第21話:包囲網の奮闘
窓咲に到着。朝が早かったことで腹が減ったのか、鈴乃と田邊さんは昼休憩に入ったらしい。あと野球部も。
今の状況を整理すると、まだ見つかっていないのは、田邊さんちのココちゃん、5万円の依頼主の子、生徒会経由の子、そして“AS”の子が26匹の計29匹だ。今日のこの時間までで保護できたのが15匹であることを考えると、結構きつい。荻窪に回していたコバエ型ドローン10台と私withクーロンくんが入ったことでどこまで追い上げられるか。
「どこに行けばいいんダ!?」
クーロンくんとしては事態を全部把握してる訳じゃないし、どうすればいいか分からないところだろう。次に優先すべきは、5万円の依頼主の分だな。だがワトソンが駆け回っても見つからんとは・・・。
「やることはさっきと変わんないけど、ここのおうちの近くを探しましょ。でも猫の匂いがしたらそっちに行ってね」
「わかっタ!」
早速クーロンくんの背中に乗り、タブレットを見ながら風を受ける。しかし、
「むむー・・・」
ハズレ、ハズレ、またハズレ。個人依頼の子どころか“AS”の子でさえ見つかりにくくなっている。数減ってきてるからな。
「あ! ドローンに映った!」
コバエ型に映った分は人間が回収しにいく必要がある。ここから近いから、行くか。
「クーロンくん、こっちよ!」
「ウム!」
マジすげぇ。昨日チャリで東奔西走してたのがバカみたいだ。鈴乃たちは今もチャリで頑張ってるのか。ガン☆バレ!
「よーしゲットぉ」
“AS”タグ付きの子のもとに辿り着き、リモコンスイッチで中型機ドローンを呼ぶ。3分ほどで到着し、猫を引き渡した。
「もう12時か。ちょっとやばいかも」
鈴乃と田邊さん、あと野球部もランチを挟んだこともあり進捗なし。ワトソンが1匹でドローン部隊が2匹。つまり残り25匹か。あと1/4だとー!
「ククククク・・・手こずっているようですね、厳木さん」
「ム・・・お前ハ!」
「キンダイチくんじゃないの。昨日は大丈夫だった?」
確か昨日、猫を探すために小学生の女の子に絞って聞き込みしまくったせいで通報されてたな。
「よくも見捨ててくれましたね。あのあと駐在所にまで連れて行かれて大変だったんですよ」
自業自得だろ。猫探しを信じてもらえたとして、それを口実に女の子に声かけてたと思われても不思議じゃない。探偵が警察のお世話なってどうする。
「それより、まだ勝負は続いてますからね。カオルーン君を味方につけたようですが、ハンデとして丁度いいでしょう」
「いやもう私が作ったドローンが25匹保護してて、残りもちょうど25匹だからアンタ負けよ」
「何・・・!? き、機械に頼るなんて卑怯ですよ! それでも探偵ですか!」
探偵じゃねぇから。
「足を使ってこそ探偵。機械の分はノーカウントです。仕切り直しでいきますよ!」
キンダイチくんは走り去った。勝手にしてくれ。手駒としては数えといてやるよ。
「キョウコはアイツと戦っているのカ!?」
「違うわよ。勝手に変な因縁つけられてるだけ」
ついでに言うとあなたにもね。今日は感謝してるけど。
邪魔が入ったが捜索再開。しかし、相も変わらず難航が続く。そんな中、
「あ! 鏡子ちゃーん!」
「ん? あ、カケルくぅん。 お!」
「見つけたよ! ホラ!」
「キョウコのトモダチカ!? さすがだナ!」
“AS”タグ付きの子を、ドローン映像のないカケルくんが発見。キンダイチ、あんた7歳児に負けてんぞ。まあ、7歳児でも凄い名探偵がいるもんね。中身は高校生らしいけど。その名は、めいたんて・・・ゴホン。
「やったじゃない! んじゃここで待ってて? ドローンが取りに来るから」
「ううん、お店まで連れて行くよ! だって、ドローンは探すのに使ってた方がいいでしょ?」
おぉ・・・! カケルくん、えらい!
