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第19話:探せ! 101匹猫ちゃん

「「・・・・・・」」


 鈴乃と田邊さんは、茫然としている。電話はスピーカーモードにはしてなかったが、ペットショップ店員の声がデカかったので普通に聞こえたようだ。


「・・・まずは、今の4匹にするわよ」


 マジ泣きたい気持ちを抑え、目の前の事態の解決に乗り出す。


「そ、そうだよね。ダッシュすれば行けるっしょ!」


 さすがの田邊さんも、これにはカラ元気を出すしかない。


「その前に、これよ」


 私はコバエ型ドローンを取り出した。その数7台。言うまでもなく、元は7匹だった迷い猫を探すために準備した。


「居場所を確認しながらの方が良いでしょ。これ持って」


 画面確認用のタブレットは、ワトソンの分も合わせて4台だ。ワトソンのはサイズが小さくて首輪にぶら下げてある。ドローンは基本は自動操縦で、山ほど登録してある猫の画像と似たものを見つけたら追うようになっている。状況によっては私に限り操作権を奪うことも可能。


「行くわよ!」


 --------------------------------


「ゼェ、ハァ・・・。まず、4匹・・・」


 猫たちのスピードのあまり結局全部ワトソンが捕まえることになったが、無事終了。


「皆さん、どうもありがとうございました」


「い、いえ。大丈夫です」


 その人は、何度もペコペコと頭を下げ、4匹の子猫をトートバッグに入れてこの場を去った。実は“お礼にお茶でも”と言われたのだが、それどころではないので断った。タダ働きかぁ。そもそも頼まれてもないのにやっちゃったからなぁ・・・。


「さて、あと97匹ね」


「猫探しの数字じゃないんだけど・・・」


 私だってそう思ってるよ。


「では俺は先に行かせてもらうぞ」


「よろしくね、ワトソン」


 彼は単独行動でもいいだろう。


「さて」


 2日間で97匹。ドローンもあるし闇雲に探しても数十匹ぐらいは見つかりそうだが、全部となるとキツいな。


「ごめん、私ドローン増産するから2人は先に探してて」


「え? あ、でもそっか。鏡子はそうした方がいいかもね」


「そんなすぐできるの?」


「今日の午前中で10台ぐらいは行けるでしょ」


「すごっ! さっすが厳木さん」


「んじゃ、よろしく」


 2人と別れ、ドローンを増産すべく自宅に向かう。


「お?」


 一応はタブレットの画面を確認していると、早速、近くにあるドローンが猫の姿を捉えた。マジ近くだし、捕まえるか。


「お、いたいた」


 とある家庭の兵の上に、猫。ロシアンブルーかな? “AS”と書かれたタグが下がってる首輪があるから、ペットショップの子だな。


「にゃ~~ん」


 よ~しよし、おうちに帰ろうね~。


 だが、直進で捕まえに行くほど私も馬鹿じゃない。


「ほぉ~ら、おいで~」


 私はポケットからあるものを取り出し、キャップを開けて中身を引き出してつまんで、ぷらぷらと揺らした。


「にゃ~~~ん」


 目論見通り、猫はこちらに飛び掛かって来た。


「おぉっと」


 顔に飛びつかれそうだったので、一歩下がってキャッチ。よし、効果はバツグンだな。私が手にぶら下げて誘惑したのは、マタタビに含まれる、猫が好む成分をふんだんに凝縮したものを擦り込んだ猫じゃらし、その名もスーパーマタタビ。マタタビを超えたマタタビだから、スーパーマタタビ。私の腕に収まるロシアンブルーは尚もスーパーマタタビに夢中だ。


 しっかし、これ、どうすっかな。元は7匹のつもりだったから1匹ずつ飼い主の元に返すつうもりだったが、90匹でそれをやるのは面倒だ。ペットショップの分だけでも手間を減らせるようにするか。ひとまずこの子は連れて帰ろう。


