第26話:豪華客船ディナー!
昼飯の時と同じように乗船し、ぽんぽんさんの案内で7階のレストランへ。ビュッフェと違ってウロチョロできないからか、伊東は「出航は9時ですので、その30分前には出るようにお願いします」と言葉を残して席を外した。まだ5時半だし、余裕だ。
「Good evening」
「グッドイブニーング!」
よく海外旅行に行くのか、ぽんぽんさんは慣れた感じで返事をした。
「Four ?」
「フォーー!」
おそらく人数確認だろう。お互いに指を4本立て合った。
「OK. コッチ、オイデ」
スタッフが歩き出し、私たちはぽんぽんさんを先頭に付いて行く。年配の乗船客が多いためか無料の方は5時半でもそこそこ賑わっていたが、こっちは有料オプションのためか空席は多く、近隣テーブルに誰もいない4人掛けに通してもらえた。
「Please wait」
10秒も待たされることなく、水とメニューが運ばれて来た。A4を三つ折りにしたような縦長のメニューカードが、人数分。
「キマッテモ、Please wait、ヨロシクネ」
「何頼むか決まったらぁ、メニュー机に置いて待ってれば来るから」
完全ギャルのぽんぽんさんも、慣れているのか任せても問題なさそうだ。
「どれにしよっかな~。ってムズっ!」
早速メニューを眺めた田邊さんだが、まあ、ムズい。よく分からない英単語の羅列の下に括弧で“鶏肉とイカのハーブ炒め”と書いてるのが1つのメニューで、それがかなり広い間隔で1ページに5個ずつ。
「日本語字幕のザックリ感は豪華客船あるあるだから、適当にポヨってこ?」
ぽんぽんさんは”フィーリングで決めろ”と言っている。
「そんじゃ私はこれにしよ、仔羊とトリュフのチーズ焼き」
「あーそれ美味しそう! トリュフだもんね~」
「やばい、あたしも迷っちゃう。エビも捨てがたいな~」
ぽんぽんさんは「やっぱ肉っしょ!」とのことで“ガーリックステーキ ~白アスパラとトマトソースを添えて~”に決定。鈴乃と田邊さんは5分以上考え込んだあと、
「ごめん厳木さん、かぶる! アタシも仔羊とトリュフ!」
「別に」
かぶるとか気にしたら負けっしょ。
「あたしはやっぱりエビかな~。オマール海老のクリーミィ仕立て! でもこれライスとか付いてんのかなぁ? それともパン?」
「みんなでシェアするバゲットがすぐに来るよ~。あと最後にはデザートも」
「「おぉ~~っ」」
「てな訳で後はジュースを決めよー!」
決まり、待っているとスタッフが来た。オーダーはぽんぽんさんがやってくれた。と言っても、「ラムアンドトリュフ、ツー!」とか「ガーリックステーキ!」とかの単語並べただけだったが。
ジュースとバゲットがすぐに届き、むさぼり始める。
「オマール海老って調べて見たら何かロブスターっぽくて緊張する~!」
キュゥゥッという感じで身を引き締める鈴乃。
「鈴乃にしては珍しいわね」
「そりゃ鏡子は慣れてるでしょうけど」
「え、キョンキョンもたまにクルーズやるの?」
「今回手伝った“クルーズマリン”はお得意様だし、私ってばツアー会社だけじゃなくて船の運航会社にもコネがあるから、修理手伝えば空室に混ぜてもらうこともあるわ。年に1回あるかないかだけど」
「うっそ! いいな~それ!」
羨ましがる田邊さん。
「でもあたしその恩恵受けたことないんだけど」
文句言ってくる鈴乃。鈴乃が「鏡子は慣れてる」と言ったのは、船関係なしにオシャレめのレストランが報酬になることが何度かあったからだろう。
「たまに付いて来るの断るじゃん鈴乃」
「あたしだって暇な訳じゃない時もあるし・・・あ、そうだ。今度から報酬の中身教えなさいよね」
「あらあら、報酬目当てなの? 鈴乃ぉ?」
「う・・・ち、違う!」
「でもさ、厳木さんと仲良くしてると色々と得しちゃいそうだよね」
「私としても、田邊さんと仲良くすることのメリットは捨て切れないからね」
「そういう会話やめてくれる? あたしたち高校生だよ?」
「関係ないわね。“大人になったらできる会話”を知らない子供は、大人に利用されるだけよ」
「キョンキョンまじハイレベル! ポヨい!」
今度は“ポヨい”ときましたか。気にしたら負けか。その後も適当にダベっていると、
「Excuse me」
料理が届いた。
「「おおぉ~~~っ」」
絵に描いたような反応を見せる2人。
「まじロブスターじゃん、ロブスター」
「トリュフでっか・・・!」
鈴乃と田邊さんは、お互いの料理の感想を言い合っている。なぜ自分が頼んだやつに目を向けないのか。未練か?