「んじゃよろしくね。駅前の“AS”よ」
「うん!」
親も一緒のようだし、大丈夫だろう。
さて1時を回った訳だが、カケルくんの他ワトソンとドローン部隊が1匹ずつ保護しており、残り22匹。遠いな・・・。
【もしもし、鏡子?】
鈴乃からチャット通話が入った。関係者全員にも聞こえる状態だ。
【もうこれってスーパーマタタビで猫集めた方がよくない?】
【あ、それアタシも思った!】
【俺たちは既にやってるけど結構来るぞ。ただ、何故か知らんが近づくと逃げてしまう・・・】
野球部の成績悪いのそのせいか。どうせ猫の姿を見るなり全員で捕まえに迫ってるんだろ。いくらスーパーマタタビがあっても人相悪いのが迫って来たら逃げるぞ。
【それはアンタたちが猫ちゃんたちの気持ちを考えないからでしょ】
鈴乃から指導が入った。
【でもコレ使えば猫集まるんしょ? やっちゃおヤッチャオ!】
「その辺は任せるけど、気を付けてね。頭の上で思いっ切り振り回せば半径100メートルぐらいからは寄ってくるはず。関係ない猫まで来るから大変よ」
【たいじょぶダイジョブ♪】
10分後、2人から半泣き状態で【やっぱ無理・・・】という言葉が送られてくることになった。
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「よーし、これね」
確かに、キャップ開けるだけで警戒心マックスの猫ちゃんまで近付いて来るから、思いっ切り振れば目に見えない場所の子も寄って来そうね。プラケースからスーパーマタタビ本体を取り出し、
「それーーーー」
頭の上で大きく振ってみた。すると、
「にゃ~~ん」
お、来た来た。
「にゃ~~ん」
「にゃ~~ん」
「にゃ~~ん」
ん・・・? あー、そっか。普通の迷子じゃない猫ちゃんたちも来るから、その辺から出て来るのね。
「「「にゃ~~~ん」」」
そろりそろりと距離を詰めて来る猫ちゃんたち。背後から、電柱のそばから、塀の上から。
「いや、ちょっと、待って。・・・ね?」
恐怖を感じたので、スーパーマタタビを仕舞った。だけど、振り回したせいで服に付いてしまったのか、猫ちゃんたちは、
「「「にゃ~~~ん」」」
走って来た! しかもまだヒョイヒョイ現れてくる!
「待って待って、待って!」
「「「うにゃ~~~~ん」」」
「いやああああぁぁぁぁぁぁ!!」
大曲鈴乃、16歳。10匹を超える猫でハーレムを築きました。収穫は、“AS”の子が1匹。服、めっちゃペロペロされて臭うから洗わなきゃ・・・。
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「よーし、これだね」
ほんと厳木さんって、色んなもの作れちゃうよね。学校じゃトラブルメーカーって感じにされてるけど、やっぱ頼りになるのよね。対価を求めるだけあって忠実だし。
「よい、しょっと」
プラケースを開けて、スーパーマタタビを取り出し、
「それーーーーー!」
頭の上でめっちゃ振り回した。
「にゃ~~ん」
お、来たぞ?
「ほれほれ~。おいで~」
とか言いつつアタシからも近付いて行く。怖がらせないように、ゆっくり、ゆっくりとね。
「にゃ~~~ん」
「はみゅっ!」
目の前の子に集中してたら、突然顔に何か飛んで来た。毛でもさもさしてるし鳴き声もしたから猫っぽい。ほんとに集まってくるのね。
「こらー、いきなりそんな大胆なことしちゃダメだぞっ♪」
顔に飛び掛かってきた子をを離すと、
「って、ええぇっ!?」
足元にはたくさんの猫ちゃんがいた。うそうそ、10匹は居る。みんな見上げてきてるから何か怖い。
「「「うにゃ~~~~ん」」」
「あっ、こら! 足登んないで! スカートの中もダメ!」
足をバタバタさせてると、
「はみゅっ!」
また顔にダイブを受けた。
「んっ、んっ、んん~~~~!!」
顔に張り付いた子を剥がせないまま、押し倒されて、全身が猫に埋もれました。半年ぐらい怖くて猫カフェ行けない・・・。
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「よし、もう一度スーパーマタタビ作戦だ。佐藤、いいな」
「ウォッス!」
「今度はヘマしないようにしねぇとな」
「逃げられないように、ゆっくり、ゆっくり近付くんだな」
「違う! こっちから近付くんじゃない! 向こうから来るのを待つんだ!」
「なるほどな。よし、その作戦でいくぞ!」
「「「ウォッス!」」」
「まず佐藤! 鏡子さんのスーパーマタタビを召喚せよ!」
「そいやっ!」
「にゃ~~ん」
「来たぞ、来たぞ・・・!」
「全員動くな! 向こうから来るのを待つんだ!」
「「「にゃ~~~ん」」」
「部長! 向こうからも!」
「構うな! このまま待つ・・・いや、佐藤を羽交い絞めしにろ!」
「「「ウォッス!」」」
「ぬお・・・!」
「佐藤、悪く思うな。これも、我らが鏡子さんのためだ」
「ウォッス!」
(鏡子さんのためならば、猫の1匹や2匹や10匹・・・!)