 スーパーマタタビを持っていると用のない猫までも寄って来るので、一旦仕舞った。ポケットに入ってるだけでもこの子が逃げることはない。


 自宅に到着。この子たちをラボに入れる訳にはいかないので、まずは庭へ。ペットショップの人に引き取りに来てもらうか。90匹の猫を探せって言うんだから、それぐらいのことはしてもらわないと困る。


「あ、もしもし、厳木ですけど。ひとまず1匹は保護できたので引き取りに来てもらっていいですか? そっちに行く余裕ないので」


 他でもない、あなたたちのお陰でね。


【あっ、早速ありがとうございます! 私たちもうテンテコ舞いで!】


 こっちだってテンテコ舞いだよ。


「あ、お母さん、しばらくこの子見といてくれる? 今度の媚薬割引するから。そのうち“AS”の人が来るはず」


「いいわよ。何やってるか知らないけど大変そうねえ」


 運よく母が窓際に来てくれて良かったぜ。父親だったらせっかくの12万5千円が割引になってしまうからな。


 ロシアンブルーの世話を母に任せ、ラボへ。


「あーくっそどうすっかな~」


 椅子に座り、ふんぞり返って頭の後ろで両手を組む。探すだけでも相当な数なのに、捕まえる度に“AS”に連れて行くなんてやってられない。


「あ、そうだ。ドローンに連れてってもらうか」


 猫を見つけて、捕まえて、“AS”まで連れて行く。これをドローンにさせるだけでだいぶ効率が上がるだろう。コバエ型じゃ猫を持てないから中型機ぐらいにすればいいな。間違えて他の猫を連れて行かないように店の首輪とタグもインプットさせておこう。さっきのロシアンブルーがまだ庭にいるはずだ。


「ちょっとしつれ~い」


「にゃ~~ん」


 母が抱っこしていたが、迷わず私の方に飛び移って来た。ポケットにスーパーマタタビがあるからだろう。


「ここまでアッサリ乗り換えられると少し凹むわね」


「媚薬がないと人間の男でも寄ってこないもんね」


 ピキッ。母の眉間にシワが寄る。


「あら、これでも社内ではそこそこ好感を持たれてるのだけど」


「その結果オジサンたちに持ち上げられて課長になった気分はどう?」


「う・・・はぁ、媚薬と逆の効果が出るクスリも欲しくなったわ」


「それは敵が増えそうだから無理ね。私は平穏に生きていきたいのよ」


「ドーピングなんてやっておいて良く言うわね」


 この間の野球部のことは知らないはずだが、去年の体育祭のことは母の耳にも入っている。というか保護者召喚された。


 パシャリ。首輪を撮影。


「は~い。お店の人が来るまでこのオバサンと待っててね~」


「あんたもいつかオバサンになるわよ」


「いつの話よ」


「あんたが思ってるほど遠くないわよ。いつまでも17歳じゃないんだから」


「ところがどっこい。世の中には“永遠の17歳”ってやつがあるんだよ」


「言葉だけでしょ・・・」


「それが、言葉じゃないんだよ」


 ロシアンブルーを母に戻し、引き返す。


「うにゃ~~ん」


 “待って~”という仕草を見せるロシアンブルー。私の目に一緒に映っている、厳木真理し、じゅうなな歳とのギャップもあって可愛い。


「・・・あんた、この子にも何か盛ったでしょ」


「違うわよ。私がコレを持ってるだけ」


 バレたのでネタバラシした。


「ああ、お父さんの12万5千円で猫を探してるのね」


「それ以外にもあるのよ。シメて101匹。“AS”の子たちもそれね」


「どうやればそんなに猫を探すことになるのよ」


「この街で発明家やってればなるみたいね。お母さんもどう?」


「この国のメーカーで開発やってると101どころじゃない厄介事と関わらなきゃいけないの。そんな暇はないわ」

(あろうことか娘の踏み台にもされてしまうし)


「持つべきものは母だね。そんじゃよろしく~」


 さて、“AS”の首輪とタグの画像を入手したところで、ドローン増産しますか。タグのある子だけ連れて帰ってもらうようにすればいい。個人依頼の7匹はスルーされてしまうが、それはコバエ型に任せればいいだろう。スーパーマタタビも仕込みたいところだが、関係ない猫まで巻き込みそうだからやめておく。それは最終手段だな。


