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夫婦喧嘩で最強モード  作者: 長谷川凸蔵
第2章・海岸編
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街道封鎖

「あれが……槍の塔」


 普段は余り驚いた表情などは見せないミルアージャだが、街道から見える、遠くに立つ巨大な建造物にはさすがにその表情を変えた。


 大陸中央に立つその塔は、まさに目に見える神話だ。


 泳ぎ疲れた灰色の神が、休憩所とするためにこのフラスコ大陸を創造するのに、槍を海底に突き刺し、陸を隆起させた、その時の槍だと言われている。


 帝都を出てから六日、カラカリ街道を進む一行は、道中カスガの家に寄り父親に学業の報告を済ませつつ、間もなくネリア王国との国境となる。


「いやー、僕も初めて見るけど……本当に高さわからないんだね」


 皇女のやや大きめの呟きに反応するように、カルミックが発言する。


 槍の塔は途中から一年中雲が掛かっており、実際どの程度の高さなのか、確認したものはいない。見える部分だけでも千メートルはあるだろう。


「私たちは村からわりと近いから、見たことあるんだよねー」


 カスガが言う。


 槍の塔は、リックやカスガの住んでいた村からは歩いて三日、馬車なら半日も走れば着くので、この地域の人間なら大体一度は見たことがある。大体姿が見えてから徒歩なら一日半程度で塔の下まで行ける。


 三人の会話を何となく聞きながら、リックは考える。


 ここまでの旅はまぁ、予定通りだし、順調と言って良いだろう。唯一のトラブルらしいトラブルと言えば、カスガの自宅に寄った時にミルアージャをカスガの父親に紹介したときに、普段は寡黙であまり物事に動じない父親が腰を抜かしたことくらいだ。


 それ以外では、ミルアージャは身分を隠している。当たり前だが「この人皇女なんですよ」と宣伝して歩くことにあまり意味は無いだろう。


 ただここからはより慎重にならなければいけない。


 リックがミルアージャに話しかける。


「ミルアージャ、帝国とネリア王国の今の関係を簡単に総括してくれないか」


「四年前の戦争のあと停戦協定が結ばれ、その後はまぁ友好的と言って良いわね、つまりお互い決戦に向けて力を蓄えてる状態、またはきっかけを待ってる状態ね」


「その場合、君が国内に入ることをネリア王国はどう思う?」


「恐らく、歓迎はされないわね。または歓迎されるかも。きっかけがやって来たと思って」


「……そうだよな」


 ミルアージャに考えを聞いたのは、自分の考えをまとめる為だ。


「よし、これから先はミルアージャではなく『ミル』と呼ぼう。カルミックは『カル』だな。二人の名前は珍しいし、皇女ほどではないにしろ、イーロン家も人によっては変に勘繰られる可能生がある」


「わかったわ」


「あと二人は話し方や行動にどうしても育ちの良さが出る、変に隠すのもおかしいので名家の兄妹、または恋人とか婚約者とした方が良いだろう。僕とカスガはその従者だね」


「兄妹で」


「僕は恋人の方が良いと思うなぁ」


「従者ではなく、ダブルデートってことに」


 御者台に座るカルミックをミルアージャが少し照れたように頭を(はた)き、こちらをじっと見てくるカスガには目を合わさないようにしながら


「まぁ、ボロが出なきゃ何でも良いよ……」


 とリックは嘆息した。それはボロが出ればフォローするのは自分だと解っていたからだ。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 ネリア王国に入る前の最後の馬屋に立ち寄り、馬を交換している所で五十歳ほどの行商人らしき男がリックに話しかけてきた。


「あんたら、王国に向かうのか?」


「はい、そうです」


「う~ん、やめた方が良いかもなぁ、三日ほど前から王国の国境警備軍が、街道を封鎖している。帝国軍と違って王国の軍の奴等はゴロツキみたいなもんだからな、王国の中央軍はともかく」


「街道封鎖ですか?」


「ああ、仲間の行商人が報せてきた。街道封鎖が始まったら情報を交換するようになっているんだ。難癖つけられて積み荷を没収されて破産する行商人もおるからな。あんたら旅行者なら、ちと袖の下を弾む程度で問題ないかも知れんが……」


 ようは国境というストレスを感じやすい上に退屈な任務の、退屈しのぎ兼小遣い稼ぎなのだろう。


「なるほど……どのくらい続くんですかね?」


「明日には終わってるかも知れんし、秋が来ちまうかもな。つまり奴等が一定の利益を確保したら、だな」


「何人くらいで封鎖するんですか?」


「大体何時も五十から百人……ってところだな。どうやら色んな部隊でローテーションしてるみたいだ。部隊によって対応も違うし、全く迷惑な奴等だよ」


「わかりました、わざわざご忠告ありがとうございます」


 リックは行商人に礼を言う。男は親切心が多少報われたと思ったのだろう、少し満足げに自分の馬車に戻った。


「で、ミルどうする?」


 恐らく聞いていたであろうミルアージャに確認する。行くか、戻るかだ。ここで皆が戻るなら、リックは一人で向かう決意をする。


「行きましょう。只の旅行者なんですもの」


 ミルアージャは躊躇いもなく言ってくる。まぁ、そうなるだろうとはリックも思っていた。


「ミル、何かあれば婚約者の僕が君を守るよ」


「頼りにならないけど、頼りにしてますわお兄様」


 二人のそんな噛み合わないやり取りを適当にリックが聞いていると、カスガが目を輝かせながら


「良い考え思い付いちゃった!」


 とリックに言ってくる。


 まぁ、たぶん違うんだろうけど、と半ば確信しながらも、その良い考えとやらをリックが尋ねる。


「どんな?」


「リッくんが先に行って、その人達全部ふきとばしちゃうの! どお?」


「……良い考えだね、戦争が起きるかも知れないけど」


「いやー褒められちゃったなー」


 嬉しそうにするカスガを見ながら、何か不吉な預言を聞いたような気がして、リックは複雑な心境だった。


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