「「「うにゃ~~~ん」」」
「来るぞ!」
「他の者は佐藤から距離を置いてじっとしてろ! 動くべき時を待つんだ!」
「「「ウォッス!」」」
「「「うにゃ~~~ん」」」
「いぃ・・・!?」
「「「うにゃ~~~~~ん!」」」
「佐藤ーーーーーーーーーーー!!!」
「佐藤の犠牲を無駄にするな! “AS”のタグ付きか写真の猫を探すぞ!」
「「「ウォッス!」」」
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「お、鈴乃は1匹確保。やるじゃん。ひゅーっ。野球部も1匹追加? やるじゃないか。 田邊さんは、ドンマイ。体張ったのに収穫なくて・・・」
女子2人はシャワー浴びに帰ったので、一時離脱。だから気を付けろって言ったのに。野球部も数名戦闘不能になったようだ。
しっかしそれぐらいのことやんないと今日中に片付けるのは難しくなってきたな。幸い私にはクーロンくんもいるし、スーパーマタタビの使い方加減も知っている。2人のようなヘマはしないさ。
「「「にゃ~~ん」」」
よし、来たな。
「クーロンくん、そっちはお願い!」
「ウム!」
私は降ろされ、民家から借りた物干し竿をクーロンくんが手にする。猫は挟み撃ちするように迫って来るが、私も何もできない訳じゃあない。
「ヒトセン流・気功術!」
厳木流・機械術。
「崩龍蓮華!」
白網召喚!
「「「ごろにゃ~~ん」」」
「「「にゃにゃ、にゃにゃにゃ・・・!」」」
片や、甘えるように地面に寝っ転がり、片や、網に捕らえられモゾモゾする。数匹、上方向からの強襲もあったが、ロボットアームを使えば何のことはない。
「よし、探しましょ」
結果は、“AS”の子が1匹だけ。あっちゃー、しんどいな。1匹いただけでも良しとするか。
「他のトコロでもやるんだナ!」
その通りです。
しかし、何度か移動してはスーパーマタタビ作戦を繰り返しても、猫は釣れるけどターゲットの子は中々に釣れない。もう残り20匹切ってるからなぁ・・・。
そんな中、
【鏡子の旦那! 生徒会の依頼のやつがいたぞ!】
ワトソンから朗報。
「それじゃもう、直接その人んちに連れてっちゃって」
ワトソンのタブレットに地図情報を送った。生徒会からの報酬は前払いでもらってるからいいや。猫が戻って来たという事実を前に文句は言うまい。
その後も捜索を続け、午後4時。
【ちょっと、疲れてきたわ・・・】
鈴乃はシャワーを終えた後また加勢してくれたが、その後の成果はナシ。
【あたしも~。ココちゃんどこ~~?】
田邊さんもだ。猫の数自体が減って来る上に体力も減っていく。しんどいところだ。
【鏡子さんのためならば、俺たちは!】
野球部もあの後は収穫がないようだ。現状としては、私とクーロンくんペアが1匹追加したのと、ワトソンとドローンがそれぞれ1匹と3匹で、残りはついに12匹!
しかし、日没は近い。この3時間で見つかったのが10匹であると考えると、確実に暗くなる。“AS”の子は最悪は明日以降に回すとしても、ココちゃんと5万円の依頼主の分は今日で片付けてしまいたい。
カケルくんからは電話があって、あの後は収穫なしで今日はもう終わるそうだ。小学生だし仕方ない。キンダイチくんは知らないけど、希望的観測はやめておこう。
かくなる上は、明るいうちにあいつを出すか。スーパーマタタビを更に超えたスーパーマタタビである、スーパーマタタビ2を!
次回:伝説のスーパーマタタビ2




