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第14話:あぁ泥試合、窓咲高校 対 裏連学園(前編)

 ぞろぞろと、裏連学園の野球部員たちがやって来る。試合会場は交互にやってるようで、今年はウチら窓咲高校がホームになっている。


「いや~今年もこの時期が来たな~。いい気分で5月を迎えられるぜ~」


「な。俺ら何があっても1回も勝てずに1年を終えることないからな」


「やっぱ勝つって大事なんだよな勝つって。それだけで気分違うもん」


「負け慣れてると負けることも気になんないんじゃね?」


「でも勝利の味を知らないって可哀そ~」


「それ言えてる」


「「「だっはははは!」」」


 随分な言われようですねえ。それを聞いた窓咲高校野球部の面々は、


「あいつら・・・今に見てろよ」


「黙らせてやろうぜ。調子乗ってもらった方が、どん底に落とすの楽しいだろ?」


 といったご様子だ。お前ら、人の作った道具でやるんだからな? それ忘れんなよ? まあ、でも、あの裏連学園の連中が吠え面かく姿を見るのは楽しみだ。


「じゃあ厳木さん、お願いシャス」


「頑張るわよ、キャプテンさん」


 ウォームアップの後、両者整列。


「なあ、10点差なったからコールドにしねぇか?」


「・・・・・・」


「んなことしたら3回で終わっちまうだろうが」


「・・・・・・」


「ていうか1回の表さえ終わんないんじゃね?」


「・・・・・・」


 よく吠える奴らだ。なお、先攻は向こうである。


「てか女子もいんのか。いくら何でもチャラけ過ぎだろ。何のために野球やってんだお前ら?」


 後ろ髪は帽子に閉じ込めて胸も全力で潰したのだが、耳の前に出てる赤毛で分かったか。だが1週間前に偵察に来た奴ってことは江畑や安井も含めて気付いてなさそうだ。


「橋本、静かにしろ。相手校に失礼だぞ」


「へ~~い」


 毎年恒例の交流試合ということで、お互いの顧問も来ている。


「これより、裏連学園 対 窓咲高校、春の交流試合を行う! 礼!」


「「「「「お願いしゃーーす!!」」」」」


 一旦ベンチに戻り、まずは守備。私はセンターだ。


「プレイボール!」


 まず第1球、ピッチャー振りかぶって、投げた!


 カキーン。


 サードゴロ。


「オッケオッケー! 転がしときゃオッケーよ!」


「しかもサードなら完璧よぉ!」


 それは今までのコイツらならな。


 ぱしっ、しゅっ、ぱしっ。


「アウッ!」


 フッフッフッフ・・・あのグローブならば、ボテボテのゴロ程度なら幼稚園児だろうが後逸はしない。そして、投げた瞬間に軌道が逸れてたとしても少しずつ修正されていくので不自然な動きなくファーストのグローブに入る。つまり、今日の窓咲高校にエラーはない!


「マジかよ。いつもならサード前ヒットなのに」


「マグレマグレ! 狙いは悪くない! 気ぃ取り直していくぞ!」


 いや、どう考えてもボテボテのサードゴロだからね? ウチの弱さを前にコイツらまで感覚がおかしくなってやがる。油断こそが、最大の敵なのですよ。ザコ相手でも、警戒してないと足元をすくわれますよ?


 続いてのバッターは右打席。


「げっ!」


 カキーン。ファーストゴロ。


「マドコーにスライダー投げる奴なんていたのかよ!」


 つい最近できたのさ、指輪の力で。

 ちなみに、マドコーとは窓咲高校の略だ。


「しゃーない、しゃーない! 俺らに一泡ふかせたくて練習したんだろ!」


 その「しゃーない」の繰り返しが、破滅になるのさ。


「次あれだ、作戦F、作戦F!」


 作戦F? なんだそりゃ。

 次の打者が打席に立つ。ワンストライク。ツーストライク。打つ素振りさえない。そして、


「おらっ!」


 3球目はひどい大振り。


「ッタラァィイク!!」


 するとそのバッターは、走り出した。


「おいおい、キャッチャーちゃんと取ってんぞ」


「え? ・・・あ。マジか」


 そのバッターは振り向いて止まり、2~3秒固まった後、「おっかしいなー」と呟いてベンチに戻って行った。


「しゃーない、しゃーない。そのうちボロ出すって」


「あれぇ? 1回の表終わっちゃったよ? 裏連さ~ん?」


「あぁ~ん? 準備運動してやったんだよ! 次はねぇぞ!」


「チッ、くそが。マグレで三者凡退できたからってイキってんじゃねぇぞ」


 敵味方とも品のない連中だな。マンガじゃあるまいし。


「よっし、出だしは上々だ。先制するぞ!」


「「「ウォッス!!」」」


 まずは1番バッターが打席に向かう。守備とは違って、バットは軽くて太くなってる程度の細工しかないから、本人の技量によるところが多い。それでも、こっちでできることはあるけどね。