<調子はどう?>


 現状を確認しておこう。


<2匹捕まえたわ。ちょっときついからペットショップに連れて行ってるトコ>


<あたしも~>


 2人にもスーパーマタタビは持たせてある。だがやはり、同時に多くは連れて行けないか。


<こっちは5匹だ>


 ワトソンは意思の疎通ができるから大丈夫だろう。1匹の犬に猫がぞろぞろとついて行く構図になるが。


<あと87匹ね。その調子でお願い>


<厳木さんも急いでね!>


 はいはい。



 腹が減ったところでドローン作りを終了。猫を連れ帰るという機能を加えたことで時間が掛かり、中型機の生産は8台となった。ひとまず今日はこのままやってみるか。ドローン増産は日没後にもまたできる。


<8台増産したわ。そろそろお昼にしましょ>


 ワトソンは勝手に家に帰るとして、私たち3人は牛丼チェーン“牛野屋”に集合。さっさと済ませて再開させるつもりだ。


「何匹いった?」


「あたしは5。みんな“AS”の子。大変ね、これ」


「あー負けた~。あたしは4。やっぱペットショップの子がよく見つかるね。ココちゃんはまだだ~」


「探してるうちの大半は“AS”の子だからね。私が1でワトソンは13だから、あと74匹ね」


「遠いわね~」


「でももう1/4じゃん!? 頑張ろうよ」


 ただ、数が減ってくると見つかるペースも落ちるから、上げてかないときついな。ドローン増産したことでどこまで加速できるか。


「ひとまずご飯にしよ、ご飯。お腹空いちゃった」


 牛丼屋に入店。


「えっ、2人とも大盛? 鏡子はともかく紀香まで」


 私はともかくって何だよ。


「エネルギーは必要っしょ」


「鈴乃にはまだこの領域が分からないのね」


「何で見下されなきゃなんないのよ・・・」



 牛丼を食べ終え、再開。


「基本的には続きでいいわ。ドローン増えたから画面の切り替え大変だろうけど、頑張って」


「その分だけ目が増えたってことでしょ」


「よっし、やるぞぉ~~っ」


 まとまって行動する意味もないので、散らばって捜索再開。


「お、早速増産したやつが活躍してるじゃないの」


 昼食前に出発させていた増産分のドローンが早くも“AS”の猫を捕まえたらしい。私のもとに信号が入るようになっている。そのまま送り届けてちょ。


「あ、やっべ。店の人になんも言ってね」


 電話して、ドローンによる猫ちゃんのお届けがあることを伝えた。これで大丈夫っしょ。



 しばらくチャリで巡りつつ、タブレットの画面も確認するようにしていたが、中型機が発見した猫ちゃんについてはドローンがそのまま連れて行き、コバエ型7台には中々ターゲットが映らないことが続いた。


【見つかんないわね~】


【あたしら役に立ってなくない?】


 チャット通話してみるも、みんなも似たような感じのようだ。ドローンから送られて来る画面は同じだからね。


「ワトソンはどう?」


【こっちは個人依頼の7匹に絞ってやってるが、まだだ。たまに通りすがりで見つけた分は捕まえに行ってるがな】


「そっかあ」


 午後の部、1時間経過で保護された猫ちゃんは、9匹。ドローンが7でワトソンが2だ。ワトソンは鼻が利く分、猫自体を見つけきれるのだろう。それでも残り、65匹。日が傾いてくるだけでドローン映像が分かりづらくなるから今日はあと3~4時間が限度だろう。明日いっぱいまでに間に合うか?


 タンタラタンタラタタララララララ♪


「あ?」


 電話が掛かってきた。母からだ。ロシアンブルーが無事に引き取られたのだろうか。にしては時間的に遅いし、そもそもそんなことで電話してくる人じゃない。


「もしも…」


【鏡子アンタ何してんの? 猫がドローンで連れ去られてるって噂になって苦情の電話が引っ切り無しなんだけど】


「はぁ?」


 何だって?


