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社交界デビュー

 その日の夜の事、彩夏は怒っていた。昼間に勝手に体に憑りついたことをだ。


 「おじいちゃん酷いよ。勝手に私の体に憑りついて、怖かったし!『~じゃよ』とか15歳の乙女に、なに言わせるのよ!恥ずかしかったんだから!」


 「お前の一大事じゃったが・・・勝手にと言われるとその通りじゃ。すまなかった。」


 「わっ・・・わかればいいのよ。これからは、ちゃんと言ってからにして!でも・・・あっありがとう。その・・・助けてくれて・・・」


 茂吉は、ニコッと笑った。「お前が無事ならそれでオッケーじゃ~しかし愉快じゃったのぉ。あやつのギャフン顔は。思い出しただけでこのまま成仏してしまいそうじゃ~。」

 

 またも、あの世ジョークか?これ返答しにくいんだよなぁそうだ話を変えようっと


 「佐伯さん、いい人だったね。」彩夏は、穏やかに言った。

 

 「ああ、それにしても立派な紳士になったもんじゃ。従業員の教育も行き届いておった。あやつやりおるわい。残念ながら、ばあさんは、おらなんだがな・・・」少し悲しそうな茂吉の声だった。


 「ほかに思いつくところはないの?」彩夏が元気に声を掛けた。


 「そうじゃな。あるにはあるんじゃが・・・遠いぞ。」茂吉も期待しませんと言う口調だった。


 「どこ?」彩夏は茂吉に付き合う気でいっぱいだった。


 「大阪なんじゃが・・・」茂吉も少し期待していいの?と言う口調になった。


 「お・お・さ・か?ここから電車で3時間以上かかるよ。日帰りじゃ行けないから夏休みまで待ってね。ビリヤードもいっぱいできるよね?」彩夏もビリヤードがやりたかった、そして上手くもなりたかった。


 「もちろんじゃ、そこに関西財界の社交界があってな。若い頃わしは、そこでコーチをしておった。その時に、ばあさんと知り合ったんじゃ。可憐な乙女じゃった。誰かさんとは、大違いじゃ。」憎たらしく意地悪そうに茂吉は言った。


 「うるさいなぁ~可憐でなくて悪かったわね!」少し凹んで彩夏は言い返した。

 

 「ちょうど彩夏くらいの年齢でな。父親に連れられて、よく社交界の撞球場に来ておった。それから数年後には、社交界の華と言われ、みんな彼女に夢中になりよった。ビリヤードの腕前もメキメキとあげ、社交界で相手になる者がいなくなってな。遂には国内に敵なし!とまで言われおったわ。そんな思い出の場所じゃよ。」


 「それは、おばあちゃんの魂がいる可能性があるね。おじいちゃん行ってみようよ。」


 「彩夏ありがとう。明日、わしの店に行ってくれ。そしてカウンターの底をのぞいてごらん。そこに、わしのへそくりが隠してあるから・・・」


 「どんだけへそくり隠してんだよ・・・」彩夏は、あきれ顔でつぶやいた。


 次の日、母に鍵を借りた彩夏は、言われた通りカウンターの底をのぞき込んだ。


 「暗くてよく見えないなぁ~ 携帯、携帯のライトでっと・・・おおおお~ 聖徳太子様が1・2・3・4・5枚!!テープで貼ってあるぅ。」


 幾日か過ぎ、ついに夏休みになった。そしていよいよ大阪に出発する日になった。両親には反対されるかと思ったが「かわいい子には旅をさせろって言うしね。」っと心配をのぞかせた顔で送り出してくれた。


