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パラレルワールド証明します -99.9999……%の世界で振られたとしても-

 ある日、僕は考えた。


 ……僕という人間が、この世に産まれてくる確率について。


 僕という人間が産まれ、この世界を見て、感じている。……人間なんて僕以外にもたくさんいるし、僕の意識がここにあるのは当たり前だと思っていた。


 だけど果たして、それは当たり前なのだろうか。


 僕の意識は、ここに一つしかない。僕が死ねば、僕の意識は消える。地球が誕生し、生命が生まれ、人類に進化するという莫大な時間の中に、僕という人間はたった一人、たった一つの意識しかない。


 ……あまりにも、存在する確率が低すぎないだろうか。


 このとてつもなく長い歴史の中で、誰か一人でも愛する相手が変われば、恐らく僕は永遠に生まれない。……生命誕生の瞬間から考えれば、「僕」という人間にたどり着くまでにどれほどの選択肢があるのか、想像もつかない。


 だいたい、運良く僕の両親まで辿り着いても、卵子と精子の組み合わせは無数に存在する。「歳の違う双子」が未だに現れていない点からも、「僕」が「僕」として産まれる確率の低さが分かるだろう。


 そう考えると、宇宙が誕生し、その末に僕が産まれる確率なんて、高層ビルの屋上にいる人が、全フロアの床をトンネル効果ですり抜けて一階まで落下する確率より低いんじゃないのか?


 ……あり得ないだろ、「僕」という存在なんて。なのにどうして、僕はここにいるんだ? どう考えれば、僕の存在を無理なく説明できるんだ……?


 考えて考えて考えた末に、僕は気がついた。


 例えば、70億枚のクジがあり、その中の一枚が当たりだったとする。このクジを一人の人間が引き、それが当たりである可能性は極めて低い。


 ……だけど、70億枚のクジを70億人の人間が一斉に引けば、「誰か一人は」必ず当たるわけだ。それは必然であり、不思議な点など何もない。


 ……もしかして、この世もそんな仕組みになっているんじゃないのか?


 この世界が一つしか無かったら、僕の存在は限りなく不自然だ。だけど、「起こりうる全ての確率に対応する世界」が無数に存在していると考えれば、どうだろう。


 その場合、99.9999……%の世界に僕はいない。だけど、たった一つでも「僕のいる世界」があれば、言い換えれば、僕の生まれる確率が完全にゼロでなければ……。


 ……僕の意識は、「その世界」に宿ることが出来る。それは、奇跡でも偶然でもなく、必然。つまり、僕の存在を無理なく説明することができるのだ。というか、僕の意識がここにある以上、そうなっているとしか考えられない。


 でも、仮にそれが正しいとすると……。


 「僕が産まれた後」だって当然、無数の世界が存在するのだから、「僕がいるのに僕の意識はない」という世界の存在を許してしまう。……僕の知らない僕のいる世界だ。そしてそれは、僕だけじゃなくあらゆる人に当てはまる。


 ……その結果導かれるのは、「人によって見ている世界が違う」という、恐ろしい結論。僕が見ている世界は、僕しか見ていないのだ。


 ……つまり。今目の前にいる、僕が片思いしているこの子も、この子の意識がある世界ではきっと、僕のことなんて見ていない。僕の存在すら知らないかもしれない。


「あなたのことが好きです。付き合ってください」


 ……だからこそ僕は、大胆になれた。この世界を見ているのは僕だけなんだから、何も恥ずかしいことはない。それに、この告白が成功する確率が完全にゼロでなければ……


「……よろしく……お願いします」


 ……あとは、僕の意識がその世界を選んでくれればいいだけだ。たとえ、99.9999……%の世界で振られていたとしてもね。

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