【そんな事しでかしそうなのアンタしかいないでしょ。それでみんなウチに掛けてきてんのよ。居留守使ってスピーカーもテープで塞いだけど面倒だから何とかしなさい。自分で蒔いた種でしょ】


 種を蒔いたのは猫を逃がしてしまった人たちの方だと主張したい。


「分かったわ。“AS”の人に言って何とかしてもらうから」


 そこで電話を切った。ったく、猫がドローンで運ばれてる程度で騒ぐんじゃないってのよ。だが面倒なのは確かだから火消しするか。“AS”に電話だ。


「厳木ですけど」


【あ、鏡子さん! ありがとうございます! 猫ちゃんが次々と届いて来ます!】


「それなんですけど、街では私がドローンで猫を連れ去ってるって噂になってるんで、町内放送入れてもらうなりして誤解を解いてもらえません?」


【え? はぁ、噂ですか? 確かに、猫がお空を飛んで運ばれてますからねえ。でも事情は公式サイトの方にも記載してもますよ?】


 公式サイトだけで道行く人にまで伝わる訳ないだろ。


「ペットショップのウェブサイトを見てる人なんて少ないでしょうから、大抵の人は何も知りませんよ。市役所に頼んで町内放送を使ってください。協力者も増えると思いますよ」


 こればかりは、私個人ではなくお店から働きかけてもらうしかない。


【そうですね。多くの人に知ってもらうためにはそれが良いかも知れません。問い合わせて見ます】


「猫ちゃんの保護のためにドローンを使ってることも、ちゃんと伝えてくださいね」


「はい。わかりましたぁ」


 通話終了。さて、再開するか。それからまたしばらく奔走していたところで、


【ピン、ポン、パン、ポーン】


 町内放送が入った。


【窓咲市、防災センターからお知らせ致します。現在、窓咲駅前のペットショップ、“AS”様にて取り扱われております、猫ちゃんが脱走しております。

 猫ちゃんには、首輪に“AS”様の丸いタグが付いておりますので、もしお見かけになった場合は、“AS”様店舗、あるいは近所の交番まで届け出て頂きますと幸いです。

 なお、猫ちゃんを連れたドローンが運行されておりますが、これは“AS”様の猫ちゃんを保護するために厳木様から提供頂いているものであり、ご心配は無用です。

 繰り返します。現在、・・・】


 オッケー。防災無線を使ったようだがちゃんと言ってくれたな。ついでに私の名前まで出して宣伝してくれたぜ。家にクレームが入る事態になったんだから、社会貢献アピールもしておかないとね。


【ねえ鏡子、今の放送・・・】


 今度は鈴乃からお叱りの言葉か? だが、


「勘違いしないでよね。ドローンで猫が連れ去られてるってウチにクレームが入ったのよ。だから“AS”に頼んで誤解を解いてもらったの」


 決して自分の宣伝に防災無線を利用した訳じゃないんだからねっ!


