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第2話:級友はビジネスパートナー

 今年度最初のビジネスは、クラスメイトの恋愛成就となった。


「で、相手は誰なの?」


「3組の、黒田、純助くん」


 やっべー、誰だか分かんねえ。他のクラスはノーマークだ。


「えっと・・・この人」


 スマホで写真を見せてくれた。こういう奴、居たような居なかったような。


「小学校からの幼馴染なんだけど、中学校に上がって、純ちゃんが部活やり始めて、それで段々疎遠になって、クラスも一緒になれなくて・・・」


 あー、よくあるやつね。てか“純ちゃん”呼びですか。お熱いですねえ。


「なるほどね。白鳥さんはずっと好きだったけど、黒田くんはそうでもないかも知れなくて、一歩踏み出せないでいるって感じか」


「は、はい・・・」


「ふーむ」


 恋愛と言えば、悩みの種の鉄板。下手をすれば人生に関わるものだし、そうでなくても日々の暮らしには関わってくるものだ。私には分からないのだが、とにかく意中の相手のことばかりを考えるようになってしまうらしい。


 そんな訳で、恋愛絡みと言えば、高校生に限らず人類のメインの悩みの種と言っても良いだろう。もちろんそれは、私にとってもメインのビジネスフィールドとなる。


 ゆえに私は、それを簡単に解決させる術を持っている。


「んじゃ、これで決まりね」


 私はポケットから1つ、丸薬が入ったチャック付き袋を取り出した。


「え・・・?」

「・・・?」


 2人が不思議そうな顔をする。


「何、それ・・・」


 何気に去年は恋愛相談がなかったから鈴乃もこいつを見るのは初めてだろう。


「媚薬よ。これを口にした時に目の前にいた相手に惚れる。だから、上手いことこれを白鳥さんの前でターゲットに飲ませれば終わり。簡単でしょ」


「いやいやいやいや、何ワケ分かんないモン出してんの。そんなんで付き合っても意味ないでしょ」


「定期的に飲ませれば持続するわよ。付き合うとこまで行けば飲ませるのも難しくないでしょ?」


「そういう問題じゃなくて! ・・・第一、効き目があるかも分かんないし」


「それなら実証済みよ。ファーストキスは、ブドウガムの味だったわ」


「!」

「あんた、まさか・・・」


 2人が驚いた反応を見せる。まあ確かに、世の女子高生が驚くようなことではあるけど、


「商品の性能をチェックするのは当然よ」


「だからって・・・ちなみに相手は?」


 何気に興味あんのねそこに。


「通りすがりのイケメンよ」


「うわ・・・」


「引いてるけど、当たり前じゃん。知り合いだと人間関係の悪化につながるし、何が起こるか分からないんだから、どうせならイケメン選ぶでしょ?」


「それで見ず知らずの人に薬盛ったワケ?」


「何言ってんのよ。自分で飲んだのよ。でなきゃ効き目わかんないじゃない。ホント、ちょっとかじっただけでああなるとは思わなかったわ」


「あたしにはあんたが分からないわ、鏡子」


「報酬さえもらえれば理解される必要はないわ。でも、私の発明品じゃこれが一番の売れ筋商品よ」


「嘘でしょ・・・」


「ホントよ。4人の人が毎月買ってくれてるわ。1個1万で」


「誰が買うのよ・・・」


「お母さんとその友人よ。そもそもお母さんに頼まれて作ったもので、知り合いに広めたみたいね。意中の人を落とすための道具のはずが、既にパートナーがいる人に需要があるなんて、歳は取りたくないものね」


