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夫婦喧嘩で最強モード  作者: 長谷川凸蔵
第1章・帝都編
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深度

 酔っぱらった男に、リックが尋問をする。


 眠らせる魔術と違い、相手の戦闘能力や判断力をある程度削ぎつつも、会話が可能なのがこの魔術を使用した理由だった。


「他の『同志』とやらはあそこ?」


 リックは建物を指差して尋ねた。


「うるひゃい、わらしは、仲間のころなんてしゃべらないぞ」


 起き上がろうとするが上手くいかず、フラフラと膝を付き、倒れ込むのを手で支えながら御者は「認知」を開始する。リックの狙い通り、ぶれっぶれでまともに戦うことはできなそうだ、これなら「解析」の「深度」も対したこと無いだろうから反論も容易にできるだろうが……


 リックは近付いて、御者の顎を蹴りあげる。


 御者は衝撃で認知を強制的に解除される。どんな強力な術者であっても痛みの中で集中して認知や解析を継続するのは困難だ。

 

「目の前で強力な魔法を使われそうになったら、取り合えずぶん殴ればいいんだよ。口で負けるなら手を出せってのは暴力的だけど、魔術師同士なら有効だよ」


 リックが男に警告を含んだアドバイスをするが、男は既に気を失っていた。


 母はぶん殴ると不機嫌になりそうなので、いつもなんとか反論したが、この男に対しては取り合えず容赦は必要ないように思えた。


「あー、リッくん! 暴力反対!」


 カスガが叫ぶが、無視する。


「喋る気が無いなら、それでも良いけどさぁ……」


 面倒なことになっちゃったな、とリックは状況を整理する。


 恐らくあの建物には仲間がいて、この状況を見ている者もいるだろう。すぐに他の仲間に声をかけ、加勢に来るに違いない。


 今馬車に乗って、本来の馬車に合流するために戻っても、相手が例えば馬に騎乗して追いかけて来た場合、馬車だと追い付かれる。


 リックもカスガも騎乗はできるが馬車に繋がれてる馬を馬車から外すのは少し時間がかかるし、何より鞍を装備してない。騎乗という選択肢はない。


 追い付かれれば高い確率で戦闘となるだろう。今はうまく行ったが、相手は田舎者のテロリストとは言え戦闘のプロだし、相手の人数を含め不確定な要素が多すぎる。


 リックは考えをまとめた。戦闘は恐らく避けられない、なら先手だ。先程御者の男にしたのと、同じように。幸い屋敷まではかなりの距離はある。


「あの屋敷全体に魔術をかけてしまおう」


「え? リックんあんなところまで認知届くの?」


「まあ何とかね」


 本当は余裕だが、一応謙遜してリックは認知範囲を屋敷の方向へ拡大する。屋敷全体がリックの認知範囲内に入る。


 範囲内の人間のうち、約七人が反論の為に認知開始したことがリックに伝わってくる。

 

 反論は許さない。幸いリックまで認知範囲を拡大できる人間はいないようだ。邪魔が入る心配がないので「解析深度」を深める。


 解析における「深度」とは、どれだけより深く「世界」を解析し、解析のレベルを高めることができるかだ。


 術が強力になればなるほど、より「深度」が求められる。そして反論には、術を行使するのと同等の「深度」が必要となる。

 

 先程のドランク程度であれば、行使にも反論にもそれほど世界への理解度を深める必要はない。


 深度をより深めるには、解析の速度、精度、試行回数が重要となる。リックは自分のイメージする深度まで理解を深める為に3回ほど解析を行う。


 現象を発現できると確信できる深度まで理解が深まったので、呪文を唱える。


 呪文が完成した。それによりリックが世界に命じて事象を引き起こす。


「コラップス」


 屋敷がズン、という音と共に揺れたあとゆっくり崩壊が始まる。柱が折れ、硝子が割れる音がする。


 コラップスは、物を破壊する呪文だ。本来は相手の武器や鎧を砕き、戦闘を優位に運ぶための呪文だ。生命体は破壊の対象にならないので、グロい死体が転がるような事にはならない。


 今回リックは破壊の対象を屋敷全体とした。


 敵(もうこの状況だと敵と呼んで良いだろう)が、崩壊する建物の下敷きになれば、命を奪わなくても時間が稼げるという計算だ。運が悪ければ、勿論、死ぬだろうが。


「ちょ、ちょっとお、もう暴力とかそう言うレベルじゃないけど反対!」


 カスガが叫ぶが、リックは崩壊する建物から目を離さない。気になることがあった。


 リックの計算とは違い、二人ほど崩壊する屋敷からこちらへ向かって来た。


 一人は老人で、もう一人は五十代ほどの品の良さそうな男だ。


 老人は魔術師だろう。リックは、この老人のいる部屋の周囲のみ反論され、崩壊を食い止められた気配を感じていた。屋敷全体の崩壊は止められなかったようだが、それなりの力量のようだ。


 もう一人の品の良さそうな男は剣士のようだ。反論の気配は先程の老人の周囲にしか感じなかったので、恐らく魔力による「防御障壁」によって、建物の崩壊そのものから身を守ったのだろう。


「カスガ、馬車で待ってて」


 力量のある相手なら、追われることを考えれば放置していく訳にはいかない。


 リックは二人の到着を待った。


 二人が目の前まで来て、まず老人が口を開く。


「若造、貴様恐ろしいやつじゃのう。あんな短時間であの範囲をあの深さまで解析するとはのう。しかしだからこそ、かなりの魔力が消費されたじゃろう、もしかしたもうスッカラカンかの?」


 そういってリックの反応を見ながらカマをかけてくる。


「そちらの対応次第では、試してみることになりそうだね」


「いやいや、ワシでは敵わんよ、周囲に絞ってようやっとあの深さまで解析した程度のワシではの」


 そう言ってニヤリと笑う。謙遜しつつ自分にはまだまだ余力があると見せたいのか、それとも本音なのか、リックが図りかねていると。


「ブラース老、変な駆け引きはよそう。調査書にあった同行予定者のリック君だね? 私はデューラン。部下が集めた情報を元に、本作戦を計画し、部下に実行させたのは私だ。こちらはブラース老。旧カラカリ王国筆頭宮廷魔術師だった方だ」


 二人とも、名前は聞いたことがあった。それなりの有名人だ。


 リックは有名人に会うの初めてだなーなどと場違いな事を考えたあと、そんなことなかったわと否定した。両親は有名人だ。悪名ではあるが。


「しかし予想通り高い能力のようだが、我が軍に入りたくないからって屋敷を崩壊させることも無いだろう、後始末が大変だ」


 嘆息しながらデューランがやれやれといった感じて話す。


 あれ? なんか勘違いしてる?


 リックは状況をうまく解析できなかった。


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