第25話:ポヨれ! 鏡子 対 ウミネコ
昼飯食ってる間に、屋外設備点検中のドローンがウミネコに食われてる事態が発覚した。伊東の車で向かいつつ、ドローンを操作して避難。タブレット画面を確認しながらだが、1つ、また1つと、分割されてる画面が真っ暗になっていく。コバエじゃ鳥のスピードには勝てねぇ・・・ああ、愛しのドローンちゃんたちが!
「カモメっぽいけど違うの?」
んな細けぇこたぁいいんだよ! 答えるけど。
「クチバシの先端が赤とか黒の模様があったらウミネコよ。あとカモメは冬にしか日本に来ない」
「えぇ!? 夏でもカモメ見るよ!?」
「じゃあそれウミネコなんじゃない? 一応カモメ科カモメ属の生き物だし」
「キョンキョンすご~い! まじぽよ~~⤴?」
「でもドローン食われてんのヤバいじゃん! 追い払わないと!」
くっそ、中型機には鳥よけスプレー噴射機能があるけどコバエ型にゃ無理だ。食われる、食われる、食われるぜ! 中型機を操作し、ウミネコと戦わせる。
「ギャー、ギャー!」
あんまネコっぽくない鳴き声だな、コイツら。てか応戦する気かよ。良い度胸じゃねぇか。あぁ~~ん?
プシュッ、プシュッ。
鳥よけスプレーで攻撃。
「ギャー、ギャー!」
やっべー怒らせたっぽい。逃げてくんねぇわ。
「伊東さん、もっと飛ばして!」
「これ以上は無理です! 怒られます!」
「飛ばさなきゃ私が怒るわ!」
「困ります!」
とか言いつつスピードを上げる伊東。
(この人は怒らせちゃいけないっていう上からの指示が・・・!)
苦渋の判断だったようで、社会人というのは色々と大変らしい。にしてもウミネコのやろう、魚でも食ってりゃいいものを。
「うっわメッチャいんじゃん」
「まじポヨってる~~!!」
ドローン映像だけからは分かりにくかったが、相当数のウミネコが船の周りにまとわり付いていた。猿山ならぬ鳥山築いてんな。
なんで生き物でもないドローンにこんな寄って来るんだよ。船の掃除してないからか? あれだけいるとフンで更に掃除が面倒になるんだが。ここにゃ魚いねーから集まっても意味ねーぞー?
船のそばまで来たが、
「ギャー、ギャー!」
「ギャー、ギャー!」
「ギャー、ギャー!」
ここは自分たちの縄張りだと主張するように威嚇してくるウミネコたち。何なんだよマジで・・・船を乗っ取る気か?
「こりゃスプレーで何とかなるレベルじゃないわね」
「どうすんのよ?」
「目には目を、鳥には鳥よ」
私はスマホを操作し、
「いでよ! カラスちゃんたち!」
カラスを呼んだ。バサバサバサバサと、遠くからやって来る。
「前も思ったんだけど、どうやって呼んでるの?」
「ビジネス契約を結んでるの。定期的に光りモノを提供する代わりに、私が呼んだら来るように」
「はぁ? カラス相手に何やってるのよ?」
「人間よりはよっぽど優秀よ」
「それ人の前で言う? てかカラスってなんか怖いんだけど」
「何言ってんのよ。カラスは正義の味方よ」
「意味わかんないんだけど・・・」
「キョンキョンまじポヨってる!」
「16歳には分からないわ」
「半年後にも理解できる気がしないんだけど」
「僕も理解できてないので安心してください」
「逆に鏡子のことが心配になりました」
「それよりウミネコを追い払うわよ!」
ようやくカラスちゃんたちが近くまで来た。
「カーカー! カーカー!」
「ギャーギャー、ギャー!」
カラスの登場で乱れるウミネコたち。
「あ、すごい! 形勢逆転!」
「キョンキョンまじポヨ!」
「ウミネコはカラスが苦手だからね」
「あ、実はそれでカラス呼んでたとか?」
「残念だけど偶然よ。カラスを選んだのは彼らが正義の味方だから」
「正義であるカラスたちは悪魔と契約してしまったのね・・・」
「だとしたら窓咲市民の一部は悪魔と取引してることになるわね」
「本当よぉ・・・」
(大半が賄賂みたいなもんだし・・・) by 大曲鈴乃16歳。
そういう君も、悪魔の大親友さ。嫌なら撤回することだね。それともポヨる?
「カーカー! カーカー!」
「ギャーギャー、ギャー!」
少しずつ、船からウミネコが離れていく訳だが、
「げっ!」
一部がこっち目掛けて襲い掛かって来た。
「ヤバい! ポヨられる!」
「みんな下がって!」
何で妙に知性ある行動してんだよコイツら。カラスじゃないクセに。ここは古典的だが、
ボオオォォォゥッ!