「ちょっと欲しいかも・・・シェアとかアリなんだっけ?」
田邊さんがぽんぽんさんにそう聞いた。
「白い目で見られることもあるけど、やる人はやるよ。ボリューム凄いっしょ。丸テーブルでマダムと相席になったら余りを分けてもらうこともあるし」
豪華客船乗るような人でもそういう人は居る。まあ、最安値なら1人15万もしないからマジもんのセレブじゃなくても乗れちゃうし。
「「「「いっただっきま~す」」」」
綺麗に並べられていたフォークとナイフを手に取り、いざ、ディナーを頂く。
「んん~~~~~っ!」
幸せそうな顔を浮かべる田邊さん。良かったね。ウミネコ戦の後はどうなることかと思ったよ。これで十分に充電できるっしょ。やっべぇ、仔羊うめぇ。トリュフも。
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デザートのマンゴームースも文句なしの逸品で、ディナー終了!
「んじゃアタシそろそろ戻んなきゃだから、また明後日ガッコでね」
「うん! ぽんぽんありがとー!」
「キョンキョンとリンリンちゃんも、ぽよぽよ~~⤴?」
「ぽよぽよ~」
「またねー」
「ぽよぽよ~~⤴?」
「ぽ、ぽよぽよ・・・」
「いえーーーーい!」
そして交わされるハイタッチ。鈴乃、ついにポヨデビュー。
「まだ6時半かぁ。9時までまだ結構あるし、ちょっと探検する?」
「え、でも勝手にウロつくのマズくない?」
「伊東さんも一緒なら大丈夫っしょ。呼んでみる」
電話で伊東を呼んだ。合流し、レッツ探検。
船内は至るにソファーがあり、まったりしてる人が多い。
「みんな結構部屋の外にいるのね。あたしならプライベート空間にこもりそうだけど」
「ソファーなんてあるのはスイートとかセミスイートぐらいよ。大半はベッドとちっこい机しかないし、一番安い部屋なら窓もない」
「え、そうなの?」
「マカオまで行くなら2週間ぐらいあるはずで、香港とか台湾にも寄れて宿代と食費も込みで20万ちょいとかだから部屋なんてほぼ缶詰よ。寝るためだけの空間って感じだから大抵はパブリックスペースで過ごす。スイートが取れれば別だけどねぇ?」
伊東にチラチラ視線を送ってみた。
「厳木さんなら、それぐらい稼ぐのは難しくないでしょうね」
サービスしてくれるつもりはサラサラないらしい。
「でも泊まりとご飯もついて20万って、考えてみれば安いかもね。利益とか大丈夫なのかなぁ?」
「スイートなら5倍はするし数も結構あるからね。安い部屋は空気乗せるよりマシって感じでしょ。出発日が近づくと値上がりするし、キャンセル料は2ヶ月前とかでも取られるし」
「あ、そうなん? でも早割だと思えばそんなもんかー」
客船ツアーとは関係ないが、“台風が来そう!”とか言う時に顧客の自主キャンセルを待つかツアー会社側からの中止連絡を待つかの戦いがあるのは有名な話だ。
キャンセル料取られるのが決まった後で欠航が発表されようものなら、お客様に“忘れられない思い出”が残る。
「わっ、すご~い。バーだ~。本格的~。ライブステージもある!」
「夜になると、船内のあちこちでジャズミュージックが流れますよ。もちろんバーでお酒を頼むこともできるので、大人になったら是非」
「ジャズミュージック! フンイキ出そう~!」
