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夫婦喧嘩で最強モード  作者: 長谷川凸蔵
第1章・帝都編
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すれ違い

 リックとカスガがカラカリ街道で馬車に揺られている頃、思いもよらないすれ違いが始まっていた。


 村に一台の馬車が到着し、村長の家で挨拶をしている。


「遅くなって申し訳ありません、帝国第三騎士団、ハナムと申します。護衛としてお嬢様をお迎えに上がりました」


 それはカスガとリックが馬車に乗って出発してからおよそ5時間後、皮肉にもクッションを搭載した豪奢な馬車が村長の家にやって来た。


 御者の青年は実直そうに見えたし、とても村長をからかうためわざわざ馬車を用意して来たようには見えなかった。


 何よりも皇帝の印が押された命令書を携えていた。


「娘なら……既に迎えの馬車に乗って帝都に向かいましたが」


 とは言えそれ以外に村長が言うことはない。


「わかりました、どの様な馬車だったでしょうか」


 意外にも青年はそう短く答え、馬車の詳細を聞くと慌ただしく出発した。青年は今の状況を正確に把握し、自分のやるべきことを判断した。


 今の状況とは、自分の任務が達成できない恐れがあるということだ。

 

 青年に落ち度はない。だが結果として皇帝の命令を実行出来ないかもしれない。それは青年にとって、汚点となる。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 カラカリ街道を進むリック達だったが、予定の無い支道に入った時、リックは御者に声をかけた。


「わざわざ六番街道に向かうのですか? 二日ほど遠回りになると思いますが」


 リックの質問に


「……先程交代した馬だが、どうやら足を痛めている。三番街道にはしばらく馬屋がないので、支道で交代させて戻る」


 御者の男は用件だけを簡潔に答えてくる。


「……そうですか」


 リックから見て馬が特に足を痛めているようには見えなかったが、あくまで相手は馬に関してはプロだろう、気が付かない変化があるのかもしれない。


 またリックは旅立ち前に、同行者として最低限の下調べしておいたので、ある程度地図は把握してるが、さすがに全ての馬屋の場所を覚えてはいない。


 それから一時間ほど、どんどん寂れていく景色を見ながら、リックは再度尋ねた。


「もう馬屋は近いんですか? そろそろ馬を交代させて、街道に戻らないと日がくれる前に宿場町に到着できないと思うのですが」


 御者はそれに答えず、暫く馬車を進めたあと、街道脇にポツンと建つ不自然に大きな屋敷の前に馬車を停めて言った。


「私はカラカリ自由軍の者だ。カスガさん、貴女に協力してほしい」


 リックは男の名乗った組織の情報を思い出す。


 カラカリ自由軍は、帝国に反旗を翻すテロリストだ。


 三十二年前にカラカリ王国が帝国によって滅亡した時、近衛を務めていたデュラーン卿によって設立された。


 その活動は帝国の統治に対して、抵抗する組織だ。


 旧カラカリの独立と治安維持を標榜し、実際街道に表れる盗賊などを撃退することもあるので、この地方の民衆からは一定の支持を集めている。


「協力ってなんですか? 怪我人の治療くらいしかできませんけど」


 カスガがそう言って協力の内容を聞くと、男が答えてきたのは簡単に言えばスパイ活動だった。


 男が言うにはこの地域の情報はある程度集まるのだが、帝都には組織のネットワークが無い。なので未来のエリートとなるカスガを中央の情報源として送り込みたいということのようだ。