【やっば! さっすが厳木さん】


 何が”さすが”なんだろうか。キャラ作りとは言えギャルの話し方というのは不思議なものである。


【そう? そういうことならいいけど・・・】


「そんなことより続けるわよ。あと62匹もいるんだから」


 時計を見る。2時半過ぎ。雲もそこそこあるから、下手すりゃ5時過ぎぐらいには終了だな。そういや雨降んなくて良かったぜ。



 そこから更に30分経過。


【いたぞ! “あめっこ”だ】


 ついにワトソンが、カケルくんちの“あめっこ”を見つけた。


「でかしたわ」


【凄い! さすが厳木さんの相棒! 後で“よしよし”してあげるね!】


【結構だ】


【ええ~~!】


 犬にフラれた田邊さん。私の相棒は、その程度の誘惑では揺らがんのですよ。


「私も行くわ。カケルくんちの近くで落ち合いましょ。 鈴乃と田邊さんは続けてて」


【オッケ】

【あいさ~】

【了解】


 ワトソンなら自分で連れて行くこともできるだろうが、個人依頼主だしさすがに私も一緒に行くか。



 そんな訳でカケルくんの家に移動。


「ああ~! “あめっこ”~~っ!」


「お待たせ。無事に見つかったわよ」


「鏡子ちゃん、ワトソン、ありがとーーっ!」


「・・・・・・」


 ワトソンは、“お安い御用さ”といった澄まし顔を見せている。なお、カケルくんはワトソンが喋れることを知らない。ワトソン曰く、「子供の前で喋ると何かと面倒だからな」だそうだ。


「ねえねえ、鏡子ちゃん、お店の猫ちゃんも探してるんだよね!」


「ええ、そうよ。たくさん逃げたしちゃったもんだからもう大変」


「ボクも手伝うよ!」


「え? でもお父さんかお母さんと一緒にしなさいね」


 申し訳ないが私では面倒見きれない。こっちも割とガチで猫探しやってるから、小学生と一緒に行動するのは無理だ。


「うん! お願いしてみる! お父さ~~ん!」


 カケルくんはバタバタと走りながら玄関の奥へと消えて行った。


「んじゃこの調子でよろしく、ワトソン」


「お任せあれ」


 ワトソンと別れ、再び単独行動。


 “あめっこ”を届けている間に、田邊さんから<1匹確保!>と連絡が入っていたのと、ドローン部隊が2匹“AS”に連れ帰ったので残り58匹だ。数減ると確実にペース落ちるから、今日中に40までは減らしたいところだが、どうだろう。しかも、個人依頼のがまだ6件残ってる。


「ククククク・・・お困りのようですね」


 あ?


 なんか話し掛けられた。この声と話し方は。


「あら、キンダイチくんじゃないの」


 休日なので私服姿だが、同じ学校の生徒、金田二郎 (かねだ・じろう)だ。たった今「キンダイチくん」と呼んだ訳だが、何かの拍子で彼の縦書きの字を見た時に“金田一一郎 (きんだいち・いちろう)”に見えたためこう呼んでいる。


「聞きましたよ、猫探しをしているそうですね」


 ネットの噂と町内放送で嗅ぎ付けて来たか。この男、私と同業者という程でもないが、探偵の真似事をやっている。祖父が有名な探偵だったようで、両親は会社員だがその多忙ゆえ祖父に育てられたこともあり、憧れて目指すようになったという。


「猫探しに浮気調査と言えば探偵の仕事。しかしここ最近はすっかり依頼が減ってきていましてね。他でもない君が、探偵ではないにも関わらずやっているからです! 見捨てておけるものですかっ!」


 知るか。


「私は自分から協力してるんじゃなくて、頼まれてやってるのよ」


「それで金を取るなど益々いただけませんね。悪に代わって、僕がこの街の窮地を救おうではありませんか」


 誰が悪だって?


「探偵事務所だって金取るでしょ。一緒じゃないの」


「君は高校生だろう!」


「だったらキンダイチくんはタダでやるってのをウリにすればいいじゃないのよ」


 それでも私のところに依頼が来るのだから、実力と信頼の差ってやつですよ。


「くっ・・・では勝負です! どっちが多くの猫を見つけることができるのか!」


「別にいいわよ。頑張ってね」


「後で吠え面かいても知りませんよ!」


「ニャオーーーーン!」


「ぐぬぬ・・・相変わらず人の神経を逆撫でするような振舞いですね・・・!」


 キンダイチくんは走り去って行った。本人は勝負と言ってるが、私からすれば協力者だから泳がせておこう。“AS”にはワトソンの定期健診費用免除の約束を既に付けたが、誰が猫を見つけて来ようともそれが白紙になることはない。

 問題があるとすれば、謝礼金5万円の件が町内掲示板に張り出されていることで、キンダイチくんがそれを見つけて先を越されるとパーになるが、物理の掲示板でしか分からない上に“AS”の件が大きく取沙汰されてるし、彼には無理だろうから気にしないでいい。


