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夫婦喧嘩で最強モード  作者: 長谷川凸蔵
第2章・海岸編
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死ぬべきなの

 質のあまり良くなさそうな鎧を身につけて剣を持ち、これまた品のあまり良くなさそう二人の兵士に囲まれながら、リックは努めて冷静に話をしていた。


「こちらのお二人のご兄妹を、イルカザまでお連れする所です。お二人も滞在は初めての為、大変楽しみにしておられます」


 二人の兵士に、御者台から降りてリックが説明している。街道封鎖の建前は入国者の検閲の為、尤もらしい理由があれば本来通過は問題がない。


「ふ~ん、なるほど」


 ニヤニヤと、いやらしい笑みを浮かべながら兵士たちが応対する。


 一人の兵士はリックを値踏みするように、もう一人は御者台に座るカスガ、荷台兼座席に座るミルアージャ、カルミックを見張るように順番に見ている。視線を受け止めてもミルアージャもカルミックも気にすることなく馬車に座っている。


 周囲では、同じように検閲をする兵士、検閲を受ける通行人が溢れている。兵士が80人ほどで、検閲を受けているのがリック達を含め15人、4組ほどといったところか。


 情報を掴んでいなかった行商人なのだろう、兵士に対して「輸入禁止品はありません!」と必死に訴えているようだがまぁ無駄だろう。


「お二人はその……少しでも長く現地に滞在したいとのお考えで、その……勿論皆様が重大な任務を行っているのは重々承知しているのですが、あまりこの場に足を止めるのには抵抗があるご様子で」


 そう言ってリックは、懐からノース銀貨2枚を取り出す。


 ノース銀貨は帝国に流通する貨幣としては金貨に次ぐ価値を持つもので、金貨1枚で大体兵士の1年の棒給に匹敵する。銀貨なら、大体1ヶ月分といったところか。両替の手数料を考えても臨時収入としては破格だろう。


 それを証明するように、兵士も目の色を変える。


「このような申し出は、その……大変失礼だとは思うのですが、主人も任務に邁進する皆様に少しでも慰労の気持ちを表せれば、とのお考えで…」


 リックがあくまでも、低姿勢で話をする。


「ふむ、我々の任務にそこまで気を使って頂いて感謝する。そのような気持ちを持って頂いてる方々が怪しいとは思えませんな。申し出はありがたくお受けしよう」


 そう言って、リックに応対している兵士が銀貨を受け取る様子を見せる。


 そもそも街道でイチイチ通行人の身ぐるみを剥がしていれば、誰も通行しなくなる。ほどぼどが必要なのだ。少なくともこの部隊の考えはそうなのだろう、リックが安心していると……


「ちょっと待て、そこの女どこかで見たことあるな。馬車を降りなさい」


 その時、馬車を見ていた兵士が、声をあげる。


 ミルアージャの事がバレたのか? その焦りを表には出さず、リックが冷静にそちらを見ると、カスガを指名している。


「え、私ですか?」


 カスガが意外そうな顔をしながら馬車を降りる。兵士はニヤニヤと笑いながらカスガの肩を抱き


「うむ、手配書で見たような記憶があるな、ちょっとあちらの詰め所で検査させて貰おう」


 そう言ってリックをチラリと見る。ようは銀貨だけでは足りない、この女にサービスさせろという値段の釣り上げなのだろう。


「そんな、どのような手配書かわかりませんが、手配書に乗るような事をする娘ではありませんよ」


 リックが少し慌てたように見せつつも内心は冷静に対応していると


「なら良いのだが、表面に見えてる物だけでは判断できないほど、女ってのは怖いものだからな」


 そう言いながらいやらしい手付きでカスガの胸に手を伸ばす。


 次の瞬間、恐ろしいスピードの踏み込みからの一撃で、兵士の顔面をリックの拳が撃ち抜く。男は鼻から大量の出血をしながら3mほど吹っ飛ぶ。魔力で強化しない程度のギリギリの理性はあったのだろう、リックは拳を突きだした姿勢のまま