「鏡子なにしてんの?」


「ん? 私? これよ」


 私はベンチで、タブレットを取り出している。


「まさか・・・」


「敵のキャッチャーのサイン、見えてた方が良いいでしょ。ピッチャーの癖も中々の材料だったけど」


「それ、やっちゃダメなやつだからね」


「この世で一番やっちゃいけないことは、手段を選ぶことなのよ」


 と言う訳で、コバエ型ドローンをバッターボックスへ派遣。


「ストレートが来るわ。インコース低め」


 当然、ヘルメットの耳元にはスピーカーを仕込んである。


「うっわ・・・最低・・・」


「バッターには一切返事をしないように伝えてあるからバレないわ」


「いや、そこ関係ないからね?」


 カキーン。


「「「おぉーーっ!」」」


 ライト前ヒット。やるじゃん。打合せ通り、バットをこっち側ベンチに投げ捨てるのも守っている。近くに転がすとキャッチャーに細工がバレちゃうからね。


「うっしゃーー!」


 1塁に着き、ガッツポーズする1番打者。


「マグレマグレ、気にすんなー」


  “マグレ”も、頻発すれば実力のうちになるのさ。


「江畑―。初回はウォーミングアップのつもりでいいぞー」


 “ウォーミングアップ”で点を取られても、取り消せないからね。


 2番打者には、普通にバントをさせた。敵も余計なことはせずワンナウト2塁。


 次、3番、私。良い場面で回って来たよ? バットはもちろん、ひと回り太い透明エリアのある特製バット。


「鏡子、ほどほどにね」


「そこは“頑張って”って言うとこでしょ?」


 それでも私の親友か?


「あんたが頑張るとロクなことないから」


 さすがは私の親友だね。


 バッターボックスに到着。右打席の方が私の骨格に合うようだったので、こっちで練習もしてきた。


「女か・・・」


 それが1週間前にファミレスでランチした相手だとは気付いてない江畑。


【カーブが来るぞ。ド真ん中よりちょいインコース】


 私が打席に立つ時の伝達係は、部長の石田だ。鈴乃には「黙認はできるけどガッツリ共謀するのは無理」と断られた。


 ピッチャー江畑、振りかぶって、投げた!


 カーブで助かったよ。身体能力向上剤のお陰で向上した動体視力を前には、何のことはない。スピードが遅い方が、やりやすいこともあるし。


 ていっ。


 私は盛大にウィンクをした。すると、なんということでしょう。ほとんどカーブせずに棒球になりました。運動法則干渉銃付きコンタクトの大活躍~!


「!・・・」


 キャッチャーは、投げ損じぐらいにか思ってないだろう。ただ、その投げ損じを逃すような私ではない。


 カキーーン!


「「「おおぉ・・・っ!」」」


 ボールは空高く打ち上がった。さて、2塁ランナーに指示を出そう。


「柵越えはないわ! 戻るのも意識して、エラーに備えて走る準備もして!」


 私は当然走るしかない。


「いやこんなんでエラーするほど下手じゃねぇから。お前らと一緒にすんな」


「万が一ってことはあるでしょ?」


 その“万が一”を、100%にできるのがこの私だ。空高く打ち上がったボールの軌道を、100台のコバエ型ドローンで目立たないように修正。


「やべっ、逆光だ」


 レフト選手は、太陽と重なったボールを眩しそうに見つめる。もちろん、この程度で落としてくれるなんて甘い幻想は持ってない。だから、食らえ! サンシャインフラッシュ!