火炎放射だ。この間の猫と違って捕まえる必要はないからな。
「ギャーギャー、ギャー!」
「焼き鳥になりたくなかったら離れな! こっちもビジネスなんでね!」
「ギャー!」
「何ッ!?」
「ウソでしょ!?」
ウミネコはぐるりと大回りして私を避けて、他4人がいる方に方向転換した。
「もう動物いやーー!」
「え! のんのんアニマル好きだったっしょ!?」
「色々あったの! でも大丈夫よ紀香! ネコじゃなくてウミネコだから!」
「どっちも変わんないよーー! ネコじゃん!」
「ウミネコは鳥よ! ほらよく見て!」
「よく見…いやーー!! 猫も鳥も変わんないよーー!!」
「どったののんのん!?」
ダメだ、みんな混乱している。
「皆さんお下がりください!」
伊東!
「これしかありませんが・・・!」
プシューーー!
あれは! 殺虫剤“アースロケット”!
「ギャー!」
しかし! 市販の殺虫剤でウミネコ軍団を止め切れるはずもなく!
「うわっ! このっ!」
ウミネコが伊東に襲い掛かる!
「ヤバいって! こんままじゃみんなポヨられるって!」
「イヤーー!! 来ないでーーーー!!」
「紀香しっか…あだっ!」
ブンブン振り回されていた田邊さんの手の甲が、鈴乃のアゴにヒット!
「のんのんがリンリンをポヨった!?」
ポヨポヨうっせぇ!! ポヨんのはテメェらだウミネコぉ!!
「みんな息止めて!」
みんなのもとに駆け寄り、
ボワワ~~~ン。
煙玉召喚。
「げほっ、げほっ! ちょっと鏡子!?」
「カラスが船あけてくれたから今のうちに乗るわよ!」
「見えないって!」
「走れ!」
「どっちに!」
「私が手を引く方に!」
デッキへの仮設階段の位置は覚えている。とりあえず5人、適当に手をつないで、
「みんな大丈夫!? 誰かの手つかんでる!?」
「オッケーよ!」
「だいじょばない!」
「のんのんの手はアタシが握ってる!」
「僕はま…」
伊東は最悪いなくてもいいや。
「んじゃ行くわよ!」
階段を上がり切った。
「はぁ、はぁ・・・」
「カー! カー!」
デッキの方は、カラスたちが上手いこと防衛してくれている。
「ヒッ・・・うっ・・・」
「のんのん!?」
田邊さんは、内股で膝をついて半ベソ状態だ。先週ネコに襲われたのがよっぽどトラウマだったのだろう。
「伊東さんは!?」
鈴乃が叫んだ。やっぱ置いて来てたか。そろそろ煙玉も晴れてきている。
「これ使いなさい!」
私はスマホ操作で召喚したトートバッグを伊東に投げた。どさりと落ちて倒れた拍子に中身が出てくる。
「かんしゃく玉よ! 鳴らせば多少は離れるはずだから!」
「ありがとうございます!」
他にも煙玉とか花火が入ってるが、伊東はトートバッグを拾い上げ、かんしゃく玉をパンパン鳴らしつつ階段を駆け上がって来た。
「でもどうすんのキョンキョン!? まだたくさんいるよ!」
ウミネコたちはまだ船の周りを飛び回っている。この距離じゃかんしゃく玉は意味ないから、こっちだな。伊東に渡した他にもトートバッグを取り出し、中身をぶちまける。シュッと飛んでパンと鳴る、巷ではロケット花火と呼ばれているものだ。私お手製。
「みんなの分もあるわ。ライターと線香もあるからペットボトルに立てるなり投げるなりして空に飛ばして」
「なるほど、音で撃退するのね。投げるのは怖いからやめとくけど」
「アタシもやる! のんのん守んなきゃ!」
田邊さんは相変わらず戦闘不能だが、
「田邊さんはこれね。これやってれば近付いて来ないから」
手持ち花火を渡した。
「うん・・・」
気休めにしかなんないけど。
「私と伊東さんはこっちよ」
ロケット花火と一緒にぶちまけていた爆竹を、手に取った。
「ちょっ、鏡子!? それここで!?」
「違うわよ。投げるから空でよ」
「余計怖いわよ!」
「だったら離れてなさい。火矢じゃ単発だから非効率なのよ」
私はロケット花火のこと“火矢”と呼んでいる。旅行先で花火してた少年がこう呼んでいた真似だ。“矢火矢”と呼ぶ人もいたが、短い方がいいのでこっちを採用。
「さ、やるわよ。大群相手に火矢と爆竹で戦うって、なんだかそれっぽくない?」
「楽しんでる場合じゃないでしょ。てか爆竹とかやって騒ぎになったらどうすんの?」
「そこは大丈夫よ。カラスちゃんたちに打ち上げ花火を担当してもらうから。山下公園だし何かのイベントだと思ってくれるって。ウミネコの方が放置できないでしょ」
「そりゃそうだけど・・・」
という訳で開戦だぁ!
