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冒険の予兆

 初作品初投稿になります。拙い文章ですが、ビリヤードの面白さが少しでも伝わればと思います。


 陽光が木々の隙間からキラキラと降り注いでいる。一陣の風が、その若葉を揺らしたかのように少女の自転車は、駆け抜けていき、そしてキキッと止まった。


 「お母さ~ん 遅くなったぁ~ごめ~ん」


 「彩夏また友達と話し込んでいたんでしょう?早く手伝ってね。」


 「ちがうよ~ホームルームで先生の話が長かったんだよ~誰も聴いてないっての。それより何すればいい?」


 今日は、母方の祖父母の家の整理の手伝いなのだ。祖父母は、自宅で小さなビリヤード屋を営んでいたのだが、12年前、私が3歳の時に祖父が他界し、その後、我が家で暮らしていた祖母も昨年眠るように、この世を去った。祖父の死とともに、空き家同然だったこの店も傷みがひどく近々取り壊すんだとか。


 「もう解体するからね。使えそうなものとか、思い出の品とか入口あたりにまとめておいて欲しいの」


 「わかった。でもお母さん大丈夫?気を付けてよ。床もギシギシいってるよ。屋根も落ちてこない?」


 母は、ビリヤード台の緑のラッシャに、そっと手を添えている。


 「お母さんここで育ったの。潰してしまうのね。なんだか寂しいわ・・・よくお父さんやお母さんとビリヤードをして遊んだのよ。」


 お母さん、本当に寂しそう・・・話を逸らせた方が元気になるかな~


 「私、この店に入るの始めて・・・あれ?この台、穴がないんだね。」

 

 「穴のあるのは、ポケットビリヤード。ないのはキャロムビリヤードと言うのよ。昔は、キャロムビリヤードが盛んだったの。」


 「へぇ~」


 「お母さん2階を見てくるから、あなたは1階をお願いね。」


 彩夏は、壁に立てかけてあるキューをとりだした。


 「ボールを置いて、えい!」ペシッ!なんか変な音がして、球が真っ直ぐ跳ばなかった。


 「うまく当たんないなぁ~ さてさてお仕事お仕事っと・・・」彩夏はキューを戻した。


 喫茶カウンターには、珈琲カップやら湯呑やらが整理されてあり、壁には数十本のキューやポスター、それに持点表と書かれ名札が掛けられていた。どこもみな埃まみれだ。


 「うわっ 埃っぽ~い。1階はお店だから、何もないなぁ~はやく終わらしてお風呂はいりた~い。ん?これなんだろう?」


 ビリヤード台の下から長いケースが出てきた。


 「彩夏お宝発見!パカッと開けてみますか~・・・うわ~きれい!!」


 そこには漆黒に輝く琥珀が象嵌された美しいキューが入ってあった。


 「あっ それお父さんのキューよ。」


 2階からたくさんのアルバムを持って母が降りてきた。


 「おじいちゃんのキューなんだ。綺麗だね。私これ貰っていい?」

 

 「あなたビリヤードなんてしないでしょう?」

 

 「お母さんは、できるんでしょ?教えてよ。」


 「そうね。今度パパとみんなでいこうか。」


 「うん!じゃ~このキューもらうね。」


「おじいちゃんが大事にしていたキューだから、大切にするのよ。」


 「うん」彩夏はキューケースをキュッと抱きしめた。

 

 「そうそう1階の壁には確か・・・あったあった。」


 1枚のフォトフレームを母が手に取った。キューを襷にもった袴姿の女性が椅子に腰かけているセピア色の写真だった。


 「これ、亡くなったおばあさんの若い頃の写真よ。」


 「ええ~うそ~超美人じゃん。お母さん遺伝子受け継いでないの?」


 「失礼な娘ねぇ~パパはママかわいいよって言ってくれてますぅ~」


 「はいはいご馳走様です。」


 「1階には、そのキュー以外なにも無かったの?」


 母は、まだ1階をうろうろと探している。


 「ぐへへへっ 金目のものでもありますか?隠し財宝とか?」


 「なに変な声だして、おバカなこと言ってんの?でも確か、お母さんのキューもあったはずなんだけど・・・」


 「お母さんのキュー?」


 「あっ おばあさんのキューね。写真に写ってるキューよ。白黒写真だから色は、判んないでしょうけど。ベルギー王室から下賜された立派なものだったのよ。」


 「ベルギー王室?なんで王室から?」


 「ベルギーで開かれた世界大会で優勝して貰ったって言ってたわ。」


 「おばあちゃん凄かったんだぁ~」


 「変ねぇ~見当たらないわ・・・泥棒でも入ったのかしら?今日は、もういいわ。スーパーに寄ってこれから夕食の仕度よ。」


 「主婦ってたいへ~んですねぇ~。」


 「なに言ってんの?あなたも来るのよ。」


 「うへっ はやく帰って、シャワー浴びたいのにぃ~」


 「今日は、あなたの好きなハンバーグでもしようかなって思ってたんだけどなぁ。手伝ってくれたし」


 「やったぁ!!はやく買い出しいこ!」


 そしてその夜の夢のことだった。


 「水紀や水紀・・・お前に頼みがあるんじや」


 遺影でしか見た記憶がない祖父が話しかけていた・・・


 「私、彩夏・・・水紀って誰??」


 「おお~すまんすまん。年寄りは物忘れが激しくての」


 「水紀って誰って訊いたんだけど・・・」


 「水紀・・・水紀・・・う~ん思い出せんのぉ~」


 なにやらバツ悪そうに焦る祖父が話を戻した。


 「お前に頼みがあるんじゃ。」


 「なによ突然。なにして欲しいの?」


 「わしゃ 寂しくてな。ずっと10年以上待っとったんじゃ。待てども待てども、ばあさんがな、まだあの世に来んのじゃ。」


 「でも、おばあちゃん、去年亡くなったよ。」


 「なんと!!では成仏できとらんのか。むむむ それは一大事じゃ 明日わしの店に連れて行ってくれんか。」


 「いいけど、おじいさん。お店にあったキューで眠ってたんじゃないの?だからそのキューを持って帰った私の夢に出てきてるんじゃないの?」


 「んにゃ~あの世にいたよ。ばあさんがどうしとるか気になって、毎年お盆には、この世に戻ってきてたんじゃ。でもおまえが、わしのキューを持って帰ってくれたから、こうして話ができるのかもしれんな。もう夜も遅い乙女は、寝る時間じゃ。おやすみ玲子」


 「おい!私は彩夏だって、それに寝なさいって、これって夢の中でしょ?」


 「わしは、そのキューに宿るでな。頼んだよ」



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