ」
「うわ・・・」
【第9種目の、“馬・馬・馬”に出場予定の選手は、入場門にお集まりください】
おっと、呼ばれたか。
「で、自分は競技に出るのね」
「しょうがないでしょ。ドタキャンなんてしたらそれだけで疑われるんだから」
「自業自得でしょ・・・」
そんな訳で移動開始。後は頼んだぞ、野球部。
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「星岡さんを探せぇ!」
「しかし、何か考えがあってという可能性も・・・!」
「バカモン! 神の力を持つ者は、常に闇の組織に狙われているんだ! 何も言わずいなくなったらトラブルの合図だと言っただろう! 全く、これだから新入りは」
「失礼しましたっ!」
「くっ、グラウンド周辺にはいない!」
「教室にもいなかったぞ!」
「部室もダメでした!」
「トイレも全滅!!」
「まさか女子トイレに・・・!?」
「バカモン! 星岡さんはそんな下劣な真似はせん!」
「次は運動部の部室を漁ってみるぞ!」
「おっと、ここから先は通さねぇぞ」
「貴様らは・・・野球部!」
「そこをどけ! 我らが神の一大事なんだ!」
「知るかよ。ここは俺たちの部室。部外者を入れないのはアンタらだって同じだろ? 天文部さんよぉ」
「てか天文部が運動部の部室棟に何の用だ。怪しいなぁ? オイ」
「我らが神の失踪につき、しらみ潰しで捜索しているだけのこと! 下等生物は大人しく協力しろ!」
「やなこった。テメェらの神がどうなろうと俺たちにゃ関係ないんでね」
「くっ、やむを得ん・・・生身の人間相手ではあるが、非常事態につき、やるぞ!」
「星岡さん、我に力を・・・! 覚悟はいいか! 食らえ! イビルスレイヤーーー!!」
「うおっ! 何だ今のは! どっから出しやがった!」
「気を付けろ! ただの剣じゃないぞ!」
「だが俺たちにも! 女神より賜った力がある! 戦うぞ!」
「万年1回戦落ちの野球部の癖に生意気な!」
「天体観測をしない天文部に言われたくないねぇ! 食らえ! 激マズエキス・水鉄砲ーー!!」
「うおっ! 何だこのベチョベチョしたや・・・ぐわあああぁぁぁぁぁ! ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「おい! どうした!」
「気を付けろ! ただの水鉄砲じゃないぞ!」
「おのれ、小賢しい真似を・・・!」
「お前にはこいつをお見舞いだぁ! 激辛ボーーール!」
「はんっ! どこに投げ・・・何!?」
「見たか! スライダー指輪の力を!」
「ぐ、ぐおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「おい! しっかりしろ!」
「それよりも野球部の奴らだ! 好きにさせるな! 行くぞ! ヘルダウン・パニッシャーー!!」
「ここは俺が!」
「佐藤!」
「ぐわああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「佐藤ーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「よくも、よくも佐藤を!」
「貴様らに、全身筋肉痛の苦痛を味合わせてやる!」
「何・・・う・・・あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「くそっ、次から次へと!」
「奴らが出すものを口に入れるな! 装備で対抗しろ!」
「くそっ、あいつらマスクをしやがった!」
「俺に任せろ」
「部長!」
「ふんっ!」
「「「どわあああぁぁぁぁぁっ!!」」」
「さすが部長!」
「天文部など、ひとひねりよぉ!」
「ぐ・・・今、のは・・・“マッド才媛”の・・・ロボット、アーム・・・・・・」
「なぜ、野球部の、手に・・・」
「ふん、他愛もない」
<こちら石田。天文部の排除完了>
<お疲れ! ごっくろーさん♪>
「おお、鏡子さん、何と神々しい・・・!」
「まさしく俺たちの癒しの女神・・・!」
「このお言葉をもらうために、俺たちは頑張ってきたんだな・・・!」
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私が出る“馬・馬・馬”の前の競技が行われている最中に、野球部の石田から連絡が入った。
「お、やるじゃんあいつら」
まあ? 私の発明品を使っといて負けたら許さないけど?
とにかく、これで綱引きは安泰だな。“馬・馬・馬”でスコール攻撃をされる心配もない。入場門のそばで他の生徒と同じように並んで、大人しく体育祭の進行を待つ。
「キョウコーーっ!」
「あらクーロンくん。元気?」
トイレから戻ってる途中って感じのクーロンくんが通りかかった。
「元気だけド、オラのやつがまだだから暇だゾ・・・」
両手をだらーんと垂らし、ガクリというリアクションを取るクーロンくん。結局この子の出場競技は、騎馬戦と“プリンセスロード”(お姫様だっこで障害物競争)と“レインボーリレー”(最後の対抗リレー)になり、全部午後なので、全員参加の綱引きまでこの子はやることがない。
「キョウコ、次のやつに出るんだナ! 応援するゾ!」
クーロンくんは1組なので、同じ赤組だ。赤いハチマキが異様に似合っている。
「ぶっちぎりで勝っちゃうから、よろしくね♪」
「ウム! また後でナ!」
クーロンくんはテントの方に戻って行った。
「やっべー、もうちょい赤組引き離さないとやべぇな」
入場門の近くには、第7種目までの途中経過が張り出されている。赤組は暫定3位だが4チームともトントンの状態で、どこが勝ってもおかしくない状態ではある。いま緑組の生徒が赤組から引き離したいと言ったのは、午後の種目にクーロンくんが控えているからであろう。
“プリンセスロード”は勝ちを狙わない人が多い実態を踏まえ配点が低めだが、“レインボーリレー”と騎馬戦は配点ウェイト1位と3位だ(2位は3年の全員参加競技)。騎馬戦は赤組が負けるビジョンが見えず、最後のリレーも、6人中1人がクーロンくんってだけでかなり違う。だからという訳ではないけど、星岡のヤローは潰しておかないとね♪
第8種目の“エースストライカー”が終わり、いよいよ次の“馬・馬・馬”が始まることになった。負けるのは気分が悪いし、頑張りますかね。
次回:馬・馬・馬