「ひとつ聞きたいんですが」


 男とカスガの話にリックが割り込む。


「何だ?」


「どうしてわざわざ僕を拾ったんですか? 適当な理由をつけてカスガだけここに連れてきて説得すれば良かったのでは」


「カスガさんがどうしても我々の協力を拒む場合、それなりの手段で協力せざるを得ない状況を作る必要がある」


「なるほど」


 人質ということか、リックは納得した。


「わかりました、協力します、じゃあそういうことで帝都に向かいましょうレッツゴー!」


 カスガは明るく宣言した。恐らくこの状態についてあまり深く考えていないのだろう。


 御者は呆気に取られたような顔をしたが、コホンと咳払いして


「どちらにせよ、リック君にはここで降りてもらう」


「え、リッくん居ないと入学の手続きできないですよ? 父の代理なんで」


「代わりの人間を用意している」


「そういえば帝国の本物のお迎えの人がいるんじゃ?」


「動きは補足している。間もなく同志が馬車の接収を完了させるだろう」


 田舎のテロリストにしてはそれなりに計画して動いてるんだな、恐らく学校から情報が色々漏れているんだろう、とリックは感心した。


 まぁこの男だけでは無いんだろう、あの建物なんて怪しさ大爆発だもんなあ、と建物を眺めた。


 建物から男に視線をもどし、不意を突くためにリックは唐突に『認知』を開始した。


男の顔色が変わる。




 魔術を行使するには、『認知』と『解析』が必要である。

 

 認知とは、自分の周囲の世界の在り方、状況を魔力によって確認することである。術を行使する範囲の設定、と言い替えても良い。


 この認知できる範囲は、術者の能力に比例する。


 先天的に竜神族やエルフはこの認知能力が高いとされ、強力な術者なら一度の魔術で城一つを対象にするほどの力があるという。


 人間の術者なら、家屋全体を認知できれば一流と言えるだろう。訓練によって認知範囲をある程度広げることは可能だが、才能によって限界があるのは否めない。


 ただし認知を試みる範囲に比例して、その次に行う解析時に消費される必要魔力も高まるので、魔術師は術を発現したい場所に認知を絞る。認知範囲が才能に依存するのに対して、認知範囲を絞るのは訓練が必要となる。


 ようは何か小さな的を水で濡らしたいと考えたときに、バケツで大量の水を消費してぶっかけるのか、水鉄砲で効率よく狙いを定めるのか、魔術師は選ぶことができるということだ。


 バケツで水をかけるのは簡単だが必要以上に水を使うし、水鉄砲で的を撃ち抜くのは水は少なくて済むがコツがいる。


 そしてこの世界に住む多くの生物は自分の認知範囲内で、他の魔術師の認知、及び解析の対象を魔力で感じることができる。それによって術者の特定も可能だ。


 認知が終われば認知した範囲の解析が始まる。当然ながら、認知範囲が広ければ広いほど、解析には時間がかかる。


 優れた魔術師ほど修練や過去の経験から解析を早めることが可能だが、世界が全く同じ状況ということはありえないので、解析そのものを省くことはできない。


 認知、解析が終わればいよいよ「呪文」という形で世界に自分の望む事象を引き起こすように命令する。


 リックやベルルスコニが使用する高密言語は、あくまで強力な命令を世界に与えるだけで、この認知、解析は他の魔術師同様に必須だ。


 そして魔術師は他の魔術師が世界に命令を出した時に、「反論」によって世界に命令を断るようにしたり、他の命令を出して打ち消すこともできる。つまり反論が成功すれば魔術は無効化される。

 

 術者が強力になればなるほど他の術者の反論を許さないし、逆に反論して他の魔術師の命令を打ち消すことも可能だ。

 

 術者の能力が同等なら、反論が優先される事がほとんどだ。反論の方が通常、命令よりも呪文が短い。


 分かりやすく言えば長々と命令してるときに「その命令ちょっとおかしくない?」と口を挟むといったニュアンスだ。勿論そこまで単純ではないが。


 同等の術者でも時間的な問題で反論が不完全な場合、現象は部分的に発現する。雨が突然振ったので傘で「反論」したが、傘をさすのが少し遅れてちょっと濡れてしまうといった具合だ。




 リックは御者に「認知」を絞り、「解析」した。


 御者は驚愕した。異常な早さと精度だ。御者も慌てて認知をするが反論の為の解析が間に合わない。


 リックはあえて高密言語を使用せず、通常の呪文を唱えた。高密言語は奥の手だ。母親とは違って簡単には使わない。


「ドランク」


 リックが世界に命令した。反論が無いので命令は実行され、事象が発現する。


 御者は突然大量のアルコールを摂取したかのように酔っぱらって倒れた。


 父が母親にお酒を禁止されたときに、酔っぱらいたいんじゃあと煩いので開発した魔法だ。



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