線香で導火線に点火して~、
チチチチチチチチ・・・
今だぜぇ!
シュッ・・・パパパパパパパパパパパパパパパ!
「ギャー! ギャー!」
突然の音に騒ぎ出すウミネコたち。
「おお~~! キョンキョンやっぱポヨってる! てかこれバエる!」
夜にやったらもっとバエるぜ?
「2人はそっちお願いね!」
「らじゃー!」
田邊さんがシューーーと手持ち花火をしているそばで、2人が火矢の準備を始める。ボトルに立てて飛ばすぐらいできるだろ。爆竹と違って物理攻撃にもなるし。
ヒューーーン、ドーーーン。
カラスちゃんたちの打ち上げ部隊も始まったね。ここからが本番だぁ!
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花火攻勢により、ウミネコの数は減ってきた。
「そろそろ仕上げね」
ドン。
「・・・鏡子、それ何?」
「爆竹玉よ。中に爆竹が詰まってる」
「いやいやいやいや。今まで通りでいいでしょ!」
「やるからには徹底的にやるわ」
「さっすがキョンキョンやっちまえー!」
旅行先じゃダンボールに詰めて鳴らしてた人もいるし大丈夫だろ。こいつをミニバルーンにくくり付けて、と、
チチチチチチチチ・・・
いってらっしゃ~~い。
バルーンが爆竹玉を上空に運ぶ。
「これ絶対バエるっしょ~!」
ぽんぽんさんはスマホを向けている。
「・・・・・・!」
鈴乃は耳を塞いでいる。あと伊東も。
シューーーーーー。
田邊さんは相変わらず手持ち花火にいそしんでいる。
チチチチチチチチ・・・
さあ、フィナーレだ!
パパパパパパパパパパパパパパパ!!
パパパパパパパパパパパパパパパ!!
パパパパパパパパパパパパパパパ!!
爆竹玉、盛大な音を立てて破裂。いい音だねえ。マジで夜にやりたかったぜ。
「おおぉ~~~っ! まじバエる~~!」
「「・・・・・・!」」
シューーーーーー。
みんな基本破裂前と変わらぬ反応だが、
「ギャー、ギャーギャー!」
ウミネコたちは大慌て。そして、
「ギャー、ギャー」
退散して行った。
「やったーーー! 追い払ったーーーー!」
「何とか、なったわね・・・」
「全くです。一時はどうなることかと」
シューーーーーー。
ウミネコ撃退成功! でも、ちょっと疲れた。あと、田邊さん・・・。足元に散らかってる手持ち花火の残骸が、なんか切ない。
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「いや~! 花火合戦楽しかった~! アタシもちょっとポヨってたっしょ?」
あなたはいつもポヨってますよ。まあでも、花火、売ってあるのは見るけどできる場所あんまりないからね。河川敷やキャンプ場でさえ禁止されたりしてるし。埠頭ならOKという訳でもないが。
「みんなホンットごめん! アタシちょー役立たずだった」
田邊さんも落ち着きを取り戻している。今度は自身の不甲斐なさにヘコんでいるようだが。
「ひと段落つきましたね。厳木さん、替えのエンジンは現場に置いてありますので、よろしくお願いします」
「はいは~い」
伊東は仕事があるのか、この場を後にした。
「そんじゃ、点検の方再開しますかね」
「そういえばそっちがメインだったわね・・・」
ウミネコのせいで気力ごっそり持って行かれたけどね。
「アタシも手伝いまーす!」
ぽんぽんさんもポヨってくれるらしい。
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エンジンの交換を済ませ、他の場所も見て回り、日没前に作業終了を迎えた。
「エンジンの他にも交換しなきゃいけないのあるけど、その辺はいつもの小型ロボ送るからよろしく。お掃除ロボも送るわ」
「本当に助かります。ありがとうございました」
「な~にビジネスですから」
ウミネコは想定外だったけど。
「では約束通り、ディナーにご案内いたします」
「はいはーい! 7階のやつがオススメでーす!」
「あそこはオプションで有料のレストランですが、予定外のこともありましたからね。サービスいたしましょう」
「さっすが伊東さんわかってるぅ~っ」
船内にはビュッフェの他にも(ツアー参加なら)無料レストランがあり、そこでも文句なしのクオリティだが、有料オプションのとこだと更にグレードアップだ。
「さ、豪華ディナーでポヨりましょ」
「さんせーい! のんのんもポヨってこ?」
「うん! 大変だったけど豪華客船ディナーは楽しみ!」
「鈴乃~、何ボサっとしてんの~。早くしないとポヨるわよ~」
(いつの間に“ポヨる”に馴染んでんのよ・・・) by 大曲鈴乃@ポヨれない
てな訳で、点検も済んだことだしディナー!
次回:豪華客船ディナー!




