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夫婦喧嘩で最強モード  作者: 長谷川凸蔵
第2章・海岸編
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決意

 長老がしばらく出掛けると宣言してからすぐの事、リックは長老の家であてがわれた部屋に戻ると、胸元からこの旅で初めて『笛』を取り出した。


 リックは『笛』による意思伝達の限界距離というものは特に設定していないし、測ったこともない。離れてるから考えが伝わらない、ということは過去になかった。


 神学術が祈りにより『海』の『神』にまで自分の意思を伝えられる事を考えると、もしかして魔力による意思伝達は距離は問題にならないのかもしれない。勿論、伝える手法の精度次第だろうが。


 『笛』を吹く相手はネイトだ。エルフの里に行くと決まった時に、念のため用意しておいた。


 『笛』を渡した時はネイトも高密言語の紋様化については驚いたようだが、むやみに広げない方が良いと思うとリックが告げた考えには基本的に賛成とのことだ。


「兵士に装備させて使えれば、戦場での情報伝達に役に立つけどね」とやや物騒な事は言っていたが。


 距離は関係ないはずだが、万が一伝わらなかったら……到着した時点で試せば良かったかな、などと思いながらリックは『笛』を吹いた。


「ネイトおばあちゃん、聞こえる?」


 リックがネイトに『笛』で呼びかけた。


 反応がない。


 もしかしたら予想とは違い、距離は関係あるのかと少しリックが不安に思った頃に、ネイトから唐突に返事が来た。


「お待たせ、聞こえるわ。慣れてないから思わず振り向いちゃったわ。回りに人がいると使えないからちょっと不便ね」


 返信があったことにリックはほっと胸を撫で下ろしながら、確認する。


「今話せる?」


「今は席を外したから大丈夫よ。エルフの里には着いたの?」


「うん、もう到着して大分経つね、報告してなくてゴメン。書類のお陰で里での手続きはスムーズだったよ、ありがとう」


 リックは答えながら、『笛』の改善点を考える。


 相手が『笛』による会話が状況的に可能かどうかを判断するため、先ずはこれから『笛』を使用するということを簡易的に伝え、相手が了承するような仕組みがあれば便利だろう。


 とは言え今は考え事をしながら『笛』を吹くと余計な事が伝わり混乱させるだけなので、頭を切り替えてから『笛』を吹いてリックは本題に入る。


「それで……長老が里の外に行くことって、普段どのくらいある?長老の努めとか言ってたけど、やや慌ててるように見えるんだ」


 リックの疑問に、しばらく沈黙が続いた。とはいえ元々声がする訳ではないが。理由を考えているのだろう。


「う~ん、基本的にはないわね。少なくと私が里にいた間に外に出る事はほとんどなかったわ。出るとしたらよっぽどのトラブルだと思うけど、長老の努めってのにも心当たりがないわ。何か変わったことでもあった?」


 長老が出掛けると言い始めたのは、汚れた格好をしたエルフが何かを報告してからだ。それを思い出しながらリックが伝える。


「長旅から帰って来たような、ちょっと着てるものが汚れたエルフと話したら、突然出掛けるって言い始めたね」


「うーん、里のエルフは綺麗好きだから、里の外から来たんでしょうね。私のように外に出てるエルフの里帰りか、監視員だと思うわ」


「監視員?」


「なんか長老、各地に監視員を派遣してるのよ。異変が起きたら報せる役目をね」


 リックは思い当たる事があった。『笛』を口から一度外して考える。


(それだ!恐らく寒波に異変があったんだ、それを確認して……寒波が収まりそうな場合、自分で強力な術を仕掛ける気だ)


 長老が言っていた寒波の中央にいるという、封印された闘神。何かの理由で寒波が止まれば、闘神が動き出す。それを防ぎに行くつもりだろうとリックは考えた。


 リックに話さなかったのは、寒波とその理由についての話をしたため、変に心配をかけまいとしているのかもしれない。


 その事をネイトに伝えるべきかどうか少し迷って、やめた。


 今からネイトが里に来るにしても時間がかかるし、リックにせよ長老にせよ闘神と対峙するとなると余計な心配をかけるだけだ。


 もしかしたら一度闘神を倒したからといって、調子に乗るなくらいの事を言われるかもしれない。特に今はミルアージャもいるし、彼女を危険な目に遭わせるような事に賛成してもらえるとは思えない。


