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夫婦喧嘩で最強モード  作者: 長谷川凸蔵
第2章・海岸編
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王との再会

 回帰主義者との戦闘から八日後、リック達一行はネリア王国の首都である『王都シンメリダース』へと辿り着いていた。


 懸念された道中の回帰主義者の襲撃もなく、旅は順調と言える行程だった。


 シンメリダースの街は、王城と同じく大陸でも最古の街のひとつではある。


 しかしネリア王国自体が大陸東部に覇を唱えたのがここ十年ほどと、ネリア王国の長い歴史から見れば最近の出来事の為、大陸東部を代表する街と呼ぶにはその規模はまだ少し物足りなさを感じるかも知れない。


 実際シンメリダースはネリア王国最大の都市ではない。


 都市の規模ではネリア王国と覇を競い、現在は王国の領地となった王国の西部サンカーイ地方にあった、旧トーミヨ公国の首都であったメウドの方が経済基盤、人口共に大きい。


 とは言えやはり勢力を拡大する王国の首都として様々な商会の進出、それに伴う施設の移転や建設が進んでいる。


 街の中心部は古都としての魅力、その周辺には新しい商業施設の集まりと、新旧の混在が楽しめる大陸でも人気の観光名所のひとつだ。


 もちろん田舎者のリックとカスガの二人にとっては充分に大きな街だった。


 王城に向かうには新旧市街を直進した方が早いということで、カルミックを御者にした一行の馬車は、現在新市街の商業施設の集まった場所を通っていた。


 道幅は馬車が三、四台程度は走れるほどの広さはあるが、それなりに歩いている人が多く、馬車もそのスピードは押さえてあるのでゆっくりと回りを見る余裕がある。


 長老とミーロード、と同乗者が増えて少し手狭になった荷台から、身を乗り出すようにしながら周囲を物珍しげに見ていたカスガが叫んだ。


「リッくんあれ見て! とっても当たる占いの館だって! 最高に胡散臭いね!」


『占い館 百発百中』という看板と、そこに書いてある宣伝文句を見ながらカスガが楽しそうな表情で叫ぶ。叫ばれた店主の苦い顔とは対称的に。


「そういうこと大声でいうのよしなって」


 少しニヤニヤしながらも、軽く嗜めるリックだったが。


「本当に百発百中なら、今日そう言われるのもわかってるはずだからへーきへーき」


「それもそうだ!」


 変な説得力を発揮するカスガの言葉に、変に納得しながらリックも楽しそうに街を観察する。


(浮かれてるわーこの二人……)


 御者台で呆れながらこっそり聞いてるカルミックだったが、二人の気持ちも少しわかる。


 レンガで統一されて落ち着いた雰囲気の帝都とは違い、この街は石造り、木造と様々な建物がある。


 雑多で、統一感とはかけ離れているが、何か引き付ける魅力を感じるのは、もしかしたらカスガが指摘したような多少の胡散臭ささえ、人の五感や好奇心を刺激する材料になるからかも知れない。


 そんな二人以上に長老は物珍しそうに街を見ていた。


「人間の街を見るのは三百年ぶりじゃが……色々と変化があるのぅ」


「長老様、失礼ですがおいくつなんですか?」


 ミルアージャが気になって聞いた。


「生まれて八百年は経っとると思うんじゃが、はっきりとは覚えておらん。百年ほど前から急に歳を取り始めたから、あと百年くらいしか生きられんと思うが……」


「そうですか……」


 百年という単位をまるで死にかけてるように言う長老に、サンカーイ訛りで「ジューブンヤロ!」と言いたそうなミルアージャだったが自重したようだ。


 喧騒を抜けて、街は落ち着いた雰囲気となった。人通りもそれほどなく、建物もやや暗い閃緑岩の石造りの建物が目立ち始める。


 王城と同じ色の建物が並ぶ地域をしばらく進むと、丘の上にある王城へとたどり着いた。


 ミーロードに指示された場所に馬車を止めると、城の中から使用人が現れ、馬車を専用の馬屋に連れていった。


 城の中へと案内され、応接室へと入った。全員が座ったのを確認してからミーロードは今後の話を始めた。


 ミルアージャ一行と王との会談の準備をするとの事だ。王には数日前に宿場町から早馬を飛ばして連絡済みとのことで、まもなく現れるだろうとの事だ。


 王との会談は、既にリックからネイトに事情を話して了承して貰っている。闘神の驚異は国を越えた共通の問題だからだ。


 長老に同行して闘神の様子を見に行くことも渋々了承してくれた。ミルアージャの事は心配だが、同じように長老のことも心配なのだろう。命に変えてもミルアージャを護れとは言われたが。


