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第12話:思い込んだら

 野球部の実力は、それはもう散々なものだった。

 紅白戦をさせた訳だが、ピッチャーはストレートとスローボールのみ、ただしスローボールは3割ぐらいしかストライクゾーンに入らない。キャッチャーの後逸は三振並みの頻度で起こる。野手のエラーも当たり前。エラーというよりは本人の実力だからもはやヒットと言える。

 攻撃面もひどくて、上記のゴミ守備力を前にして出塁の半分がエラーやフォアボールによるもの。ホームランどころか外野越えさえない。というか内野越えも珍しい。大半がゴロ玉が外野まで行っちゃったパターンだ。


 今日一番の当たりは、センター前への大きなフライ。ライトが無駄にやる気を出してセンターも声を出さないものだから、ぶつかったりしながらも何とかライト選手がキャッチ。センター前ライトフライになった。

 世の中、センター前キャッチャーゴロなるものも存在するらしいが、それがなかっただけでも良しとしよう。


「これ、勝てるの・・・?」


 鈴乃の疑問も真っ当である。マネージャーも、ホントすみませんといったご様子だ。


「これを勝たせるのが、マッドサイエンティストよ」


 部長の石田が諦めるのも無理はない。これは2週間オニの特訓をしなければ万年2回戦落ちにさえ勝てない。そして彼らにそれをするメンタルがあるとも思えない。というかこれ、サッカー部員集めてもコイツらに勝てるだろ。


「身体能力上げるだけじゃ無理なのは分かったわ。とにかく、守備面の強化で道具を作りましょうかね」



 翌日の放課後。


「はい、これ。身体能力向上剤ね。1人1日1錠、寝る前に飲むこと。噛み砕いてもいいわよ。ちなみにグレープフルーツ味ね」


 良薬は口に苦し? いいえ、マッドサイエンティストの作る薬は、とってもフルーティなのです。


「道具の方は、絶賛作製中だからちょっと待ってて。今日から私も野球の練習するから」


 まずはキャッチボール。パシッ。パシッ。という音が響くのだが・・・、


「うわ、すみません!」


 とにかくボールを取り損ねる。投げのコントロールも悪いので、ボールを拾いに行くシーンがかなり目立つ。野球部のキャッチボール風景じゃないだろこれ。私がトップクラスに上手い方って、どういうことなんだよ。これはいち早く、道具を作らねば。


 続いて、ノック。部長の石田自らがノックする訳だが、5回に1回は空振る。「どこに飛ばすか言わないからなー!」とか言ってランダムを装ってるが、どうせコントロールできないだけだ。「サード行くぞ!」とか言ってセカンドに行っちゃうのが目に見えてる。

 そして相変わらずの守備陣。初心者たる私が混ざっても大して変わらない。ピッチャーとキャッチャーは離れた位置で練習してるが、紅白戦と変わらずひどいものだ。


 次、打撃練習。ピッチャーがマウンドに立ち、それを打つ練習だ。だが、


「厳木はやんないのか?」


「後でバッティングセンター行くからいいわ」


 ストレートとスローボールだけのノーコンピッチャーで練習する意味がどこにある。これはもはや、バッターを置いてマウンドで投げさせる、ピッチャーのための練習と化している。

 しっかし、打撃も下手だから、これはこれで何か考えないとな。


 最後、また紅白戦をしようとしたのだが止めた。


「あんたたちはまず基礎練よ」


「いや、でも、試合の感覚をつかむにはこの方が・・・」


 もしかして毎日紅白戦やってたのか?


「そんなのは直前だけやればいいの。実戦練習じゃ基礎技術は上達しないわ。1つの要素技術にこだわって、それだけをひたすら練習する。上達にはそれしかないの。全部をいっぺんになんて無理なの」


 なんでこんなことまでコーチしなきゃいけないんだよ。私はスポーツマンでさえないんだが。


「鏡子、大変ね・・・」


 期間中、鈴乃もマネージャーに付いてくれるようだが、見てるだけでもこのヤバさは分かるらしい。なぜ正式なマネージャーが2人もいるのか謎だ。言うほどのイケメンもいないのに。



 翌日。


「とりあえず1個だけ作ったわ。守備力向上グローブ。まず実演してみるから見てて。 鈴乃、お願い」


「私?」


「これ使って。ボール打ち上げ器。ボール入れるだけでフライ上げてくれるから」


 本当は投げるなりバットで打つなりでも良いのだが、野球部員の実力のショボさを前に急きょ打ち上げ器も作った。


 スイッチを入れると、ブオォーーーーという音が鳴り始める。


「ここに入れればいいのね」


「そ」


 ドンブリをひっくり返したような器にボールが入り、最終的にはポーーンと打ち上げられる。


「んじゃ、このグローブの使い方だけど」


 ボールの落下地点から微妙に逸れた位置でグローブをした手を上に向ける。


「親指の辺りにスイッチがあるから、それを押しなさい」


 すると、このままでは私の2メートル横に落ちるはずだったボールが、吸い込まれるようにグローブに収まった。実際に吸い込んでいる。


「「「おおぉ・・・!」」」


 反応は上々だ。お前ら、これ、本来は自力でやんなきゃいけないんだからな。


「これでフライのボールを落とすようなことはないでしょ。ただしボールの近くまではちゃんと自分で行くこと。変にボールが曲がったら怪しまれるわよ」


 という訳で、今日はまだ1個しかないが、使わせてみた。


「すげぇ! マジすげぇ! 厳木、マジ神!」


「おいおい、俺にも使わせろよ!」


 お前ら、ほんとに野球部員なのかよ。まあ、お陰で私のありがたみを理解してもらえたようで良かったけど。自分よりレベルの低い人間がいるからこそ、自分は必要とされる。


 ノック練習の方も、ノーコンの部長に代わりボール打ち上げ器を使うことで格段に質が向上した。もちろん私の作った装置だから、ゴロだって出せるし、スピードや向きも自由自在。守備練習にはもってこいのはずだ。



 翌日。今日は土曜日だが、朝9時から野球部の練習だ。


「はい、これ。とりあえずグローブ3つ。それから、打ち上げ器をもう1つと、バッティング練習用にもピッチングマシンを作ったわ」


 まさか練習環境から私が整えることになるとは思ってなかった。苦労させやがって。


「あと、ピッチャーにはこれ」


「ん?」


 とりあえず部長の石田に渡した。


「スライダー指輪よ。それを付けて投げれば、スライダーになる。ピッチャーは3人とも、これを使ってスライダーを投げれるようになること」


「おぉ・・・!」


 その気になればフォーク指輪もナックル指輪も作れるが、与えるのはやめておいた。弱小校がいきなりそこまで行ったら怪しまれる。後の公式戦では使わないだろうし。


「それじゃあ私と鈴乃は敵情視察に行って来るから、頑張って」


「「「ウォッス!!」」」


 なんか道具与えたらやる気も出てきたみたいだし、ここは一旦任せて裏連学園のスパイでもして来ますかね。


次回:敵情視察

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