第11話:野球部員のプライド
放課後、グラウンド。
「それで? 裏連との交流試合に勝ちたいのね?」
部員たちがグラウンド整備をする中、部長の石田と2人のマネージャー、私と鈴乃の5人で立ち話。
「ウス。奴らにバカにされるのはもう終わりにしたい。せめて今年だけでも、一矢報いたいんだ」
まあ、あんたは3年だから最後だしねえ。
「で、どこまで許せるの? 私を呼んだってことはグレーゾーンもオッケーってことよね?」
「あぁー・・・」
鈴乃が肩を落とす。いや、当然でしょ。反則しない範囲だと養成ギプスぐらいしか提供できないぞ。弱小校の連中が真面目にトレーニングするとも思えない。というか、そのつもりがあるなら、2週間あれば万年2回戦落ち相手ぐらい普通に勝てる。こいつらはもう、自分で頑張ることを諦めた。
まあ? それでも? 報酬さえもらえるなら私は協力するけど? 「楽して勝ちたい」に、ビジネスはある。
「で、どうするのよ。ハッキリ言うけど、反則級のことをしないなら勝てる気がしないから協力しない。難易度と労力が釣り合わないもの」
「あんた何堂々と反則宣言してんのよ」
石田の答えを聞く前に噛み付いてくる鈴乃。
「大丈夫よ。バレないようにするから。どうせただの親善試合でしょ?」
「それでも反則は反則でしょうが!」
「何言ってんのよ。バレなきゃ反則にならないのよ」
「うわ・・・」
これ、真理。大事。
2人のマネージャーも引き気味の表情だが、石田は「うーーん」と唸った後、
「この際、手段は問わねえ。“マッド才媛”の力、全力でお借りしやす!」
良いお返事をいただいた。
「あちゃー・・・」
鈴乃が頭を抱える。あんた部外者だろ。関係ないだろ。
「もし勝ったら、“すたみな花子”のディナーコース驕りね。私と鈴乃の分」
「え? 私はいいわよ」
「1人分じゃ安いから付き合って」
2人分でも十分安いんだけどね。でも? これを機に野球部から未来の常連が現れるかも知れないし? 先行投資とさせていただきましょう。ちなみに“すたみな花子”は、バイキングのチェーン店だ。
「ウス。大曲さんの分も大丈夫だ。勝って祝勝会にしよう!」
「まあ、どうせ鏡子が報酬もらう時にはついて行くからいいけど」
んじゃ決まりね。
「そういえば相談料もらってなかったけど・・・」
辺りを見回すとお茶キーパーが置いてあるのが見えた。
「あれ、試合の日まで私ももらうことにするわ。ドリンクバー代わりにする」
「ウス、問題ないッス」
という訳で、商談終了。
「みんな、集まってくれ」
石田が部員を招集。「げ、なんで厳木」「部長血迷ったか?」とか呟くのが聞こえてくる。お前ら、覚えてろよ。お前ら勝たせるために来てんだぞ。
1年生はまだ私のことを知らないようで、「あの人誰?」みたいな感じだ。可愛い可愛い。
「裏連との交流試合が迫ってるのはみんな知ってると思う。そこで、2年2組の厳木さんに協力してもらうことになった」
「どうも~」
私は笑顔を作って手をヒラヒラさせた。おいおい、皆なんでそんな辛気臭い顔してんだよ。この私が来たんだぞ? 喜べよ。
「隣にいるのはご友人の大曲さんだ」
「こんにちは」
「チャッス」
「チャッス」
「ちわっす」
なんで鈴乃には挨拶返すんだよ。
「まず厳木さんから話をもらいたいと思う。 厳木さん、お願いシャス」
「私が何考えるのか話すわね? まず、これから試合の日まで。私の作った薬を毎日飲んでもらうわ」
「えぇ・・・」
「大丈夫かよ・・・」
「安心して。実績のあるものだから。どんな薬かって言うと、筋力、持久力、動体視力、とにかく全ての身体能力が向上する。でも劇的に変わる訳じゃないわ。毎日飲むことでちょっとずつ上がっていく。人間離れするようなことにもならない。凡人がアスリートにちょっと近づく程度のものよ」
まあ、ドーピング検査があったら普通に引っ掛かるけどね。でも弱小校同士の親善試合ごときでそんなものないっしょ。
「それから試合では、グローブもバットも私が用意したものを使ってもらう。完成次第提供するわから、待ってて」
「なんだそれ」
「何仕込む気なんだよ・・・」
勝利のおまじないさ。
「あと、最後、私もフィールドに立つ」
「はぁ?」
おい何だよ石田。私じゃ不満ってのか?
「私にしか使いこなせないような道具もあるの。だから私を入れるのは必須よ。ある程度の練習はするようにするわ」
「そういうことなら、お願いシャス」
「そんな訳で、よろしくね♪」
とりあえず今日は練習風景でも見させてもらいますかね。こいつらの実力も知っておきたいし。
「いや、それ、アリなんすか?」
・・・あ?
「だって、薬とかドーピングみたいなもんだし、厳木が作った道具とか絶対反則でしょ」
なんだ? ロクに努力もしないクセして、いっちょ前にスポーツマンシップに則るのか?
「あんたたち、勝ちたくないの? 万年2回戦落ちの奴らにも9連敗してて、バカにされて、都大会とかで組み合わせ決まったら他校にさえ“よっしゃー、初戦あいつらだぜー、ラッキー”とか思われるのよ? ずっとそんなんでいいの? あんたたちプライドないの?」
「う・・・」
「プライドあるよね? 負けっぱなしは嫌だよね? だったら、手段なんて選んでる場合じゃないわ。私が勝たせてあげるって言ってんだから信じなさい」
あんたたちは自分の力じゃ勝てないんだから。
「分かったら返事。勝つわよ、この試合」
「「「ウォッス!!」」」
なんて元気のいい返事。こいつら、マジでプライドないんだな。
そんな訳で、私と野球部の、勝利への第一歩が始まった。
次回:思い込んだら




