※閑話※ミルアー団会議風景
※作中に出てくる、特殊な一人称や語尾、及び訛りは、日本語で言えばって感じでお考え下さい。
彼らは勿論彼らの言語で会話しています。
「では本日の『ミルアー団』の会議を始めます。議長は私、ミルアージャが勤めます」
パチパチパチパチ。
執事の乾いた拍手が、ネイト邸応接室に響く。
リックはこの執事が、団についてどう考えているのかは知らないが、彼は優秀な執事だから、主人を当然優先する。なので概ね好意的なのではないかと思っている。
会議の参加者は、リック、カスガ、カルミック、そして議長のミルアージャだ。
リックは過去の経験上、男性陣にとって建設的な議題が発案されることは稀なので、できれば寝ていたいと思った。研究で徹夜だったのだ。
「まずは、最初の議題です」
執事が組み立てた自立式黒板に、まるでお手本帳からそのまま書き写したような達筆でカカカッっとミルアージャの手によって議題が書かれる。
『カルミック一人称問題』
「え、何の問題が……」
カルミックが発言する。
「カルミック氏、発言は挙手を」
「すみません」
ミルアージャが嗜め、カルミックが謝る。
「カルミック氏、あなたの一人称、リック氏と被っています」
「それが、何か」
「リック氏は、闘神を倒した……つまり英雄と言って差し支えないでしょう」
「はあ、まぁそうですね」
「以上です」
「何が!?」
シュッ!
ミルアージャが、「ふーやれやれ」みたいな感じで発言をする。
「良いですか、英雄の物語とは、英雄のみでは完結致しません。英雄とまあまあ優秀な人の話です」
「まぁ、そうですね」
「この、まあまあ優秀な人、実は一般レベルだと天才だったりします。このまあまあ優秀が多いほど、英雄の物語が引き立ちます」
「そうかもしれないですね」
「そしてリック氏は英雄です、もしかしたら将来、彼の伝記などが、執筆、出版などされるかも知れません。その時、カルミック氏あなたはその伝記にはまあまあまあまあ優秀なので、隅っこで乗っちゃうかも知れません」
「まあまあ多いな!」
シュッ!
「そうした場合、伝記の執筆者が、一人称が同じだと面倒じゃない」
「そこへの優しさ!?」
シュッ!
「あなたは、人への優しさ、接し方、想像力が足りませんね、だから、怪しまれてカスガに犯人扱いされるのです」
「くっ……それを言われると……」
「どうせ、『イーロン家って言えば、相手は一目置くからペース握れる』くらいのこと思ってるんでしょ?」
(この人怖っ!)
「はい! 議長!」
カスガが挙手をする。
「カスガ氏、どうぞ」
「私はカルミック氏の一人称に、『おいどん』を提案致します!」
「………………有りね」
カカカッ『おいどん』
「そしてついでなので、語尾に『ゴワス』を提案します!」
「………………流石ですわ」
カカカッ『ゴワス』
「ちょ!? なんの関心!?」
シュッ!
「そして、これは私からですが」
そう言って、カカカッと『オイラ』と書く。
「議長、それは若干インパクトが弱いのでは無いのでしょうか!」
カスガが挙手して発言する。
(そもそも一人称に、別にインパクトを求める人居ないけどね)
挙手も発言も面倒なので、リックが心の中だけで呟く。
カスガの発言を聞いて、ミルアージャは気を悪くするのでもなくフッフッフッと笑い
「カスガ氏、彼の特技……何だと思いますか」
「何でしょうか」
「ヴァイオリンです……」
「何……ですって」
盛り上がる二人に、あまりついて行けないのかついて行きたく無いのかわからないが、消極的にカルミックが聞く。
「それ、何の関係が……」
「カルミック氏、発言は挙手を。そういうとこヤデ?」
「ヤデ!?」
シュッ!
リックはミルアージャがサンカーイ訛りをたまに使うことに、気が付いている。恐らくたまに見に行く大衆舞台の影響だろうが、ミルアージャが隠しているようなのでいちいち指摘しない。
やれやれ全く、といった感じでミルアージャが質問に答える。
「鼻の下を、オイラって言いながらヴァイオリン的な動きで人差し指で擦るのに丁度良いじゃない」
「ヴァイオリンできなくてもできるよ!? それ!」
シュッ!
「はい、カルミック氏から心強い一言、アイキャンドゥイット頂きました」
「そうじゃなくて!」
シュッ!
「議長! こうなったら、オイラ、ゴワス、ヴァイオリンフィンガーの欲張りセットでどうでしょうか!」
「そうね、そうしましょう。では次の議題」
「行かないで!」
シュッ!
「そうね、その前に実践して貰おうかしら、カルミック氏『へっへ~んだ! オイラ、とっても粗大ごみでゴワス』、ヴァイオリンフィンガーと共にどうぞ」
「例えが酷い!」
シュッ!
(カルミック氏、君は英雄だ、少なくとも僕にとっては)
リックはこの団にカルミックがいて本当に良かったと思った。そして安心して寝た。
執事は、ミルアージャが会議の最中、メモにシュッ! と正の字で数を数えていることを知っていた。それには「修整された回数」と書いてある。
執事には、それが何を意味するかわからなかったが、少なくともミルアージャにとっては、貴金属以上の宝物だということだけは知っていたので、この団が長く存続する為のサポートは惜しまないつもりだった。