「でも、個人依頼の子たちは今日明日で確実に済ませてしまいたいわね」


 コバエ型が7台と猫運搬可能な中型機8台の計15台分のドローンの映像をパッパッと切り替えながら眺める。


「お、中型機のやつがまた1匹見つけた」


 と思ったら、ドローンがその子に接近すると“AS”のタグが付いてないことが判明。


「そりゃスカもあるかぁ」


 ドローンもそれを判別し、自動で離れ…


「ん!?」


 ちょっと待った。私はそのドローンの操作権を奪い、再度その猫に近付いた。


「似てる・・・いや間違いない。金物屋のおっちゃんのやつだ!」


 正確にはおっちゃんの知り合いのお婆さんだったか? いずれにせよ、毛並みの模様とレインボーの首輪が一致している。貴重な個人依頼の子だ。中型機のに方は“AS”の子に専念させるため写真データをインプットしてなかったから見落とすとこだったぜ。今夜全機にインプットしておくか。


 このままドローンでこの子を捉え続け、GPSを頼りに移動。完全に隣駅の領域だが、この場所から電車移動だと“コ”の字移動になるからこのままチャリにしよう。

 チャリ漕ぎながら、タブレット画像も見てドローン脳内操作で猫に密着取材。ながら運転してんの警察に見られたら怒られるやつだな。是非とも来ないでくれ。私はいま地域の人に貢献してるんだからねっ!



 職質されることもなく、無事にその子のもとに到着。


「屋根の上かぁ」


 しゃーない、ロボットアームにスーパーマタタビを持たせるか。


「にゃお~~ん」


 無事、確保。


「どれどれ・・・」


 改めて写真と照合して確認。間違いないな。


「あ、もしもし、おっちゃん? 猫、見つかったよ?」


【ホントか!? ありがとう鏡子ちゃん! 今どこにいる!?】


「あー・・・どこだろ。南窓咲の駅までなら行くけど?」


【よっしゃ! じゃあそれで頼む!】


 駅に到着すると、既におっちゃんがいた。


「ホントありがとう鏡子ちゃん! 今の注文のやつタダにしとくからさ。大変なんだろ? 放送入ってたけど」


「そうなのよ。色々と舞い込んできちゃってね」


「んじゃ邪魔する訳にもいかないからこれで。ほらっ、差し入れだ!」


 パシッ。


 私が好んで飲んでいるスポーツドリンク、“マリネリアス”だ。


「サンキュ。んじゃね」


「おうよ」


 駅を後にした。しかし、移動が結構あったことでもう4時半を過ぎてしまった。まだそこそこ明るいけど、雲もあるしオレンジも目立ってきた。ひと駅分チャリで戻ることも考えて集合かけるか。