 リックが考え事をしていると、ネイトが思考を飛ばしてくる。感情は伝わらないが、やや怒ってるような印象を受ける。


「ところであなたたち、国境でトラブル起こしたでしょ?ネリアの奴等にグチグチ言われたんだけど。しかも相手に皇女一行だってバレてるわ。とぼけたけど」


「マズイかな?」


「ま、捕まらなきゃ平気よ、たぶん。でもこれ以上は控えてね、どうしようもない場合は仕方ないけど。この程度で宮廷魔術師が出てくるような事はないと思うけど、ミーロードはやり手だから、出会ったら逃げることを第一にね。ミルアージャの安全が第一よ」


「強いの?その人」


「魔術なら私、武術ならアルルマイカ、でも総合力ならもしかしたらミーロードかもね。ネリア王の武術の師匠で、魔術師とは思えない戦い方をするわ。まああなたほどじゃないと思うけど一種の天才よ。戦闘は避けるべきよ」


「うん、わかった」


「あ、あとそっちの様子がわからないから戦闘中だったり、何かの行動中だったりしたら邪魔になると思って、こっちからの連絡は極力控えてるの。もっとこまめに連絡ちょうだい。それか連絡可能な状況かどうか、簡易的にわかるものがあるといいわね」


 リックも最初のやり取りで思った内容に近い感想だ。このように道具の使用感に関しての意見を貰えるのは、貴重だ。


 本来ならミルアージャ辺りも気が付きそうな事だが、やはり人にアドハイスをするということに関しては、ネイトの方が得意なのだろう。いつも的確だ。


 この辺は経験だろうな、と思いつつリックもアトバイスをしようと思い『笛』を吹いた。


「わかった、あと最後に」


「なに?」


「長老、おばあちゃんに会いたがってたよ、すごく」


「……まぁ、あと100年経ったら行くかもね」


「素直になった方が、良いと思うよ、お互いさ」


「あら、生意気ね。エルフの意地っ張りの酷さをわかってないようだからもう少し勉強が必要ね……そろそろ行かないと」


「うん、わかった、またね」


 結局ネイトからのアトバイスで締め括られ、リックは苦笑いを浮かべた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 ネイトとの話を終えたリックは、長老の部屋へ向かった。


 部屋に入ると、長老の外出の準備は終わっていたようだ。旅なれていないためか、それともそれほど必要ないのか、荷物は少なかった。


 少しの着替えが入る程度の布製のリュックと、いつも肌身離さない杖といった出で立ちだった。普段被っていない尖った帽子を被っていたのは、少しエルフの長老っぽいなとはなぜか思ったが。


「監視員の報告を受けて、ベールアに行くんですね」


 リックは単刀直入に切り出した。その一言でリックの意志が伝わったのだろう、長老は短くため息をついてから言った。


「来るのか?」


「はい、仲間と相談しますが、もし反対されたら一人でも行きます」


 そう言いながらも恐らく仲間に反対はされないだろうとリックは考えていた。


「わかった、話して来るといい」


「はい」


 長老の返事は早かった。リックたちを巻き込みたくないという気持ちがあったのだろうが、知られればついてくると思っていたのだろう。もしかしたら闘神との戦いの経験を買われたのかもしれないが、今は理由は重要ではない。


 家を出て、庭で休んでる仲間の所へ向かう。三人は訓練後の恒例行事となった温泉への入浴を終えたところだった。


 カスガが椅子に座るミルアージャの髪をとかしながら、カルミックが魔術で温風を発生させて乾かしていた。


「リッくんもこれから入るの?」


 リックに気が付き、カスガが作業をしながら声をかけてくる。リックは首を振りながら返答した。


「いや、たぶんその時間はない。そのままでみんな聞いてほしい」


 リックは長老がベールアに向かうこと、それに同行するつもりなこと、その場合闘神との戦闘になる可能性があることなどを伝える。


「もちろん行くわ、その為にこれまで準備したのですから」


 ミルアージャが真っ先に返事をした。


 前回の戦いではカスガとミルアージャは正直なところ、足手まといだった──とミルアージャは感じている。


 リックからしてみれば、カスガが窮地にたったことによって『眼鏡』の使用を踏ん切ったし、そしてその窮地を救ったのがミルアージャだったのでそうは思わないのだが、それを説明しても納得しないだろう。


「私もいく、当然だけど」


 カスガもこちらを珍しく真剣に見てくる。前回のような何かあったらよろしく、といった甘さはそこにはない。


 カルミックは特に返事をせず、ただ静かにうなずいた。


 各々が静かに決意を固めているとき……


 一人のエルフが、リック達の所に走ってやって来た。見ると、里の入り口でリック達に対応してくれたエルフだ。用件を聞こうとそちらを向くと……


「ネリアの宮廷魔術師が、兵を連れて里の入り口に来た。君達の引き渡しを要求している」


 見張りのエルフが静かに告げた。

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