「ただし、頼むつもりがなくても椅子に座るとオーダーを取りに来てしまうので気を付けてください。彼らには、そうしなければならない決まりがあるんです。もし来てしまったらキッパリと断るか、気が引けるならジュースの一杯でも頼むといいですよ。高いですが」
ああいうの、弱い人は弱いのよね。ただ彼らは、そこにつけ込んで儲けてやろうというのではなく、客に対して失礼がないようにという思想でオーダーを取りに来る。てか、お店の椅子だしね。
「こちらは、お通しすることはできませんがメインホールです。ミュージカルなどの定番やマジックショーなど、様々な催しがあります。ツアー参加者なら無料で鑑賞できますよ」
「へぇ~~っ、ご飯だけじゃなくて、そういうのもタダなんだぁ」
「気になる。気になる気になる・・・!」
今思ったが、伊東、私ら相手に営業してるのか。鈴乃や田邊さんが将来20万ぐらいつかって乗ってみようと思えるほどのものは、十分にあるからな。香港マカオ抜きで1週間ぐらいならもっと安いし。
「こちらは、カジノです。今は日本国内にいるので営業してませんが」
「これ本物ぉ? 初めてみたぁ~~」
「なんかここまでビシッとしてると、ただのオブジェに見えちゃうわね」
ビシッとしてるのがカジノさ。
「でも船の中にカジノなんてあるんだ~」
「外国人客もいるからね。夜に遊ぶ所がないと評判が落ちるのよ」
「じゃあ夜になると始まるの?」
「夜になればっていうよりは、日本の領海を出ればね。今は日本にいるから営業できないってだけで、公海にさえ出てしまえば昼でもできるわよ」
「そうなんだぁ。あ、生ディーラーさんカッコいい~っ!」
見張りだろうか、閉店中だがディーラーの制服を来た人が何人かいる。ビシッと決まっておられる。
「てかぽんぽん今夜カジノできちゃんだ! 凄い!」
「いえ、高校生は・・・」
「あ、そっか。そっちでアウトだ。なに早とちりしちゃってんだろアタシ」
まだちょっと情緒不安定ですね田邊さん。
「でも国外に出ちゃうからこそ、私らこのまま乗ってちゃマズいのよね」
「そうですね。厳しい管理体制が敷かれているので、初日の審査をしてない人が乗ったまま出航ともなれば大騒ぎになるでしょう」
「時間、大丈夫よね?」
「心配性ねえ鈴乃。まだ2時間以上あるわよ?」
私らがはしゃいじゃっても伊東がいるし。
「Hey, girls」
まだカジノの中にいたが、外国人に声を掛けられた。振り返ると、かっちょいい制服を来たディーラーの紳士だった。田邊さんも「イケメン・・・」と呟いている。
「Do you want play ? No moneyナラ、once only、オーケー」
どうやら遊ばせてくれるらしい。
「エ、アー・・・」
戸惑う鈴乃。ロクに喋れないのに何とか反応をしようという姿勢は認めてあげよう。
「いいんじゃない? ただの従業員とのトランプ遊びよ。カネ動かさなきゃ大丈夫でしょ」
「鏡子の“大丈夫”って信用できないんだけど・・・」
おい、親友。
「でもさ、やってみようよ~。ハタチになってもカジノなんてそうそう来れないんだし」
日本にはないしね。設置しそうな雰囲気も出てるけど、一介の女子が行くにはハードルが高い。伊東は無言を貫いてるが、船のスタッフがOKしてるならいいやという感じだろう。
「んじゃ決まりね。 OK, please. Let’s enjoy playing !」