 ミーロードが話を続ける。


「君たちの行おうとしていることは素晴らしい事だと思うし、私としても尊重したい。ただ国境での行為は普通なら厳罰だ。これ以上国内で騒ぎを起こさないように気を付けて欲しい」


 ミーロードが話をしていると、コンコン、とノックの音が聞こえた。


「陛下がいらしたようだ。失礼の無いようにな」


 使用人が扉を開く前に、ミルアージャとカルミックが立ち上がる。それにならってリックとカスガも立ち上がる。長老は座ったままだった。


 王が入室してきた。


 ブラウンの髪で、少し皮肉げな目をしている。まだ若いからか威厳は感じないが、それでも王国最強の騎士でもある王からは威圧感のような物が感じられた。


 そんな王を見て……


(あれ? なんか……そんなわけ無いんだけど)


 リックが感じる違和感。答えはすぐに出た。王がリックを見て、指を差しながら大声で言った。


「やっぱりリックか! 銀髪の凄腕魔術師って聞いてお前だと思ったんだ! お前皇女の部下になったのか! 裏切り者め!」


「……エクス兄ちゃん?」


「そうだ! 三年前の約束忘れたのか!?」


「えっ?」


「お前、大人になったら俺の仕事手伝ってくれるって言ったじゃないか! ……あ! カスガも居る!」


 王がカスガをビシッと指差しながら言った。


「そりゃあいるよ、リッくんいるだから。てか本当に偉い人だったんだね」


「そうだ! 偉いんだ! 今さら俺をフッたのを後悔しても遅いぞ!」


「だってエクス(にい)リッくんに勝てたことなかったじゃん」


「ははははは! あの頃の俺とは違うぞ! しかしアールトの奴がなんかやる気だったから、あいつに捕まったリックの前に登場してからかってやろうと思ってたのにあてが外れたぞ!」


 突然の展開に、固まっていたミルアージャが口を開く。


「お知り合い……なのですか?」


 声を聞いて、それまでリックとカスガしか眼中になかったエクスが、ミルアージャを初めて視界に入れる。


 その後、ミーロードに向かって聞く。


「この、洒落にならんほどの美女は何者だ」


「帝国の皇女様です」


 会議で配られた資料などほとんど見てなかったエクスの問いかけに、ミーロードが答える。その発言を受けてミルアージャが挨拶をする。


「帝国皇帝ウルティン=ノーウェストの娘、ミルアージャ=ノーウェストです。この度は貴重な時間を我々との会談に割いて頂きありがとうございます」


「エクス=シンメリダース=ネリアールだ。武人ゆえ、丁寧な挨拶は苦手だがよろしく頼む。先程の問いに答えよう。以前このリックの父ザック殿に連れられて、リック達の住む村に一年ほど暮らしておったのだ」


「帝国内に……ですか?」


「うむ、我が国の恥になるが、跡目争いの関係でな」


 エクスが懐かしそうに語り始めた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ネリア王国は、古くから『調停者』をサポートする立場だった。


 四年前、帝国との戦争中に発生した闘神ロットマイルが、アルルマイカとの戦闘から離脱したのをザックが追撃し滅ぼした。


 その際、戦闘の疲れを癒すためにネリア王国に滞在したザックは、王から城にしばらく滞在して一人の青年を鍛えるように依頼された。


 それがエクスだった。


 十六歳の時点で師のミーロードを越え、王国最強の騎士となった第三王子。


 王は彼に跡目を継がせたい、と思った。彼自身が優れた騎士ということもあったし、二人の兄は帝国と対峙するには凡庸に思えた。


 二人の兄は、対外的に政治を行うには王としては凡庸だった。だが王宮内の権力争いには優れた才能を発揮した。


 派閥を率い、王になるためにお互いの共通の邪魔者であるエクスの暗殺を画策した。


 ザックは滞在して鍛えるのは断った。人に教えるのは苦手だし、それ以上に嫁に早く会いたいと言った。


 王はそれでもザックに根気強く依頼をした。王の粘り強く、しつこい懇願に折れたザックは一つの提案をした。


「うちの息子とやりあえば、少しは鍛えられるかもな。俺ほどじゃないがまあまあ強い、ライバルみたいなのがいれば、修行にも張りが出るんじゃないか」


 こうして城内での暗殺から身を守りつつ、自身をさらに鍛えるためにエクスはザックに同行した。行き先を知るのは当時のネリア王だけだった。


 エクスの話は村に着いてからの事へと続いた。

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