「一旦集合しましょ。5時に学校で」



 で、学校に到着。本日の成果だが・・・、


「あたしは午後1匹だけ。みんなドローンに持ってかれちゃう」


「厳木さんのドローンだかんね。あたしもあの2匹で最後~」


 田邊さんからは、3時前の<1匹確保!>の後にも、<2匹同時発見!>の連絡もリアルタイムで入っていた。


「私も何気に金物屋のおっちゃんの分の1匹だけね」


「俺はカケルくんのやつの他は、午後だけに絞ると6匹だな」


「んでドローン部隊が17匹だから、午前の分も合わせると・・・」


 ひぃ、ふぅ、みぃ、


「56匹ね。だから残りは45匹」


「お、半分いった!」


「でも100逃げたうちの50を捕まえるのと、残り50のうちの50を捕まえるのとでは訳が違うからね」


「だよねえ・・・」


「ドローンたちも暗いと識別できないし、充電もしなきゃいけないから夜は無理ね。あとは各自好きなようにやって、暗くなったらぼちぼち帰る感じにしましょ」


「だね。ココちゃん見つかんなかったな~。明日はもっと早くからやろうよ。おひさまの目覚めは早いんだからさ」


「そうね。んじゃ7時集合で」


「普段の学校より早いけど、しょうがないわね。頑張ってみんな見つけてあげましょ」


「あいさ~」


 という訳で、解散。まだ明るさはあるから2人がどうするかは知らないが、私は帰って明日への仕込みをするとしよう。今日まま続けてても間に合わない。


「俺はもう少しウロついてから帰ることにしよう」


「そ。じゃあよろしく」


 ワトソンとも別れ、家路に着く。



 しかし、その途中、


「あ、キンダイチくん」


 キンダイチくんが3人の警察官に囲まれている場面に遭遇した。職質か? あれ、マジで3人で囲んだりすることあるらしいからな。おっかないったらありゃしない。


「それで、君、女の子に声を掛けてる姿が度々目撃されていたそうですが」


「違います! 僕はただ猫を探していて・・・!」


 あー・・・。猫探しを人づてにやろうとして、女の子にも声掛けちゃったパターンか。このご時世でそれは得策じゃないねえ。


「猫探しというのは、防災無線で入っていたものですか。あれは確か厳木さんがやっているもののはずですが」


「僕は僕で独自にやっているんです! 一般的に考えて小学生ぐらいの女の子は猫を興味を示すので、見かけたら覚えている可能性が高いので、それで・・・!」


 それで女の子ばかりに声を掛けてたところを通報されたのか。確かにそりゃ事案だわ。これだから高校生探偵は。


「それも一理ありますが、猫探しの放送が入ったことを利用したのではありませんか?」


「ち、違います! 本当に猫探しに協力していたんです!」


 尚もお巡りさんの追及は続く。大変そうだねえ。


「あ、厳木さん!」


 やべ、見つかった。お巡りさんたちの顔もこちらに向く。


「厳木鏡子さんですね。丁度良かった。この男性が小学生以下の女の子にばかり声を掛けていたと知らせを受けて事情を聞いていて、猫探しの一環だというのですが、ご学友の方でしょうか」


 キンダイチくんは“厳木さん”としか言わなかったが、悲しいことに私の顔と名前は窓咲署のみなさまにも知られている。


「確かに同じ学校の同級生ですが、こんな変態な奴だとは初めて知りました。 じゃ、弁解頑張って」


 助ける義理などない。


「厳木さ・・・厳木さーーーーん!!」


 こっちだって時間が惜しいからね。



 という訳で無事に帰宅。


 さぁ~てまずドローン増産しますかね。“AS”用の中型機にも個人依頼の分の写真や匂いをインプットさせよう。数も欲しいから比較的手短に作れるコバエ型も増産だ。個人依頼の分は、確実に明日までに終わらせたい。特に親父の分は、この週末で見つけるのが報酬12万5千円の条件だ。親父経由の依頼に匂いサンプルがないのが痛すぎる・・・。とか思ってたら、


「はぁ!? 荻窪に住んでるぅ!?」


 親父は親父で猫探しをしていたらしく(12万5千円が嫌なのだろう)、帰ってくるなり聞いてみればそういうことだった。荻窪というのは、窓咲市を縦断する架空都市線の北端・三鷹駅からJRに乗り換えて東京駅方面に7~8分程度の所にある。


「当然だろう、会社は新宿なんだから。窓咲に住んでるとも言ってないはずだ」


 そりゃそうだが、言えよ。確認しなかった私も悪いが。

 こりゃ明日、私だけでも荻窪行った方がいいな。コバエ型も荻窪用だけに10台作ろう。なんせ、12万が懸かっている。ちなみに新宿は荻窪から更に電車で10分程度先の所だ。行かないけど。


 夕食はこれから作るらしいが、待つのも作業中断して一旦戻って来るのも面倒だな。カップ麺のお湯を沸かしつつ冷凍庫から出した肉を焼いて、食って、ラボへ。完徹は避けられないが明日の準備を進めよう。いつの間にかワトソンが帰って来ており、あれから1匹見つけたようで残り44匹となった。猫探しデスマーチは、まだまだ続く。

次回:つかめ! 12万5千円!

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