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第13話:敵情視察

 電車に乗り込み、裏連雀 (うられんじゃく)駅に到着。

 JRの三鷹駅と登戸駅を結ぶ架空都市線の、三鷹の南隣で、野球部の宿敵・裏連学園の最寄り駅だ。


「敵情視察って、どうするのよ」


「相手の実力チェックよ。どこまですれば確実に勝てるか知るためのね」


「どこまでするつもりなのよ・・・」


「確実に勝てるところまで、よ」


「こっちの選手にも何かするつもりじゃないでしょうね」


「しないわよ。あくまでウチの選手にだけよ、私が手を加えるのは」


「既にドーピングに反則グローブやってること、忘れないでよ」


「それは野球部員に言って。私は彼らの“勝ちたい”に、私のやり方で応えようとしてるだけだから。それを彼らも承諾した」


「全く・・・てか、ここの野球部結構上手いじゃん」


 裏連学園の練習風景は、ザ・野球部そのものだった。万年2回戦落ちという話だが、中々にサマになっている。というかウチがひどすぎた。


「あ」


「おーい、何やってんだーー」


 私たちに気付いた部員が凡ミス。見ず知らずの女子に気を奪われたらしい。制服じゃないから、自分たちの学校の子だと思ったのかも。


「おい、あの2人誰だ?」


「さあ。お目当てでもいるんじゃないのか?」


 ”お目当て”はあんたたち全員さ。それと、気がそぞろになっておりますよ、皆さん。万年2回戦落ちというだけあって、付け入る隙はありそうね。


「特に要注意選手もいなさそうね。これなら何とかなりそ」


「え、何とかなるの・・・?」


「するのよ。この私が」


 だいたい30分ぐらい練習を眺めた。普通にやればウチが勝てるはずないぐらいの開きはあるが、この程度の差は埋められる。しっかし、ピッチャーの球種が分からないのがネックだな。もうちょっと探りを入れてみるか。


「鈴乃、もうちょっと付き合って」



 土曜日の練習は午前中だけで終わることは通りすがりの裏連の生徒に聞いた。滅多に来ない裏連雀でカフェ巡りをした後でまた学園に戻り、野球部の解散を待つ。


「すみませーん」


「あ、君は、さっきの」


「あの、ピッチャーの方って、いらっしゃいますかぁ?」


「え? ああ、・・・江畑―! お客さんだぞー! フーーッ♪」


「俺?」


「はーーーい!」


 我ながら吐き気がしそうだぜ。江畑が近づいて来たところで、鈴乃にも“あんたもやれ”という視線を送る。そして、


「「いっしょにランチでもいかがですかー?」」



 という訳で、ファミリーレストラン“ジャスト”。江畑が「もう1人一緒でもいいなら」ということで、安井という野球部員も一緒だ。


「私たち、さすらいのスポーツリポーターなんですぅ。と言っても、単に他校の運動部員とお喋りして終わるだけで、ただのナンパみないなもんですけどね~。メモも取んないし」


 人間には、脳ミソというメモ帳があるからね。


「それで、今日はウチの野球部に?」


「はい~♪」


 やっべ、マジ気持ちわる。

 私は媚を売るような真似が嫌いなのだ。「欲しいものなんて男に買ってもらえばいいジャン」とかいうのを聞くと反吐が出る。

 八方美人のニコニコに鼻の下を伸ばすオッサンも十分に気持ち悪いが、彼らは媚を売られてることを理解している。「ニコニコしてれば何とかなるって思ってるでしょ?」とか言われて後でグチる女子もいるが、その場で言い返せない時点で負けなのだ。