「あっ」


 と真顔で言った。


「きっ、貴様!」


 リックに応対していた兵士が叫び、剣を抜こうとする。剣を持った手をリックが振り向きざまに足の裏で踏みつけるように素早く蹴り、小枝を折るような「ぱき」っという音がなって兵士がうずくまる。


 騒ぎを聞き付けて、数人の兵士がこちらを見る。何人かはこちらに向かってくる。


 リックは認知範囲を拡大し、仲間を除く全ての人間を認知範囲に入れる。


 魔術を使える数人の兵士が反論の為、周囲に認知を展開し、リックに認知が届く3人ほどがリックへ認知を絞る。


 リックは強力な術を使うために解析の深度を下げていく。範囲が広いのでそれなりに時間がかかっていると、先に兵士3人がリックに対して睡眠魔法「シープ」を使用してきた。


 リックへの魔法はカスガ、ミルアージャ、そしてカルミックの3人が反論し、無効化される。その間にリックの解析が完了する。


 他の通行人もいるし、それを今対象外にする余裕はない。そのため戦闘力を奪いつつ、命の危険はなく、反論を許さない、その条件を満たした術を使用する。


 呪文が完成し、望んだ事象が発現するようリックが世界に命令する。


「コーマ」


 術が完成し、リック達4人を除いて全ての人間が倒れる。


 コーマは睡眠系上位の術で、昏睡を誘発する。睡眠と違い昏睡は、外部からの刺激に反応して目を覚ます事がない。


 昏睡の覚醒には神学術での奇跡が必要で、奇跡が受けられない場合死ぬまで目を覚まさない。


 それを知っているからだろう、胸を触って来ようとした男の顔面を、「この! この!」とカスガが蹴っていた。


「あの、それ以上やると、死んじゃうんで……」


 恐る恐るリックが声をかけると、カスガがくるっと振り向いた。張り付いたような不気味な笑顔を浮かべながら、静かに告げる。


「あら、リッくんおかしなこと言うね」


「えっ?」


「こいつは、死ぬべきなの」


「おぉい!?」


 真顔で物騒なことを言うカスガを兵士から引き剥がす。ようやく落ち着いたカスガから離れて、ふと視線を感じたのでそちらを見ると……


 ミルアージャとカルミックが呆れたようにこちらを見ている。


 リックはせりふに困ったのでしばらく考えながら……


「ナイスフォロー! 訓練の成果出てる!」


 と言って親指を「グッ」と立てる。


 ミルアージャはため息をつきながら


「あなたらしくないわね、その暴走」


 と行動を非難する。


「いや、むしろらしいんじゃない? リックは仲間思いなんだよ、ミルが同じようにされてもそうしてたさ。別に庇う訳じゃないけど」


 とフォローしてくる。


「まぁ、そうね。それに起きたことを言っててもしょうがないし、通行人は私とカスガで起こして、さっさと進みましょ。兵士達は王国軍が異変に気が付いたら起こしに来るでしょうし、時間稼ぎ含めて放置ね」


 ミルアージャには帰る、と言う選択肢は無いようだ。


 リックは、自分が切っ掛けに起きたことを冷静に考えていた。


(みんな対応力がついてきたな)


 ただ解析は本来、サポート無しで間に合うはず……その自信があったのだが……一抹の不安を感じる。


 そんなリックの様子を反省と見たのだろうか、カスガが近づいてきて


「リッくん、ありがとね、その……嬉しかったよ」


 照れながら言ってきた。


 考えごとをしていたリックは、あまり聞いてなかったのか


「ん、ああ良いんだよ、ミルがされててもたぶんそうしたし」


 とさっきのカルミックの発言を考えもせずに口にした。


 カスガがちょっと表情を変えて振り向いて歩きながら……


 またさっきの兵士の所に行き、八つ当たりなのか兵士の顔面を蹴り始めたので、必死に止めた。

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