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夫婦喧嘩で最強モード  作者: 長谷川凸蔵
第1章・帝都編
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セルハン状態

 綺麗なものは、もしかしたら汚れる為に在るのかもしれない。

 

 四ヶ月ほどかけてやっと修復の完了した自室で一人、本来聞こえるはずのない声がリックの頭の中で響く。


 笛を渡した日の美しい思い出も、今頭の中で響く声によって汚されるような気持ちでリックは聞いていた。


「ひまーなのー。やることいっぱいあるけど、ひまーなのー」


 カスガが矛盾した内容を伝えてきていた。

 

「リッくんなんかさー、面白い話して」


 無茶ぶりするなぁ……と思いながらリックは話題を考えながら笛を吹いた。


「蟻って、なんで迷わず餌を巣に運べるか知ってる?」


 とっておきの豆知識を披露しようとするが


「蟻キライ、昨日私のおやつのクッキーにうじゃうじゃ(たか)ってたの。

 でもさ、あ、本当はね、プレーンのクッキーだったんだけど、もしかしたらヨーナがチョコクッキーに取り替えたのかもって考えて、食べようと思ったけどやっぱりプレーンのクッキーでチョコっぽいの蟻だったの」


 あっさり話を変えられたので、リックも話を変える。


「そっか、1つ聞いていい?」


「何?」


「留学の準備で忙しいんじゃないの?」


「やることいっぱい! でもやることいっぱいの時って、なんか他のことしたくならない?」


 リックは懲りずに、最近読んだ本に書いてあった豆知識を披露する。


「そういうの、セルフハンディキャッピングって言うらしいよ」


「何それ」


「やるべきことをやらないで、失敗したときの自己評価の低下を防ぐんだって。

 成功したら、やるべきことをやってないのに成功した私凄い! って自己評価をあげることもできて一石二鳥だね」


「へー! セルハンって便利なんだね! 流石リッくん!」


「いや、略されても……」


 少し思った感じとは違っていたが、それなりに豆知識は感心されたようだ。


(こんなカスガだけど、学校では優秀だからなぁ)


 帝国全土から毎年十二人しか選ばれない、奨学留学生に選ばれたと聞いたのはつい先日だ。


 村の学校もそうだが、帝国に存在する多くの学校は、教会に併設された施設で、一般的な読み書き、計算などの学問と同時に、魔術や神学術の適正を判定される。


 リックは、どちらも適正がないと判定された。


 そもそも週一回しか学校に来ないリックを、教師たちはまともに判定できなかった。


 リックは自分の両親のように恐れられないように、普段魔術の力をあまり人に見せない。


 その上、神学術は混血してない純粋な人間にしか適正がない。リックにはエルフと竜神族の血が少しだけ流れている。


 カスガは神学術において天才的とも言える適正を発揮した。


 教会の司祭たちは公には言わないが、神学術の適正には、実は信仰心の多寡は重要ではないことはカスガに聞いて知っていた。


 神学術は神と交信し、奇跡を起こすあくまで純粋な技術とのことだ。


「私、神様にお願いしたのにお母さんを助けてくれなかったわ、だから今度は自分の力で人を助けたいの」


 そう言ってカスガは神学術を人一倍勉強した。


 神学術にはケガや病を治癒する力があったし、そういった意味でカスガは神を利用しようと思ったのだ。


 カスガの留学に大きく貢献したのは、赤緑病(カスガの母親の命を奪った病だ)の治癒の開発だが、それ以外の病気や、骨折のような重症もあっさりと治せる。


 カスガはすでに村どころか、この辺りで一番の神学術の使い手だ。


 地域の医療に大きく貢献するカスガの留学は、村人に強い不安を与えた。


 だが留学が国の決定というだけでなく、カスガの強い希望でもあったので、村人たちは快く送り出すことにした。


 それまでの献身に、村人が感謝していたからだ。


 リックはカスガの留学事情を思い浮かべながら、さしあたって問題になりそうな点を聞くことにした。


「でもさ、村長忙しいんじゃないの? 帝都への道中大丈夫?」


「うーんそれなんだけどぉ」


 聞くと、村長は最近付近の村で起こってるテロ活動などの対応で、村を外せなくなったらしい。


 田舎ではあるが、テロに山賊や盗賊の襲来など、それなりに事件はある。


 「それで、隣村の親戚のガンドおじさんに頼もうと思ってるんだけど……」


 ああ、あいつか、とリックはガンドの顔を思い浮かべる。


 確か村長の従兄弟で、いい年して独身で、どこか嫌な目をしたやつ、というのがリックの印象だ。


 隣村とは毛皮の販売などでそれなりに交流があるが、鼻持ちならないやつだった。


 しかも親戚の、一回り以上違う年齢のカスガに執心してるとも聞く。


 あんなやつと一緒に行かせるなら……


「なら、僕が帝都に連れていこうか?」


 リックが提案する。


「え、悪いよぉ」


「いや、赤ん坊の頃は帝都にいたらしいんだけど、覚えてないし、行ってみたいしさ」


「でも……」


 カスガらしくない珍しい遠慮に、リックは言葉を続ける。


「ああうちの両親なら心配ない。結局僕が居るから甘えてる部分があるんだって、子離れさせないとね」


「そお? じゃあお願いしちゃおっかなぁ。

 ていうかついでにリッくんも大学通っちゃお?」


 今までも何度か提案されたことをカスガが再び提案してくる。


「僕は大学はいいや、狩人に大学はそれぼど必要ないし」


「もったいないよ! リッくんの魔術の実力なら絶対奨学留学のはずなのにー!」


「前も言ったように、そもそも出席日数もたりないしさ。それよりついでにお願いがあるんだけど……」

 

「なに?」


 直近の両親の破壊活動について、村長に取りなして貰う約束を取り付けて、帝都までの同行が決まった。

 

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