「うわっ!」


 ポテーン。


「「「おおぉーーっ!」」」

「「「おい!」」」


「チャンスよ! ホームまで走りなさい!」


「よっ、しゃーーーー!!」


 そして、先制のホームが踏まれた。


「「「ワーーーーッ!!」」」


 ベンチもめっちゃ湧いている。鈴乃は、呆れた様子で拍手をするだけ。こんな都合よくエラーが起きたってだけで分かったようだ。本人以外には誰にも分からないが、レフト選手は猛烈な眩しさに襲われたはずだ。だって私が仕組んだから。先制点、ごちそうさま♪


 私は2塁でストップ。


「悪ぃ、しくじっちまった」


「ドンマイ、ドンマイ。逆光はあるあるだから」


「それに1点なんてすぐに返せるしな」


 次、4番、石田。まだワンナウトだから、もう1点欲しいところ。だが、


「やべっ」


 カキーン。


 セカンドゴロ。これじゃ動けねー。ツーアウトかあ。しょうがない、もう人肌脱いどくか。


 次の打者への1球目がチェンジアップだと分かったので、投げた瞬間に3塁にダッシュ!


「サード!」


 そうはさせないよん。


 キャッチャーからボールがサードに投げられ、ボールがもうすぐ届くというところで、食らえ! ステルスホーネット!


「いてっ!」


 サード選手は、ふくらはぎを抑えてしゃがみ込んだ。


「「「わああぁっ」」」


 当然その間に、ボールは後方へ。


「ラッキラッキ~」


 難なく私は、2点目のホームを踏んだ。


「イェ~~イ」


 ピースを作ってベンチに戻るが、みんな“何が起きたんだ?”という様子だった。


「鏡子、今度は何したの」


「なんにも~~? 蜂にでも刺されたんじゃないの?」


「あんたね・・・」


 エラーを起こしたサード選手に、他の選手が集まる。


「すまねぇ! なんかいきなりチクッとして」


「マジかよ。大丈夫か?」


「ああ。何ともねぇみたいだ」


「なら良かった。2点ぐらいサービスよサービス」


 もちろん外傷が出るような真似はしていない。ただその時の一瞬、チクッとするだけだ。


「何はともあれ、これで2点先制よ。この調子で行きましょ」


「「「ウォッス!!」」」


 今のは盗塁だったのでバッターは継続で、結局普通に倒れたのでこのままスリーアウトチェンジになった。さて、9回までもつかねえ。



 0対2でリードして、2回表に突入。


「ハンデはこれくらいにして、キバって行くぞー!」


「「「オゥ!!」」」


 向こうも気合いを入れてくるようだ。だが、心の奥底にある“マドコーはザコ”に打ち勝つことができるかな?


 敵の4番は、ピッチャー江畑。


(スライダーも投げるのか。気を付けないとな)


 初球、スライダー、見送り。

 2球目、スライダー、見送り。

 3球目、ストレート、ボール。

 4球目、ストレート、カキーーン!


「「「うぉえーーーい!」」」


 やば、ホームランじゃん。


「いや、どっちだ!?」


 でもファールになるかどうかの瀬戸際。しかもシュート回転があって外側に向かっている。ならば、そのまま逸れろ。


「「「ああぁ~・・・」」」


 ふぅ。ギリ、ファールゾーンに向かって行った。放っておけばホームランだったが、上空で風でも吹いたんじゃないですかねえ?


 次、5球目。


【ストレート狙われてるわ。スライダーをストラークゾーンに入れなさい】


 ピッチャーにも、帽子に忍ばせたスピーカーから指示できるようにしている。1週間そこらの練習でノーコンは直ってないが、キャッチャーミットが吸い取ってくれるので問題ない。


 スライダーを引っ掛けてセカンドゴロ。江畑、アウト。


「くそっ」


 悔しそうに、バットで地面を叩く江畑。申し訳ないね、こっちもビジネスなんだよ。


 続く、5番・6番打者も打ち取り、スリーアウトチェンジ。


「おいおい、なんでマドコーから点どころかヒットも打てねぇんだよ!」


「慌てんなって、まだ序盤だろ」


 “まだ序盤”が、手を抜く理由になるのかい?