後半はディーラー紳士に向けて言った。右手の親指を立てながら。
「OK, Very nice ! Let’s enjoy playing together !」
ディーラー紳士、まじカッチョイー。
で、案内されたのは、ルーレット盤だった。
「トランプ遊びじゃないし・・・」
鈴乃が呟く。私も手軽にできるトランプだと思ってたよ。まさかマジモンのルーレット使って遊ばせてくれるとは。確かにルールは簡単だけど。
「ワタシ、コノball、ナゲル。Rouletteモ、マワル。キミタチ、ドノnumberニ、ballガハイルカ、ヨソウスル」
フェルト生地の緑の台には、0、00、1~36の数字とそれぞれを囲う枠、そしてそれとは別に"2 to 1"と書かれてた枠が3つと、1st 12、2nd 12、3rd 12、1 to 18、19 to 36、ODD,EVEN,RED,BLACK、の枠がある。
「えっと・・・どこに入るか予想するのよね? 色々あるけど・・・オッドって?」
「奇数のことよ。イーブンは偶数」
「ツートゥーワンは?」
「列ごとのベットね。左のツートゥーワンなら1、4、7、10、以下省略のどれかに入れば当たり」
"1st 12"とかのやつは、実際の数字の並びの1~12の横に枠があるから説明がなくても分かるようだ。
「赤か黒かだと1/2? あ、でもゼロは緑だね。ゼロゼロも」
「そ。赤か黒に賭けてゼロかゼロゼロに入ると負けよ。だから正確な確率は38分の18ね。ちなみに偶数に賭けてもゼロとゼロゼロは外れの扱いになるわ。
それでも配当は2倍だから、期待値は掛け金より低くなる。数字をピンポイントで当てても36倍だから、長期戦やると負けるわよ」
「ま、そうしないとカジノ利益出ないもんね」
「いいじゃん遊びなんだし」
という訳でやってみよー。ディーラー紳士がチップをスライドさせて私たちのそばに持って来た。
「Numberノウエニ、chipオク。ナンマイオイテモ、オーケー。On the lineナラ、ハンブンズツbetトオナジ。Cross pointニモ、オケル」
「クロスポイント?」
「交差点のことだと思う。1・2・4・5、のド真ん中に置けば、1/4枚ずつ賭けたのと同じになるわ。あとチップは人ごとに色を分ける。誰が置いたかわかるようにね」
「へぇ~そうなんだ。んじゃアタシはピンク~。ここと、ここと、ここ!」
田邊さんが置いたのは、00と、8・9・11・12の交差点と、RED。
「そんな賭け方もアリなのね。じゃああたしは・・・」
鈴乃は黄色のチップを3枚取り、26・27間の線上と、ODDと、2nd 12に置いた。
「私はもちろん、こうよ」
私は10枚重ねの水色チップを、23の所に置いた。
「Oh, so cool !」
「わぉ厳木さん一本勝負?」
「やるんなら一攫千金がいいじゃない?」
「そう言えば鏡子、ズルやってないでしょうね」
「遊びでする訳ないじゃない」
「遊びじゃなかったらやるワケ?」
「やんないわよ。カジノでの不正バレは身が滅びそうだし」
野球部の親善試合とは訳が違うんだよ。それに、カジノは運営側が作ってるんだから言わばアウェー。相手もプロだからバレずに仕込むのは至難の業だ。
「Are you ready ?」
「「イェーーー!」」
「え?」
ノリ遅れてんぞ鈴乃?