「旦那さんに盛ってるってこと?」


「そうであって欲しいわね。うちのお母さんは、お父さんに盛ってるみたいよ」


「聞きたくなかったわ・・・」


 片手で頭を抱える鈴乃。


「聞いてきたのは鈴乃よ」


「あたしが悪かったわ」


 さて商談に戻ろう。


「で、どうするの、白鳥さん? 高校生同士で現金のやりとりをする気はないから、焼肉奢りで考えるけど」


「いや、あんた・・・」


 鈴乃の言いたいことは分かるけど、


「私が提供できる、一番成功率が高い手段がこれよ。使うかどうかは、鈴乃じゃなくて白鳥さんが決めること。もしこれが嫌なら他の手段を考えるわ。ただし、成功率が落ちることには同意してもらう」


 私とて、クライアントが望まない手段を強行するような真似はしない。そんなことをすれば信用を失い、ビジネスパートナーを失ってしまうからだ。重要なのは、信頼関係。


「わた、しは、・・・それには、頼りたくない、です」


「そ、分かったわ。これを使うのはやめておく」


「ほっ」


 胸を撫で下ろす白鳥さん。


「けど、そうねえ、難易度が変わるから報酬もちょっと変えるわ」


「焼肉から、他のものに・・・?」


「鏡子のことだから、食べ放題メニューのグレードアップよ」


「鈴乃のハズレ。別のものに変えるわ」


 あと、私が食いしん坊みたいな言い方はやめてもらえないかな。


「どうすんのよ?」


「もし黒田くんと付き合うことができたら、新作の発明品のテストに協力してもらうわ。これでいい?」


 私は相談料と成功報酬しか受け取らず、成否に関わらず交通費や消耗品代の請求はしないことにしている。趣味で作ったものを流用することもあって、依頼の遂行に掛かった費用を正確に出すのが面倒だからだ。その辺りは成功報酬に適当に上乗せする方針だ。


「どうする? 雪実。鏡子は見返りがないと何もしないけど、多分、あたしと雪実で頑張るよりも、誰に頼むよりも、上手くいく可能性が高いと思うけど」


「ついでに、秘密を厳守することも約束するわ」


「・・・・・・」


 白鳥さんは少し考えているようだったが、


「お願い、します。このままだと、疎遠なままだし、もしダメになるにしても、あと2年も悩み続けるのは、嫌だから・・・」


 よし、商談成立ね。

 白鳥さんからすれば、もしフラれても既に疎遠だから大きな影響はないという判断だろう。それであと2年も悩み続けるのは、確かによくない。だけど、


「“もしダメになるにしても”、なんて禁止よ。結果的にダメになるのは仕方ないけど、やるからには勝ちを狙いに行かなくっちゃ」


「あ、は、はい・・・!」


 中々の返事だ。鈴乃も満足そうな顔をしていて何より。でも今更だけど、白鳥さん、何で敬語?


 --------------------------------


 引き続き、ファミリーレストラン“ジャスト”。ジュースお替りの小休止を挟み、作戦会議開始。


「で、これからどうするかだけど、まず疎遠になってるのを何とかしなくちゃね」


「う、うん」


 敬語は直してもらった。すごくやりづらかったから。


「黒田君も誘って4人でどっか行く?」


 鈴乃、正解。


「それがいいわね。でもどこ行くか考えるの面倒だから私ん家でバーベキューで。ちょうど新しいコンロ作ったところだから、試させて」


「別にいいわよ。鏡子が事あるごとに発明品試すのは今に始まったことじゃないし。ごめんね、雪実。この人こうなったら聞かないから」


「あ、ううん。私は大丈夫。相談に乗ってもらってるんだから、文句は言えないよ」


 優しいねえ白鳥さん。鈴乃もちょっと見習ったら?


(この謙虚さを鏡子にも見習って欲しいわね) by大曲鈴乃16歳。


「でも、どうやって純ちゃんを誘おう・・・?」


「それは鏡子がいれば大丈夫よ」


「そ。私に任せなさい」


「・・・?」


 不思議そうな顔をする白鳥さん。まあまあ、このマッドサイエンティストに任せなさいな。人ひとりバーベキューに呼び出すぐらい、ワケないわ。2人の恋のキューピッドになってやろうではあーりませんか。


次回:恋のキューピッド鏡子

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