 駅のホームで大阪行きの電車を待っていると、「こんにちは、お久しぶりです。」と声を掛けられた。


 佐伯さんの店で見た格好いい店員さんだった。「父の師匠のお孫さんだそうですね。」


 「えっ?すると・・・佐伯さんの息子さんってことですか?」


 「はい、佐伯勇人といいます。これから大阪までビリヤードのコーチに行くところなんです。」


 「奇遇ですねぇ~私も今から大阪へ行くんです。ご一緒していいですか?ちょっと心細かったんです。」


 「はい、こちらこそご一緒させてください。そうだ、お名前をお訊きしてもいいですか?」


 「はいもちろんです。白州彩夏と言います。彩夏でいいですよ。」


 「じや~僕のことも勇人と呼んでくださいね。」


 「ゆ・う・と・さんっとですか・・・えっと名前で呼ぶのは、少し照れます・・・佐伯さんでもいいですか?」


 「勇人って、呼び捨てでもいいですよ。」


 「そんな恐れ多いです・・・」


 「じゃ~勇人さんで頑張ってみます。」


 「はい お願いしますね。彩夏ちゃん。」


 電車の中で勇人は、いろんな話をしてくれたが、彩夏は、どうリアクションして、どう返答すればいいのか判らず、沈黙の時間ができることもあった。もっといろいろお話したいなぁ~っと思っているのに、何も言い出せずにいた。チラっと顔を見たら、目が合ってしまって、すかさず目を逸らせてしまった。唯一、即答できたのは、この前のチャラい男との勝負のことだった。


 「たまにくる迷惑な客に彩夏ちゃんが絡まれているのを見て驚いたよ。すぐに助けにいかなきゃっと思ったんだけど、父に止められたんだ。たぶん父は、彩夏ちゃんが店に入った時から茂吉先生の面影をみたのかもしれない。でもキュー先を相手に突き付けて『さぁ!さっさとキューを取れぃ、相手をしてやるわ!』と彩夏ちゃんが凄んだ姿は、忘れられないなぁ~痺れたよホント」


 「あれ・・・私じゃないんです。忘れてください・・・」顔から火が出そうだった。


しばらくして、大阪に到着した。


 「じゃ~僕はここで・・・えっと連絡先の交換してもいいですか?」顔を真っ赤にして恥ずかしそうに勇人が言った。

 

