しのぶ者 彼女の独白
所詮女は子を孕む以外に用を求められてはいない。それをひしひしと感じるようになってきたのは、いつ頃からだろうか。
他の女衆と違って、自分には女の武器を使えるようにはなれなかった。どうしても気味の悪い虫が這いずり回っているような感じがしてしまい、ついつい振り払ってしまうのだ。下手をすればそのまま殺してしまったことさえある。あの頃は何度折檻されたか覚えていないが、ついには教え側も匙を投げる様な始末だった。
それはたとえ、相手が彼でも同じだった。
ああ、自分は生物としての機能を持って生まれることすらもできなかったのだと、その時に強く感じてしまった。だから、この里で生きていくには、男衆と同じように手に武器を持つほかなかった。用済みだと捨てられないように。たとえ一番危険の多い立ち位置であろうと。自分が生きるためだけに他人の命を奪うことを決めるしかなかった。
いや、もしかしたら、命を育む性なのにも関わらず、むやみに命を奪わなくてはならない今世の運命を、本能的に拒絶していたのかもしれない。もはやどちらが先かもわからない。
「なんだっけ。鶏が先か、卵が先か?」
それでもどうしても自分が死ぬという手段は自分には選べなかったのだから、あさましいなと嗤ってしまう。
何故自分は生きているのか。好いた人と子を成すことはおろか、添い遂げることすら叶わない生だというのに。しがみつくようにして生きている。
ぼうっと自分の内側でぶつぶつと言っていたら、相棒が濡れた鼻を腰にこすりつけてきた。視線を向ければ、仔に乳を飲ませながらこちらを見つめてきている。心配するような、そんな瞳は幼いころに両親だった人たちから向けられた以来だ。
「お前が心配することじゃあないよ」
わしゃわしゃと頭を撫でてやる。
こんな変なことを考えてしまったのは、彼女が仔を産んだからか。皆大きくなりそうな、むちむちとした身体を押し合いへし合いしながら、乳を飲んでいる。この中から大人になれるのは果たしてどれだけいるのだろうか。大人になれたとしても、仕事で命を落とすのはそう珍しいことではない。せめて、少しでも長生きできるようにと、自分が訓練をするしかないのだ。
「私の相棒のとこに生まれちまったばっかりにねぇ」
目を細めて相棒の仔らを眺めれば、彼女はそんな情けは無用、とばかりに鼻を鳴らした。自分と何度も死地を乗り越えてきた彼女だ。自分の仔もそう簡単には死なないと言っているのかもしれない。
「お前たちと会えたのは幸運だったのかもしれないね」
少なくとも、野垂れ死ぬわけにはいかない理由の一つにはなっているのだ。何としてでも生きて帰らねば、彼女の行く末を見届けられぬし、その仔たちの面倒を見ることもかなわない。他の相棒たちも、自分が死んでしまえば死ぬ運命が待っているのがほとんどなのだ。
「大丈夫だよ。お前たちを残して死にやしないさ。私が生きる理由なのだから」
わしゃわしゃと彼女の頭をなでる。里の人間たちに求められていなくとも、彼女たちがいる。そうだ、それでいいのだ。人が生きる理由など、ましてや闇に生きる人間などに生きる理由に大それたものなど必要ない。ただ、生を受けたから、それにしがみついているだけでいいのだ。