「チッ、くそ。あいつらエラーしなくなってやがる。弱いマドコーはどこ行ったんだよ」


 まだここにいるよ? みんな私の道具を使って誤魔化してるだけだから。



 が、こっちの攻撃陣も冴えず、3回裏まで点数が動くことなく終わった。

 4回表はヒットさえ打たれたものの、2度目の江畑との対決もスライダー攻めで打ち取り無得点に抑え、4回裏。私からのスタートだ。ランナーなしかぁ、どうすっかな。


(またこの女か・・・明らか他のザコより厄介だから気を付けないとな)


【ストレート、内角高めの釣り球だ】


 スルーしてボール。


【今度は低め。また外してくるぞ】


 ツーボール。


【アウトロー。入れて来るぞ】


 だがコントロールが外れたのか、スリーボール。あちゃー、いいとこに投げてくんないな~。カーブも来ないし。フォアボールなってもいいやって感じなのかも。


【また低めだ】


 結局、フォアボール。まあいいや、ノーアウトでランナーが出た。続く石田がバントを選び、ワンナウト2塁。さすがに同じ手は2度使えないからな~。だから5番の奴、転がせ。


 カキーン。


 ナ~イス。明らかにボテボテのファーストゴロだが、


「いぃっ!?」


 イレギュラーバウンドでファーストの横を抜けた! ワンナウトのまま、1・3塁。こっちのホームグラウンドで私がいるんだから、イレギュラーの1つや2つぐらい起こるよね~。


 続く6番打者は、


 カキーン。


 サードゴロ。走りづれぇ! あんま頻繁にイレギュラーは起こせない。ここは、秘儀・天の声!


【ゲッツーいけるぞ!!】


「おっしゃ!」


 私が仕組んだ指示にサードが応答。私はホームへと走った。


「待て待て、ファースト間に合わないって!」


「え?」


 だが、時すでに遅し。サードの手からボールは離れていた。ドーピングと靴底の効果もあり、ファーストは間に合い3点目。ゴチです♪


「何やってんだよ! 満塁なっていいから3塁止めとけよ!」


「最初にお前らがゲッツーいけるって言ったんだろ!」


「はぁ!? 言ってねぇし!」


 おやおや、揉め始めてしまいましたねえ。ま、ウチがザコとは言えあんな見下すようなイヤミ言う奴なんてこんなもんでしょ。こっちも人のこと言えないぐらいにコスいことしてるけどね。


 次は7番打者だが、ツーアウト1塁だし、今回はもういいや。イカサマのカードが減っていく。


 カキーン。


 お?


 普通にレフト前に運んだ。ツーアウトながらも1・2塁。


「おいおいマジかよマジかよ・・・!」


 試合前に余裕ヅラしてた奴らが焦る姿見るのは楽しいな。これだからマッドサイエンティストはやめられないぜ!


 続く8番バッターには、ストライク、ボール、ボール、ファール、ボールでフルカウント。


「最悪は満塁狙いでもいいぞー!」


「それはこっちのセリフだー! マドコーなんて満塁でも怖くねーぞー!」


 続く、6球目。バッターの拳に力が入る! ピッチャー振りかぶって、


「あ、UFO!」


「え?」


 投げた!


 パシッ。


「スリーアウッ、チェンジ!」


 いやいやいやいや、何だよ今の。投げる直前にバッターがなんか斜め上を見上げたぞ。なんでアイツいきなりピッチャーから目を逸らしたんだよ。


「ちょっと待て! 今キャッチャーが何か言って準備できてなかったんだ!」


「いいや。インプレーだった。ストライク、三振、チェンジだ」


「いやいや、絶対コイツ何か言ったって!」


「は? 気のせいだろ。ピッチャーがモーション始めたのに集中切らした方が悪い」


 審判は両校から半分ずつ出しているが、うちのホームグラウンドになってるから主審は相手校だ。


「何があったか知らないけど、審判がアウトって言ったものは覆らないわ。さっさと切り替えて守備に行くわよ」


「ちっきしょ・・・」


 話を聞いてみると、ピッチャーが投げる直前に、キャッチャーが「あ、UFO!」とか言ったらしい。


「随分と古典的な真似をしてくれるのね。しかも堂々と」


「くっそマジむかつくぜアイツら」


 いや、私らも中々にコスいことしてるからね? それに、あんなのは引っ掛かる方が悪い。


「このまますんなり勝つのもつまんないと思ってたとこだし、ちょうどいいじゃない。返り討ちにするわよ」


「「「ウォッス!!」」」


 さぁ気を取り直して守備だ。マッドサイエンティストたるこの私と同じフィールドで戦おうだなんて、良い度胸じゃないの。


次回:あぁ泥試合、窓咲高校 対 裏連学園(後編)

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