 「ちょっと待ってください。えっと私のラインのQRです。」あたふたして画面を見せた。


 「ありがとう。連絡するね。」と言って、小走りに去っていった。

 「さて、おじいちゃんここからどう行けばいいの?」っと彩夏は、心の中で話しかけた。


 「なぁ~に通いなれた道じゃ。っと言いたいが、ここは本当に大阪か?」


 「えっと何年前の記憶なのよ?」


 「はて?30年前だったか?いやもっと前だったか・・・」


 「こりゃ駄目だ。だいたいこの時代に、まだ社交界なんて残ってるの?ちょっと待ってスマホで調べてみるから。」


 「便利な世の中になったものじゃのぉ~そんなもので簡単に調べられるとはなぁ~」


 「あったあった。大阪には5つ社交界が残っている。その中でも撞球場がある社交界は、3つ。さらに1つは女人禁制のようだから・・・この2つの内のどちらかね。」


 「1つは、清交倶楽部って言う社交界で・・・あともう1つが」


 「おおっ そこじゃよ。清交倶楽部。懐かしい名前じゃ。」


 「うう~ん 名前を憶えているなら先に教えてよ。おじいちゃん。もう~・・・じゃ~そこを地図ソフトに地点登録して、ルート案内してっと・・・徒歩20分か。よし出発!」


 大きなホテルに着いた。このホテルの最上階が清交倶楽部みたいだけど・・・


 「おじいちゃん?見てる?聞こえてる?このホテルの最上階が清交倶楽部みたいだけど?」


 「ん~と?これはボケたかな?こんなとこじゃなかったと思うんじゃが・・・」


 「頼りないなぁ~ とにかく最上階に行ってみるね。」


 「チーン」とエレベーターが最上階に止まった。エレベーターが開くと、重々しい扉があり「一般社団法人 清交倶楽部」と書かれたプレートが掲げられていた。


 「この前の佐伯さんの店より、入りづらいよ・・・おじいちゃん」


 困り果てていると「チーン」と音がして、またエレベーターが開き、品の良いお爺さんが降りてこられた。


 「おろ?お嬢ちゃんどうしたんだい?ここに用事かい?一緒に入ろうか?」なんとも、たおやかな笑顔でドアを開けて招いてくれた。


 「菊爺じゃ!」心の中で茂吉が叫んだ。「まだ生きとったんか!もう100歳は超えているはずじゃが・・・杖もついとらんのか!」驚愕しているのが彩夏にも伝わった。


 「事務局さん、このお嬢ちゃんが、なにやら用事のようでな。話を聞いてやってくれんか?私は地下でピアノの練習でもしとるよ。」菊爺は、そう言うとドアを開けて出て行った。


 「すみません。白州彩夏と申します。以前、祖父白州茂吉がここのビリヤードのコーチをしていたと知り、見学に寄せていただきました。本来ならば事前に、ご連絡をして訪問させて頂くところでした。申し訳ございません。」


 「頭をお上げください白州様。私は、当倶楽部の事務局長の宮上と申します。まだこちらにお世話になって15年ほどでございまして、撞球部に内線にて確認させて頂きます。しばらくお待ちください。」


 ・・・しばらくして宮上が戻ってきた。「白州様、確認が取れました。地下の撞球場にご案内させて頂きます。」


 エレベーターで地下1階に下りると「清交倶楽部別館」と書かれたドアがあり、中に入ると、お酒が並んだBarカウンターで幾人かがお酒を飲み、菊爺がピアノを弾いていた。その前に「BILLIARD SALON」と書かれた部屋があった。宮上が、その扉を開けると中には、4台のビリヤード台が並べられていた。それらは、すべてキャロム台であった。


 菊爺は、ピアノを止め話しかけてきた。「これはこれは、またお会いしましたね。」


 「彩夏と申します。先ほどは、ありがとうございました。ピアノお上手なんですね。」軽く会釈した。


 「菊田です。」菊爺も軽く会釈をし、そして話を続けた「ピアノは、3歳からだから、もうかれこれ100年の付き合いじゃよ。もう身体の一部じゃな。お嬢ちゃんは、撞球部に用事だったんだね?」


 「はい、祖父が以前こちらでコーチをしていたそうで見学に来たんです。」


 「はて?おじいさんのお名前は?」


 「白州茂吉と申します。」


 「なななんと、茂吉の孫か!!社交界の華であった『綾』様を奪っていった!!・・・遠い昔のことじゃが、きのうの事のことのようじゃ。そうかぁ恋敵の孫、そして初恋の人のお孫さんじゃったか。よう訪ねてきてくれました。」


 その時だった「あれ? 彩夏ちゃん?なんでここに?」撞球場の奥から勇人が近づいてきた。


 「あれ、勇人さん!大阪にコーチに行くと言ってたのは、ここにだったんですね。」 


 「勇人先生も彩夏ちゃんをご存知でしたか。運命の再会のようじゃ。ほぉほぉほぉっ」菊爺はからかうように笑った。


 「はい 父の師匠のお孫さんで、先日、父の店にも遊びに来てくれまして。」


 「そうか佐伯先生は白州くんの弟子だったのぉ~。白州くんと僕は同い年でな。とは言っても彼はコーチで、わし達の先生でもあったわけだが、彼とは、よく朝まで一緒に飲んだりしたわい。」菊爺は、遠くを見るように顔をあげ、宙をみた。


 「さて運命の再会の邪魔をして悪いが、彩夏ちゃんや、ちょっとわしの相手をしてくれんか?」


 「えっと、では教えて頂けますか?ルールもわからないんです。」


 「キャロムは、はじめてかね?」


 「はい、はじめてなんです。ポケットは、何度かやったことがあるんですが。」


 「では、まずルールの説明からじゃな。」

 

 


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