 だが、これが通じるという事実を前には、私も時としてその手段を使うことをためらわない。目的のためならば。

 通じないなら通じないで、コバエ型ドローンを送り込んで偵察するとか、やり方はいくらでもある。だがやはり、直接話ができるのが一番なのでこれを採用。


「野球と言えばやっぱりピッチャーだと思いましてぇ~」


 私は、球を投げる仕草をしながら話す。隣にいる鈴乃も、シラケた顔1つせず、今の状況に乗ってくれている。さすが私の助手だ。


 と言う訳で直接聞いてみましょう。私にはストレートしかないのだ。


「江畑さんは、どんな球種が投げられるんですか?」


「基本はストレートだが、後はカーブに、チェンジアップだな」


「なるほど~。フォークとかはないんですか?」


「はっはは。さすがにそんなんはウチみたいな弱小校にはいないよ」


「そっかぁ、難しそうですもんね~」


 ストレートがメインで、外すためのカーブとチェンジアップね。


「それって、キャッチャーのサインで決まったりするんですかぁ?」


「まあそうだな。俺が首横に振って結局こっちから指示することもあるけど」


「ふぅ~~ん」


 ま、そんなもんなんでしょ。


「でも江畑お前、あの癖直せよな。カーブの時だけ帽子のツバ触るの」


 ほぉ~う。そんな癖がおありで?


「あ、そうなんですか?」


「ばっかお前それ余所の子にいうなよ。意識してんだけど試合になると出ちまうんだよ」


「大丈夫っしょ。この子たち、単に他校の運動部員と喋って楽しんでるだけだし。それに、取材だったとしても秘密は守ってくれるでしょ」


「もちろんです♪」


 守る訳ないでしょバーーーカ。あんたらが毎年親善試合やってるザコ校に漏らしまーす。負けてせいぜい悔しがってね?



 その他、ワンナウト以下でランナーが出たらバントするようにしてるとか、江畑は打撃もそこそこで4番を務めてるとかの情報もいただいた。


 解散し、電車で窓咲駅方面へ戻る。


「マジでかなり偵察できたわね」


「余裕っしょこれくらい。興味があるとか言って質問攻めすれば、大抵は答えてくれるわよ」


 “興味がある”っていうのも嘘じゃないしね。ただし、野球にではなく敵の野球部の情報にだが。


「試合は5月の第1土曜日だから丁度あと1週間ね。あいつらやる気出して明日も練習するって言ってたし、道具も揃えますかね」



 翌日。


「グローブも10個こしらえたわ。これで試合に使う分には十分ね。あと、キャッチャーミット? も準備したわ」


 キャッチャーが使ってるグローブは普通のやつとは違うらしく、ミットと呼ばれている。2通りも作るの面倒でしたよ。


「それから、バットはこれよ」


 じゃーーん、と言わんばかりに私は自作バットを持って来た。


「超軽量、そして見た目よりひと回り有効範囲が広い。だから一部の打ち損じもクリーンに当たる」


 私は試しに、地面に置かれたボールをコツーンと叩いた。


「ホントだ・・・」

「すげぇ・・・」


 明らかにバットが当たる前に転がったボールに、一同が驚く。


「地面に置いたらちょっと浮いてるように見えるから気を付けて。打った後はベンチの方まで投げ飛ばすようにしなさい」


「お、押忍・・・」


「それじゃあ練習開始。今日は私もやんなきゃね」


 という訳で練習開始。吸引機能付きグローブのお陰でキャッチボールも形になったし、守備練習も恥ずかしくないレベルになってきた。あのグローブ使ってる時点で恥ずかしいと思えよ?



 翌日。月曜日の放課後。


「これがみんなに提供する最後の道具よ?」


 私が手に取ったのは、靴の底に敷いてあるシート的なやつ。


「見たまんまよ。これ靴ん中に入れてね。足速くなるから。身体能力向上剤に加えてこれがあったとしても、陸上部には勝てないぐらいだから安心して」


 1人2枚ずつ配布。


「それじゃあ後は、日に日に良くなる身体能力と私が作った道具に慣れていくことだけだから、練習あるのみよ。いいわね」


「「「ウォッス!!」」」


 そしてこの1週間、汗を流す日々を過ごした。プロは道具を選ばないって? ザコは道具がなきゃ勝てんのですよ。



 そして、5月2日の土曜日、裏連学園との交流試合の日を迎えた。


次回:あぁ泥試合、窓咲高校 対 裏連学園(前編)

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