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夫婦喧嘩で最強モード  作者: 長谷川凸蔵
第1章・帝都編
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旅立ち

 奨学留学生は国の貴重な人的財産なので、その輸送には帝都から御者兼護衛付きの馬車が派遣される。


 但し奨学留学生が女性の場合、御者兼護衛との二人旅というのは「間違い」が起きる可能性を考慮して、同伴者が付くのが慣例だ。


 同伴者自体は特に人的財産ではないので、帰りは自力で帰還する必要がある。


 通常同伴者は身内、父親や兄弟が多いが、カスガの場合父親は同伴する時間的な余裕はなく、兄弟もいないので、例外的にリックが努めることとなった。


 同伴者を指名した場合保護者代理として、入学時の手続きを代行する。


 村長でもあるカスガの父親に挨拶に行ったときは、頼む、とだけ短く言われ路銀を渡された。往復分の路銀だったので片道分だけで良いと断ろうと思ったが、カスガに受け取っておきなよ! と言われたのでそのままにした。


 出発は、明日だ。


 勿論両親にも今回の事を伝える必要があった。


 無駄なこととそうじゃないことを分けるのは、コツがいるとリックは思う。


 例えば旅に出る理由があなたたちの尻拭いを含む、と両親に伝えるのは、無駄なことだ。反省も、感謝もしないからだ。


 だから簡潔に要点だけ伝えることを意識して、母親に話しかけた。


「カスガを帝都まで送り届けてくる。ゲートを設置してから出掛けるから片道分の時間、一週間で帰れると思う。

 いない間二人とも眠り続けてくれたら嬉しいけどたぶんさすがに目を覚まして活動をすると思うから喧嘩しないようにね」


「わかったわ、綺麗に見えても水はちゃんと浄化してから飲むのよ」


 極まれに、ベルルスコニは母親らしいことを言う。そして母親らしいことを言うときは腰に手を当ててエッヘン! って顔をする。


 ところで父さんは? と朝から見かけないのでどうしたのか母に聞いたら、旅に出掛けたらしい。そういえばザックはこの時期、ふらっと二週間ほど留守にする。


 喧嘩の心配がなくなったのでほっとした。


 リックは用件を母に伝え、旅に出る最終準備に取り掛かった。


 ゲートの設置を準備し、荷物を確認する。ゲートとは物質の瞬間移動を可能にする魔術技術だ。距離に関係なく移動が可能なので、非常に便利だ。


 しかし普通に利用するには現状だと欠点がある。


 まず膨大な魔術を組まなければならない。圧縮しなければ村全体を囲むほどの魔法陣を組まなければならないし、それは途方もない事業となる。個人でのゲートの設置は通常まず無理だと言われている。


 リックは高密言語を使用することでその欠点を克服し、直径1m程度の魔法陣にまで圧縮している。


 そして一方通行で、一度しか使えない。そのうえ情報の混乱を起こさない為に、一人一ヶ所にしか設置できない。これは高密言語を使用しても解決できない欠点だ。


 そして当たり前だが設置が必要と言うことは、設置してない場所には行けない。ゲートでカスガを帝都まで転送してミッションコンプリート! とはならない。


 リックは、学校からの帰りに使用する為に開発した。


 なので、登校時は約一時間ほどかけて村まで歩いた。


 つまり現状だと、家にさっと帰るくらいしか使い途はない。幸い設置は一時間かからないのでトータルでは有益だ。


 翌日カスガは帝都から迎えに来た馬車で村から、リックの家まで来ていた。あとはリックを乗せて出発するだけだ。


「リッくんー、よろしくねー、あ、ベルおば様リッくんお借りしまーす」


 カスガが家に入ってきて挨拶する。


 ボサボサの茶色がかった長い金髪を、後ろで適当にまとめている。少し垂れた優しさと意思の強さが同居したような湖のような青い目。


 髪をきちんととかせばそれらが華やいで調和するのを知っているが、リックはいちいち指摘しない。


 部屋で準備中のリックに、ダイニングに座ってお茶を飲みながら会話する二人の声が聞こえた。


「左フックを誉めてくれたからなの」


 どうやらリックが過去に何度も聞かされた、父との馴れ初めを話しているらしい。やめてほしかった。


 ベルルスコニに言われて、カスガは、はぁ、と答えていた。


 準備してあったゲートの設置も終わり、バタバタと出掛ける。


「お待たせしました」


 三十代半ばに見えるが、それは伸びたアゴ髭のせいかもしれない──御者に声をかける。御者はただ頷く。


 リックは寡黙な男が好きだ。無駄な話をする必要がない。


 馬車に乗り込み、ぶんぶんと手を振る母の姿と、家が遠くなったところでふっと気が付いた。


 初めての、旅だな。


 リックはそのまま、家と母を見続けた。

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