ディーラー紳士が、ルーレットを回転させ、それとは反対回りに、勢いよくボールを弾いて出した。
「ついでに言っとくと、ボールが投げられた後でチップを置くことが多いわね」
私は10枚重ねのチップを15の所までスライドさせた。ディーラー側の不正も無いという話だが、気休めにこうしたくなっちゃうんだよね。
「あ、そうなの? どうしよ」
「Last five seconds. Harry UP !」
ディーラー紳士が長い指を伸ばして、“5”を示す。
「う~~ん、えい」
田邊さんは、余ってるピンクのチップを手に取り、36の所に置いた。
「ま、いっか。あたしはそのままで」
鈴乃はノータッチ。
「No more bet」
ディーラー紳士が両手を軽く前に出してストップサインをする。あとは、ルーレットのボールを見守るだけだ。
コロコロコロコロ。
コロコロコロコロ。
「結構時間かかるのね」
「まあね。でもそろそろっぽいよ?」
ボールが内側に向かって行き、
カン、カン、カン、カカン。
突起に当たり、ボールが弾む。
「あ! ゼロゼロか36来そう! てゆーか来い!」
00と36は3つ隣で、確かにボールはその辺りで弾んでいる。
「んん~~~」
転がるボールがどこに入るかという古典的な遊びで、現役女子高生3人が食い入るように目を見張るのは、何とも滑稽なものだ。私の賭けた15も中々に近いぞ?
カカン、カカン。
カカカカン。
最終的に入ったのは、36。
「やったーーー!!」
田邊さん大勝利。手をYの字に上げて喜ぶ。
「You win ! Good job !!」
ディーラー紳士から田邊さんに、ピンクのチップが支給される。36の枠に置かれた1枚に35枚をプラスと、何気にREDの方も当たりなので、そっちのベットと配当合わせて2枚。両手でサーーッと流れるように、田邊さんのそばに届けられた。
「凄いわね。本番だったら8000円ぐらいよ?」
「え、マジ?」
「ルーレットのチップは1枚2ドルだから、40枚弱の当たりならそうなるわね」
「やった~。8000え~~ん」
「あーあ、外れちゃったぁ」
「私たちの日頃の行いは田邊さんより悪いみたいね」
「なんで鏡子と一緒なのよ・・・」
私も鈴乃と一緒で不満なんだが? 今年もどれほどの人をファミレスや焼肉で助けてきたことか。猫探し、大変だったなぁ・・・。
「あ、そうだ! 記念写真撮ろうよ~!」
田邊さんがスマホを取り出した。ギャル力まじハンパない。
「テイク、ア、ピクチャー、オーケー?」
田邊さんは自らギャルっぽくキャピキャピしながらディーラー紳士に尋ねた。こういうのって外国人にはどう見えてるんだろ。
「Casinoノ、ソトナラ、オーケー。 C’mon !」
という訳でカジノエリアの外に移動し、オシャレなバーを背景に田邊さんの自撮りに4人入って撮影。伊東は他人のフリをしている。
「おぉ~~っ」
イケメン外国人を写真に収め、ご満悦の様子の田邊さん。
「センキュー。アイム、ベリーファン!」
「コチラコソ、アリガトウゴザイマシタ。マタキテネ」
「イングリッシュ、プリーズ!」
「Thank you girls. See you and let’s enjoy playing again !」
「イェーーー!」
やっぱカタコトより英語の方がカッコイイよね~。
「「「スィーユ~~」」」
手を振って、ばいちゃ。
「はぁ、上に見つかりやしないかとハラハラでしたよ」
「個々のスタッフにまで私らの事情が伝わってるとも限らないからね~」
同じツアー会社の誰かしらが添乗員をしてれば、散歩がてらここに来ることもあるだろう。
「んじゃ、遊んだことだしそろそろ降りますかね」
「楽しかったな~。将来金持ちのカレシ捕まえて乗せてもらお」
おい。
ポーーーーーーーッ。
ん?
「今の、何?」
「汽笛、だとは思うけど」
時計を見る。7時15分過ぎぐらいだ。
「出航まではあと1時間半あるはずよ。鳥でも追い払ったんじゃない?」
音撃作戦はさっき私らもやったものだ。
しかし、次の瞬間、揺れた。船ごと。
「あれ?」
「えっ、ちょっ、これ、動いてない?」
動いてるっぽいねー。
「えっと・・・」
私たちの監視役である伊東の顔を見ると、サーーーッと青くなっていくのが見えた。あ、これ、やばいやつだ。
「すみません・・・出航時刻、9時じゃなくて19時でした・・・」
うおおぉぉぉい!
次回:トラブルはディナーの後も
 




